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第07章 魔王
02 魔族の街へ
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本日は短めとなっております。
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獣人族の地から3日、ついにエルフの土地へとたどり着いたわけだが、このエルフの地には迷いの結界が張られておりエルフの案内でようやく集落に着いた。そこで待っていたのは多くのエルフ、彼らからの大歓迎を受けたのだった。
「ようこそ、北エルフの里へ」
そう言って俺たちの元へ1人の男が近づいてきた。
「北? 中央じゃないんだ」
それに答えたのはいつものようにシュンナだが、シュンナは男が言った北という言葉に引っかかったようだ。確かに、獣人族は中央と呼称していたのに、エルフは北と呼称しているは少々気になるところだな。
「ええ、我々エルフは東、北、西と呼称していますから、申し遅れました私は北エルフの長老インクストゥール・ルイメイト・キルエルティートと申します」
ええと、何だって? エルフの長老の名前を聞いたんだが複雑すぎて全く覚えられる気がしないんだけど……えっと、イ、インクト、いや、違うな……わからんもう一度行ってくれないだろうか。
昔から人の名前を覚えるのは苦手だが、さすがにこのエルフの名前は無理何度聞いても覚えられる気がしない。まぁ、俺がこのエルフの名を呼ぶことはないだろうから別にいいんだけどね。
「ええと、ごめんなさい。もう一度行ってもらえる。複雑で……」
比較的人の名を覚えるのが得意なシュンナにしても難しい名前だったようだ。
「はははっ、我々の名は長く複雑ですからな。構いませんよ。インクストゥール・ルイメイト・キルエルティートと申します。インクスとお呼びください。獣人や魔族の方々にもそう呼んでいただいております」
「そう、それならわかりやすいわね。ああ、あたしはシュンナ、こっちがスニルでこのでかいのがダンクス、こっちはミリアとヒュリック、それでこの子がサーナよ」
「おや、その子は獣人族ですか」
「ええ、ちょっとあってあたしたちで育ててるのよ。本来なら獣人族の村に預けるつもりだったんだけど、本人が行きたがったからね」
そう言いつつサーナを抱いているが、当のサーナはすやすやと眠っていた。
道理で静かだと思った。
「そうでしたか、ふふっかわいらしいですね。私も孫がいますがすでに手のかからない年齢となってしまい残念に思っていたところですよ」
どうやらインクスには孫がいるらしい、長老を名乗っているのだから当然と言えば当然か、エルフというのは長寿で若い時間が長いという。このことをシュンナと母さんに話したらものすごくうらやましがっていた。
「ではどうぞこちらへ、私の家へ案内しましょう。その子もゆっくりと寝かせてあげましょう」
「ありがとう」
それから俺たちはぞろぞろとインクスの後をついていくこととなった。
インクスの家はこの集落内の中心から少し外れた場所にあり、よくあるエルフの家のように木の洞を利用しているわけではなく普通に木造建築だった。とはいえ獣人族のとは微妙に違う造りではあるようだ。でもそんなに違うというわけではない、これはもしかしたら同じ人間もしくは同じ組織が作ったものと思われるな。
「獣人族の家に似てるな」
ダンクスも俺と同じことを思ったようでそう言った。
「ええ、そうですね。この森の家はすべてドワーフ族に建てて頂いているのですよ」
ここにきてドワーフの名が出た。なるほどドワーフというのは家事だけじゃなく建築を始めあらゆる技術を極めんとする種族。そのドワーフがこの森のどこかに住んでいるのならこういうこともあり得るというわけか。
「ドワーフか、確かにドワーフなら嬉々として作るだろうな」
ドワーフというのはとにかく何かを作っていることが生きがいみたいな種族となっている。これは”森羅万象”にも記述されていることであり、実際カリブリンにいたドワーフは奴隷という立場であったにもかかわらず、そんなことも気にせずに日々鍛冶仕事をこなしていた。
「ええ、彼らにかかればどんなものでも作れますからね。さて、どうぞお入りください」
というわけで俺たちはインクスの家へと入っていった。
「お座りください」
「ええ」
「おう、悪いな」
「いえいえ」
「どうぞ、お茶ですわ」
勧められたソファに座るとすぐにエルフの女性がお茶をもってやって来た。考えるにおそらくインクスの奥さんってとこか。
