行商人さん、各地でなんやかんやして幸せを売る。

よもぎ

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とある農村の困りごと

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やぁわたしアリサ!家名はもうない。元令嬢で現在は行商人をしてる。
持ち前の時間停止付きクソデカ収納スキルと氷魔法を使って、馬一頭と旅をして、冬だけねぐらと決めた町で暮らしてる。

今は春。ぽくぽく愛馬を進めている。
心地いい日差しとほどよく涼やかな風が気持ちいいね。次は宿場町ではなく、商品がありそうな村でお泊りの予定だ。
だいたいの国は、宿場町で夜は眠れるように転々と町があって、それがない場合は村か普通の街がある。

悪用を禁じる――要するに軍事情報なので他国に売らない貸さない渡さないを契約のスキルで誓った人にだけ売ってもらえる地図で見た感じ、次は農村なのだ。
農村と言っても、先述の通り宿場町を兼ねているので、宿がある。
春キャベツや新玉ねぎ、新ジャガイモがおいしい季節なので、仕入れるのはマストだ。
時期をずらして売れば、春野菜を恋しく思う方々は喜んで買ってくれるので。

さて、農村についた。
まだ収穫には一日二日ほどかかる予感。宿には念のため三日泊まると伝え、愛馬のお手入れだ。
旅の間はわたしを乗せているか、飼い葉を食べるか、水を飲むかで、あまり構ってあげられない。なのでマッサージも甲斐甲斐しく行ってご機嫌になってもらうのだ。
ここか!ここがええのんか!体は素直よのう!
セクハラ親父みたいなことを考えながら馬の反応を確認しながらもみもみさすさす。
余は満足じゃ……というお顔になったところで水と飼い葉を与えてぶらぶら散歩する。

ふむ、ここは牛とか豚も飼ってるね。鳥もだ。
でも現地で消費するだけに留まる感じなので買い付けは出来ないか。
でもいいんだ、春野菜があるから。

冬のねぐらの定食屋に春野菜を出したら、きっとおいしいご飯になるのだろうなあと考えながら散歩を続けていると、難しい顔をした大の大人が切株風の椅子に座って話し合いをしているのを見かけた。
な~んだ?と思って聞き耳を立てていると、どうも春のご飯は代り映えがない、どうしたもんだ、って話だった。
それならわたしの出番じゃん!とスススと近寄る。


「話は聞かせてもらいました。わたし、流れの行商人のアリサと申す者」
「な、立ち聞きか!?」
「いえ、なんとなく聞こえたもので。
 で、ごはんの話ですよね?」
「……ああ。生キャベツのサラダにマッシュポテトにたまねぎを混ぜたものが毎日出てくるんだ……さすがに飽きて、だが女房も肉をたまに出してくれたり卵を焼いてくれたり、頑張ってるのは分かってるんだ……」
「でもよう!バリエーションが欲しいんだ俺たち!」
「けど春野菜なんて限られてるしよう」

なるほどなるほど。
では、と、露店を開いていいかを聞くと、ちょうど村長の息子さんがいたので許可をくれた。
もちろん売るのは油である。あと昆布。
実演販売のお時間だぜ!



収穫したばかりの春キャベツは昆布出汁で取って塩で味をととのえたスープに、出汁をとりおわって刻まれた昆布と共にぶちこみ。
春じゃがと新玉ねぎは、ミンチを少量混ぜ込んで、素揚げ風コロッケに。
育ちが早くて先んじて収穫されたものを買い取っての露店は、奥様たちが駆けつけてきて大混雑。
味を覚えてもらう程度の量をお手頃価格で販売したので、行き届かないってこともなく、露店の周りでは大興奮である。


「この油は売ってもらえるの?この……なに?よく分からない具も」
「ええもちろん!レシピはサービス、無料でございます!
 春にはこの村に寄る予定なので、その時にお売りいたしますよ!」


大サービスだよ。
でも買い付けする時に心証いいかどうかって大事だからね、ごますりごますり。
家庭料理なので、家によっては味付け違うな~とかあるかもしれないけど、それもアジだよ。

で、とっておきの商品がある。
なんとなんと、バターが簡単に作れる道具も仕入れてあったのだ。
これは少数になっちゃうし、油とかほど安くはない。
でもこの村にはなかったそう。
そりゃそうだ、これ医療大国の隣国産。ここまで届くにはまだまだかかる。
わたしは医療大国に輸入されてるものを買ったから持ってるだけ。

これは村長が直々に買い付けると宣言した。
バターを絞った後の牛乳も飲めなくはないって知ってるし、作るための労力カットで別の仕事が出来ればお値段以上というわけだ。
わたしもそこまで利益取ってないしね。銅貨5枚分くらいの利益にしといたよ。転売だもんなこれ。

マッシュポテトにバター混ぜるとおいしいよ~とか、これこの味噌!味噌だれ絡めて炒め物にするとおいしい!とか、レシピはたくさん教えた。
味噌が大量に売れたけど、在庫はまだたくさんあるし。
来年もたくさん持ってきますねと約束したらよろこばれた。
ちなみに味噌汁も教えた。広がれ!和の味!



----


アリサという行商人は、春野菜を買い付けるとまた旅立っていった。
思えば俺たちがあそこで愚痴っていなければ、あの娘はここまで大きな商いをしなかったろう。
だから偶然に感謝する。

油は村の共有財産みたいなもんで、だからコロッケを作る時は村全体の家の分を作る。その日の晩飯はどこでもコロッケだ、ってわけだ。
だがコンブだのミソだのは各々が買ったから、ミソシルかスープかはかかぁの気分次第ってヤツ。

あと、家畜の骨も煮込めばスープの素になるって話もあった。
これは俺らも知らなくて、でけぇ鍋でぐつぐつやって、出てくる泡を取って、って手間はあるが、そんなもんは女房どもが寄り集まって交代で大勢分作ればいいわけで。
その骨のスープがまたうまい。
肉が入ってなくても満足感があるってぇのかな。
コンブとかミソシルとはまた別のうまさで、俺たちが今まで食ってた塩のスープにゃもう戻れん。

あの行商人のお嬢ちゃんがこれからもずっと来てくれりゃあいいが、どうだろうな。
収納のスキル持ちなら行商が出来る、つってたな。
倅がちょうど時間停止付きの収納スキル持ちだ。
まあまあの量しかしまえんが、スキルは使い込めば育つとも聞いたしな。
今からこき使ってみるか?
ま、俺らの村の野菜と、コンブとミソの交換くらいしか出来んだろうが。

ああ、他の季節の野菜で作れる料理も聞きゃよかったな。
ま、来年も来るならその時でいいか。
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