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エレスが、リリアを見つめる。
「リリアが見つけてくれたから」
「どういう事?」
「私には仕事がある。そうでなければ私などという存在は生まれない」
「エレスの……精霊王の仕事?」
「そうだ。常に世界のバランスをとるのが私の仕事。だから私は基本的に精霊界にいたし、こちらに降りてきたのは……百年ぶりくらいだな。長い時は千年くらい向こうにいる」
「待って、エレスってどれくらい生きてるの?」
「生きている時間で言えば、この世界と同じ程度だ。起きていた時間はそう長くもないが」
「……」
途方もない話でスケール感が全くつかめない。
リリアの知っている世界といえば村の中と、時折やってくる行商人や旅芸人からの話を子供たちから又聞きするくらいだ。
「私はしばらく精霊界にいたから、こちらまで手が回らなかった。本当はまだ精霊界でやる事があったんだが、やけにこちらの精霊が騒がしくしていてな。少し様子を見に来たところで、まあ運悪く傷を負ってしまった」
「傷!? 大丈夫なの?」
エレスはどこかを悪くしている様子はなかった。
精霊が怪我をするのかどうかも分からないが、もし傷をそのままにしているのなら危険な場合もある。
人の姿をしているのでリリアに出来る事もあるだろう。
「私の手当てでだめそうなら村のお医者様に」
「そう、あの時リリアが手当てしてくれたから私は微睡みから覚めた」
エレスは穏やかにリリアを見つめ、微笑んだ。
万人が見惚れる美しさだが、リリアはそれどころではなかった。
(手当て? 今さっき傷の事を知ったのだから何もしていない)
そもそもエレス程目立つ人と出会っていれば気づくはずだ。
「あの時はまだこちらに来たばかりだったしな。意識も上手く固定出来ず、とりあえずこちらの世界を見て回っていたんだ。まあそれで狩人に見つかってしまったのは……我ながらどうかと思うが」
相当ぼんやりしていたらしい。
エレスの歯切れの悪さから、寝起きでふらふらしていているような状態の時に猟師に見つかったんじゃないのかしら、とリリアは思った。
あ、とリリアの中で何かが繋がる。
「……森で会ったあの白鹿さんってもしかしてエレスだったの?」
「気づいていなかったのか?」
そういえばあの時の白鹿も目の前の精霊王も白銀の毛をしている。
様々な色が溶け合うような透き通る紫の瞳も、思い出してみれば同じだ。
こんな不思議な色合いの共通点に気づかなかった迂闊さに、リリアは少し落ち込む。
(いやでも、鹿と人間が同じなんて思わないじゃない)
人間ではなく精霊なのだが、それは一旦置いておくリリアだった。
「手当てしてもらっていた時はまだ完全に目覚めてはいなかったのだが、その後徐々に目が覚めてな。傷も治っていたし、その時にようやくリリアが私の乙女だと気づいた」
「怪我、もう治ったの?」
「リリアのおかげで思っていたより早く良くなった」
矢傷が数時間で治るなんていくらなんでも早すぎるが、相手は精霊王だ。
そういうものなのかもしれない。
(もしかしてエレスって寝起きが悪いタイプなのかしら)
エレスが寝ぼけていた時リリアは山賊に殺されそうになっていた。
もう少しエレスが寝ぼけていたらと思うと背筋にひんやりしたものが流れる。
それともこの呑気さからすると、リリアが思っていたより余裕があったのかもしれない。
そもそも精霊は時間の感覚が人とは大きく違うようだ。
リリアは自分の身の丈に合わせて理解しようと努める。
朝が苦手な人が10分ぼんやりしている間に朝ごはんが用意されていたような感覚で、数日ぼんやりしていたら矢傷を負わされて手当てされていたような感じなのかもしれない。
だとしたらすさまじい寝ぼけ具合だ。
「あの森でリリアが私を見つけてくれたから数年早く目が覚めた。気づいてからは急いでいたから祝福も手荒になってしまって申し訳ない。他の精霊が祝福する前に…と思ったらな」
「15年も放っておかれたんだから急がなくても良かったわよ」
「それでも一刻も早くリリアに祝福したかった」
熱い視線がリリアに向けられたが、しかしその瞳もやがて伏せられる。
きゅ、とリリアに繋がれたエレスの手が強張った。
