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婚礼式
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瞬く間に時は流れ、私とクリス様の婚礼式は2週間後に迫っていた。
クリス様のアノーのテーブルを行う間隔は、隔週から2週間後、3週間後と徐々に間隔を空けていくようになり、その度にクリス様の状態は落ち着いていった。
婚礼式に着る白いドレスは 、お義母様が熱意を持って準備を進めてくれたおかげで、異例の速さで作ることが出来た。
用意した 白いドレスは、紫のドレスと形を変える為、敢えてシンプルなデザインで作った。
上品に重なったレースと散りばめられた小さなカラナの宝石が、陽の光に当たると虹色にキラキラと光輝くようになっている。
「お義母様、このカラナの宝石·····よく見たらものすごく沢山着いてますけど·····高価になってしまっていませんか?」
「あら、アーリスの婚礼衣装だもの。お金に糸目はつけないわ。それにカラナには、"希望・幸福・安楽"という意味があるの。アーリスが幸せになれる様にカラナを選んだから、喜んでもらえると嬉しいわ。」
「ありがとうございます。お義母様·····」
心からの感謝を伝えると、お義母様はにこやかに笑った。
お父様がお義母様の隣で、何か言いたくて仕方なさそうにソワソワしているがお口をへの字に曲げている。きっと、何かサプライズがあるのだろう。あまりに分かりやすくて思わずコロコロと笑ってしまった。お義母様もお父様の姿に笑ってしまい、お父様はますます口をへの字に曲げてしまった。それを見ていた執事のセバスチャンは微笑ましそうに目を綻ばせた。
「クリス様、イルギアス様失礼します。」
軽くノックして2人がいる部屋に入って行った。
今日は、アノーのテーブルを行う予定になっていたのだ。前回の施術はちょうどひと月前だった。今回はイルギアス様が『アーリス様が傍にいない時のクリス様の状態を確認したい。』と仰ったので、朝から別行動をしていたのだ。
最初の頃と比べて、クリス様はの状態は良くなったが、時々"揺らぎ"のように心配な目付きになることがまま合った。
「イルギアス様·····クリス様は眠られているのでしょうか?」
いつもなら、私の声を聞くと応えてくれるのだが、クリス様の応答は無かった。
「ええ。今は眠られています。ちょうどいい。アーリス様にお話がございます。」
こちらへ、と誘導され2人でソファーに座った。
「今夜の施術で、カイロスの鏡は必要なくなるでしょう。そうなれば、クリストファー殿下の状態はかなり安定します。アノーのテーブルの施術は必要無くなります。」
「それは、本当ですか!」
「ええ。婚礼式の前に間に合って良かったです。しかし·····」
「·····しかし?」
「人の心は脆いものです。1度、壊れかけたものであれば尚更。心が"揺れ"た時には、アーリス様のお力が必要になります。その時には強い気持ちで"こちら"へ戻してください。これは、アーリス様だけにしかできないことですから。」
「はい!!」
「私はあとひと月は、経過を見るため滞在する予定です。その後はメシアン国へ戻ります。アーリス様、何か聞きたいことや確認したいことがあれば仰っていただければお答えしますが。」
何か確認したいこと·····あっ!
