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6th ステージ
054 まったく、父上はっ
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リンディエールは明日は面倒なことになりそうだなとため息を吐いて、大人達を見回した後、クイントに提案した。
「娘はアレやったけど、この場に居る者は使えるやろ」
「そうですねえ。クゼリア伯爵も、夫人も横の繋がりがかなりあるようですし」
「ほお~。因みにウチんとこは?」
リンディエールはニヤニヤと笑いながらクイントの評価を尋ねると、クイントはにこりと笑う。
「人当たりが良いですし、クゼリア伯爵夫妻とはまた違う繋がりをお持ちですよ」
「そんなら、じいちゃん達も召喚したら全包囲できるか?」
「できますね。良いのですか?」
「ついでや、ついで。こんなもん片手間で済ましたるで」
「ふふふ。さすがです!」
「おだてても、ウチからは何もやらんで」
「残念です」
すぐさま返すところはさすがだ。
「ほんなら……じいちゃん達呼ぶか」
リンディエールは、祖父ファルビーラに連絡を取る。予定では祖父母は領地で留守番。お披露目会に来る予定もなかった。事情を話すと、問題なく行くと答えが返ってくる。用意が整ったら扉を繋げることにした。
「五分くらいやろ。ちょい待ったってや。その間に、グラン。兄いとジェルラスの着替え頼めるか?」
「下町ですか」
「せや。ジェルラスの部屋貸してもらえるやろか」
伯爵に一応はと確認する。
「あ、ああ。構いません」
「こんな無礼な小娘に遠慮はいらんで」
「い、いえ……」
さすがに衝撃を与えすぎたらしい。ゆっくり目をそらされた。少し怯えているようだ。彼らの胃を守るためにも、早いところ外に出るべきだろう。
「すんまへんなあ。あ、グラン。そっちのテシルにも頼むわ」
「承知しました」
「え……」
壁際に俯き気味に控えていたテシルに目を向け、グランは頷いた。
フィリクスがリンディエールへ確認してくる。目が輝いているのは、フィリクスにとって、初めての辺境以外の土地での外出になると察したためだろう。
「っ、外に出るの?」
「王都散策。やってみたいやろ? ウチとシュラで護衛は十分やし、案内もできる。夕食までには帰るわ」
最後のは父ディースリムに向かって告げた。
「リンと彼女なら……グラムさんは……?」
「詳しい組織の情報持っとるで、ここに残してくわ。ってか、相変わらず『さん』付けするなあ……あかんで?」
「うっ……気を付ける……」
ディースリムもだが母セリンも、どうにもグランギリアの存在感に慣れないらしい。グランギリアは圧倒的に頼りになる侍従。その上、誰よりも年上。魔族だからという訳ではなく、尊敬すべき大人の代表にしか見えないらしいのだ。
「普段はええけど、せめて外でだけは気い付けえよ」
毎回注意していなかったのが悪かったかもしれない。だが、リンディエールも父母のことをバカにしているわけではない。きちんと外での対応を切り替えられる人達だと知っている。ただ、思ったよりもグランギリアの雰囲気に押されているようだ。これだけ言っておけばなんとかなるだろう。
「ほんなら、着替え頼むで」
「かしこまりました。では、参りましょう」
「「はい!」」
「は、はい……」
フィリクス、ジェルラス、テシルを連れて、グランギリアが部屋から出て行った。
「シュラ。ウチらは魔女っ子着替え術やで!」
「いいでしょう。お嬢様。今日は負けませんよ」
「ふっふっふっ。受けて立つで!」
リンディエールとシュラは、それぞれ笑みを向けながら、リンディエールが唐突に出現させた二つの衝立てに向かう。
壁から人一人通れるだけの幅を空けて立てられた衝立て。二人は別れたその衝立ての前に立った。
「宰相さん。合図頼むわ。そんで先に通り抜けてここに戻ってきた方を教えてや」
