婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井

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運命の始まり

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(まさか)

 一番初めに気付いたのはデリックだった。
 思わず中心に歩み出てブリジットの腕を取った。
 観客はわあっと歓声を上げる。ハウンドもおや、と片眉をあげた。
 一人の女を巡って男たちが争っているように見えるからだ。

「ブリジット、一旦引け。このままじゃ俺たち揃って笑いものだ!」

 怒ったように耳打ちする。
 デリックとブリジットの婚約騒動は皆知っている。

「なによデリック。あんたのことはもうどうでもいいのよ。私にはハウンド様がいるんだから……」

「聞けって!」

 腕を強く引かれ、ブリジットは化粧が崩れるのもお構いなしにデリックを睨み上げる。

「いったいわね! 私が羨ましいからって邪魔しないでよ!」

「お前のことなんかどうでもいい! いいか、なぜか分からないがお前はこいつと婚約できると思ってるんだな? だけどそんなわけないだろ!」

「だってみんなの前で私と婚約を発表するって言ったのよ!」

「それは……。そういえばお前、ステラどうした」

「え? ステラ?」

 ステラは今まさにこの屋敷の地下で死んでいる。
 しかしそれを言うわけにもいかないので「ステラはいないわよ……」とごにょごにょ口ごもる。 
 どうやらグレアム家自体がステラ可能性を除外しているらしい。
 それほどにはステラがいないのは事実なようだった。


 二人のやり取りをハウンドはつまらなさそうに聞いていた。
 いや、聞いていない。
 ぼんやりしているだけでも絵になる男だから勘違いしそうになるが、ハウンドにとってパーティーはまだ始まっていなかった。
 周囲だけがやたらと情熱的な視線を送っている。

「じゃあなんでハウンドはお前の手を取らない! 見つめもしないし、ぐずぐず婚約発表もしてないのはどうしてだ!」

「それは……」

 そうだ。もう婚約発表すると言ったのだから冷たい態度を取る必要はないはずだ。
 周囲も異変に気付き始める。
 盛り上がっているのは過去の痴情の縺れでしかないデリックとブリジットであり、主役のハウンドはのんびりしている。
 
 訳の分からないブリジットは立ったまま震えだしたが、誰もどうすることもできなかった。
 そしてたっぷり間をもって、父親がもう我慢ならないと一歩踏み込んだときハウンドは一言「ああ」と微笑んだ。

「皆さまお待たせしてしまって申し訳ない。しかし、ようやく婚約の発表が出来そうです」

 招待客はあからさまにほっとしていた。
 しかし孤立したブリジットは怪訝な顔で警戒していた。
 ハウンドは、いまだブリジットを一度も見ていないのだ。


「いらしたみたいですね」

 ハウンドは口をつけなかったワインを静かに置いて、玄関まで歩いていく。

 彼は酔っていないのに頬まで薔薇色に染まり、まるで初恋に浮かれた若者のように口元がゆるんでいた。足取りは浮いているかのように軽い。
 人でぎゅうぎゅうだというのに、自然と道が作られていく。

 カラカラと運命を告げるかのような馬車の音が近づいていた。
 いつもはハウンドが乗っていたはずの馬車が静かにグレアム邸の前に停まる。

「お待ちしておりました。私の運命を司る女王。私の全て」

「勝手なこと言わないで」

 困惑しながら馬車から現れたのは、地下室に閉じ込められて死んでいるはずのステラだった。
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