「イルギアス様·····実は·····」
私はずっと気にかかっていた"やり残したこと"をイルギアス様に相談することにしたのだった。
―――――――――――――――
馬車は離宮に向かってカラカラと走り続けた。
今日は、”やり残したこと”を解決する為、イルギアス様とクリス様と私の3人で離宮を訪れることになったのだ。
「アーリー、何故そんなに不安そうなの?」
眉間に皺を寄せて考えていると、クリス様は私の腰を抱き寄せて、眉間にチュッとキスした。イルギアス様が目の前にいるのに!と慌てるが、イルギアス様にはもう見慣れた光景のようで、慌てているのは自分だけだった。
「いえ、少しだけ心配になってしまって·····。」
「大丈夫だよ。心配ない。」
そう言いながら、ギュッと抱き締められた。
クリス様の腕の中で、不安でいっぱいだった気持ちが少しだけ収まった気がした·····
「クリストファー殿下、アーリス様、イルギアス様お待ちしておりました。」
「久しいな、イーリス」
「クリストファー殿下、お元気そうで何よりでございます。」
クリス様を見て、イーリスは安堵した様子だった。
「イーリス。急なお願いだったけれど、大丈夫だったかしら。」
「はい。もうご用意は済んでおります。どうぞ、こちらへお越しください。」
少しドキドキしながら、イーリスの後に続いた。
イーリスに案内された部屋には、既にあれが積まれていた。
分かってはいたが、思わずクリス様を見つめてしまう。
「大丈夫だよ。·····でも、手を握っていてくれるかい?」
差し出されたクリス様の手を握った。クリス様の手は緊張からか、少し汗ばんでいた。
「では、始めましょうか。ファイア。」
暖炉に向かってイルギアス様が魔法を唱えると、ボゥと暖炉に火が着いた。オレンジ色の炎がユラユラと揺れている。
クリス様が空いている手で、アーリスの絵を持って暖炉にくべていく。
パチパチと音を立てて絵は燃え上がった。
そう、ずっと離宮に保管していた絵が気になっていた。イルギアス様に相談すると、本人の手で焼いた方が良いいう話となり、離宮を訪れたのだった。
決めたこととはいえ、絵を見た時のクリス様の反応が怖くて、道中とても不安だった。
しかし、クリス様は絵を見て考え込む時が僅かに見られただけで、あとは躊躇いなく絵をくべて行った。最後の絵がパチパチと燃える中、クリス様が呟いた。
「アーリー、私はもう絵は描かない。生涯、絵筆はもう二度持たない。誓うよ。」
クリス様の声は低く重かった。
なんて答えていいのか、咄嗟には思い浮かばなかった。
(私が代わりに描くといっても、棒人間しか描けないし·····あっそうだ。)
「クリス様の誓い確かにお受けいたしました。私達のこれからの絵は、これから産まれてくる子供に描いてもらいましょう。」
「子供に·····。」
「ええ。残念ながら、私には絵心がないので·····。クリス様の子供なら、きっと素晴らしい絵を描いてくれると思います。」
「·····アーリーと私の子供·····それはとても素敵だね。」
クリス様はそういうと、キラキラのエフェクトの笑顔で笑った。
この時、『幽霊の花嫁』と言われた、私を描いたクリス様の絵は全て処分された。
心の中にずっと残っていた。最後のしこりが無くなり、軽くなった気がした。
イルギアス様は、そんな私達の様子を静かに見守っていてくれていた。
―――――――――――――――――
婚礼式の日を迎え、朝からイソラ公爵家は忙しい空気に包まれていた。
鏡の前で念入りに化粧されていると、お父様が大きな白い箱を持って現れた。
大切そうにテーブルに置くと、化粧が終わるのが待ちきれないようにソワソワ、キョロキョロしている。鏡に映るその姿に笑ってしまいそうで、耐えきれず声をかけた。
