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第11章 戦争
09 戦争について
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国の西側に集結してきた兵たち50万に対して、どうしてこんなことしているのか事情を聴くための使者を送ることになった。
その使者として選んだのはダンクス、本来ならあまりこういったことにダンクスは向いていないのだが、ほかがいないために仕方ない。というか、ダンクスは軍務のトップであり普通そんな立場の人間が使者に立つなんてこともない。
それはともかく、4日が経過しダンクスがいよいよ使者として立つ日がやってきた。この4日というのは当然戦場から帰ったばかりのダンクスを休ませるためと、いろいろ行く前にやることがあったからだ。
「それじゃ、行ってくるぜ」
「いってらっしゃい。言うまでもないことだけど気を付けてね」
「おう」
「やばくなったら、引けよ」
「わかってるって、それじゃ後は頼んだぜ」
ダンクスはそういって魔族の文官でダンクスの秘書を任せてあるテリアルートとともにくだんの場所へと向かったのだった。
ちなみに移動方法は転移門を使っている。これは国外だと使えないが国内限定であれば問題ないためにあちこちに設置してある。その結果として、テレスフィリア国民はいつでも好きな時にアベイルなどへやってきてはその日に帰ることもできるようになっている。
そうして、さらに5日が経過したわけだが、ダンクスは全く帰ってこない。一応連絡はあるから無事なのは確か、まぁ、ダンクスに限ってはその心配は無駄となるわけだが。
ところで、ダンクスがなぜ帰ってこないのかというと、その理由はダンクスからの定時連絡の内容によると詳細はわからないが、かなり苦戦しているとのことであった。
「今帰ったぜ」
ダンクスのことを考えていると、そのダンクスが戻ってきたが、やかりかなり疲れた表情をしている。
「おう、おかえり、んで、どうだった?」
「ああ、定時でも言ったが、かなり厄介だったぜ。おかげで無駄に疲れちまった」
ダンクスは肉体的に疲れるということがないほどに鍛え上げているために、この疲れは間違いなく精神的なものだろう。こればかりは誰だって鍛えようがないからな。
「一体何があったの? 連絡ではあまり詳しく書いてなかったけど」
俺の隣にいたシュンナがダンクスに何があったの尋ねている。俺も気になっているのでここは黙っている。
「ああ、ほんと厄介だったぜ。なにせいきなり喧嘩売られたからな」
ダンクスによるとまず接触の時点でひと悶着、これはさすがに予想通りだったのでそこまで驚きはしなかった。なにせ、ダンクスはともかくテリアルートはどう見ても魔族だから、そう思っていたんだがちょっと違った。
「あいつら俺まで魔族とか言い出しやがって」
そう、なぜかダンクスまでも魔族といわれて剣を向けられたという。
「ああ、ダンクスは顔が怖いからねぇ」
「いや、それでも見ればわかるだろうに」
「まったくだぜ」
そう言って笑いあう俺たちの間では、ダンクスの強面について鉄板ネタだ。
とま、それはいいとしてダンクスはその後何とか自分が人族である事実とともに、使者としてやってきていることなどを説明し、何とか軍の責任者に会うことが出来た。
「目的はやっぱりあたしたち?」
「ああ、西側諸国の連合軍を編成し、テレスフィリアに攻め込む予定だと普通に言ってきやがった」
テレスフィリアは魔王国を名乗り、そのトップである俺は魔王を名乗っている。そして、魔王とは人類の敵であり、神の名のもとに討伐するべき存在である。ということが当然のように信じられているためにちっとも悪いと思っていないからこその宣言だろう。だからといってその相手に堂々とされても反応に困る。
