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第07章 魔王
01 いざエルフ
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永い永い、本当に永かった獣人族たちの戦いもついに終わりを告げた。それを可能としたのが俺だった。そのせいか、俺は獣人たちから英雄としてあがめられている。
「スニル、本当にありがとう」
「スニル様~」
「本当に、本当にありがとうございました」
「この御恩一生忘れません」
長年の仇敵だった人族である俺に対して、ここまで下手に出れるほどの感謝の気持ちが痛いほど伝わってくるだから、この感謝を拒否することができない。俺はただやりたいことをやっただけなんだけどな。
「……」
感謝はいらないと言いたいが、言えずただ黙って彼らを見ているだけだ。
「ふふっ、スニルも困ってるわね」
「まっ、それほどのことをしたからな」
「ほんと誇らしいわ」
「全くだ。俺たちのことは思えないな」
ダンクスたちが向こうでそう話しているのが聞こえるが、いや助けろよ。
薄情な奴らだと思いつつも、何だろうなどこか心地よさを感じる。前世では考えられない心持だ。
「ほれほれ、お前たちスニル様が困っておられるではないか。お礼はそれぐらいにしておきなさい」
西獣人族族長のマイメードが俺に群がる獣人族をいさめたのだった。このマイメードはクマの獣人でずんぐりした体躯に完全な熊の顔を持つおっさんだ。一見すると強面に見えるが、表情や雰囲気が柔和なために全く怖いという印象を受けない。まぁ、そもそも俺たちはもっと強面を持つダンクスを見慣れているために雰囲気がなくとも怖くはないんだが。
「なんだ?」
「いや、なんでもない。それよりこれからどうする?」
知らずにダンクスを見ていたようで、ダンクスが近づいてきて用事を聞いてきたので、ついでに今後について聞いてみることにした。
「これからか、一応獣人族は片付いたんだよな」
「だな。ハンターどもも完全解散したみたいだしな」
俺が張った結界によって、ハンターたちはこちらが誘導した場所にしか上陸できなくなったうえに待ち構えていた獣人族の戦士たちや俺たちによって壊滅。また、ちょっとした誤算もあたことを明記しておこうと思うが、それは、俺が張った結界についてなんだけど、この結界が阻むものは俺たち以外の人族だけとしている。そうしないと川を流れるものをせき止めてしまうからだ。しかし考えてみるとハンターたちが乗る船って阻まないから結界を通ってしまうんだよな。その結果どうなったかというと、ちょっとひどいことになっていた。なにせ、船は普通に結界を通るがハンターは通れない。つまり、船の甲板にいたものなら川に投げ出されるだけで済むが、船倉にいる奴はどうなるかというと、壁と結界に挟まれることになる。結界を張った当初はこんなことがあちこちで起きて多くのハンターたちがこちら側に上陸することができなかった。とまぁそんなことがあって、奴らも命あってのものだねということでさっさとハンターをやめていった。その結果ハンターが居なければギルドが成り立たなくなり完全解散となったわけだ。
ああ、そうそう、かなりの余談だが西側でも中央とは別の場所で作られた奴隷の首輪が3つほどあった。これで合計8か所で作られていることが判明した。そのうち俺が改造したのはシムサイトの1か所のみ、ほかも改造するとなるとかなり厄介だな。とはいえ、俺としてはここにいるものやゾーリン村、カリブリンに住む孤児院の子供たちや院長たち、シエリルとワイエノといった俺の知り合いがその被害にあわないのであればそれでいい。まっ、それはシムサイトとハンターたちを追いやったことで達成できたといってもいいだろう。
「だな」
「ねぇ、だったらさ。せっかくだしほかの種族にも会いに行ってみない?」
シュンナがそう提案してきた。
「ほかの種族、それってエルフとかドワーフとか魔族か」
「うん、あたしたち人族は散々見てきたじゃない。だから今度はほかの種族を見てみたいじゃない」
シュンナの言うことも尤もで、俺たちはこれまで人族が持つ文明文化は見てきたが、ほかの種族がどんな文明文化を持つのか気になるし、世界を見て回るならそれを見ておくのもいいだろう。
「そうだな。行ってみるか」
「そうすっか」