「お父様、どうなさったの?」
「アーリスに渡したい物があってな。化粧が、終わったら話があるんだ。」
「お父様のお支度は終わったの?」
「支度はもう終わったよ。男は服を着るだけだからな。カーラはまだ支度中だ。終わったらすぐここに来るはずだ。」
そう言ってお父様は微笑んだ。
「そうしてると、ミーティアによく似ている。ミーティアは本当に美しかった。」
「お父様はお母様のこと·····まだ覚えているのですか?」
「忘れたことなど1日もないさ·····もちろん、カーラを愛しているが、ミーティアを思う気持ちは変わらない。カーラもデヴィッドを忘れたことは無いと思う。どちらも大切な人だ。」
そんなことを話していると、お義母様が、支度を終えて現れた。
「アーリス、とても綺麗よ!支度は終わったの?」
「いいえ、化粧がまだ残っているわ。お父様、ちょっと待っていてね。」
「分かった。」
その後お父様とカーラは、白い箱の前で話し合っていた。少し気になったが、化粧に集中する。
「アーリス様、目を開けてご確認下さい。」
メイド達がが数人がかりで、必死に化粧を施してくれたお陰で、普段より3割増しで美人になれた気がする。早速、お父様達の傍に急いだ。
「お父様、お義母様、お待たせいたしました。何か話し合っていたようですが、何かありましたか?」
その言葉にお義母様は、はぁとため息をついた。
「実は、オルティスにアーリス姉様に挨拶していきなさい。と言ったのだけど『お姉様はイソラ公爵家から出る訳では無いから、明日でも構わないでしょ!僕はルーを迎えに行くのに忙しいから。邪魔しないで!』と言われてしまって·····我が息子ながら情けない·····あんな調子でバウンサ侯爵家でやって行けるのかしら。」
(いや、きっとルーの為なら誰よりも上手くやって行くと思う·····拗らせると、誰よりもヤンデレになりそうなタイプだけど)
声には出さず心の中で呟いた。
「アーリス、挨拶も出来ずにごめんなさいね。」
「いいえ、私は気にしていません。」
「すまないな。あとで私からオルティスには言い聞かせるから。」
2人してフゥとため息をつくと、気を取り直したように、白い箱に手を掛けた。
「アーリスに渡したい物があるんだ。」
そう言って、箱を開けると中身を大切そうに持ち上げた。
お父様の手にあったのは、銀色に輝くティアラだった。トップには大粒のカラナの宝石が輝いていた。お義母様が白いドレスの宝石にカラナをあしらった理由がやっと分かった。
「これはミーティアが婚礼式に着けていたティアラだよ。彼女の形見の品だ。実は少し傷んでいてね。今まで修復していたんだ。今日、アーリスが身につけてくれれば、ミーティアも絶対喜ぶと思う。身につけてくれるか?」
お父様の手にあるティアラに黙って手を伸ばす。伸ばした手がフルフルと震えた。
美しく光り輝くティアラを、そっと髪にのせる。
『アーリス!おめでとう!』
亡くなったお母様の声が聞こえた気がした·····。
「アーリス、まだ泣いてはダメよ。」
「お嬢様、お化粧がくずれます。」
慌てた皆の声が聞こえた。でも、涙は止まらなかった。この後、大急ぎで化粧を直し支度を整え、王宮の大聖堂へ向かった。
クリス様は、大聖堂で会う前に花嫁姿を見るのは不吉という風習がある為、前日から王宮に戻っていた。離宮から戻って来てからクリス様の状態は更に安定し、私の姿が見えなくても探すことは無くなった。もう心配はいらないと思ってはいるのだが、念の為、イルギアス様が付き添いをお願いした為、クリス様もイルギアス様も今日はイソラ公爵家に姿はなかった。
大聖堂に到着し、一足先に礼拝場に入るお義母様とわかれ、お父様と少しだけ2人きりになった。髪につけたティアラを、お父様がそっと直してくれた。
