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見舞い騒動5
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久しぶりにあったステラの様子にデリックは驚いた。
首元までレースで覆われたクリーム色のドレスはステラの楚々とした魅力を引き出していた。
派手さがないおかげで彼女の気の強そうな瞳ががむしろきらきらと印象的に見える。
枯葉色だと馬鹿にしていた髪は、同系色の髪飾りがあるだけでどこか神秘的にすら思えた。
ステラの魅力をよく理解している人間が用意したものなのだろうとひと目で分かる。
(あんなに美人になるんならブリジットじゃなくてステラと婚約したままでも良かった)
デリックの後悔の念を表情から読み取ったのか、ハウンドは自慢げに微笑む。
「私の飼い主は愛らしいでしょう。あなた程度では相手にもなりませんが、」
「は? 飼い主? ステラのことか?」
デリックはなんだこいつ、という表情を隠せなかった。
いきなりぶん殴ってきたような男だ。
(本格的に頭がイかれてるのか?)
「あなたに見せるのはもったいないかと思いましたが今後追い回されても困るので立場を理解してもらおうかと」
「立場……?」
「あなたにステラ様はもったいない、ということです。分かっているから婚約を解消されたのだとは思いますが念のため、ね」
あくまで紳士的に、それでいて神経を逆なでるような言い方のハウンドにデリックは苛立つ。
「お前なにをしに来たんだ? 謝罪だろ? お前こそ立場分かってんのかよ!」
こいつの正体は現状不明だ。
意図的に隠されている、とブリジットは言っていた。
だとしても貴族であるならデリックやブリジットが知らないはずはない。
社交界に出ていない人間もいないわけではないが、ハウンドの特徴には当てはまらない。
だから、デリックの方が権威はあるはずなのだ。
ハウンドの余裕の態度の方が分からない。
「謝罪。そうでしたね。おそらくあなたのお父上から話があるでしょうが、あのパーティーでのことは話がつきました。私から謝罪することはありません」
「は、話がついた? 意味分かんねえこと言うな」
「私としてはもう少し殴っておけばよかったと思っていますよ。別に今から追加してもいいんですけど」
あのときはステラ様が引いてたから一発で我慢したんです、と綺麗な顔で凶悪なことを言っている。
冗談とも思えずデリックはビクリと震えた。
「お、お前何者なんだよ」
デリックの声の震えを指摘もせずハウンドは喉奥でくつくつと笑うだけだ。
「あなたもご存じのはずですよ」
ハウンドはデリックの記憶力に最初から期待していないのか、踵を返して去っていった。
本当に謝罪はなく、煽るだけ煽って気が済んだらしい。
「知らねえよあんなやつ……」
一人残されたデリックはベッドて一人ごちる。
立ち居振る舞いからして同年代の貴族なのだろうが、あんな顔を忘れるわけがない。
しかし会ったことがないと断言するには、ハウンドの態度は強固なものだった。
「デリック、話がある」
ノックと共に入ってきたのはフィンリー家当主、つまりデリックの父親だった。
少し疲れた顔をしており、面倒だという態度を隠そうともしていない。
「父上、あの男がさっきおかしなことを……!」
はあ、と父親はため息をついた。ベッドサイドスツールに浅く腰をかける。
「改めて馬鹿なことをしたな、デリック。まだ反省していないのか」
睨まれるとデリックは何も言えず押し黙ってしまった。
「あのパーティーでの婚約解消はちょっとした余興だったんです! こんな大ごとになったのはあの男、ハウンドが割り込んできたからで……! そ、そうです、あの男が悪いんだ! 人を殴っておいて謝罪もしない非常識なやつでした!」
父親は深いため息をついた。
「お前は、デリック家のステラ嬢に謝ったのか。今日来ていただろう」
デリック身体がびくりと震え目を見開く。
ステラに謝罪。そんなこと、考えたこともなかったのだ。
「え……? で、でもあれはちょっとしたお遊びで……」
「お前のしたことは貴族として、いや人間として恥ずべきことだ。社交界の口さがない噂はハウンド君がすべて巻き取ってくれたおかげで我が家へのダメージは少ないが……育て方を間違えたな」
呆然とするデリックを冷たく見下ろし、父親は続ける。
「今日ハウンド君は私に示談金を用意してきてくれたよ。謝罪はしないが、治療費と迷惑料だと」
「ま、まさか受け取ったのですか?」
「当たり前だ。お前の治療費の数百倍の金額だぞ。本来我々の方から事情を説明して埋め合わせしなければならないところを、フィンリー家自体に恨みはないからと……」
(つまり俺自身に恨みがあるということか?)
