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そもそも
しおりを挟む婚約とはすなわち、家同士の契約だ。
互いの家に強い利益を生むために結ばれる、愛なき結婚のための契約。
故に、双方の利益に矛盾を生じさせぬために、片方の家が全ての不利益を被らないために、簡単に反故にできないようにするために、書面に残し契約する。
契約は絶対であり、不変だ。
商売人の家系であるリーラー家は、契約を何よりも大事にする。
契約を守ることそれすなわち信頼と信用を守ることという考えを持ち、反故にすることは命を賭してもありえない。
もしも彼と本当に婚約をしていたのならば、リリーシアは彼のことを殺してしまうほどに怒っていただろう。
でも、リリーシアは今、怒っていない。
だって、彼とリリーシアは婚約などしていないのだから。
「クロイツ侯爵令息。貴方さまは勘違いなさっていらっしゃいますわ。わたくしと貴方さまは、婚約などしていませんもの」
鼻で笑いそうになるのを必死に我慢しながら、リリーシアは微笑む。
ベリーラがアングリと口を開けているのが見えるが、知ったことではない。
「そんなはずない!!お前は俺の家に挨拶に来たではないか!!」
「えぇ。ですが、その場で破談となりましたわ。我が家に一切の利益がなかった上に、高圧的で、到底受け入れられませんでしたから」
「貴様!!」
怒鳴ることしかできないのかと問いただしたくなるような会話に苛立ちを覚え始めたリリーシアは、凍てつく視線をテオドールに向ける。
「では何故俺の最愛であるベリーラを虐めたッ!!」
何故最愛のベリーラの表情の変化に、テオドールは気が付かないのだろうか。
いつ何時も大好きな人にばかり視線がいってしまい、相手の好きなことや思考にばかり思いを馳せてしまうリリーシアには、全くもって理解できない。
「そもそもが間違っているのですわ」
リリーシアがバサっと扇子を広げ、上品に口元に当てた瞬間、カツンという軍靴の音が大きく響いた。
「———お待たせ、リリー」
コントラバスのように優美で、優雅で、惹きつけて止まない麗しい声に、リリーシアの胸はとくんと高鳴る。
「………るかさま」
甘えるような声を上げた瞬間、リリーシアは愛おしい人に背後から力強く抱きしめられた。
「ひとりにしてごめんね?父上とのお話が長引いちゃって………」
ちゅっという甘やかな音と共に額へとくちびるが落とされる。
「いいえ、ルカさま。わたくし、貴方さまが好きな強い女の子ですから、ひとりでも平気ですわ」
本当は心細かったなんて、死んでも言わない。
ひとりじゃなくなって、集まりすぎた視線の中でも十分に息が吸えるようになったリリーシアは、テオドールに向かって満面の笑みを浮かべる。
「そもそも、わたくしには、最愛の婚約者がおります。貴方さまは、わたくしにとってその他大勢のひとりであり、気にするに値しない人間。そこにいるリスさんを虐める理由なんてないのですわ」
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