幽霊じゃありません!足だってありますから‼

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秘密②

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「オルティスの父親は、デヴィッドという。私が市井で暴漢に絡まれていた時、彼が助けてくれたのが縁で知り合ったんだ。彼は茶色い瞳とアッシュブラウンの髪をしていて、処と無く気品があった。性格は傍若無人で、声がデカくて我儘で・・・だが、皆に愛される不思議で魅力的な男だった。その場を支配する術を持って産まれてきたような男だった。」
最近、オルティスはデヴィッド実の父親に良く似てきた、とちょっと苦笑いを浮かべた。

「若い頃はお忍びで何度も市井に遊びに行っていてね。その時彼と友好を深めていったんだ。 彼はいつも女性に凄くモテていたが、彼は自分と居たら女性が幸せにできないと寄せ付けなかった。私が知っている限りでは、彼が夢中になったのはカーラだけだった。」
そっとカーラの手を握った。カーラもお父様の手を握り返した。

「ある日、彼から自分の居場所が家の者にバレた。このままでは身が危険なので国外に逃げると聞かされた。どのような事情なのか尋ねたが教えてはくれなかった。私は咄嗟にイソラ家の紋章入の指輪と、持っていた幾ばくかの金を渡して送り出した。それが23年前のことだ。」
23年前・・・お父様が18歳の頃だからお母様ミーティアと結婚前後くらいだとわかった。

「しばらくは音信不通だったんだが、7年後ふいに彼から手紙が届いた。しばらく旅を続けていたが、隣国に落ち着いたという知らせだった。追っ手から逃れる為、偽名としてマークと名乗っていることと、カーラという恋人ができたことを知った。1年に両手の数で足りる程の文通が数年続いた・・・そんなある日ミーティアが突然病に倒れ・・・儚くなってしまった。私はミーティアを失って半身がもぎ取られたような苦痛を味わった。一生ともに歩むと誓った彼女を失って、光を失った気がした。そして、その気持ちを彼の手紙に切々と書いてしまった。それが間違いだった。」
お父様は、苦悩するように眉間に皺を寄せた。

「彼は突然この屋敷に現れた。落ち込む私の為に、闇夜に紛れて忍び込んで来たと彼は言っていた・・・10年以上会っていなかったが、彼は全く変わらず傍若無人で・・・魅力的な男だった。最近、身の回りに不審な動きがあるのでカーラと共に北の国ガルセアに行く、恐らくもう二度と会えない。と私に告げた。私は、何か力になれないのか?何に追われているんだ?と彼に強く訴えた。すると・・・ああっ。見てもらった方が分かりやすいかもしれない。少し待ってくれ。」
お父様はおもむろに立ち上がると、ささっとサロンから庭へ出ていかれた。
(えっえっえっ?話の途中でどこに行かれるの?お父様?)
慌てる私に比べてカーラは落ち着いていた。お父様の行動の意味が全て分かっているようだった。
しばらくするとお父様は庭から戻って来た。その手には数十種類の花と薬草が握られていた。
手馴れた手つきで、二つのグループに分けていく。
「アーリスは薬草調合を勉強していたから、見た方がわかると思ったんだが、これはそれぞれ何に使うか分かるかい?」
テーブルの上にある2組の薬草たちを見つめて考えた。

「こちらは・・・染めに使うものでしょうか?染色によく使われる花達に見えます。・・・もうひとつは・・・見たことない組み合わせです。こちらも染めに使えそうですが、もうひとつの方より色味が弱い。・・・お父様、これはいったい何なんですの?」
「こちらは、髪用の染め粉、こちらはだ。」
髪用と指したのは染めようと最初にアーリスが話した方、瞳用の染め粉と指したのは色味が弱いとアーリスが話した方だった。

「瞳用・・・ですか?そんな薬草が?」
「やはり、アーリスも聞いたことが無かったか。これはデヴィッドが長年飲み続けた瞳用の薬草だ。今はオルティスも飲んでいる。」
「えっ?オルティスもですか!」
「そうだ。オルティスは髪色はカーラに似たが、瞳はデヴィッドに似たのだ。乳飲み子の頃から飲んでいる。あの時彼は・・・長い間、髪も瞳の色も染め続けているから・・・時々本当の自分の色を忘れてしまう。この呪わしいブロンドの髪、紫の瞳でなければ、もっと自由に生きられたのに。と私に打ち明けてくれた。」
紫の瞳!それはトバルズ国の王族にのみ受け継がれる希少な瞳だった。
えっ?じゃあオルティスは・・・

「彼はそれから口を噤んで話してはくれなかった。私もことがことだけにそれ以上の追及は止めた。彼はイソラ家の紋章入の指輪を返すと差し出してきたが、何かあった時に役に立つと押し戻した。別れる時、二度と会えないかもしれないとは思ったが、まさか今生の別れになるとは思ってもいなかった。」
そして、お父様はポケットからイソラ家の紋章が入った指輪を取り出しテーブルに置いた。