「でも大丈夫かしら」
俺、ダンクス、シュンナの3人でそうしようと話していると母さんからそんな不安な声が上がった。
「大丈夫なんじゃないか」
「そう、かしら」
俺には母さんが何を不安に思っているかわからないが父さんは分かったうえで大丈夫だという。
「ねぇ、ミリア、ヒュリック何の話?」
シュンナもわからないようで聞いてくれた。
「ほら、私たち人族でしょ。ほかの種族だって人族にひどい目に合っているわけでしょう」
母さんが言ったことにハッとなった。獣人族たちに受け入れられているこの状況ですっかりマスれていたし、俺たちもそれなりの時間ハンターたちと戦ったことで、俺たちはどこか自分たちが彼らの仲間ではないかとまで思っていた。でも、俺たちはあくまで人族、そうである以上俺たちもまた憎まれる対象となりえる。
「それがあったな」
「ちょっと、忘れてたね」
「おう、それじゃどうするんだ」
ほかの種族の元へ行くということをあきらめたとして、となると今後はどうするか。
「東でしばらくのんびりするか」
もともと、サーナを育てるために東獣人族の集落でのんびりとサーナとともに過ごすのも悪くないかもな。
「ここにいたのね楽しんでいるかしら」
俺たちが話しているとふいに中央の族長アンリエルがやって来た。
「ああ、おかげさんでな」
「お酒もおいしいし、料理も最高よ」
「それはよかった。英雄であるあなたたちにいいものをと皆張り切っていたもの」
それについては俺も視界の端で見ていたから知っている。
「ところで、何やら話をしていたみたいだけれど、何を話していたのかしら」
「ああ、今後についてな」
ダンクスが代表して先ほどの話を簡単に説明した。
「なるほど、しかしそれなら問題ないわよ」
アンリエルがあっさりとそんなことを口に出したが、どういうことだ?
「どういうこと?」
シュンナが聞いた。
「私たちはこの森の玄関口、その私たちが友人として認めた相手ですからね。それに隣に住むエルフたちであればすでにあなたたちのことはすでに知っているはずよ」
「? どういうこと?」
アンリエルがそう言うがどういうことだろうか、俺たちは一様に首を傾げた。
「エルフ族が精霊魔法を使えるのは知っているでしょう」
「あ、ああ、噂で聞いたことあるな」
「ええ、確か精霊魔法ってあたしたちが使う魔法とは全く別なんだよね」
精霊魔法は人族では扱うことができないためにシュンナとダンクスのように噂程度でしか聞いたことがないものだ。ちなみに俺は扱うことはできないが当然存在は知っている。”森羅万象”に記述があるからな。
それはともかく、この精霊魔法というのはよくあるものの通り精霊の力を借りる魔法で、その精霊というのは自然界にはどこにでもいる存在。
なるほど、確かに獣人族の勝利と俺たちの行動はすでに精霊に見られている。メティスルを持つ俺には精霊たちが見えているからな。まぁ、普段はちょっとうっとうしいのであまり見ないようにしているけど。
「精霊が見ていたってことか」
「あらっ、スニル君は分かったのね。そうよ。精霊はどこにでもいて、私たちを見守ってくれているの。そしてエルフはその精霊の言葉を聞くことができる」
アンリエルの言う通りで、実際に精霊はあちらこちらにおり、いまも俺の周りをはしゃぐように飛び回っている。
「へぇ、そうなんだ」
「それは、すげぇな」
俺以外の面々が感心している。
「ええ、それに皆さんにはこちらをお渡しいたしますから、もし知られていなくても問題ないわ」
そう言ってアンリエルが懐から金属の板を取り出して俺へと渡してきた。
「……」
なにこれと思いながらなんとなく受け取り、その板を見てみると何やら文字が書かれていた。
何々、”この者たちは我等獣人族の友人である”そう書かれていた。そして、最後にはサインがあり東、中央、西の族長の名が書かれていた。
「これなんだ?」
「それは、私たちが認めた方に渡す友情の証。それを見せればエルフも魔族もあなたたちを受け入れてくれるわ」
アンリエルによるとこの板は魔道具でかつて魔族が作ったものなんだそうだ。尤も作った魔族も受け取った獣人族もこれを使う日が来るとは夢にも思わなかったという。
「そんなものを俺たちにいいのか」
ダンクスがそう尋ねた。
「ええ、もちろんよ。あなたたちは間違いなく私たち獣人族の友人ですからぜひ受け取った頂戴」