「アーリス、幸せになるんだよ。」
「はい。お父様。」
その直後、扉が開かれお父様のエスコートの元、ゆっくりと祭壇に向かって歩いた。
沢山の人々が2人の婚礼式の為集まってくれていた。陛下やアレン様とアリアドネ様の他、沢山の貴族達が出席していたのが見えた。
その姿は視界に入っていたのだが、何だか夢を見ているような不思議な感覚になっていた。
胸に満ちてきたのは圧倒的な多幸感と、高鳴る鼓動を感じながら、クリス様に近づいていく·····
クリス様は、お父様から私の手を受け取ると、祭壇前に導いてくれ、大司教による婚礼の儀式が厳かに始まった。
──この日は、アーリスの人生最高の日と言える幸福で満ち足りた1日となった。
クリス様のアノーのテーブルを行う間隔は、隔週から2週間後、3週間後と徐々に間隔を空けていくようになり、その度にクリス様の状態は落ち着いていった。
婚礼式に着る白いドレスは 、お義母様が熱意を持って準備を進めてくれたおかげで、異例の速さで作ることが出来た。
用意した 白いドレスは、紫のドレスと形を変える為、敢えてシンプルなデザインで作った。
上品に重なったレースと散りばめられた小さなカラナの宝石が、陽の光に当たると虹色にキラキラと光輝くようになっている。
「お義母様、このカラナの宝石·····よく見たらものすごく沢山着いてますけど·····高価になってしまっていませんか?」
「あら、アーリスの婚礼衣装だもの。お金に糸目はつけないわ。それにカラナには、"希望・幸福・安楽"という意味があるの。アーリスが幸せになれる様にカラナを選んだから、喜んでもらえると嬉しいわ。」
「ありがとうございます。お義母様·····」
心からの感謝を伝えると、お義母様はにこやかに笑った。
お父様がお義母様の隣で、何か言いたくて仕方なさそうにソワソワしているがお口をへの字に曲げている。きっと、何かサプライズがあるのだろう。あまりに分かりやすくて思わずコロコロと笑ってしまった。お義母様もお父様の姿に笑ってしまい、お父様はますます口をへの字に曲げてしまった。それを見ていた執事のセバスチャンは微笑ましそうに目を綻ばせた。
「クリス様、イルギアス様失礼します。」
軽くノックして2人がいる部屋に入って行った。
今日は、アノーのテーブルを行う予定になっていたのだ。前回の施術はちょうどひと月前だった。今回はイルギアス様が『アーリス様が傍にいない時のクリス様の状態を確認したい。』と仰ったので、朝から別行動をしていたのだ。
最初の頃と比べて、クリス様はの状態は良くなったが、時々"揺らぎ"のように心配な目付きになることがまま合った。
「イルギアス様·····クリス様は眠られているのでしょうか?」
いつもなら、私の声を聞くと応えてくれるのだが、クリス様の応答は無かった。
「ええ。今は眠られています。ちょうどいい。アーリス様にお話がございます。」
こちらへ、と誘導され2人でソファーに座った。
「今夜の施術で、カイロスの鏡は必要なくなるでしょう。そうなれば、クリストファー殿下の状態はかなり安定します。アノーのテーブルの施術は必要無くなります。」
「それは、本当ですか!」
「ええ。婚礼式の前に間に合って良かったです。しかし·····」
「·····しかし?」
「人の心は脆いものです。1度、壊れかけたものであれば尚更。心が"揺れ"た時には、アーリス様のお力が必要になります。その時には強い気持ちで"こちら"へ戻してください。これは、アーリス様だけにしかできないことですから。」
「はい!!」
「私はあとひと月は、経過を見るため滞在する予定です。その後はメシアン国へ戻ります。アーリス様、何か聞きたいことや確認したいことがあれば仰っていただければお答えしますが。」
何か確認したいこと·····あっ!