「はあ……何をするんです?」
さすがの宰相も訳が分からないだろう。『着替え術』と言っていたのは聞いていても、それがこの状況に結び付かない。
「せやから、着替えや。早着替え! 華麗に町娘に一瞬で変身すんで! 見とってや!」
「……分かりました……」
まだ少し訳がわからない様子だが、リンディエールだしなと次第に落ち着いていた。
「合図よろしゅう」
「はい。では……はじめ!」
残像が見えた。そして、衝立てを通って一秒経たずに二人ともが町娘に変身して出てきた。
「どや!」
「……同時にしか見えませんでした……」
「わ、私もです……」
「……はい……」
クイントは他の大人達に確認するが、誰もが目を丸くして頷いていた。
「くっ……腕え上げたなあ」
リンディエールも、確かにコンマ一秒を争うものだったと認めた。
「恐れ入ります。これで合格はいただけますでしょうか」
「合格や。やけど……まだまだ極めるには甘いで」
そう言って、リンディエールは後ろを向き、自身の後頭部を指して見せる。そこにある白いリボンを見て、シュラははっきりと驚愕の表情を見せた。
「っ、髪型までっ……次回までにはマスターしてご覧に入れます」
「その意気や。さすがは、ウチの侍女やな」
「……っ」
振り返って、満足げに笑って見せれば、シュラは照れたように頬を染めた。
そんな遊びを見せたことで、驚きながらもクゼリア伯爵達は肩の力が抜けたらしい。
それから、しばらくしてグランギリア達が戻って来た。
「お待たせいたしました」
「あっ。リン達も着替えてる。可愛いっ」
「姉上、ステキです!」
「お~。三人ともよお似合っとるで。あ、丁度じいちゃんらの用意も出来たようや」
ファルビーラから連絡が来た。
「伯爵さんらは、親戚やしな。特別にウチの技を見したんで」
「リン。まさか、ここに?」
「当然やろ。まあ、外におる見張りは気にせんでええ。この後、ウチらが引っ張って行くさかいな」
クイントは一瞬、表情を引きつらせた。外に組織の見張りが居ることを警戒していなかったわけではないが、居ると確定されたのだ。強張って当たり前だろう。
「家ん中のことまでは見えとらんし、耳もあらへん。安心せえ」
リンディエールは転移門を発動させた。
◆ ◆ ◆
王城の奥。
王族の住居となっている奥宮の自室で、今年十一になるこの国の第二王子が、幾つものクッションや物を投げながら悪態を吐いていた。
「なんで! なんで今更兄上など!」
「落ち着いてください殿下……」
そんな彼から距離を置いて宥めようとするのは、クイントの息子。三男であるレングだ。第二王子であるユーアリアより一つ上の十二歳だが、二人の精神年齢はかなり離れてしまっている。
「だって、僕が次の王になるって言ってたのに! あんなやつ! ずっと寝てただけなのに!!」
「……」
先日、第一王子の立太子式の話が王の口から出た。それを聞いてから、ユーアリアはずっとこうして暴れている。
「お前も! 父上の手先だろ!! ファルトはどこへ行った!! イエルドはどこへやったのだ!! お前を側近にするつもりはない!!」
数ヶ月前。ユーアリアの側に居た二人の側近達が捕縛された。とある組織と繋がっていると確認されたためだ。今もまだ城の地下牢に居る。それを、ユーアリアは知らない。
レングはその時、急遽ユーアリアの側近、教育係として連れてこられたのだ。
「そのように叫ばれては、また喉を痛めてしまいますよ」
「うるさい!!」
「……」
クッションが飛んでくるが、避けるのは左程難しくはない。
レングはリンディエールと出会ってから、真面目に勉学に向き合い、冒険者であるリンディエールに少しでも近付こうと、剣術についても真剣に取り組むようになった。これにより、常にあった、どこか背伸びをする必死な様子が消え、一気に精神的にも成長を見せたのだ。
レングは母に目を向けて欲しかった。母にとっての愛する子どもは次兄だけ。けれど、母がずっと次兄を洗脳するように『お前が当主になるんだ』と言っている姿は異様だった。
