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準備
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ステラを地下室に閉じ込めたあと、ブリジットは張り切って部屋に戻っていった。
(今までの人脈を全力で使って、グレアム家史上一番のパーティーを開いてみせるわ。そのためにまず、私が一番美しくなくっちゃね)
ドレスルームを歩き回り、鼻を鳴らす。
やはり既に着たものではだめだ。
盛大なパーティーには新しいドレスを作らないといけない。
ハウンドからステラへ贈られたドレス類はあらかた自分のものにしたのだが、ブリジットには似合わないものだった。
社交界の顔なじみにも『あなたが大人しくしてても面白いだけ』と笑われた。
それでもこのドレスが彼の好みなのだろう。
誰に笑われたところで関係なかった。
「私に着こなせないものはないわ。……仕立てたのは、マリオンね」
マリオン。
この国の女の子なら、いや国外の女の子の誰だって憧れている仕立屋だ。
しかし一代で王室御用達にまで上り詰めた天才モードのマリオンが作るドレスは、生半可には手に入れられない。
このドレスの価値も分からずただ可愛いからと着ていたステラがブリジットには憎かった。
「あんた、マリオンに手紙を出してちょうだい」
「は……マリオン、ですか?」
自室のカウチにどっかり座ったブリジットは侍女を見もせずに指示をだした。
しかし侍女はぐだぐだと突っ立っているばかりで、なかなか動こうとしない。
「なによ。ハウンド様好みのドレスで誘惑した方が、彼も嬉しいでしょ? はやくしなさい!」
「で、ですがお嬢様。マリオンのドレスは向こう五年待ちなのは有名なお話で……」
「それをどうにかしなさいよ。ハウンド様は最近王都に着てこんなに用立てたのよ? やりようがあるに決まっているじゃない」
「ではせめて指示を頂けませんか? 私の立場ではハウンド様がどのようにされたのか分からないのです」
ブリジットは押し黙った。
それが分かれば苦労はしない。
(ハウンド様経由で頼むのが一番簡単で確実だけれど……パーティーのことがバレたら警戒されるかも。あくまでサプライズで襲うんだもの)
さすがのブリジットも現段階でハウンドをどうにか出来るとは思っていなかった。
しかし自分のような美しい女にベッド上で迫られたら、男は拒否はできない。
ハウンドも例外ではないだろう。
(そういえばステラにサイズを合わせているのよね。採寸したってことは会ったことがあるはず)
ブリジットは己の計画ににやりと笑った。
「ステラの名前で手紙を出しなさい。グレアム家に歓迎するってね」
侍女は不安そうに眉を寄せたまま、ややあって頷いた。
「ああそう、招待状も出しておかないといけないんだったわ。あんた、リストは作っておいてあげるから招待状を書いて出しておきなさい」
「えっ、私がですか?」
侍女が驚くのも無理はなかった。
選び抜かれた紙に、きちんと教育を受けた美しい文字。
文章の中に挨拶や教養を込めて交流をする招待状の作成は貴族の大事な仕事だ。
「だって私忙しいんだもの。この肌に磨きをかけなくっちゃいけないんだから。あ、あと他の使用人も呼んできなさいよ。まったく、あいつら指示しないと動けないんだから困っちゃうわ」
侍女は不満がばれないよう小さくうなずいた後、すぐに部屋を出て使用人たちを呼んだ。
「あんたは花の手配ね。あんたは……あーめんどくさ。そうだ! あんた」
指を突き付けられたブリジット付きの侍女は私ですか? とこわごわ確認する。
「そうよ。あんたをリーダーにするからあんたが全部指示をだしなさい。ハウンド様を呼ぶパーティーだから手抜かりは許さないわ。私の好みは当然分かっているわよね?」
集められた5人ほどの使用人は顔を見合わせた。
グレアム家でパーティーを開いたことなど、ここ数年ない。
なにを用意すればいいのかなど、誰も知らないのだ。
なにしろブリジットも知らなかった。
知り合いが主催の大変さの愚痴をこぼすから花や料理など、ところどころ知っているだけだ。
参加した回数が多いだけで、手順や構成など全く考えていない。
「なにぼけっとしてるの? こういうのは早めに動いても時間が足りなくなるものなのよ。さっさと動きなさい!」
ブリジットはまた聞きかじった知識で使用人たちに指示を出す。
指示とはいえない、ぼんやりとした命令だった。
使用人たちは慌てて部屋を出て、使用人部屋に集まる。
「……」
「ねえ、どうする? ここ辞める? 給料も良くないし」
「えー……でもステラ様を殺すような家だし怖くない?」
「あれ怖すぎだって! まさか本当に殺すわけないわよね? だとしたらそれこそ、殺される前に辞めたいんだけど」
「なんにせよパーティーは成功させないとヤバそうだよね。あー……奥様ならまだ主催経験があるかも」