アンリエルはそう言って微笑んだ。まっ、これからのことを考えるとありがたいものだし、何より俺たちもまた彼らを仲間と思っているからな。
「うけとりましょ、スニル」
「そうだな。俺たちにとっても彼らは友人だ」
これまで黙っていた母さんと父さんが俺の側にきてそういった。2人は見た目子供だし獣人族たちには俺の両親であることは話していないのでこういった話を行う際は基本黙っている。
「そうだな。わかった。ありがたく受け取っておくよ」
「ありがとう」
それから俺たちも再び宴会に加わって大いに騒ぎ飲んだのだった。もちろん俺は酒は飲んでいないし早めに寝たんだけどな。
さて、それから数日後のことだ。俺たちはついに獣人族の地からさらに森の奥エルフの土地へと向かうことにした。
「世話になったな」
「それはこちらのこと、本当に世話になった」
「またいつでもきて頂戴」
「うむ、歓迎するぞ」
「ええ、必ず来るわ」
「そうだな」
「ええ、お料理もおいしかったわ」
「ばいばい」
俺たちの出発に挨拶にやって来た獣人族たちにそれぞれが挨拶を交わしている。
「サーナァ」
そんな中1人の獣人族が号泣している。
ガルミドである。
なんでこんなことになっているのかというと、このエルフの地へ向かう旅路にサーナが同行することになったからだ。俺たちが行くことを知ったサーナが一緒に行きたいと言い出したからだ。とうぜんながらガルミドたちは反対した。ちなみにサーナは当初俺たちの誰かが蕎麦に居なければ泣いていたが、今ではガルミドたちも家族であるという理解しているために彼らがいれば問題ないということもあり俺たちもサーナを連れて行くという考えはなかった。しかし、サーナがそれを希望したことや、この先それほどの危険もないということを聞いていたこともありガルミドたちが許可をすればいいだろうと思っていた。そうして、まず最初に許可を出したのはミサで、そのあとグルトが折れたことで2人にもガルミドの説得をしたというわけだ。
とまぁ、ガルミドが駄々をこねる中俺たちは獣人族の地から旅立ったのであった。
獣人族の土地を出てから3日が経過した。
「まだ着かないのか?」
「思ってたより遠いよね」
「なんでかしら」
「ああ、それは獣人たちから聞いたけどよ」
俺たちが疑問に思っているとダンクスが説明してくれた。それによると、この距離は獣人族とエルフ族の仲が悪いからというわけではなく戦略的な理由からだそうだ。どういうことかというと、例えば獣人族が敵に襲われて壊滅してしまった場合などにエルフにも戦闘準備期間が必要になる。この距離がその戦闘準備となるという。
「なるほどね。敵に移動させることで時間を稼ぐというわけね」
「らしいぜ」
敵が人族である以上移動は歩き、はたまた馬となる。歩いて3日という距離あれば十分時間を稼ぐことができるな。と思っていると数人のエルフが木の陰から現れた。
「お待ちしていました。あなた方が英雄様方ですね」
1人が前に出て俺たちに向かってそう言った。
「そう言われるとこちらとしても答えようがないんだけど」
いつものようにシュンナが答えた。
「失礼、精霊たちも英雄といっておりましたので、ですがあなた方が我らの友人を助けたことは事実ですから」
「友人? それは獣人族のこと?」
「はい、彼らは長年の友人ですから」
エルフによるとこの島に住み着いて以来の同じ苦しみを持つ友人という考えのようだ。
「なるほどね」
「はい、ではここではなんですので集落へ案内します」
そう言ってエルフたちは後ろを振り向いて歩き出したので俺たちもそれに続くことにしたのだった。
「なんか妙な森だな」
「うん、なんだか迷いそう」
父さんと母さんが少し不安そうにあたりを見渡しているが、確かに先ほどから妙な感じがするな。
「これは精霊に頼んで作ってもらっている結界なのですよ。迷いの結界と言います」
なるほど結界か、言われてみると確かにこの違和感は結界に入った感覚だな。これまで結界というと自分で作ったものばかりだったからなぁ。気が付かなかったよ。
「へぇ、精霊魔法にはそういうのもあるんだな」
「ええ、これは私たちエルフにしか道が分からないのでお迎えに上がったのです」
よく見るとエルフたち前を精霊が飛んでいる。つまりこの結界を抜ける道は精霊にしかわからず、エルフは精霊を見ることができるために案内を頼めるというわけか。
