行商人さん、各地でなんやかんやして幸せを売る。

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花嫁さまの困りごと

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行商人として扱うものは、基本的には食べ物に限定している。
けど別に他のものを扱わないわけじゃないし、私物だって持ち合わせている。
規格外の収納量で、時間停止もついている収納スキルをもつわたしにとって、よほど高額でなければ、商売で扱うつもりはないけど絶対欲しいという品を買って、収納に入れておくのは普通のことなのだ。
ガラス作り職人の集う町では切子細工のコップも買ったし、可愛らしい絵が満載のとある童話のシリーズなんかはその時発刊されている分全部買った。時々読んでる。

で、今わたしは、前回も立ち寄った、牧畜がメインで質のいい畜肉とチーズを扱う村にきている。
そこは今てんやわんやといった次第で、何事だろうとひょこっと覗いてみた。
話を聞くに、どうも明日結婚式なのに、間違ったやり方でヴェールを洗ってしまって使い物にならなくなったそう。
総レースの豪奢なヴェールは村で代々受け継がれてきた大事なもの。
綺麗にするにも作法を守って丁寧に扱ってきたとか。

ほうほう。


「もしもーし。お困りでしたら流れの行商人、このアリサにご用命を!」


大声を張り上げてアピールする。
おう、一気にこっち見てきた。
というわけで、だ。
収納から、気に入って何枚か買った総レースのヴェールの一枚を取り出す。


「こういうので良ければお売りしますよ。わたしの趣味の持ち物ですが、わたしは十分鑑賞したのでお安くしましょう」
「い、いいのか。高級品だろう、これ」
「う~ん。じゃあ、結婚式のご馳走を食べさせてください!
 この村のお肉やミルクってすごくいいものだって評判だったし、わたしもおいしいなって思ったので、それが食べられるなら!」


村長らしい男性がすっと進み出てきて、がしっとわたしの手を掴む。


「たらふく食え。今回取引するなら割引もする」


わ~い!



ヴェールは泣きじゃくっていた花嫁予定の女性に渡してあげた。
今回渡した品は、レース編みだけどちょっと適当に洗っても問題ないと太鼓判を押された品だ。だけど経年劣化したらどうなるか分かんないので、その辺はきちんと説明しておいた。商品の情報は大事だよ。
その日は宿屋でおいしいご飯を頂いて、早々に寝て。
翌朝は新鮮なミルクとパン、目玉焼きという素敵な朝ごはんを頂いていざ結婚式の見学だ!

家畜の基本的な世話をして、身支度をしてからなのでお昼前に結婚式が始まる、
教会の神父様がやってきて、式を進めて。
新郎新婦が口付けしたところでリンゴ~ンと鐘が鳴らされる。
いいね~結婚式だ~!
今世では初めて見る。
この村では、ウェディングドレスというよりもおめかし用の服を着る感じのようだ。
指輪ではなく腕輪の交換で、というのも記憶にある前世との違いで面白い。
多分、指輪だとなくしたりしちゃうからなんだろうな~。

花嫁のヴェールだけは共通して被るものみたいだけど、わたしが渡した、顔を隠して残りは背中と腰の中間くらいまでって長さで問題ないのかな?
やっぱり薄く透けるヴェールを被ると雰囲気変わっていいものだよね。
元々美人さんだったけど神秘的な感じが加わって美人度六割増し。
やっぱ結婚式って見てる分には綺麗でいいなあ。
本人たちは緊張とかで大変なんだろうけど。



なんて考えてたらテキパキと式後の宴席の準備が整ってく。
各々の家で準備されていた料理と、テーブルが広場に持ち込まれて、なんと別の場所で明け方からずっと焼かれていたという子牛と子豚の丸焼きまで持ち込まれた。
こ、これは畜産村ならでは!ごちそうの中のごちそう!
食いしん坊なわたしはもう大興奮である。