「オルティスから借りてきた。デヴィッドに渡していた形見の指輪だ・・・この指輪を持っていたおかげで、私にデヴィッドが馬車から転落死したことの知らせが届いたんだ。私は彼に手紙を書いたことをひどく後悔した。そして"最近、身の回りに不審な動きがある"と彼が言っていたことを思い出した・・・カーラの身に危険が及ぶかもしれない。私はいても立っても居られなくなり、カーラの元へ急いだ。そして、カーラからデヴィッドの本名と彼の生い立ちを初めて教えられた。カーラ話してくれるか?」
ずっと黙ってお父様の話を聞いていたカーラが、頷くと口を開いた。

「マークは、あの・・・私はずっとマークと呼んでいたのでデヴィッドではなく、マークと言います。マークはずっと家の者たちを恐れていました。」
ポツポツとカーラは語り出した。

──マークの母親は双子で次女でした。跡取りの長女は大事に育てられましたが、次女だったマークの母親はあまり構われず、15歳から侍女として王宮に働きに行かされました。ある日、いつもよりお酒を召した王の一夜限りの戯れとしてお手付きになってしまったそうです。まだ15だった母親は耐えられず、王宮から逃げ出したが実家は受け入れてくれ無かった・・・。そのまま行き倒れになりそうな時、商家の旦那様に助けられたそうです。その家で下働きとして働き始めましたが、しばらくすると妊娠が発覚しました。商家の旦那様はとても優しく、身体の負担が少ない別荘の管理番の1人にしてくださり、母親とマークはそこで幸せな7年間を過ごしたそうです。唯一、髪と瞳の色を気にすることの無い時代だったと言っていました。しかし、ある日突然母親と共に拐われるように、長女の家に連れていかれたのです。拐われた先には、長女の入婿として迎えた旦那様がいました。その男が長い間マークを苦しめた"イズマエル・シュナイザー"でした。

そこまで聞いた時、アーリスは頭がクラクラした。"イズマエル・シュナイザー"は乙女ゲームでは〔先王のご落胤〕の名前だったはず・・・そうなると、年齢も血筋的にも全くゲームとは違う・・・

──母親から引き離されたマークに、イズマエルは恐ろしい思想を植え付けて洗脳しようとしたのです。〘第1王子はお前だ。正当な王位継承権はこちらにある。いずれ必ず取り返す〙と恐ろしいことに簒奪を目論む者達にマーク達は捕まってしまったのでした。
彼らは、マークの名前をテルビン・シュナイザーとして名前まで勝手に名付けたのです。マークには母親が付けた本当の名前であるエストレイヤという名前があったのに・・・母親を人質に取られて洗脳される日々が5年続き、彼の精神はあと少しで完全にあやつり人形にされるところまで来ていたそうです。そんな彼を救ってくれたのは、町で偶然再会した商家の旦那様でした。
彼は、特徴的なブロンドの髪、紫の瞳のマークをよく覚えていました。"エストレイヤ"と彼を呼び、周りにいた護衛を振り払い彼を抱き締めてくれたそうです。抱きしめられた時"まるで、悪い魔術が解けるように頭がハッキリした"とマークは言っていました。商家の旦那様はマークを連れて逃げようとしましたが、護衛に阻まれ叶いませんでした。家に戻されたマークは母親を連れ脱出しようと決め彼女を探した結果・・・地下牢で閉じ込められたまま、既に亡くなっていたことを知ったのです。そのままマークは屋敷を飛び出して逃げました。彼は唯一の希望である、商家の旦那様に助けを求めたのでした。
でも、そこで彼を待っていたのは悲しい知らせだったのです。
商家の旦那様は・・・あの日、護衛が打ち据えた頭の傷が元で数日後に亡くなりました。旦那様は命の灯火が消えそうになるなか、マークの行く末を案じ義賊マック・ビネラに預けたのです。マックは犯罪者でしたが、決して悪人ではありませんでした。"人を消すなら群衆の中、助かりたいなら強くなれ"そう言って、髪と瞳の色を変える術を教え、彼を鍛えたのもマックでした。マックは幾つ物の隠れ家を持ち町の隅々まで知り尽くしていました。そんな彼のおかげで、彼は町で生き残れたのです。
シュナイザー家の人間は、当初マークを連れ戻そうと探し回っていました。しかし、シュナイザー家の嫡男が産まれた頃からシュナイザー家の目的は変わりました。奴らは目的をマークの暗殺に変更したのです。何故、嫡男の誕生が本来の血筋であるマークを暗殺することになったのかは分からなかったのですが、王家の簒奪にマークは邪魔者となっただということは確かです。そして・・・ある日とうとう居場所を知られ、マークは国外へ逃亡しました。
数年間、色々な国を放浪して行き着いたエストア国で、マークと私は出会ったのです。


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すみません、更新遅くなりました。
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