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その後の彼女
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結婚式の当日は朝から小雨が降っていた。
「雲が薄くなってきましたね。もうすぐ上がりそうですよ」
私の支度を手伝っていた侍女の一人がそう呟く。その言葉に誘われて視線を窓の外に向けると、薄い雲の隙間から日差しが見えた。
「良かったわ。お客様が濡れずにすみそうね」
今日の結婚式は我が家の庭でシンプルに行われる。会場を借りて派手な結婚式をする方もいらっしゃるけど、私は家族と親しい人達に囲まれて穏やかにしたかった。両親やヴォルフには地味だとか、もっと我が儘を言っても良いと言われて困った私は派手にする代わりに領民への炊き出しとして振る舞う事にした。今頃、領地の広場には屋台が建ち並び無料で食事が出来る様に手配してある。雨が上がれば領民も楽しく食事が出来るはずよね。
「ハリエット、準備は終わったか?」
「ヴォルフ、髪飾りを着けたら終わりよ」
部屋まで迎えに来たヴォルフの手を取り小さな祭壇が設営されている庭へと向かった。祭壇を挟んだ向かい側には神官様が笑顔で待っていた。
私達が祭壇の前で頭を下げると、神官様が祝いの祝詞を読み上げる。高過ぎず低過ぎず不思議な神官様の声が庭に響き、式の参加者もその声に聞き入っていた。祝詞が終わり神官様が差し出した婚姻届に二人続けてサインをする。これで私達は正式な夫婦となった。
「おめでとう!」
「ヴォルフ、お前だけ狡いぞ!俺達にも幸せを分けろ~」
サインが終わって顔を上げた私達に参加していた友人達からお祝いの声が届く。中には愚痴の様な言葉も混じっていて、ヴォルフと顔を見合わせて笑った。
「見て、虹よ!」
参加者の誰かが空を指さし叫ぶ。会場にいた人々が次々に空を見上げると、大きな虹が目に飛び込んだ。
「わぁー綺麗」
「おぉ」
感嘆の声が溢れる中、私達は挨拶回りを始める。日除けの天幕の下で皆、笑顔で話が出来た。楽しい時間はアッという間に終わり最後の参加者が帰路に着いた後、神官様に呼ばれて私達は首を傾げながらも彼の元へ向かった。
「片付けでお忙しいのにすみません」
「いえ、それは構いませんがどうなさいました?」
「本当は良くないのかもしれませんが、お二人の知人の方の手紙を預かって参りました」
そう言って神官様が懐から一枚の白い手紙を差し出した。宛名には私達の名前が書いてある。その手紙を受け取り裏の差出人の名前を見て、私達は言葉を失った。
「クロード様……」
「はい、クロードさんは私と同じ神殿にお勤めしております。彼がお二人が捨てても構わないから渡して欲しいと言ったので……」
言葉に詰まる神官様の様子で個人的なやり取りは禁止されていると察せられた。戒律を破っても手紙を持って来たのかしら?それほどにクロード様と交流があるの?
「本当は禁止されているのではないですか?」
私がハッキリと聞くと神官様の肩が大きく揺れて俯いてしまった。責めるつもりは無かったのだけど……
「ありがとうございます。ちゃんと読ませて頂きますね。お返事は書いても大丈夫でしょうか?」
「いえ、見習い中は外部との交流は禁止されています」
「そうですか……」
申し訳なさそう何度も頭を下げながら神官様も帰路に着いた。
夜、全てが終わって寝る前になってから受け取った手紙を開くと、真っ白い紙に丁寧な文字が並んでいた
『 拝啓、タリス伯爵令嬢様
先に私の我が儘を聞いてくれた神官様を責めないで下さい。私が無理矢理頼んだのです。
私はここに来てやっと自分がいかに愚かで無知だったかを知りました。今更ですが、今までの事は、本当に申し訳御座いませんでした。今日が結婚式と聞いています。ご結婚おめでとうございます。神殿の奥から貴女とご家族の幸せをお祈り致します。
クロードより』
気が付けば涙が溢れていました。もう分かりあえる日は来ないだろうと諦めてしまった私。今更ですがもっと話し合っていたら、彼の教育を我が家でしていたら今とは違って全員が幸せになれたかもしれない。
「ハリエット、泣くな」
そう言って私の背中を撫でながらヴォルフがタオルでそっと涙を拭いてくれた。もう昔には戻れないけど、これからは目の前の幸せを大切に生きていきたいと思います。