「まぁ、さすがに俺もこのままじゃまずいと思ってよ。一応俺たちが人族で敵対するつもりはないこととか、教皇にその安全性もスニルの身元も保証されているって話したんだが」
「信じなかった?」
「そんなとこだ」
そもそもダンクスの言葉を信じるなら、最初から軍を動かしていない、というのも俺が教皇の元へ向かった際、あの場所には東側だけではなく西側の枢機卿などもおり、当然西側の為政者へも伝えられているはずだからだ。にもかかわらずこうして軍を派遣してきたということは、まともに聞き入れなかった証拠だろう。
「また、厄介だな。それで、交渉はしたんだろ」
「もちろんだ。何とか軍を引いてくれないかって頼んでみたんだが、その条件てのがふざけてやがってな」
「なに、条件って?」
相手方の軍を引かせる条件、それは到底受け入れられるものではなかった。
それは以下の3つである。
1つ、魔王の首
2つ、魔族の殲滅
3つ、勇者と聖女の返還
以上である。まず1つ目だが、これはどう考えてもダメだろ、何せ魔王とは俺のことであり、俺の首を差し出すことだからだ。いくら何でもそんな理由で自分の命を投げ出すほど馬鹿ではない、何よりまだ俺にはやらなければならないことが大量にあるから、そんなことできるわけがない。次に2つ目だが、これもあり得ない。何が悲しくて我が国の国民たる魔族を殲滅しなければならないのか、ふざけるにもほどがある。そうして3つ目だけど、これに関しては、麗香たちのことであり、俺の意見だけで決めるわけにはいかないが、ここでダンクスから相手の言い分を聞いたところ。なんと、勇者と聖女は人類(人族)に所有権があり、魔王が不当に奪ったものであるから、返せやわれぇ。ということらしい。すごい言い分だよな。というか麗香たちがまるで物みたいな言い方だ。また、その不当にってのも、洗脳したとか言い出しているらしい。あいにくと俺にはそんな趣味はない。麗香たちを洗脳したところでどうしろというのか。まぁ、それで人族との戦争などで使用したとかなら、いくらでも攻めてもらっても構わないが、俺としてはそんなくだらないことに彼らを使うつもりはないし、何より彼らには今後戦いそのものをさせる気もない。まぁ、せっかく異世界だし冒険者的な意味合いで魔物討伐ぐらいならさせてもいいかもしれないが、それもこれもやはり本人次第だろう。ああ、行っておくが、もし本人たちが人族との戦いに散開したいといっても俺はそれを許可するつもりはないことだけは強く明記しておこう。
そして、問題の孝輔と那奈を渡すという条件だが、これも受けるつもりはない。なにせ、もし人族に渡せば間違いなく戦場に送り込まれることが明白だからだ。そんなこと元日本人であり、彼らの両親から託されている俺が許すわけがない。
「どれも受けるわけにはいかないな」
「当然ね。断ったんでしょ」
「まぁな。スニルの首も魔族の殲滅もあり得ないし、レイカたちだって渡さないんだろ」
「ああ、あの3人は平和の中で自由を謳歌してもらいたいからな」
「それは同感だな」
「そうね。もともとの世界は平和だったんでしょ」
「ああ、たまに凶悪な犯罪が起きるが、基本幼い子供が1人で買い物に出かけられるぐらいには平和だからな」
「それ、何度聞いても信じられないわよね。小さな村ならまだしも大きな街でそんなことできないもの」
「そうだよな。そんなことしたら、何かやばいことになるのは間違いないよな」
日本にいた頃テレビで見たあの子供がお使いする番組、あれって聞いた話だと海外の人からしたらかなりの衝撃番組らしいからな。この世界でもその海外と同じように治安がいいわけではないので、衝撃的な話となる。実際俺もカリブリンで誘拐されたことあるし。
「だな。それでどうなったんだ?」
今一番の問題はダンクスがこの無理難題をどう解決したのかというものだ。
「もちろん断ったぜ」