「初めまして、インクスが妻のエリミールニ・ガルバニルス・リルエトータリルと申しますわ。どうぞエリとお呼びください」
……また、長く複雑な名前が飛び出してきた。というかエルフの名前はどういう構成になっているんだろうな。わからないがとりあえずファミリーネームというものはないようだ。なにせ、インクスもエリの名前にも一切共通点がないし。とまぁ、そんなどうでもいいことを思いつつインクスとシュンナたちの話を適当に聞いている。
「……それにしてもそちらのスニル君でしたか、話を聞けば聞くほどに素晴らしいお力をお持ちのようですね」
「ええ、あたしも最初は驚いたわよ。まさか奴隷の首輪をあっさりと外すとは思わなかったもの」
「全くだな。あの結界にも驚いたよな」
いつの間にか話の内容が俺についてのものとなってきている。というか初対面のエルフに俺の情報を漏らしまくってるんですけど……まぁ、別にいいけどな。
「ところで、皆さんはこの後は魔族の街へ向かうのですか?」
ふいにインクスが今後の予定を聞いてきた。
「そうね。でも、せっかくだしもう少しエルフのことも知りたいかな。ねぇ」
「そうね。私も気になるし見てみたいかな。特にどんな食事をしているのかとか」
シュンナがエルフのことを知りたいというと、続いて母さんがエルフの飯について知りたいと言い出した。母さんは普段俺たちの飯を作っているし、料理が好きみたいだからエルフが何を食べているのか気になるようだ。場合によっては教わるつもりなんだろう。獣人族の村々でも教わっていたしね。
それから、さらに話し合った結果俺たちはインクスの家に数日止まらせてもらうこととなった。
その後のエルフの里での生活は、一言でいえばのんびりとした日々であった。特に敵対する者がいるわけでもなく迷いの結界のおかげで魔物や猛獣脳ようなものが村までやってくることもない。本当に久々にのんびりと過ごした。
「ご出立ですか?」
エルフの文明文化は大体見たので、次の魔族の文明文化を見に行くためにこの里を出ることとなった。
「ええ、お世話になったわ」
「いえいえ、大したことはできませんで申し訳ありません」
インクスはそういうが、本当に世話になったのは事実なので俺たちは感謝の意を表したのだった。
「それじゃぁ、またな」
「はい、お待ちしております」
いつかまたということで俺たちはエルフの里を出立したのだった。
エルフの里を出てからさらに6日が経過した。その間いつものように魔物の襲撃を幾度か受けたが、俺たちをどうこうできる魔物などいるはずもなく、全く問題なく進むことができた。
「あれが、魔族の街か」
「みたいね」
「でかいな」
「人族の街と比べても多いわよね」
「聖都よりもでかいし、綺麗だな」
「おっきーねっ」
「ふふっ、そうね」
少し遠目で見えた街はとても大きく洗礼されたまさに美しさすら感じるものであった。というか俺がこんな表現をするなんてと思えるほどの見た目だった。シュンナによると美しさの象徴である聖都よりも美しいということだった。残念ながら俺にはそういった美的感覚はないのでよくわからないが、それでもこの街に美しさを感じるのは事実だ。
「そんじゃ、はいろうぜ」
「ああ」
というわけでさっそく魔族の街へ入ることにした。
「おやっ、お前さんたちは……人族か?」
俺たちが人族であることに気が付いた門番が緊張しながらも持っていた武器を構えた。
「お、おい、ちょっと待て!」
その一方で別の門番がその行動を止めてくれた。
「なんだっ!」
「考えてもみろ、人族が簡単にここに来られるわけないだろう」
門番が言うようにここに人族が来るためには、獣人族の土地を潜り抜けその上エルフの土地までも潜り抜けなければならないわけだが、まず獣人族は人族よりも身体能力高い上に鼻や耳もいいために潜り抜けるのはほぼ不可能。尤も中にはハンターたちのように獣人族の相手に慣れた連中のようなものもいるので、完全に不可能とはならない。しかし、そのあとに続くエルフは別だ。エルフの里を取り囲む迷いの結界だけど、実はこれは東西に長いものが使われておりエルフの住むすべての土地を覆っている。つまり、里と里の間をうまく通ったとしても結局迷いの結界に阻まれて通り抜けることができない。
そう考えるとこの場所に人族がやってくることはどう考えてもあり得ないということになる。
「もしかしたら、お前たちが例の獣人の英雄か?」
「英雄かと言われると困るけれど、実際に獣人族たちと戦ったからね」
エルフの土地でも英雄と言われ困ったものだが、魔族の土地でも言われるとは実に困ったことだ。
「獣人の英雄なら拒否することはできないな。ようこそ魔族の街アベイルへ」