そうこうしていると、ふいに目の前がクリアになり違和感が無くなったことから結界を抜けたようだ。
「ようこそ、北エルフの里へ」
集落へたどり着いたところで多くのエルフから歓迎を受けたのだった。
「スニル、本当にありがとう」
「スニル様~」
「本当に、本当にありがとうございました」
「この御恩一生忘れません」
長年の仇敵だった人族である俺に対して、ここまで下手に出れるほどの感謝の気持ちが痛いほど伝わってくるだから、この感謝を拒否することができない。俺はただやりたいことをやっただけなんだけどな。
「……」
感謝はいらないと言いたいが、言えずただ黙って彼らを見ているだけだ。
「ふふっ、スニルも困ってるわね」
「まっ、それほどのことをしたからな」
「ほんと誇らしいわ」
「全くだ。俺たちのことは思えないな」
ダンクスたちが向こうでそう話しているのが聞こえるが、いや助けろよ。
薄情な奴らだと思いつつも、何だろうなどこか心地よさを感じる。前世では考えられない心持だ。
「ほれほれ、お前たちスニル様が困っておられるではないか。お礼はそれぐらいにしておきなさい」
西獣人族族長のマイメードが俺に群がる獣人族をいさめたのだった。このマイメードはクマの獣人でずんぐりした体躯に完全な熊の顔を持つおっさんだ。一見すると強面に見えるが、表情や雰囲気が柔和なために全く怖いという印象を受けない。まぁ、そもそも俺たちはもっと強面を持つダンクスを見慣れているために雰囲気がなくとも怖くはないんだが。
「なんだ?」
「いや、なんでもない。それよりこれからどうする?」
知らずにダンクスを見ていたようで、ダンクスが近づいてきて用事を聞いてきたので、ついでに今後について聞いてみることにした。
「これからか、一応獣人族は片付いたんだよな」
「だな。ハンターどもも完全解散したみたいだしな」
俺が張った結界によって、ハンターたちはこちらが誘導した場所にしか上陸できなくなったうえに待ち構えていた獣人族の戦士たちや俺たちによって壊滅。また、ちょっとした誤算もあたことを明記しておこうと思うが、それは、俺が張った結界についてなんだけど、この結界が阻むものは俺たち以外の人族だけとしている。そうしないと川を流れるものをせき止めてしまうからだ。しかし考えてみるとハンターたちが乗る船って阻まないから結界を通ってしまうんだよな。その結果どうなったかというと、ちょっとひどいことになっていた。なにせ、船は普通に結界を通るがハンターは通れない。つまり、船の甲板にいたものなら川に投げ出されるだけで済むが、船倉にいる奴はどうなるかというと、壁と結界に挟まれることになる。結界を張った当初はこんなことがあちこちで起きて多くのハンターたちがこちら側に上陸することができなかった。とまぁそんなことがあって、奴らも命あってのものだねということでさっさとハンターをやめていった。その結果ハンターが居なければギルドが成り立たなくなり完全解散となったわけだ。
ああ、そうそう、かなりの余談だが西側でも中央とは別の場所で作られた奴隷の首輪が3つほどあった。これで合計8か所で作られていることが判明した。そのうち俺が改造したのはシムサイトの1か所のみ、ほかも改造するとなるとかなり厄介だな。とはいえ、俺としてはここにいるものやゾーリン村、カリブリンに住む孤児院の子供たちや院長たち、シエリルとワイエノといった俺の知り合いがその被害にあわないのであればそれでいい。まっ、それはシムサイトとハンターたちを追いやったことで達成できたといってもいいだろう。
「だな」
「ねぇ、だったらさ。せっかくだしほかの種族にも会いに行ってみない?」
シュンナがそう提案してきた。
「ほかの種族、それってエルフとかドワーフとか魔族か」
「うん、あたしたち人族は散々見てきたじゃない。だから今度はほかの種族を見てみたいじゃない」
シュンナの言うことも尤もで、俺たちはこれまで人族が持つ文明文化は見てきたが、ほかの種族がどんな文明文化を持つのか気になるし、世界を見て回るならそれを見ておくのもいいだろう。
「そうだな。行ってみるか」
「そうすっか」
「でも大丈夫かしら」
俺、ダンクス、シュンナの3人でそうしようと話していると母さんからそんな不安な声が上がった。
「大丈夫なんじゃないか」
「そう、かしら」
俺には母さんが何を不安に思っているかわからないが父さんは分かったうえで大丈夫だという。