「イルギアス様·····実は·····」
私はずっと気にかかっていた"やり残したこと"をイルギアス様に相談することにしたのだった。
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馬車は離宮に向かってカラカラと走り続けた。
今日は、”やり残したこと”を解決する為、イルギアス様とクリス様と私の3人で離宮を訪れることになったのだ。
「アーリー、何故そんなに不安そうなの?」
眉間に皺を寄せて考えていると、クリス様は私の腰を抱き寄せて、眉間にチュッとキスした。イルギアス様が目の前にいるのに!と慌てるが、イルギアス様にはもう見慣れた光景のようで、慌てているのは自分だけだった。
「いえ、少しだけ心配になってしまって·····。」
「大丈夫だよ。心配ない。」
そう言いながら、ギュッと抱き締められた。
クリス様の腕の中で、不安でいっぱいだった気持ちが少しだけ収まった気がした·····
「クリストファー殿下、アーリス様、イルギアス様お待ちしておりました。」
「久しいな、イーリス」
「クリストファー殿下、お元気そうで何よりでございます。」
クリス様を見て、イーリスは安堵した様子だった。
「イーリス。急なお願いだったけれど、大丈夫だったかしら。」
「はい。もうご用意は済んでおります。どうぞ、こちらへお越しください。」
少しドキドキしながら、イーリスの後に続いた。
イーリスに案内された部屋には、既にあれが積まれていた。
分かってはいたが、思わずクリス様を見つめてしまう。
「大丈夫だよ。·····でも、手を握っていてくれるかい?」
差し出されたクリス様の手を握った。クリス様の手は緊張からか、少し汗ばんでいた。
「では、始めましょうか。ファイア。」
暖炉に向かってイルギアス様が魔法を唱えると、ボゥと暖炉に火が着いた。オレンジ色の炎がユラユラと揺れている。
クリス様が空いている手で、アーリスの絵を持って暖炉にくべていく。
パチパチと音を立てて絵は燃え上がった。
そう、ずっと離宮に保管していた絵が気になっていた。イルギアス様に相談すると、本人の手で焼いた方が良いいう話となり、離宮を訪れたのだった。
決めたこととはいえ、絵を見た時のクリス様の反応が怖くて、道中とても不安だった。
しかし、クリス様は絵を見て考え込む時が僅かに見られただけで、あとは躊躇いなく絵をくべて行った。最後の絵がパチパチと燃える中、クリス様が呟いた。
「アーリー、私はもう絵は描かない。生涯、絵筆はもう二度持たない。誓うよ。」
クリス様の声は低く重かった。
なんて答えていいのか、咄嗟には思い浮かばなかった。
(私が代わりに描くといっても、棒人間しか描けないし·····あっそうだ。)
「クリス様の誓い確かにお受けいたしました。私達のこれからの絵は、これから産まれてくる子供に描いてもらいましょう。」
「子供に·····。」
「ええ。残念ながら、私には絵心がないので·····。クリス様の子供なら、きっと素晴らしい絵を描いてくれると思います。」
「·····アーリーと私の子供·····それはとても素敵だね。」
クリス様はそういうと、キラキラのエフェクトの笑顔で笑った。
この時、『幽霊の花嫁』と言われた、私を描いたクリス様の絵は全て処分された。
心の中にずっと残っていた。最後のしこりが無くなり、軽くなった気がした。
イルギアス様は、そんな私達の様子を静かに見守っていてくれていた。
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婚礼式の日を迎え、朝からイソラ公爵家は忙しい空気に包まれていた。
鏡の前で念入りに化粧されていると、お父様が大きな白い箱を持って現れた。
大切そうにテーブルに置くと、化粧が終わるのが待ちきれないようにソワソワ、キョロキョロしている。鏡に映るその姿に笑ってしまいそうで、耐えきれず声をかけた。
「お父様、どうなさったの?」
「アーリスに渡したい物があってな。化粧が、終わったら話があるんだ。」
「お父様のお支度は終わったの?」
「支度はもう終わったよ。男は服を着るだけだからな。カーラはまだ支度中だ。終わったらすぐここに来るはずだ。」
