幽霊じゃありません!足だってありますから‼

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祝福

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──ドーン、パチパチパチ
あちこちから、花火の音が聞こえる。
王都はアレン様の立太子式の喜びに沸いていた。

王宮では、アレン様の立太子式が催され、アリアドネ様との婚約が発表された。
 同時に、半年後に私とクリス様の婚礼式を挙げる共に、クリス様がイソラ公爵家に臣籍降下されることが発表された。
クリス様が出席したことで、兄弟間に確執なく王太子が交代したことを内外に知らしめることが出来た。
 
立太子式では、慶事を祝福する人々の好意的な視線を感じた。もう、忌まわしい者を見るような目線は感じなかった。
(きっと、ゲラン様が流布してくださった真実のおかげだわ)
ゲラン様のいる方向に目をやると、優しい眼差しと目が合った。感謝を込めて軽く会釈すると、同じ様に返してくれる。心なしかゲラン様が嬉しそうに見えて、彼の希望に少し応えられたのかもしれないと思い、私も嬉しかった。

立太子式を終えると、陛下とアレン様とアリアドネ様、クリス様と私は王宮のバルコニーから民衆に姿を見せるため、グロワール広間に移動した。

グロワール広間のバルコニーから王族が姿をみせるのは、トバルズ国の歴史でもさほど多くはない。国を揺るがしたから、トバルズ国に漂っていた不安定な雰囲気を払拭させる為に特別にバルコニーからの謁見を行うことになったのだ。
グロワールの広間の前にある中庭は、1000人を超える人々が、既に集まっていた。
ザワザワと人々の話し声が、閉ざされたカーテン越しに聞こえてくる。

「アーリー、何を見ているの?」
カーテンの隙間から、中庭を覗き見ていた私を抱き寄せてクリス様が微笑んだ。
「いっいえ、民がとても喜んでいると思って眺めておりました。」
人目がある中、ギュッと抱き締められワタワタと慌ててしまう。そんな私達をアレン様とアリアドネ様は手を握りあいながら温かい目で見守っていた。

しばらくすると、高らかにラッパが響き渡り中庭に集まった民衆はドッと湧き上がった。

「アレン王太子バンザ―イ!」
「トバルズ国バンザ―イ!」

トバルズ国とアレン様を讃える声が高揚した雰囲気をさらに盛り上げていた。
 アーリス以外は、産まれながらの王族なので全員堂々と振舞っていた。
(うわ~緊張して足がガクガクする!!)
優雅に手を振りながら、心の中で戦々恐々としていた。

陛下の挨拶が終わり、アレン様の挨拶が始まった。粛々と挨拶が進み、最後にアリアドネ様の婚約が発表された。2人で手を取り合い、民衆に見えるように繋いだ手を天に向かって掲げた。

その時──

民衆へ声を伝える為に設置されているテセウスの角笛が不意に振動した。

えっ?と思う間もなかった。

──テセウスの角笛が目も開けられないくらい、光り輝いたと思うと、天に向かって飛翔した。
そしてブオーン鳴り、高らかにそして長い時間響き渡った。

その途端、太陽を囲むように丸い3重の虹が現れた。虹からは、キラキラと光の粒が舞い、私達と、集まった民衆達に光の粒が降り注いだ。そして、肩に落ちると次の瞬間には消えていった。

「吉兆だ!精霊の祝福だ!」
「アレン様の為に精霊が祝福に訪れたぞ!トバルズ国万歳!アレン王太子殿下万歳!」

(精霊!?)
慌てて精霊を探すが、見つからない。民衆の目線が空を見ていることに気づき、空を見ると虹の近くで光り輝く精霊達が幾つも舞っていた。通常、見えるはずがない精霊が姿を表したのだ。

アレン様は、呆然と太陽と虹、精霊達を見つめ、その手は僅かに震えていた。
 その時、その肩を支えるようにアリアドネ様の手が触れた。
 アレン様はビクッとして、アリアドネ様を振り返った。アレン様の顔は、この出来事をどう受け止めたらいいか分からぬように強ばっていた。そんなアレン様の耳元で、アリアドネ様が何かを囁いた。
 
アレン様は破顔し、アリアドネ様の手を握り直した。そしてそのまま民衆に語り出した。
テセウスの角笛を使っていないのにも関わらず、中庭を超えて王都中にその声は響き渡った。

「トバルズの民よ!この善き日に精霊が祝福に現れた!わたしは必ず、この国を繁栄に導く!」

そしてアリアドネ様と繋いだ手を、天に向かってもう一度掲げた。

「トバルズ国に栄光あれ!」

その場に一瞬、静寂が訪れた。
次の瞬間、声とも怒声ともつかぬ興奮に満ちた人々の声が響いた。

「トバルズ国に栄光あれ!!!」
「トバルズ国万歳!アレン王太子殿下万歳!」

その祝福の言葉は、さざ波の様に広がり続けた。

―――――――――――――――――――
この後、トバルズ国には2つの物語が語られることとなった。

1つは"悲劇の王子"アーサー・グランツ
1つは"祝福の王"アレン・トバルズ
アレン・トバルズの傍らには、常に王妃アリアドネ・トバルズの姿があったという。
―――――――――――――――――――

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