「ねぇ、ミリア、ヒュリック何の話?」
シュンナもわからないようで聞いてくれた。
「ほら、私たち人族でしょ。ほかの種族だって人族にひどい目に合っているわけでしょう」
母さんが言ったことにハッとなった。獣人族たちに受け入れられているこの状況ですっかりマスれていたし、俺たちもそれなりの時間ハンターたちと戦ったことで、俺たちはどこか自分たちが彼らの仲間ではないかとまで思っていた。でも、俺たちはあくまで人族、そうである以上俺たちもまた憎まれる対象となりえる。
「それがあったな」
「ちょっと、忘れてたね」
「おう、それじゃどうするんだ」
ほかの種族の元へ行くということをあきらめたとして、となると今後はどうするか。
「東でしばらくのんびりするか」
もともと、サーナを育てるために東獣人族の集落でのんびりとサーナとともに過ごすのも悪くないかもな。
「ここにいたのね楽しんでいるかしら」
俺たちが話しているとふいに中央の族長アンリエルがやって来た。
「ああ、おかげさんでな」
「お酒もおいしいし、料理も最高よ」
「それはよかった。英雄であるあなたたちにいいものをと皆張り切っていたもの」
それについては俺も視界の端で見ていたから知っている。
「ところで、何やら話をしていたみたいだけれど、何を話していたのかしら」
「ああ、今後についてな」
ダンクスが代表して先ほどの話を簡単に説明した。
「なるほど、しかしそれなら問題ないわよ」
アンリエルがあっさりとそんなことを口に出したが、どういうことだ?
「どういうこと?」
シュンナが聞いた。
「私たちはこの森の玄関口、その私たちが友人として認めた相手ですからね。それに隣に住むエルフたちであればすでにあなたたちのことはすでに知っているはずよ」
「? どういうこと?」
アンリエルがそう言うがどういうことだろうか、俺たちは一様に首を傾げた。
「エルフ族が精霊魔法を使えるのは知っているでしょう」
「あ、ああ、噂で聞いたことあるな」
「ええ、確か精霊魔法ってあたしたちが使う魔法とは全く別なんだよね」
精霊魔法は人族では扱うことができないためにシュンナとダンクスのように噂程度でしか聞いたことがないものだ。ちなみに俺は扱うことはできないが当然存在は知っている。”森羅万象”に記述があるからな。
それはともかく、この精霊魔法というのはよくあるものの通り精霊の力を借りる魔法で、その精霊というのは自然界にはどこにでもいる存在。
なるほど、確かに獣人族の勝利と俺たちの行動はすでに精霊に見られている。メティスルを持つ俺には精霊たちが見えているからな。まぁ、普段はちょっとうっとうしいのであまり見ないようにしているけど。
「精霊が見ていたってことか」
「あらっ、スニル君は分かったのね。そうよ。精霊はどこにでもいて、私たちを見守ってくれているの。そしてエルフはその精霊の言葉を聞くことができる」
アンリエルの言う通りで、実際に精霊はあちらこちらにおり、いまも俺の周りをはしゃぐように飛び回っている。
「へぇ、そうなんだ」
「それは、すげぇな」
俺以外の面々が感心している。
「ええ、それに皆さんにはこちらをお渡しいたしますから、もし知られていなくても問題ないわ」
そう言ってアンリエルが懐から金属の板を取り出して俺へと渡してきた。
「……」
なにこれと思いながらなんとなく受け取り、その板を見てみると何やら文字が書かれていた。
何々、”この者たちは我等獣人族の友人である”そう書かれていた。そして、最後にはサインがあり東、中央、西の族長の名が書かれていた。
「これなんだ?」
「それは、私たちが認めた方に渡す友情の証。それを見せればエルフも魔族もあなたたちを受け入れてくれるわ」
アンリエルによるとこの板は魔道具でかつて魔族が作ったものなんだそうだ。尤も作った魔族も受け取った獣人族もこれを使う日が来るとは夢にも思わなかったという。
「そんなものを俺たちにいいのか」
ダンクスがそう尋ねた。
「ええ、もちろんよ。あなたたちは間違いなく私たち獣人族の友人ですからぜひ受け取った頂戴」
アンリエルはそう言って微笑んだ。まっ、これからのことを考えるとありがたいものだし、何より俺たちもまた彼らを仲間と思っているからな。
「うけとりましょ、スニル」
「そうだな。俺たちにとっても彼らは友人だ」
