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そう言うと白鹿は首をもたげた。
感謝の代わりに撫でても良い、と言っているようだ。
リリアは嬉しくなって白鹿の首を撫でる。
短くてさらさらの毛と、その下にさらに短くてふわふわの毛がみっしりと生えていて撫でると気持ちが良い。
リリアが2、3度手を滑らせて満足すると白鹿は身を翻し森の奥へ行ってしまった。
やや足を引きずるような感じではあったが、あの様子だと大丈夫だろう。
「あっ、そうだ日が暮れちゃう」
リリアはハッとして慌てて荷車に戻る。
ブライアンに投げつけられた泥の他に、森でしゃがんだり手当に必死だったからか靴やスカート、あらゆる所が泥だらけだった。
「近くに泉があるって言ってたからそこで流せるといいけど」
なんにせよ日の出ている内に小屋につかなければ。
既にもう傾きかけている。今から急げばぎりぎり小屋にはたどり着けるだろう。
小屋についたのは結局、日が暮れてからだった。
距離自体は大した事がなかったが荷車の持ち手部分に泥がつき、滑ってなかなか進まなかったのだ。
ついたと同時くらいに日が完全に落ちたが、慣れないせいか夜の森はどこか恐ろしく不気味にも思えた。
「まあ薪やパンは積んでるし、細かい事は明日からでもいいわよね」
ランタンはあるが泉を探すことまでは難しそうだ。無理をして怪我をしたら元も子もない。
今日は泥を落とすことは諦めよう。暖炉が使えれば火を焚いてシーツに包まって床にでも寝て、全ては明日だ。
「あれ?」
そこでリリアは気づいた。なんと小屋の中から灯りが洩れている。
木こりが休憩しているのだろうか。だとしたら今夜は荷車で野宿も覚悟しなきゃ、とリリアは思った。
(挨拶した方がいいのかしら)
しかしいきなり無加護の自分に話しかけられると気分を害するかもしれない。
孤児院でのリリアは喜捨に来る貴族の使いがいる時は絶対に外に出てはいけないし、物音も立ててはいけなかった。
呪われた無加護がいる孤児院にお金を落としたい人間などいないからだ。
リリアを初めて見た人の反応は大体いつも同じようなものである。
怯えられるか、憎まれるか、攻撃されるか。
(今は初夏だけど、森は冷えるのよね。もう肌寒いし)
リリアは悩んだが、ずっと野宿をするわけにもいかないので挨拶する事にした。
もしかしたら隅っこを貸してもらえるかもしれない。
穴こそ開いていないが朽ちかけて、ところどころ腐っているようなドアをノックする。
トントン
「あの、すみません」
………………
反応がない。
もう一度ノックしてみたがやはり同じだった。
たまたまいないのだろうか。それにしては中から奇妙な気配を感じる。
もしかして…とリリアは思った。
やはり自分は警戒されているのだろうか。
無害な事だけは伝えておきたいとリリアはドアを開ける。
「勝手にすみません、私…………」
そして小屋の中を見て絶句した。
感謝の代わりに撫でても良い、と言っているようだ。
リリアは嬉しくなって白鹿の首を撫でる。
短くてさらさらの毛と、その下にさらに短くてふわふわの毛がみっしりと生えていて撫でると気持ちが良い。
リリアが2、3度手を滑らせて満足すると白鹿は身を翻し森の奥へ行ってしまった。
やや足を引きずるような感じではあったが、あの様子だと大丈夫だろう。
「あっ、そうだ日が暮れちゃう」
リリアはハッとして慌てて荷車に戻る。
ブライアンに投げつけられた泥の他に、森でしゃがんだり手当に必死だったからか靴やスカート、あらゆる所が泥だらけだった。
「近くに泉があるって言ってたからそこで流せるといいけど」
なんにせよ日の出ている内に小屋につかなければ。
既にもう傾きかけている。今から急げばぎりぎり小屋にはたどり着けるだろう。
小屋についたのは結局、日が暮れてからだった。
距離自体は大した事がなかったが荷車の持ち手部分に泥がつき、滑ってなかなか進まなかったのだ。
ついたと同時くらいに日が完全に落ちたが、慣れないせいか夜の森はどこか恐ろしく不気味にも思えた。
「まあ薪やパンは積んでるし、細かい事は明日からでもいいわよね」
ランタンはあるが泉を探すことまでは難しそうだ。無理をして怪我をしたら元も子もない。
今日は泥を落とすことは諦めよう。暖炉が使えれば火を焚いてシーツに包まって床にでも寝て、全ては明日だ。
「あれ?」
そこでリリアは気づいた。なんと小屋の中から灯りが洩れている。
木こりが休憩しているのだろうか。だとしたら今夜は荷車で野宿も覚悟しなきゃ、とリリアは思った。
(挨拶した方がいいのかしら)
しかしいきなり無加護の自分に話しかけられると気分を害するかもしれない。
孤児院でのリリアは喜捨に来る貴族の使いがいる時は絶対に外に出てはいけないし、物音も立ててはいけなかった。
呪われた無加護がいる孤児院にお金を落としたい人間などいないからだ。
リリアを初めて見た人の反応は大体いつも同じようなものである。
怯えられるか、憎まれるか、攻撃されるか。
(今は初夏だけど、森は冷えるのよね。もう肌寒いし)
リリアは悩んだが、ずっと野宿をするわけにもいかないので挨拶する事にした。
もしかしたら隅っこを貸してもらえるかもしれない。
穴こそ開いていないが朽ちかけて、ところどころ腐っているようなドアをノックする。
トントン
「あの、すみません」
………………
反応がない。
もう一度ノックしてみたがやはり同じだった。
たまたまいないのだろうか。それにしては中から奇妙な気配を感じる。
もしかして…とリリアは思った。
やはり自分は警戒されているのだろうか。
無害な事だけは伝えておきたいとリリアはドアを開ける。
「勝手にすみません、私…………」
そして小屋の中を見て絶句した。
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