こうして俺たちはついに森の奥地、魔族の土地へとたどり着いたのだった。
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獣人族の地から3日、ついにエルフの土地へとたどり着いたわけだが、このエルフの地には迷いの結界が張られておりエルフの案内でようやく集落に着いた。そこで待っていたのは多くのエルフ、彼らからの大歓迎を受けたのだった。
「ようこそ、北エルフの里へ」
そう言って俺たちの元へ1人の男が近づいてきた。
「北? 中央じゃないんだ」
それに答えたのはいつものようにシュンナだが、シュンナは男が言った北という言葉に引っかかったようだ。確かに、獣人族は中央と呼称していたのに、エルフは北と呼称しているは少々気になるところだな。
「ええ、我々エルフは東、北、西と呼称していますから、申し遅れました私は北エルフの長老インクストゥール・ルイメイト・キルエルティートと申します」
ええと、何だって? エルフの長老の名前を聞いたんだが複雑すぎて全く覚えられる気がしないんだけど……えっと、イ、インクト、いや、違うな……わからんもう一度行ってくれないだろうか。
昔から人の名前を覚えるのは苦手だが、さすがにこのエルフの名前は無理何度聞いても覚えられる気がしない。まぁ、俺がこのエルフの名を呼ぶことはないだろうから別にいいんだけどね。
「ええと、ごめんなさい。もう一度行ってもらえる。複雑で……」
比較的人の名を覚えるのが得意なシュンナにしても難しい名前だったようだ。
「はははっ、我々の名は長く複雑ですからな。構いませんよ。インクストゥール・ルイメイト・キルエルティートと申します。インクスとお呼びください。獣人や魔族の方々にもそう呼んでいただいております」
「そう、それならわかりやすいわね。ああ、あたしはシュンナ、こっちがスニルでこのでかいのがダンクス、こっちはミリアとヒュリック、それでこの子がサーナよ」
「おや、その子は獣人族ですか」
「ええ、ちょっとあってあたしたちで育ててるのよ。本来なら獣人族の村に預けるつもりだったんだけど、本人が行きたがったからね」
そう言いつつサーナを抱いているが、当のサーナはすやすやと眠っていた。
道理で静かだと思った。
「そうでしたか、ふふっかわいらしいですね。私も孫がいますがすでに手のかからない年齢となってしまい残念に思っていたところですよ」
どうやらインクスには孫がいるらしい、長老を名乗っているのだから当然と言えば当然か、エルフというのは長寿で若い時間が長いという。このことをシュンナと母さんに話したらものすごくうらやましがっていた。
「ではどうぞこちらへ、私の家へ案内しましょう。その子もゆっくりと寝かせてあげましょう」
「ありがとう」
それから俺たちはぞろぞろとインクスの後をついていくこととなった。
インクスの家はこの集落内の中心から少し外れた場所にあり、よくあるエルフの家のように木の洞を利用しているわけではなく普通に木造建築だった。とはいえ獣人族のとは微妙に違う造りではあるようだ。でもそんなに違うというわけではない、これはもしかしたら同じ人間もしくは同じ組織が作ったものと思われるな。
「獣人族の家に似てるな」
ダンクスも俺と同じことを思ったようでそう言った。
「ええ、そうですね。この森の家はすべてドワーフ族に建てて頂いているのですよ」
ここにきてドワーフの名が出た。なるほどドワーフというのは家事だけじゃなく建築を始めあらゆる技術を極めんとする種族。そのドワーフがこの森のどこかに住んでいるのならこういうこともあり得るというわけか。
「ドワーフか、確かにドワーフなら嬉々として作るだろうな」
ドワーフというのはとにかく何かを作っていることが生きがいみたいな種族となっている。これは”森羅万象”にも記述されていることであり、実際カリブリンにいたドワーフは奴隷という立場であったにもかかわらず、そんなことも気にせずに日々鍛冶仕事をこなしていた。
「ええ、彼らにかかればどんなものでも作れますからね。さて、どうぞお入りください」
というわけで俺たちはインクスの家へと入っていった。
「お座りください」
「ええ」
「おう、悪いな」
「いえいえ」
「どうぞ、お茶ですわ」
勧められたソファに座るとすぐにエルフの女性がお茶をもってやって来た。考えるにおそらくインクスの奥さんってとこか。
「初めまして、インクスが妻のエリミールニ・ガルバニルス・リルエトータリルと申しますわ。どうぞエリとお呼びください」