精神的にずっと子どもで不安定だったのは、母に振り向いて欲しかったという思いが一番だろう。
同じように自分の存在を認めて欲しいと、リンディエールへと心から渇望する想いに気付いた時、それを理解した。
そこからまた、レングは変わった。
リンディエールに会った時、父クイントと二人で話していたことは理解出来なかった。けれど、それが兄の病に関係のあることだということは何となく分かっていた。次第に兄が回復していくのを見て、不意に知らなければと思った。そして、父に頼みリンディエールとの話を改めて教えてもらった。
今の貴族家が抱えている長男と次男以降の者の問題。それを理解した時。父にユーアリアの側に居た者たちが所属していた組織についても聞かされた。
『貴族病』によって生まれた隙につけ込んでくる組織。それは、もしかしたらレングも取り込まれていた可能性があった。それに気付き青くなった時、父が満足げに頷き、提案してきた。
『今のおまえならばいいかもしれないな……レング。第二王子の教育係兼側近になれ』
長兄は第一王子の側近に決まっていた。だから、考えなかったことではない。その時は素直に分かりましたと答えた。
しかし、会ってみるとその難しさに頭を抱えた。
ユーアリアは、もろに『貴族病』によって傷付き、あの組織によってその心の隙に入り込まれていたのだから。
「お前などに何が分かる! 僕の気持ちなど、わからないクセに!! 出て行け!」
「……また後で参ります……」
「っ……」
出て行けと言って暴れても、ユーアリアは一人になりたくはないのだ。また来ると言えばそれを拒絶する言葉は出てこない。
静かに扉を閉め、大きくため息を吐く。すると、扉を守る二人の騎士から労るような視線が向けられた。
「すまない……しばらくしてからまた来る」
「はい……」
「お手伝いできず、申し訳ありません……」
「いや……中に入る侍女達が怪我をしないよう気を付けてやってくれ」
「お任せください」
ユーアリアは最近は食事も王達と取ることを嫌がる。そのため、部屋で一人で取るのだが、その世話をする侍女達に手を上げることもあるので注意が必要だった。
少し外の空気を吸って来ようと歩き出す。
「……あれは子どもの癇癪だな……半年前の私も、そう変わらないか……」
こんな時。一人になってふと思い出すのはリンディエールの姿。あれから、一度も会えていない。だから、声はもう遠くなってしまった。父が会わせたがらないのだ。これは、最近気付いた。
「まったく、父上はっ」
少し前まで、父は偉大で尊敬できる父親だった。反抗しようなんて一切考えなかったのだ。だが、最近はイラっとすることがある。明らかにリンディエールと会う機会を潰されているのだ。
勉強のための記憶媒体も、父が受け取ってくる。そして、リンディエールに会った日の父は、それは嬉しそうにレングに何を話したか聞かせてくる。
それが最近、とても腹立たしく感じるのだ。
長兄がこれに気付き、教えてくれた。
『父上はねえ。独占欲が強いんだよ。そして、お前はそんな父上に嫉妬してるんだ。好きなんだね。その子のこと』
言われて顔を真っ赤にした。自覚したのだ。だが、そのあとに青くなった。
『私も会ってみたいなあ。父上や君が夢中になる子に』
これも最近知ったが、長兄は父と良く似ている。内面も見た目も。絶対に長兄も気に入るに決まっている。
「……どうしよう……」
ユーアリアの問題よりも、お披露目会でようやく会えるという嬉しさよりも、長兄にまでこの想いを邪魔をされそうな予感に不安しかない。
「……はぁぁぁぁぁ……」
外に面する廊下の真ん中で、大きくため息を吐くレングを目撃した侍女や騎士達は、誰もが心配そうに、そんなレングを見つめるのだった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空けます。
22日の予定です!