それから始まったのはお互いに譲らない言葉の応酬。ダンクスはこういったことに慣れていないこともありかなり難航したとのことだった。そのためにテリアルートを連れて行ったのだが、魔族ということだけで話にもならず結局ダンクスが交渉を行ったとのことであった。
「俺じゃなかったらうまくいったのかもしれねぇけどよ。結局まとまらなかった」
ダンクスによると、向こうは一貫して条件を変えようとしなかったし、ダンクスももちろん譲歩もできない。そんなわけで、数日に及んだ交渉も決裂したという。
「となると、戦争は回避できそうにないな」
「そうなる。悪いな。俺がもっとうまく交渉できてればよかったんだが」
「ま、しゃぁねぇって、おそらくだが誰がやっても一緒だっただろうし」
ダンクスの話から推測するに、おそらく誰が交渉をしたところで結局決裂しこの戦争を回避することはできなかっただろう。
「そうね。相手もかなりかたくなだったんでしょ。どんなに交渉がうまい人でも無理よ」
シュンナの言う通り、たとえ交渉人といわれる人でも決裂していたことだろう。
「そうだな。それで、相手の規模とかいつ頃来るとかはわかるか」
「そうだな。具体的にはわからないが、まだまだ集まりそうだ。奴らが言うには西側諸国のほとんどが参加してるらしい。それも集まっているのはまだごく一部って話だしな」
「まじか」
ダンクスによると相手はまだまだ増えるとのこと、一体どんだけ増えるのかすでに50万、いやあれからさらに増えて70万ほどになったとのこと。
「もうすでにお腹いっぱいなほどなのに、これ以上増えるって大丈夫かな」
さすがのシュンナもこれ以上増えると聞き心配そうにしている。
「確かに、こっちの全戦力をもってしてもさすがにきついよな。まぁ、一応同盟を結んでいるからコルマベイントとかも参加してくれることを考えても、心もとないよな」
「だな。まぁそこらへんはすでに話は通しているから、近々連絡は来るとは思うけどよ。それでもちょっと無理だよな」
ダンクスも弱気になる数だ。
「こうなると、最終手段を投入する必要がありそうだな」
「最終手段?」
「大魔法、ぶっ放す」
相手のとの戦力差を考えると俺が大魔法でも使わないと埋まらないと思える。尤も俺としてはできればそんな力を使いたくない。そんなもの使えば文字通りの魔王だ。いくら魔王だからといってそんな魔王になるつもりはない。
「なるほど、それしかないか」
「できればその前に何とかできればいいけどね」
「それが最善だな」
「確かにな」
「さて、それじゃさっそく議会でも開いて話し合うとするか、ああ、2人も参加してくれよ」
「おう、任せろ」
「わかったわ」
というわけでさっそくこの戦争の話し合いをするために議会を開くことにした。
「……以上となる。本日はこれについての話し合いとしたい」
議会でこれから起きるであろう戦争について話をすると、議員たちが大いにざわついた。それはそうだろう、これまで平和に暮らしていた者たちにとって、いきなり戦争といわれればパニックにもなるというもの。
「とはいえ、さすがに我が国の現戦力では真っ向から勝負するのは難しい、しかし、幸いにしてコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナの3国と同盟を結んでおり、彼らが助けとなるだろう。また、我が国には結界があり、そう簡単には攻め込んでは来られない」
「おお、それがありましたな」
「ええ、確かにあの結界があれば我らは安全ですな」
「うむ、しかし敵の数を考えるとその結界どこまで耐えることが出来るのか、陛下、もちろん私も陛下のお力は信じておりますが、結界の耐久性をお教えいただけますか?」
「ああ、それについてだが、あの結界はそこまで強いものではない。多少の攻撃ならば問題ないが、それしたものが複数、それこそ敵の規模から考えると破られる可能性が高い。もちろんそうなる前に新たに結界を張ろうとは思っている」