「リリアが見つけてくれたから」
「どういう事?」
「私には仕事がある。そうでなければ私などという存在は生まれない」
「エレスの……精霊王の仕事?」
「そうだ。常に世界のバランスをとるのが私の仕事。だから私は基本的に精霊界にいたし、こちらに降りてきたのは……百年ぶりくらいだな。長い時は千年くらい向こうにいる」
「待って、エレスってどれくらい生きてるの?」
「生きている時間で言えば、この世界と同じ程度だ。起きていた時間はそう長くもないが」
「……」
途方もない話でスケール感が全くつかめない。
リリアの知っている世界といえば村の中と、時折やってくる行商人や旅芸人からの話を子供たちから又聞きするくらいだ。
「私はしばらく精霊界にいたから、こちらまで手が回らなかった。本当はまだ精霊界でやる事があったんだが、やけにこちらの精霊が騒がしくしていてな。少し様子を見に来たところで、まあ運悪く傷を負ってしまった」
「傷!? 大丈夫なの?」
エレスはどこかを悪くしている様子はなかった。
精霊が怪我をするのかどうかも分からないが、もし傷をそのままにしているのなら危険な場合もある。
人の姿をしているのでリリアに出来る事もあるだろう。
「私の手当てでだめそうなら村のお医者様に」
「そう、あの時リリアが手当てしてくれたから私は微睡みから覚めた」
エレスは穏やかにリリアを見つめ、微笑んだ。
万人が見惚れる美しさだが、リリアはそれどころではなかった。
(手当て? 今さっき傷の事を知ったのだから何もしていない)
そもそもエレス程目立つ人と出会っていれば気づくはずだ。
「あの時はまだこちらに来たばかりだったしな。意識も上手く固定出来ず、とりあえずこちらの世界を見て回っていたんだ。まあそれで狩人に見つかってしまったのは……我ながらどうかと思うが」
相当ぼんやりしていたらしい。
エレスの歯切れの悪さから、寝起きでふらふらしていているような状態の時に猟師に見つかったんじゃないのかしら、とリリアは思った。
あ、とリリアの中で何かが繋がる。
「……森で会ったあの白鹿さんってもしかしてエレスだったの?」
「気づいていなかったのか?」
そういえばあの時の白鹿も目の前の精霊王も白銀の毛をしている。
様々な色が溶け合うような透き通る紫の瞳も、思い出してみれば同じだ。
こんな不思議な色合いの共通点に気づかなかった迂闊さに、リリアは少し落ち込む。
(いやでも、鹿と人間が同じなんて思わないじゃない)
人間ではなく精霊なのだが、それは一旦置いておくリリアだった。
「手当てしてもらっていた時はまだ完全に目覚めてはいなかったのだが、その後徐々に目が覚めてな。傷も治っていたし、その時にようやくリリアが私の乙女だと気づいた」
「怪我、もう治ったの?」
「リリアのおかげで思っていたより早く良くなった」
矢傷が数時間で治るなんていくらなんでも早すぎるが、相手は精霊王だ。
そういうものなのかもしれない。
(もしかしてエレスって寝起きが悪いタイプなのかしら)
エレスが寝ぼけていた時リリアは山賊に殺されそうになっていた。
もう少しエレスが寝ぼけていたらと思うと背筋にひんやりしたものが流れる。
それともこの呑気さからすると、リリアが思っていたより余裕があったのかもしれない。
そもそも精霊は時間の感覚が人とは大きく違うようだ。
リリアは自分の身の丈に合わせて理解しようと努める。
朝が苦手な人が10分ぼんやりしている間に朝ごはんが用意されていたような感覚で、数日ぼんやりしていたら矢傷を負わされて手当てされていたような感じなのかもしれない。
だとしたらすさまじい寝ぼけ具合だ。
「あの森でリリアが私を見つけてくれたから数年早く目が覚めた。気づいてからは急いでいたから祝福も手荒になってしまって申し訳ない。他の精霊が祝福する前に…と思ったらな」
「15年も放っておかれたんだから急がなくても良かったわよ」
「それでも一刻も早くリリアに祝福したかった」
熱い視線がリリアに向けられたが、しかしその瞳もやがて伏せられる。
きゅ、とリリアに繋がれたエレスの手が強張った。
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