よろしくお願いします◎
「娘はアレやったけど、この場に居る者は使えるやろ」
「そうですねえ。クゼリア伯爵も、夫人も横の繋がりがかなりあるようですし」
「ほお~。因みにウチんとこは?」
リンディエールはニヤニヤと笑いながらクイントの評価を尋ねると、クイントはにこりと笑う。
「人当たりが良いですし、クゼリア伯爵夫妻とはまた違う繋がりをお持ちですよ」
「そんなら、じいちゃん達も召喚したら全包囲できるか?」
「できますね。良いのですか?」
「ついでや、ついで。こんなもん片手間で済ましたるで」
「ふふふ。さすがです!」
「おだてても、ウチからは何もやらんで」
「残念です」
すぐさま返すところはさすがだ。
「ほんなら……じいちゃん達呼ぶか」
リンディエールは、祖父ファルビーラに連絡を取る。予定では祖父母は領地で留守番。お披露目会に来る予定もなかった。事情を話すと、問題なく行くと答えが返ってくる。用意が整ったら扉を繋げることにした。
「五分くらいやろ。ちょい待ったってや。その間に、グラン。兄いとジェルラスの着替え頼めるか?」
「下町ですか」
「せや。ジェルラスの部屋貸してもらえるやろか」
伯爵に一応はと確認する。
「あ、ああ。構いません」
「こんな無礼な小娘に遠慮はいらんで」
「い、いえ……」
さすがに衝撃を与えすぎたらしい。ゆっくり目をそらされた。少し怯えているようだ。彼らの胃を守るためにも、早いところ外に出るべきだろう。
「すんまへんなあ。あ、グラン。そっちのテシルにも頼むわ」
「承知しました」
「え……」
壁際に俯き気味に控えていたテシルに目を向け、グランは頷いた。
フィリクスがリンディエールへ確認してくる。目が輝いているのは、フィリクスにとって、初めての辺境以外の土地での外出になると察したためだろう。
「っ、外に出るの?」
「王都散策。やってみたいやろ? ウチとシュラで護衛は十分やし、案内もできる。夕食までには帰るわ」
最後のは父ディースリムに向かって告げた。
「リンと彼女なら……グラムさんは……?」
「詳しい組織の情報持っとるで、ここに残してくわ。ってか、相変わらず『さん』付けするなあ……あかんで?」
「うっ……気を付ける……」
ディースリムもだが母セリンも、どうにもグランギリアの存在感に慣れないらしい。グランギリアは圧倒的に頼りになる侍従。その上、誰よりも年上。魔族だからという訳ではなく、尊敬すべき大人の代表にしか見えないらしいのだ。
「普段はええけど、せめて外でだけは気い付けえよ」
毎回注意していなかったのが悪かったかもしれない。だが、リンディエールも父母のことをバカにしているわけではない。きちんと外での対応を切り替えられる人達だと知っている。ただ、思ったよりもグランギリアの雰囲気に押されているようだ。これだけ言っておけばなんとかなるだろう。
「ほんなら、着替え頼むで」
「かしこまりました。では、参りましょう」
「「はい!」」
「は、はい……」
フィリクス、ジェルラス、テシルを連れて、グランギリアが部屋から出て行った。
「シュラ。ウチらは魔女っ子着替え術やで!」
「いいでしょう。お嬢様。今日は負けませんよ」
「ふっふっふっ。受けて立つで!」
リンディエールとシュラは、それぞれ笑みを向けながら、リンディエールが唐突に出現させた二つの衝立てに向かう。
壁から人一人通れるだけの幅を空けて立てられた衝立て。二人は別れたその衝立ての前に立った。
「宰相さん。合図頼むわ。そんで先に通り抜けてここに戻ってきた方を教えてや」
「はあ……何をするんです?」
さすがの宰相も訳が分からないだろう。『着替え術』と言っていたのは聞いていても、それがこの状況に結び付かない。
「せやから、着替えや。早着替え! 華麗に町娘に一瞬で変身すんで! 見とってや!」
「……分かりました……」
まだ少し訳がわからない様子だが、リンディエールだしなと次第に落ち着いていた。
