猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ

文字の大きさ
17 / 33

無神経な王子

しおりを挟む
 「で、私の可愛い部下が休みなのはあなたがうっかり地雷を踏んでしまったからだと」
 「そう何度もいうな」

 咎めるような視線を受けて居心地悪そうにするエリオットは先ほどのことを思い出していた。
 ひとしきり泣き止むまで側にいてやると我に帰った天音が顔を真っ赤にしてペコペコと頭を下げてきたのを思い出し思わずふっと口元を緩ませた。
 
 (あれはなんだか可愛かったな)

 「ちゃんと謝ったんでしょうね?」

 ずいっと言い寄られたエリオットは口うるさい侍従から顔を背ける。泣き腫らした顔のまま仕事に向かおうとしたので慌てて止めたエリオットは今日は休日を言い渡したのだった。その後不安そうな表情で「クビ、ですか?」とたずねてきたので「今日はゆっくり休んで、明日からまた励め」と声を掛けるとホッとした表情で頭を下げて帰っていった。

 ──ちなみに謝ってはいない。

 「あ!その顔は謝ってませんね!」

 長い付き合いでユエルはエリオットの性格を熟知していた。人見知りで無愛想なせいか人との関わりが極端に少ないエリオットが人に謝るなんてできるはずがない。はあとため息をついたユエルは頭を抱えた。人付き合いが得意ではないエリオットがうまく立ち回れるように色々とサポートしてきたのがこんなところで裏目に出るとは。
 
 天音はよく働く。よく働くからこそどうしてもユエルは心配になってしまう。ここにきて休みを取ったのはほんの二日ほど。しかもその二日は新しく住む王城の寮に引っ越しで休んだだけ。勤務時間は暗くなる前に帰るので残業などはしないが、いつも就業時間前にはきちんと着席して仕事を始めている。
まともな休日を言い渡しても、王城に出てはあちこちから頼まれる雑用を引き受けているようだった。それがあるから早くにここに馴染めたのもあるだろうが天音と一緒に働き出して好ましい印象を持つようになっただけにユエルは心配していた。

 天音は自分の故郷のことはあまり話さない。一度東の方の国のことをたずねてみると、困った表情をして黙りこくってしまったので慌てて謝ってそれ以来話題に出さないようにしていた。
 テオドールにたずねてみるも、テオドールは「故郷?ああーもう帰れなさそうだしね」といったきり何も話さなかった。
 呪いのせいで故郷を追い出されたのかもしれない……なんてことを考えたユエルは自分の弟たちの顔が浮かび、それから天音にいっそう優しくするようになった。

 それに最近自分の主人であるエリオットが天音と話す姿をちょくちょく見かけることで主人の人見知りが少しづつ解けてきていることに安心して頭の隅に追いやっていたのをすっかり失念していた。
 天音はまだ十八歳の(本人が強調していた)少年なのだ。

 「はー……無神経な質問をしたくせに謝ることもできないとは……まあ、休みを言い渡しただけでもあなたにしてはよくやったほうでしょう」
 「おい、俺を冷血人間かなんかと勘違いしていないか」

 一応エリオット自身も無神経なことを質問したのは自覚しているのでユエルに強く出れないでいた。
 罰が悪そうな表情のエリオットにユエルは人差し指をピッと突き出した。



 「絶対に謝ってくださいね」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...