デリックには本当に身に覚えがない。
「父上はあの男の正体をご存じなのですか。お、教えてください!」
父親は背中を丸め、全身の空気を抜いているのではないかと思うほど深いため息をついた。
「……彼はお前がそう聞いてくるだろうと言っていたよ。お前が思いだせると期待はしていないらしい。私も、お前には失望したよ」
デリックは目を見開く。俯いた父親とは目が合わない。
「グレアム家の娘と近くで接する機会のあったお前が、ブリジット嬢ではなくステラ嬢を選んでいればな。……いまさら言っても仕方のないことか」
首元までレースで覆われたクリーム色のドレスはステラの楚々とした魅力を引き出していた。
派手さがないおかげで彼女の気の強そうな瞳ががむしろきらきらと印象的に見える。
枯葉色だと馬鹿にしていた髪は、同系色の髪飾りがあるだけでどこか神秘的にすら思えた。
ステラの魅力をよく理解している人間が用意したものなのだろうとひと目で分かる。
(あんなに美人になるんならブリジットじゃなくてステラと婚約したままでも良かった)
デリックの後悔の念を表情から読み取ったのか、ハウンドは自慢げに微笑む。
「私の飼い主は愛らしいでしょう。あなた程度では相手にもなりませんが、」
「は? 飼い主? ステラのことか?」
デリックはなんだこいつ、という表情を隠せなかった。
いきなりぶん殴ってきたような男だ。
(本格的に頭がイかれてるのか?)
「あなたに見せるのはもったいないかと思いましたが今後追い回されても困るので立場を理解してもらおうかと」
「立場……?」
「あなたにステラ様はもったいない、ということです。分かっているから婚約を解消されたのだとは思いますが念のため、ね」
あくまで紳士的に、それでいて神経を逆なでるような言い方のハウンドにデリックは苛立つ。
「お前なにをしに来たんだ? 謝罪だろ? お前こそ立場分かってんのかよ!」
こいつの正体は現状不明だ。
意図的に隠されている、とブリジットは言っていた。
だとしても貴族であるならデリックやブリジットが知らないはずはない。
社交界に出ていない人間もいないわけではないが、ハウンドの特徴には当てはまらない。
だから、デリックの方が権威はあるはずなのだ。
ハウンドの余裕の態度の方が分からない。
「謝罪。そうでしたね。おそらくあなたのお父上から話があるでしょうが、あのパーティーでのことは話がつきました。私から謝罪することはありません」
「は、話がついた? 意味分かんねえこと言うな」
「私としてはもう少し殴っておけばよかったと思っていますよ。別に今から追加してもいいんですけど」
あのときはステラ様が引いてたから一発で我慢したんです、と綺麗な顔で凶悪なことを言っている。
冗談とも思えずデリックはビクリと震えた。
「お、お前何者なんだよ」
デリックの声の震えを指摘もせずハウンドは喉奥でくつくつと笑うだけだ。
「あなたもご存じのはずですよ」
ハウンドはデリックの記憶力に最初から期待していないのか、踵を返して去っていった。
本当に謝罪はなく、煽るだけ煽って気が済んだらしい。
「知らねえよあんなやつ……」
一人残されたデリックはベッドて一人ごちる。
立ち居振る舞いからして同年代の貴族なのだろうが、あんな顔を忘れるわけがない。
しかし会ったことがないと断言するには、ハウンドの態度は強固なものだった。
「デリック、話がある」
ノックと共に入ってきたのはフィンリー家当主、つまりデリックの父親だった。
少し疲れた顔をしており、面倒だという態度を隠そうともしていない。
「父上、あの男がさっきおかしなことを……!」
はあ、と父親はため息をついた。ベッドサイドスツールに浅く腰をかける。
「改めて馬鹿なことをしたな、デリック。まだ反省していないのか」
睨まれるとデリックは何も言えず押し黙ってしまった。
「あのパーティーでの婚約解消はちょっとした余興だったんです! こんな大ごとになったのはあの男、ハウンドが割り込んできたからで……! そ、そうです、あの男が悪いんだ! 人を殴っておいて謝罪もしない非常識なやつでした!」
父親は深いため息をついた。
「お前は、デリック家のステラ嬢に謝ったのか。今日来ていただろう」
デリック身体がびくりと震え目を見開く。
ステラに謝罪。そんなこと、考えたこともなかったのだ。
「え……? で、でもあれはちょっとしたお遊びで……」
「お前のしたことは貴族として、いや人間として恥ずべきことだ。社交界の口さがない噂はハウンド君がすべて巻き取ってくれたおかげで我が家へのダメージは少ないが……育て方を間違えたな」
呆然とするデリックを冷たく見下ろし、父親は続ける。
「今日ハウンド君は私に示談金を用意してきてくれたよ。謝罪はしないが、治療費と迷惑料だと」
「ま、まさか受け取ったのですか?」
「当たり前だ。お前の治療費の数百倍の金額だぞ。本来我々の方から事情を説明して埋め合わせしなければならないところを、フィンリー家自体に恨みはないからと……」
(つまり俺自身に恨みがあるということか?)
デリックには本当に身に覚えがない。
「父上はあの男の正体をご存じなのですか。お、教えてください!」
父親は背中を丸め、全身の空気を抜いているのではないかと思うほど深いため息をついた。
「……彼はお前がそう聞いてくるだろうと言っていたよ。お前が思いだせると期待はしていないらしい。私も、お前には失望したよ」
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