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「リリアの魂はあまりに眩い。どんな精霊も祝福したがる。いや……祝福の先を望むだろうな。もしそうであれば全く違う人生を歩んでいただろう」

エレスの言葉を聞いてもリリアの疑念は膨らむ一方だった。

(料理だけじゃなくて『私』が愛されてるってこと? それこそおかしいわ)

実際のリリアは祝福を受けず無加護の黒髪黒目。
我慢していたのに喉がきゅう、と縮こまってどんどん涙が溢れそうになるのをこらえるのが精一杯だった。

全く違う人生なんて想像もできない。
精霊に好かれているという事は教会に保護されるという事だろうか。
でもリリアはそこまで望んでいない。普通の、人並みの人生で良かった。

「……その場合、私はリリアに出会えなかった」

エレスの何かを恐れるような、寂しさのにじむ声がリリアの耳にそっと届く。

「精霊の祝福は一度行われれば外れる事はない。染まった布の色は元には戻らず、土にしみ込んだ水だけを盃に戻す事はできない。だから精霊たちは祝福を行わなかった。世界の意思が精霊王と乙女が巡り合わせる為に。私がリリアを祝福する為に。……すまない」

「普通の精霊じゃなくてエレスの加護じゃないといけない理由があったの?」

わたしの為に取っておいただけだろうな。ご馳走のように。精霊は人の世の事にあまり関心がない」

(ご馳走)

つまり15年も王に献上される為に放っておかれたのだろうか。
正直いい気はしない。先ほど謝っていたのも、つまりそういう事だろう。

「ただ……リリアが私以外の祝福を受けていたら『何かしらの被害』は出ただろう。偏った属性がリリアの魂で増幅され、周囲に影響を及ぼす。精霊から見れば、リリアが祝福されなかったのは当然の事だとも言える」

エレスの言う「被害」はリリアにも何となく想像できた。
わざとぼかした表現をしたのだ。人の生死にも関わるのだろう。
そしてそんな危険な存在であるリリアは、後ろ盾がなければすぐに同じ人間によって消されてしまう。

「だが、それは精霊の事情だ。リリアが苦しんでいい理由には、ならない」

まるで自分が辛いような声だった。
リリアは、はっとして顔を上げる。

見るとエレスは自分の方が泣きそうな顔をしていた。
今までそんな風にリリアに寄り添ってくれた人はいなかったので不思議な気持ちになる。
それとも、そんな境遇である事こそにエレスは心を痛めているのだろうか。

「すまないリリア。辛い思いをさせた」

足を止めたエレスは顔を上げたリリアの目のふちに残る涙を拭うように口づける。
ひんやりと冷たく、さらりとした感触が熱を持った目元を癒すのを感じた。

精霊の特徴なのだろうか。
エレスからのキスに生々しさや妙な下心のようなものをリリアは感じた事はなかった。
いつも心地良い爽やかさだけを感じるから、恥ずかしくはあるが嫌な気持ちになる事はない。

二人はいつの間にか森を抜けていたらしく見晴らしのいい丘に出ていた。
なだらかな丘陵が続く中に小川が流れ、色とりどりの花が風にそよいでいる。
随分気持ちのいい場所だが、近くで山賊がうろついているようでは村の人間もここには来ないだろう。

丘を吹き抜けた風がリリアの髪を通り抜ける。
その風に誘われるようにリリアはふと、気になっていた事を聞こうと思った。

「なんで、……15年経った今なの?」
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