「合図よろしゅう」
「はい。では……はじめ!」
残像が見えた。そして、衝立てを通って一秒経たずに二人ともが町娘に変身して出てきた。
「どや!」
「……同時にしか見えませんでした……」
「わ、私もです……」
「……はい……」
クイントは他の大人達に確認するが、誰もが目を丸くして頷いていた。
「くっ……腕え上げたなあ」
リンディエールも、確かにコンマ一秒を争うものだったと認めた。
「恐れ入ります。これで合格はいただけますでしょうか」
「合格や。やけど……まだまだ極めるには甘いで」
そう言って、リンディエールは後ろを向き、自身の後頭部を指して見せる。そこにある白いリボンを見て、シュラははっきりと驚愕の表情を見せた。
「っ、髪型までっ……次回までにはマスターしてご覧に入れます」
「その意気や。さすがは、ウチの侍女やな」
「……っ」
振り返って、満足げに笑って見せれば、シュラは照れたように頬を染めた。
そんな遊びを見せたことで、驚きながらもクゼリア伯爵達は肩の力が抜けたらしい。
それから、しばらくしてグランギリア達が戻って来た。
「お待たせいたしました」
「あっ。リン達も着替えてる。可愛いっ」
「姉上、ステキです!」
「お~。三人ともよお似合っとるで。あ、丁度じいちゃんらの用意も出来たようや」
ファルビーラから連絡が来た。
「伯爵さんらは、親戚やしな。特別にウチの技を見したんで」
「リン。まさか、ここに?」
「当然やろ。まあ、外におる見張りは気にせんでええ。この後、ウチらが引っ張って行くさかいな」
クイントは一瞬、表情を引きつらせた。外に組織の見張りが居ることを警戒していなかったわけではないが、居ると確定されたのだ。強張って当たり前だろう。
「家ん中のことまでは見えとらんし、耳もあらへん。安心せえ」
リンディエールは転移門を発動させた。
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王城の奥。
王族の住居となっている奥宮の自室で、今年十一になるこの国の第二王子が、幾つものクッションや物を投げながら悪態を吐いていた。
「なんで! なんで今更兄上など!」
「落ち着いてください殿下……」
そんな彼から距離を置いて宥めようとするのは、クイントの息子。三男であるレングだ。第二王子であるユーアリアより一つ上の十二歳だが、二人の精神年齢はかなり離れてしまっている。
「だって、僕が次の王になるって言ってたのに! あんなやつ! ずっと寝てただけなのに!!」
「……」
先日、第一王子の立太子式の話が王の口から出た。それを聞いてから、ユーアリアはずっとこうして暴れている。
「お前も! 父上の手先だろ!! ファルトはどこへ行った!! イエルドはどこへやったのだ!! お前を側近にするつもりはない!!」
数ヶ月前。ユーアリアの側に居た二人の側近達が捕縛された。とある組織と繋がっていると確認されたためだ。今もまだ城の地下牢に居る。それを、ユーアリアは知らない。
レングはその時、急遽ユーアリアの側近、教育係として連れてこられたのだ。
「そのように叫ばれては、また喉を痛めてしまいますよ」
「うるさい!!」
「……」
クッションが飛んでくるが、避けるのは左程難しくはない。
レングはリンディエールと出会ってから、真面目に勉学に向き合い、冒険者であるリンディエールに少しでも近付こうと、剣術についても真剣に取り組むようになった。これにより、常にあった、どこか背伸びをする必死な様子が消え、一気に精神的にも成長を見せたのだ。
レングは母に目を向けて欲しかった。母にとっての愛する子どもは次兄だけ。けれど、母がずっと次兄を洗脳するように『お前が当主になるんだ』と言っている姿は異様だった。
精神的にずっと子どもで不安定だったのは、母に振り向いて欲しかったという思いが一番だろう。