これまで黙っていた母さんと父さんが俺の側にきてそういった。2人は見た目子供だし獣人族たちには俺の両親であることは話していないのでこういった話を行う際は基本黙っている。
「そうだな。わかった。ありがたく受け取っておくよ」
「ありがとう」
それから俺たちも再び宴会に加わって大いに騒ぎ飲んだのだった。もちろん俺は酒は飲んでいないし早めに寝たんだけどな。
さて、それから数日後のことだ。俺たちはついに獣人族の地からさらに森の奥エルフの土地へと向かうことにした。
「世話になったな」
「それはこちらのこと、本当に世話になった」
「またいつでもきて頂戴」
「うむ、歓迎するぞ」
「ええ、必ず来るわ」
「そうだな」
「ええ、お料理もおいしかったわ」
「ばいばい」
俺たちの出発に挨拶にやって来た獣人族たちにそれぞれが挨拶を交わしている。
「サーナァ」
そんな中1人の獣人族が号泣している。
ガルミドである。
なんでこんなことになっているのかというと、このエルフの地へ向かう旅路にサーナが同行することになったからだ。俺たちが行くことを知ったサーナが一緒に行きたいと言い出したからだ。とうぜんながらガルミドたちは反対した。ちなみにサーナは当初俺たちの誰かが蕎麦に居なければ泣いていたが、今ではガルミドたちも家族であるという理解しているために彼らがいれば問題ないということもあり俺たちもサーナを連れて行くという考えはなかった。しかし、サーナがそれを希望したことや、この先それほどの危険もないということを聞いていたこともありガルミドたちが許可をすればいいだろうと思っていた。そうして、まず最初に許可を出したのはミサで、そのあとグルトが折れたことで2人にもガルミドの説得をしたというわけだ。
とまぁ、ガルミドが駄々をこねる中俺たちは獣人族の地から旅立ったのであった。
獣人族の土地を出てから3日が経過した。
「まだ着かないのか?」
「思ってたより遠いよね」
「なんでかしら」
「ああ、それは獣人たちから聞いたけどよ」
俺たちが疑問に思っているとダンクスが説明してくれた。それによると、この距離は獣人族とエルフ族の仲が悪いからというわけではなく戦略的な理由からだそうだ。どういうことかというと、例えば獣人族が敵に襲われて壊滅してしまった場合などにエルフにも戦闘準備期間が必要になる。この距離がその戦闘準備となるという。
「なるほどね。敵に移動させることで時間を稼ぐというわけね」
「らしいぜ」
敵が人族である以上移動は歩き、はたまた馬となる。歩いて3日という距離あれば十分時間を稼ぐことができるな。と思っていると数人のエルフが木の陰から現れた。
「お待ちしていました。あなた方が英雄様方ですね」
1人が前に出て俺たちに向かってそう言った。
「そう言われるとこちらとしても答えようがないんだけど」
いつものようにシュンナが答えた。
「失礼、精霊たちも英雄といっておりましたので、ですがあなた方が我らの友人を助けたことは事実ですから」
「友人? それは獣人族のこと?」
「はい、彼らは長年の友人ですから」
エルフによるとこの島に住み着いて以来の同じ苦しみを持つ友人という考えのようだ。
「なるほどね」
「はい、ではここではなんですので集落へ案内します」
そう言ってエルフたちは後ろを振り向いて歩き出したので俺たちもそれに続くことにしたのだった。
「なんか妙な森だな」
「うん、なんだか迷いそう」
父さんと母さんが少し不安そうにあたりを見渡しているが、確かに先ほどから妙な感じがするな。
「これは精霊に頼んで作ってもらっている結界なのですよ。迷いの結界と言います」
なるほど結界か、言われてみると確かにこの違和感は結界に入った感覚だな。これまで結界というと自分で作ったものばかりだったからなぁ。気が付かなかったよ。
「へぇ、精霊魔法にはそういうのもあるんだな」
「ええ、これは私たちエルフにしか道が分からないのでお迎えに上がったのです」
よく見るとエルフたち前を精霊が飛んでいる。つまりこの結界を抜ける道は精霊にしかわからず、エルフは精霊を見ることができるために案内を頼めるというわけか。
そうこうしていると、ふいに目の前がクリアになり違和感が無くなったことから結界を抜けたようだ。
「ようこそ、北エルフの里へ」
集落へたどり着いたところで多くのエルフから歓迎を受けたのだった。
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