村の若い女の子たちが、椅子に座った私に次々料理を持ってきてくれる。
本当は立食でいいのに~とか思ってたけど、彼女らが使うヴェールを新品にしたお礼もあるらしい。
ミルクシチューを堪能したと思ったらポークステーキを切り分けたのがやってきて、それを食べたら口直しの野菜のソテー……と、彼女たちにとっての一番のご馳走が持ち寄られてくる。
中には当家自慢のヨーグルト、フルーツソース添えです!と差し出されたものもあって、これがまた本当においしかった。砂糖を入れてないプレーンヨーグルトの元の味もさることながら、ヨーグルトに添えることを前提としたらしいフルーツソースがまたヨーグルトの味を一段階上に持っていって、おや?人生で一番おいしいヨーグルトだぞ?と嬉しくなってしまった。

しかもわたしに提供された丸焼きは、おいしいとこだけ持ち寄られたもの。
豚はここの部分が本当においしい、牛はここの部位が希少だと、新郎新婦の次に取り分けられる優遇っぷり。
ごめんな村長、わたしのほうがいいもの食べちゃって。
だから取引は割引しなくていいよ……満足しちゃったアタイ……。


そうして宴席の最後には、前日から仕込んで準備していたというレアチーズケーキ!
この村には氷魔法の使い手がいるそうで、なんと冷蔵庫があるのだそう。
結構お高いシロモノなんだけど、村の共有財産として大型のものを随分昔に買ったとか。
ご慧眼だねえ。
程好く冷えてるチーズケーキが、そしてその爽やかなお味が、たらふく食べて熱っぽくなった体と、肉で脂っぽくなった口に沁みる。

このケーキ、頼んだら今度から作ってもらえないかな。どうかな。
砂糖とか持ち込むからって頼んでみようかな。





----




アリサさんがいなければ、私とあのひととの結婚式は、ヴェールのないしまらないものになっていた。
古びたヴェールだから大事に洗ったつもりだったのに、手順を一つ間違えただけでくしゃくしゃに、しかも縮んでしまって、今後花嫁になる人に申し訳ないゴミみたいになってしまって。
涙が後から後から湧いて出てくる状況の時に、アリサさんが来てくれたのだ。

しかも、元々あったヴェールよりも数段上等で、新品のヴェールを。
結婚式の食事をお分けするだけで譲ってくださるだなんて。

私は父母にお願いして、一番おいしそうな子豚をしめてもらうことにした。
丸焼きは本当は子牛だけにする予定だったけど、うちの家は豚が一番うまく育てられる家なのだ。
なので、これだ!という子豚を、一番丸焼き作りのうまい叔父に頼み込んで、朝も明けきらない内から仕込んでもらった。

だって、私のために、きっと大事に持っていたはずのヴェールを譲ってくださったんだもの。


式では、真新しいヴェールは、洗う前に被ってみたヴェールよりも繊細な織り具合で前がきちんと見えた。
しかも編み込みが凄く美して、日差しがキラキラして素晴らしくて。
こんな上等なヴェール、子豚一匹とは釣り合わない。
それを分かっている結婚を控えた女の子たちが、ひっきりなしにアリサさんに宴席での料理を運んでいて、新郎新婦の席から離れられたら私も同じようにしていたろうなと思う。


アリサさんは結局、定価で商品を買って旅立っていった。
そして、親戚の作ったレアチーズケーキをまた食べたいとも言っていた。
お砂糖を結構使うんですけど、と控えめに言うと、次来る時に持ってきてくれるって。
大丈夫かしら。お砂糖って高いはずよ?
でも、今回の商売で売ってくださったお砂糖、聞いてみたら随分安かったのよね……。

馬一頭に乗って旅をしているみたいだし、収納スキルの持ち主なのは間違いないわ。
それで、あれこれ持っていて買い付けもたくさんしたのだから、きっとものすごく沢山入る収納持ちなのね。
だから安い場所で仕入れてきているのだわ。
……それにしたって、お砂糖が半額以下なのは分からないけど。


不思議な人だったけど、恩人なのは変わらない。
また来てくれた時に喜んでもらえるように、お仕事を頑張らなくっちゃ!
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