同じように自分の存在を認めて欲しいと、リンディエールへと心から渇望する想いに気付いた時、それを理解した。
そこからまた、レングは変わった。
リンディエールに会った時、父クイントと二人で話していたことは理解出来なかった。けれど、それが兄の病に関係のあることだということは何となく分かっていた。次第に兄が回復していくのを見て、不意に知らなければと思った。そして、父に頼みリンディエールとの話を改めて教えてもらった。
今の貴族家が抱えている長男と次男以降の者の問題。それを理解した時。父にユーアリアの側に居た者たちが所属していた組織についても聞かされた。
『貴族病』によって生まれた隙につけ込んでくる組織。それは、もしかしたらレングも取り込まれていた可能性があった。それに気付き青くなった時、父が満足げに頷き、提案してきた。
『今のおまえならばいいかもしれないな……レング。第二王子の教育係兼側近になれ』
長兄は第一王子の側近に決まっていた。だから、考えなかったことではない。その時は素直に分かりましたと答えた。
しかし、会ってみるとその難しさに頭を抱えた。
ユーアリアは、もろに『貴族病』によって傷付き、あの組織によってその心の隙に入り込まれていたのだから。
「お前などに何が分かる! 僕の気持ちなど、わからないクセに!! 出て行け!」
「……また後で参ります……」
「っ……」
出て行けと言って暴れても、ユーアリアは一人になりたくはないのだ。また来ると言えばそれを拒絶する言葉は出てこない。
静かに扉を閉め、大きくため息を吐く。すると、扉を守る二人の騎士から労るような視線が向けられた。
「すまない……しばらくしてからまた来る」
「はい……」
「お手伝いできず、申し訳ありません……」
「いや……中に入る侍女達が怪我をしないよう気を付けてやってくれ」
「お任せください」
ユーアリアは最近は食事も王達と取ることを嫌がる。そのため、部屋で一人で取るのだが、その世話をする侍女達に手を上げることもあるので注意が必要だった。
少し外の空気を吸って来ようと歩き出す。
「……あれは子どもの癇癪だな……半年前の私も、そう変わらないか……」
こんな時。一人になってふと思い出すのはリンディエールの姿。あれから、一度も会えていない。だから、声はもう遠くなってしまった。父が会わせたがらないのだ。これは、最近気付いた。
「まったく、父上はっ」
少し前まで、父は偉大で尊敬できる父親だった。反抗しようなんて一切考えなかったのだ。だが、最近はイラっとすることがある。明らかにリンディエールと会う機会を潰されているのだ。
勉強のための記憶媒体も、父が受け取ってくる。そして、リンディエールに会った日の父は、それは嬉しそうにレングに何を話したか聞かせてくる。
それが最近、とても腹立たしく感じるのだ。
長兄がこれに気付き、教えてくれた。
『父上はねえ。独占欲が強いんだよ。そして、お前はそんな父上に嫉妬してるんだ。好きなんだね。その子のこと』
言われて顔を真っ赤にした。自覚したのだ。だが、そのあとに青くなった。
『私も会ってみたいなあ。父上や君が夢中になる子に』
これも最近知ったが、長兄は父と良く似ている。内面も見た目も。絶対に長兄も気に入るに決まっている。
「……どうしよう……」
ユーアリアの問題よりも、お披露目会でようやく会えるという嬉しさよりも、長兄にまでこの想いを邪魔をされそうな予感に不安しかない。
「……はぁぁぁぁぁ……」
外に面する廊下の真ん中で、大きくため息を吐くレングを目撃した侍女や騎士達は、誰もが心配そうに、そんなレングを見つめるのだった。
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よろしくお願いします◎
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