end
「雲が薄くなってきましたね。もうすぐ上がりそうですよ」
私の支度を手伝っていた侍女の一人がそう呟く。その言葉に誘われて視線を窓の外に向けると、薄い雲の隙間から日差しが見えた。
「良かったわ。お客様が濡れずにすみそうね」
今日の結婚式は我が家の庭でシンプルに行われる。会場を借りて派手な結婚式をする方もいらっしゃるけど、私は家族と親しい人達に囲まれて穏やかにしたかった。両親やヴォルフには地味だとか、もっと我が儘を言っても良いと言われて困った私は派手にする代わりに領民への炊き出しとして振る舞う事にした。今頃、領地の広場には屋台が建ち並び無料で食事が出来る様に手配してある。雨が上がれば領民も楽しく食事が出来るはずよね。
「ハリエット、準備は終わったか?」
「ヴォルフ、髪飾りを着けたら終わりよ」
部屋まで迎えに来たヴォルフの手を取り小さな祭壇が設営されている庭へと向かった。祭壇を挟んだ向かい側には神官様が笑顔で待っていた。
私達が祭壇の前で頭を下げると、神官様が祝いの祝詞を読み上げる。高過ぎず低過ぎず不思議な神官様の声が庭に響き、式の参加者もその声に聞き入っていた。祝詞が終わり神官様が差し出した婚姻届に二人続けてサインをする。これで私達は正式な夫婦となった。
「おめでとう!」
「ヴォルフ、お前だけ狡いぞ!俺達にも幸せを分けろ~」
サインが終わって顔を上げた私達に参加していた友人達からお祝いの声が届く。中には愚痴の様な言葉も混じっていて、ヴォルフと顔を見合わせて笑った。
「見て、虹よ!」
参加者の誰かが空を指さし叫ぶ。会場にいた人々が次々に空を見上げると、大きな虹が目に飛び込んだ。
「わぁー綺麗」
「おぉ」
感嘆の声が溢れる中、私達は挨拶回りを始める。日除けの天幕の下で皆、笑顔で話が出来た。楽しい時間はアッという間に終わり最後の参加者が帰路に着いた後、神官様に呼ばれて私達は首を傾げながらも彼の元へ向かった。
「片付けでお忙しいのにすみません」
「いえ、それは構いませんがどうなさいました?」
「本当は良くないのかもしれませんが、お二人の知人の方の手紙を預かって参りました」
そう言って神官様が懐から一枚の白い手紙を差し出した。宛名には私達の名前が書いてある。その手紙を受け取り裏の差出人の名前を見て、私達は言葉を失った。
「クロード様……」
「はい、クロードさんは私と同じ神殿にお勤めしております。彼がお二人が捨てても構わないから渡して欲しいと言ったので……」
言葉に詰まる神官様の様子で個人的なやり取りは禁止されていると察せられた。戒律を破っても手紙を持って来たのかしら?それほどにクロード様と交流があるの?
「本当は禁止されているのではないですか?」
私がハッキリと聞くと神官様の肩が大きく揺れて俯いてしまった。責めるつもりは無かったのだけど……
「ありがとうございます。ちゃんと読ませて頂きますね。お返事は書いても大丈夫でしょうか?」
「いえ、見習い中は外部との交流は禁止されています」
「そうですか……」
申し訳なさそう何度も頭を下げながら神官様も帰路に着いた。
夜、全てが終わって寝る前になってから受け取った手紙を開くと、真っ白い紙に丁寧な文字が並んでいた
『 拝啓、タリス伯爵令嬢様
先に私の我が儘を聞いてくれた神官様を責めないで下さい。私が無理矢理頼んだのです。
私はここに来てやっと自分がいかに愚かで無知だったかを知りました。今更ですが、今までの事は、本当に申し訳御座いませんでした。今日が結婚式と聞いています。ご結婚おめでとうございます。神殿の奥から貴女とご家族の幸せをお祈り致します。
クロードより』
気が付けば涙が溢れていました。もう分かりあえる日は来ないだろうと諦めてしまった私。今更ですがもっと話し合っていたら、彼の教育を我が家でしていたら今とは違って全員が幸せになれたかもしれない。
「ハリエット、泣くな」
そう言って私の背中を撫でながらヴォルフがタオルでそっと涙を拭いてくれた。もう昔には戻れないけど、これからは目の前の幸せを大切に生きていきたいと思います。
end
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