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運命の始まり2
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ハウンドはステラを恭しくエスコートしながら改めてホールに戻った。
枯葉色と揶揄されていたステラのぼさぼさの髪はいまや美しくカールされ、華麗に背中で揺れている。
頭上には細やかな薔薇の意匠が組み込まれた繊細なティアラが輝いていた。
薔薇色のドレスはドレス自体が一輪の花のように、幾重にもオーガンジーレースが重ねられている。
一枚一枚微妙に色合いが違うからなのか、目を引く華やかさの割に儚さと清楚な印象を受ける。
そして美しい姿勢で歩くステラに、誰からともなく感嘆のため息がもれた。
彼女の後ろではマリオンとバーンズ家の娘セシリアが得意気に笑っていた。
むしろステラが本当にこの状況を理解しているのか不安になるほど、周囲を気にしていないように見える。
そして観客たちのその考えは当たっていた。
ステラは自分のことなどまったく考えておらず、隣の男のことを考えていたのだ。
(みんなハウンドを見ているわね)
当然だと思う。
馬車の扉が開いてハウンドを見た時、ステラも息を呑んでしまったのだ。
華やかな装いがあまりにも似合う。
いつもは軽く流している前髪を軽く後ろに撫でつけて、その容貌を惜しみなくさらしている。
要するにかっこよすぎて戸惑ったのだ。
ややほっそりしているが、健康そうに自分で歩いているステラを見て一番驚いたのはもちろん父親をはじめとするグレアム家の面々だった。
なにせ彼女を閉じ込めた本人たちである。
今ステラは地下で死んでいるはずなのだ。
「なっ……おまえ、地下室にいるはずじゃ……」
一番目立つ場所、ホールにたどり着く手前で父親はステラを指さして震える。
その顔は真っ青で、亡霊を見たかのような様相だ。
ステラは困ったように少しだけ眉を寄せた。
(この場で大事にはしたくなかったのだけれど)
あとで問い詰めるつもりではいたが、この場では貴族達の餌にしかならない。だから流しておきたかったのだ。
しかし、ただでさえ注目を集めているなかで父親の大きな声は致命的だった。
どういうことだと囁く声が聞こえる。
「ステラ様、せっかくなのでお好きにしていいんですよ」
ハウンドは安心させるように耳元で囁く。
「それじゃああなたに迷惑がかかるわ。私のことはいいの」
「ステラ様がよくても私はよくないです。ああ、では私が彼に引導をお渡しても?」
聞き間違いかと思うような甘い声音に、ステラはぎょっとしてハウンドの顔を見る。
(聞き間違いでも冗談でもないみたい)
だとしたら自分で言う方がまだ父も納得できるだろうとステラは思う。
どうせなら、多少はすっきりしてもいいのかもしれない。
ステラは父親に向き直る。
「では地下室へ確認していらしてください、お父様。……あなたが殺そうとした私がちゃんと死んでいるのか」
誰にも聞こえないよう、こっそり、小声で。
しかしそれだけでじゅうぶんだった。
父親は腰を抜かして座り込んでしまう。
母親も青を通り越して真っ白の顔で震え、今にも倒れそうなのを使用人が支えている。
「……んで」
静まり返ったホールに、小さな怨嗟の声が落ちた。
「なんでアンタが生きてんのよッ! 使用人共の誰かが裏切ったわね! 出てきなさい、お前も殺してやるから!」
枯葉色と揶揄されていたステラのぼさぼさの髪はいまや美しくカールされ、華麗に背中で揺れている。
頭上には細やかな薔薇の意匠が組み込まれた繊細なティアラが輝いていた。
薔薇色のドレスはドレス自体が一輪の花のように、幾重にもオーガンジーレースが重ねられている。
一枚一枚微妙に色合いが違うからなのか、目を引く華やかさの割に儚さと清楚な印象を受ける。
そして美しい姿勢で歩くステラに、誰からともなく感嘆のため息がもれた。
彼女の後ろではマリオンとバーンズ家の娘セシリアが得意気に笑っていた。
むしろステラが本当にこの状況を理解しているのか不安になるほど、周囲を気にしていないように見える。
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当然だと思う。
馬車の扉が開いてハウンドを見た時、ステラも息を呑んでしまったのだ。
華やかな装いがあまりにも似合う。
いつもは軽く流している前髪を軽く後ろに撫でつけて、その容貌を惜しみなくさらしている。
要するにかっこよすぎて戸惑ったのだ。
ややほっそりしているが、健康そうに自分で歩いているステラを見て一番驚いたのはもちろん父親をはじめとするグレアム家の面々だった。
なにせ彼女を閉じ込めた本人たちである。
今ステラは地下で死んでいるはずなのだ。
「なっ……おまえ、地下室にいるはずじゃ……」
一番目立つ場所、ホールにたどり着く手前で父親はステラを指さして震える。
その顔は真っ青で、亡霊を見たかのような様相だ。
ステラは困ったように少しだけ眉を寄せた。
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あとで問い詰めるつもりではいたが、この場では貴族達の餌にしかならない。だから流しておきたかったのだ。
しかし、ただでさえ注目を集めているなかで父親の大きな声は致命的だった。
どういうことだと囁く声が聞こえる。
「ステラ様、せっかくなのでお好きにしていいんですよ」
ハウンドは安心させるように耳元で囁く。
「それじゃああなたに迷惑がかかるわ。私のことはいいの」
「ステラ様がよくても私はよくないです。ああ、では私が彼に引導をお渡しても?」
聞き間違いかと思うような甘い声音に、ステラはぎょっとしてハウンドの顔を見る。
(聞き間違いでも冗談でもないみたい)
だとしたら自分で言う方がまだ父も納得できるだろうとステラは思う。
どうせなら、多少はすっきりしてもいいのかもしれない。
ステラは父親に向き直る。
「では地下室へ確認していらしてください、お父様。……あなたが殺そうとした私がちゃんと死んでいるのか」
誰にも聞こえないよう、こっそり、小声で。
しかしそれだけでじゅうぶんだった。
父親は腰を抜かして座り込んでしまう。
母親も青を通り越して真っ白の顔で震え、今にも倒れそうなのを使用人が支えている。
「……んで」
静まり返ったホールに、小さな怨嗟の声が落ちた。
「なんでアンタが生きてんのよッ! 使用人共の誰かが裏切ったわね! 出てきなさい、お前も殺してやるから!」
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