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第7章
高校生活で一番楽しい時期 10
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*
髪を切ってもらい、会計を済ませる。
ここの美容院はカット代に学割がきくが、それでも安くはない。それでも切ってもらいたくて僕はこのお店に来ている。
「ありがとうございましたー」
といつものように環奈さんがエレベーター前まで送ってくれる。
七階にエレベーターが到着して、電子音とともに扉が開く。
「それじゃまた二ヶ月後かな? いつもありがとね」
「環奈さん」
「ん? なに?」
「環奈さんはいまそうやって立派な人になってるけど」
「立派なオトナではないなぁ」
環奈さんは舌をだしてとぼけるように言った。いつもなら僕も笑うところだが、ここは引き下がらない。
「どうしたら、その境地に辿り着けたの?」
自分でもなぜ「境地」なんて言葉を使ったのかはわからなかった。
「『境地』って大げさだな……。私の場合、姉が今でも踊ってる姿を見ることが嬉しいし、姉にいろいろ協力できてるから、それが救いなとこもあるかな」
「協力?」
「ん? ライブツアーにメイクスタッフで付き添ったりするからなんだよ。たまに私がいないときあるでしょ? 先月もかな」
たしかにたまに環奈さんは1ヶ月とかつかまらない時期がある。忙しいからなのか奈ぐらいに思っていた。
「ライブツアー……? ひょっとしなくても環奈さんのお姉さんって結構すごい人なの……?」
「アリーナを満員で埋めることできるぐらいのダンスグループのメンバーかな」
「すごいよ、それは!」
ちょっとダンスをやってるぐらいの人かと思ったら想像をはるかに超えるレベルだった。
「ま、すごいのは姉であって私ではないけどね」
「いや、環奈さんも……」
「姉が頑張ってるなら私ができることで支えてあげたいし、姉の支えだけじゃダメだから自分でもこうやって生きてる。姉がいるから私がいる、には違いないかな」
「お姉さんがいるから……か」
いまの僕は誰がいるから、というのはあるだろうか。
自分が安堵感を得ていた存在であるあっちの碧斗も今はいない。いやいないって誰が確かめたんだ。ウェブ上からいなくなっただけじゃないか。
「環奈さん」
「ん?」
「ありがとう。いろんなことを教えてくれて」
「え?」
眉間に皺を寄せて、首を傾げた環奈さんに僕は頭を下げた。
「モヤモヤしているのをすっきりはっきりさせてくる!」
僕の言葉の意味はきっと伝わっていないけれど、環奈さんは微笑んだ。
僕はエレベーターに乗り込む。
「うん。また話を聞かせてね」
エレベーターの扉がゆっくりと閉じていく。
ミルクティー色の髪が見えなくなるまで、その微笑みをずっと見ていた。
髪を切ってもらい、会計を済ませる。
ここの美容院はカット代に学割がきくが、それでも安くはない。それでも切ってもらいたくて僕はこのお店に来ている。
「ありがとうございましたー」
といつものように環奈さんがエレベーター前まで送ってくれる。
七階にエレベーターが到着して、電子音とともに扉が開く。
「それじゃまた二ヶ月後かな? いつもありがとね」
「環奈さん」
「ん? なに?」
「環奈さんはいまそうやって立派な人になってるけど」
「立派なオトナではないなぁ」
環奈さんは舌をだしてとぼけるように言った。いつもなら僕も笑うところだが、ここは引き下がらない。
「どうしたら、その境地に辿り着けたの?」
自分でもなぜ「境地」なんて言葉を使ったのかはわからなかった。
「『境地』って大げさだな……。私の場合、姉が今でも踊ってる姿を見ることが嬉しいし、姉にいろいろ協力できてるから、それが救いなとこもあるかな」
「協力?」
「ん? ライブツアーにメイクスタッフで付き添ったりするからなんだよ。たまに私がいないときあるでしょ? 先月もかな」
たしかにたまに環奈さんは1ヶ月とかつかまらない時期がある。忙しいからなのか奈ぐらいに思っていた。
「ライブツアー……? ひょっとしなくても環奈さんのお姉さんって結構すごい人なの……?」
「アリーナを満員で埋めることできるぐらいのダンスグループのメンバーかな」
「すごいよ、それは!」
ちょっとダンスをやってるぐらいの人かと思ったら想像をはるかに超えるレベルだった。
「ま、すごいのは姉であって私ではないけどね」
「いや、環奈さんも……」
「姉が頑張ってるなら私ができることで支えてあげたいし、姉の支えだけじゃダメだから自分でもこうやって生きてる。姉がいるから私がいる、には違いないかな」
「お姉さんがいるから……か」
いまの僕は誰がいるから、というのはあるだろうか。
自分が安堵感を得ていた存在であるあっちの碧斗も今はいない。いやいないって誰が確かめたんだ。ウェブ上からいなくなっただけじゃないか。
「環奈さん」
「ん?」
「ありがとう。いろんなことを教えてくれて」
「え?」
眉間に皺を寄せて、首を傾げた環奈さんに僕は頭を下げた。
「モヤモヤしているのをすっきりはっきりさせてくる!」
僕の言葉の意味はきっと伝わっていないけれど、環奈さんは微笑んだ。
僕はエレベーターに乗り込む。
「うん。また話を聞かせてね」
エレベーターの扉がゆっくりと閉じていく。
ミルクティー色の髪が見えなくなるまで、その微笑みをずっと見ていた。
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