……また、長く複雑な名前が飛び出してきた。というかエルフの名前はどういう構成になっているんだろうな。わからないがとりあえずファミリーネームというものはないようだ。なにせ、インクスもエリの名前にも一切共通点がないし。とまぁ、そんなどうでもいいことを思いつつインクスとシュンナたちの話を適当に聞いている。
「……それにしてもそちらのスニル君でしたか、話を聞けば聞くほどに素晴らしいお力をお持ちのようですね」
「ええ、あたしも最初は驚いたわよ。まさか奴隷の首輪をあっさりと外すとは思わなかったもの」
「全くだな。あの結界にも驚いたよな」
いつの間にか話の内容が俺についてのものとなってきている。というか初対面のエルフに俺の情報を漏らしまくってるんですけど……まぁ、別にいいけどな。
「ところで、皆さんはこの後は魔族の街へ向かうのですか?」
ふいにインクスが今後の予定を聞いてきた。
「そうね。でも、せっかくだしもう少しエルフのことも知りたいかな。ねぇ」
「そうね。私も気になるし見てみたいかな。特にどんな食事をしているのかとか」
シュンナがエルフのことを知りたいというと、続いて母さんがエルフの飯について知りたいと言い出した。母さんは普段俺たちの飯を作っているし、料理が好きみたいだからエルフが何を食べているのか気になるようだ。場合によっては教わるつもりなんだろう。獣人族の村々でも教わっていたしね。
それから、さらに話し合った結果俺たちはインクスの家に数日止まらせてもらうこととなった。
その後のエルフの里での生活は、一言でいえばのんびりとした日々であった。特に敵対する者がいるわけでもなく迷いの結界のおかげで魔物や猛獣脳ようなものが村までやってくることもない。本当に久々にのんびりと過ごした。
「ご出立ですか?」
エルフの文明文化は大体見たので、次の魔族の文明文化を見に行くためにこの里を出ることとなった。
「ええ、お世話になったわ」
「いえいえ、大したことはできませんで申し訳ありません」
インクスはそういうが、本当に世話になったのは事実なので俺たちは感謝の意を表したのだった。
「それじゃぁ、またな」
「はい、お待ちしております」
いつかまたということで俺たちはエルフの里を出立したのだった。
エルフの里を出てからさらに6日が経過した。その間いつものように魔物の襲撃を幾度か受けたが、俺たちをどうこうできる魔物などいるはずもなく、全く問題なく進むことができた。
「あれが、魔族の街か」
「みたいね」
「でかいな」
「人族の街と比べても多いわよね」
「聖都よりもでかいし、綺麗だな」
「おっきーねっ」
「ふふっ、そうね」
少し遠目で見えた街はとても大きく洗礼されたまさに美しさすら感じるものであった。というか俺がこんな表現をするなんてと思えるほどの見た目だった。シュンナによると美しさの象徴である聖都よりも美しいということだった。残念ながら俺にはそういった美的感覚はないのでよくわからないが、それでもこの街に美しさを感じるのは事実だ。
「そんじゃ、はいろうぜ」
「ああ」
というわけでさっそく魔族の街へ入ることにした。
「おやっ、お前さんたちは……人族か?」
俺たちが人族であることに気が付いた門番が緊張しながらも持っていた武器を構えた。
「お、おい、ちょっと待て!」
その一方で別の門番がその行動を止めてくれた。
「なんだっ!」
「考えてもみろ、人族が簡単にここに来られるわけないだろう」
門番が言うようにここに人族が来るためには、獣人族の土地を潜り抜けその上エルフの土地までも潜り抜けなければならないわけだが、まず獣人族は人族よりも身体能力高い上に鼻や耳もいいために潜り抜けるのはほぼ不可能。尤も中にはハンターたちのように獣人族の相手に慣れた連中のようなものもいるので、完全に不可能とはならない。しかし、そのあとに続くエルフは別だ。エルフの里を取り囲む迷いの結界だけど、実はこれは東西に長いものが使われておりエルフの住むすべての土地を覆っている。つまり、里と里の間をうまく通ったとしても結局迷いの結界に阻まれて通り抜けることができない。
そう考えるとこの場所に人族がやってくることはどう考えてもあり得ないということになる。
「もしかしたら、お前たちが例の獣人の英雄か?」
「英雄かと言われると困るけれど、実際に獣人族たちと戦ったからね」
エルフの土地でも英雄と言われ困ったものだが、魔族の土地でも言われるとは実に困ったことだ。
「獣人の英雄なら拒否することはできないな。ようこそ魔族の街アベイルへ」
こうして俺たちはついに森の奥地、魔族の土地へとたどり着いたのだった。
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