「通常業務に上乗せでなにも指示のないパーティーの準備って……最悪すぎる」
使用人たちはこれからのことを考えては項垂れてそれぞれの仕事へ向かっていった。
(今までの人脈を全力で使って、グレアム家史上一番のパーティーを開いてみせるわ。そのためにまず、私が一番美しくなくっちゃね)
ドレスルームを歩き回り、鼻を鳴らす。
やはり既に着たものではだめだ。
盛大なパーティーには新しいドレスを作らないといけない。
ハウンドからステラへ贈られたドレス類はあらかた自分のものにしたのだが、ブリジットには似合わないものだった。
社交界の顔なじみにも『あなたが大人しくしてても面白いだけ』と笑われた。
それでもこのドレスが彼の好みなのだろう。
誰に笑われたところで関係なかった。
「私に着こなせないものはないわ。……仕立てたのは、マリオンね」
マリオン。
この国の女の子なら、いや国外の女の子の誰だって憧れている仕立屋だ。
しかし一代で王室御用達にまで上り詰めた天才モードのマリオンが作るドレスは、生半可には手に入れられない。
このドレスの価値も分からずただ可愛いからと着ていたステラがブリジットには憎かった。
「あんた、マリオンに手紙を出してちょうだい」
「は……マリオン、ですか?」
自室のカウチにどっかり座ったブリジットは侍女を見もせずに指示をだした。
しかし侍女はぐだぐだと突っ立っているばかりで、なかなか動こうとしない。
「なによ。ハウンド様好みのドレスで誘惑した方が、彼も嬉しいでしょ? はやくしなさい!」
「で、ですがお嬢様。マリオンのドレスは向こう五年待ちなのは有名なお話で……」
「それをどうにかしなさいよ。ハウンド様は最近王都に着てこんなに用立てたのよ? やりようがあるに決まっているじゃない」
「ではせめて指示を頂けませんか? 私の立場ではハウンド様がどのようにされたのか分からないのです」
ブリジットは押し黙った。
それが分かれば苦労はしない。
(ハウンド様経由で頼むのが一番簡単で確実だけれど……パーティーのことがバレたら警戒されるかも。あくまでサプライズで襲うんだもの)
さすがのブリジットも現段階でハウンドをどうにか出来るとは思っていなかった。
しかし自分のような美しい女にベッド上で迫られたら、男は拒否はできない。
ハウンドも例外ではないだろう。
(そういえばステラにサイズを合わせているのよね。採寸したってことは会ったことがあるはず)
ブリジットは己の計画ににやりと笑った。
「ステラの名前で手紙を出しなさい。グレアム家に歓迎するってね」
侍女は不安そうに眉を寄せたまま、ややあって頷いた。
「ああそう、招待状も出しておかないといけないんだったわ。あんた、リストは作っておいてあげるから招待状を書いて出しておきなさい」
「えっ、私がですか?」
侍女が驚くのも無理はなかった。
選び抜かれた紙に、きちんと教育を受けた美しい文字。
文章の中に挨拶や教養を込めて交流をする招待状の作成は貴族の大事な仕事だ。
「だって私忙しいんだもの。この肌に磨きをかけなくっちゃいけないんだから。あ、あと他の使用人も呼んできなさいよ。まったく、あいつら指示しないと動けないんだから困っちゃうわ」
侍女は不満がばれないよう小さくうなずいた後、すぐに部屋を出て使用人たちを呼んだ。
「あんたは花の手配ね。あんたは……あーめんどくさ。そうだ! あんた」
指を突き付けられたブリジット付きの侍女は私ですか? とこわごわ確認する。
「そうよ。あんたをリーダーにするからあんたが全部指示をだしなさい。ハウンド様を呼ぶパーティーだから手抜かりは許さないわ。私の好みは当然分かっているわよね?」
集められた5人ほどの使用人は顔を見合わせた。
グレアム家でパーティーを開いたことなど、ここ数年ない。
なにを用意すればいいのかなど、誰も知らないのだ。
なにしろブリジットも知らなかった。
知り合いが主催の大変さの愚痴をこぼすから花や料理など、ところどころ知っているだけだ。
参加した回数が多いだけで、手順や構成など全く考えていない。
「なにぼけっとしてるの? こういうのは早めに動いても時間が足りなくなるものなのよ。さっさと動きなさい!」
ブリジットはまた聞きかじった知識で使用人たちに指示を出す。
指示とはいえない、ぼんやりとした命令だった。
使用人たちは慌てて部屋を出て、使用人部屋に集まる。
「……」
「ねえ、どうする? ここ辞める? 給料も良くないし」
「えー……でもステラ様を殺すような家だし怖くない?」
「あれ怖すぎだって! まさか本当に殺すわけないわよね? だとしたらそれこそ、殺される前に辞めたいんだけど」
「なんにせよパーティーは成功させないとヤバそうだよね。あー……奥様ならまだ主催経験があるかも」
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