そう言ってお父様は微笑んだ。
「そうしてると、ミーティアによく似ている。ミーティアは本当に美しかった。」
「お父様はお母様のこと·····まだ覚えているのですか?」
「忘れたことなど1日もないさ·····もちろん、カーラを愛しているが、ミーティアを思う気持ちは変わらない。カーラもデヴィッドを忘れたことは無いと思う。どちらも大切な人だ。」
そんなことを話していると、お義母様が、支度を終えて現れた。
「アーリス、とても綺麗よ!支度は終わったの?」
「いいえ、化粧がまだ残っているわ。お父様、ちょっと待っていてね。」
「分かった。」
その後お父様とカーラは、白い箱の前で話し合っていた。少し気になったが、化粧に集中する。
「アーリス様、目を開けてご確認下さい。」
メイド達がが数人がかりで、必死に化粧を施してくれたお陰で、普段より3割増しで美人になれた気がする。早速、お父様達の傍に急いだ。
「お父様、お義母様、お待たせいたしました。何か話し合っていたようですが、何かありましたか?」
その言葉にお義母様は、はぁとため息をついた。
「実は、オルティスにアーリス姉様に挨拶していきなさい。と言ったのだけど『お姉様はイソラ公爵家から出る訳では無いから、明日でも構わないでしょ!僕はルーを迎えに行くのに忙しいから。邪魔しないで!』と言われてしまって·····我が息子ながら情けない·····あんな調子でバウンサ侯爵家でやって行けるのかしら。」
(いや、きっとルーの為なら誰よりも上手くやって行くと思う·····拗らせると、誰よりもヤンデレになりそうなタイプだけど)
声には出さず心の中で呟いた。
「アーリス、挨拶も出来ずにごめんなさいね。」
「いいえ、私は気にしていません。」
「すまないな。あとで私からオルティスには言い聞かせるから。」
2人してフゥとため息をつくと、気を取り直したように、白い箱に手を掛けた。
「アーリスに渡したい物があるんだ。」
そう言って、箱を開けると中身を大切そうに持ち上げた。
お父様の手にあったのは、銀色に輝くティアラだった。トップには大粒のカラナの宝石が輝いていた。お義母様が白いドレスの宝石にカラナをあしらった理由がやっと分かった。
「これはミーティアが婚礼式に着けていたティアラだよ。彼女の形見の品だ。実は少し傷んでいてね。今まで修復していたんだ。今日、アーリスが身につけてくれれば、ミーティアも絶対喜ぶと思う。身につけてくれるか?」
お父様の手にあるティアラに黙って手を伸ばす。伸ばした手がフルフルと震えた。
美しく光り輝くティアラを、そっと髪にのせる。
『アーリス!おめでとう!』
亡くなったお母様の声が聞こえた気がした·····。
「アーリス、まだ泣いてはダメよ。」
「お嬢様、お化粧がくずれます。」
慌てた皆の声が聞こえた。でも、涙は止まらなかった。この後、大急ぎで化粧を直し支度を整え、王宮の大聖堂へ向かった。
クリス様は、大聖堂で会う前に花嫁姿を見るのは不吉という風習がある為、前日から王宮に戻っていた。離宮から戻って来てからクリス様の状態は更に安定し、私の姿が見えなくても探すことは無くなった。もう心配はいらないと思ってはいるのだが、念の為、イルギアス様が付き添いをお願いした為、クリス様もイルギアス様も今日はイソラ公爵家に姿はなかった。
大聖堂に到着し、一足先に礼拝場に入るお義母様とわかれ、お父様と少しだけ2人きりになった。髪につけたティアラを、お父様がそっと直してくれた。
「アーリス、幸せになるんだよ。」
「はい。お父様。」
その直後、扉が開かれお父様のエスコートの元、ゆっくりと祭壇に向かって歩いた。
沢山の人々が2人の婚礼式の為集まってくれていた。陛下やアレン様とアリアドネ様の他、沢山の貴族達が出席していたのが見えた。
その姿は視界に入っていたのだが、何だか夢を見ているような不思議な感覚になっていた。
胸に満ちてきたのは圧倒的な多幸感と、高鳴る鼓動を感じながら、クリス様に近づいていく·····
クリス様は、お父様から私の手を受け取ると、祭壇前に導いてくれ、大司教による婚礼の儀式が厳かに始まった。
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