現在国境沿いに張られている結界は、あくまでハンター対策に張ったもので敵対者を防ぐものでしかなく、攻撃を防ぐ類のものではない。もちろん俺が張ったものだからそう簡単にはいかないが、人族の攻撃でも幾度となくやられればあっけなく壊れてしまうだろう。そのため新たに侵入だけではなく攻撃にも耐えられる結界を張りなおす必要がある。
「いっそのこと、レッサードラゴンの魔石を使って、国を覆うものを作るか」
俺が魔王となるきっかけとなったレッサードラゴンの魔石は、現在魔王城の一角にて保管展示されている。それを使えば国を覆う結界の魔道具を作ることはたやすい。
「陛下、あの魔石をお使いになるのですか?」
俺のつぶやきを聞いた議員の1人が、少し必死な表情で聞いてきた。議員たちにとってもあの魔石は俺が魔王としての証であり重要なものであるということだろう。
「そうだ。国を覆う結界となるとあれぐらいの魔石ではなくては無理だろうドライム」
近くにいたドワーフ議員であるドライムに確認を取る。
「ああ、そうだな。確かにそのぐらいないと無理だろな」
「しかし、あれは」
重要なものであるがゆえにそれを使ってしまうのはどうかという議員、聞くと同じ思いの議員は多いようだ。
「それなら、魔石が見えるように使えばいいんじゃねぇか」
「どういうことだ?」
ドライムがそんなことを言い出したけど、見えるように使うってどういうことだろう聞いてみた。ほかの議員たちもそんなドライムの言葉に集中して聞いている。
「なに簡単なことだ、国を覆う結界を張るって話だから、アベイルってわけにはいかねぇが、国の中心地に建物でも立てて魔石展示室を設ける。んで透明な板で覆ってやれば、いつでも魔石は見られるようになるだろ」
ドライムの説明を聞いて理解したが、なるほど確かにその方法なら魔石を展示しつつ結界の魔道具を使用できるってわけか。
「なるほど、確かにそれなら問題ありませんな」
「うむ、良き案ですな」
ドライムの案は満場一致で可決されたのだった。魔石の使用の反対派のもの達にとって、懸念は俺の象徴となる魔石を見ることが出来なくなることに懸念があっただけであったようだ。ちなみにドライムが言った中心地というのは、アベイルからそれほど離れていないため、見に行きたいものは気軽に見ることが出来るのも満場一致となった理由であろう。
「それじゃ、結界はそれでいいとして、ドライムあとで魔法式を渡すから頼むぞ」
「ああ、任せてくれ」
これでとりあえず結界の話は決着した。
「それでは次の議題ですが、ダンクス殿敵の数はいかほどとなる見込むでしょうか?」
議長のジマリートがダンクスに敵の数について説明を求める。
「そうだな。今現在70万はいる。そこからさらに増える予定らしいから、おそらく100万は超える見込みだ」
100万という途方もない数字に議員たちはもはや理解が及んでいない様子だ。
「へ、陛下、そ、そのかずは、その、大丈夫なのでしょうか?」
「わ、我々はどうすれば……」
そして青ざめた面々が悲痛な表情でそう尋ねてくる。気持ちはわかる、10万ですら俺たちの兵数よりも多いというのにそのさらに10倍、ありえなさ過ぎて実感すらわかない。
「そのための結界だ。一応結界はそれを見越したものにするつもりだ。あとはそうだな。俺が出るしかないだろう」
議員たちを安心させるために、結界があるから問題ないこと、俺が出るということをしっかりと説明する。これで安心してくれればいいんだが……難しいだろうなぁ。
その使者として選んだのはダンクス、本来ならあまりこういったことにダンクスは向いていないのだが、ほかがいないために仕方ない。というか、ダンクスは軍務のトップであり普通そんな立場の人間が使者に立つなんてこともない。
それはともかく、4日が経過しダンクスがいよいよ使者として立つ日がやってきた。この4日というのは当然戦場から帰ったばかりのダンクスを休ませるためと、いろいろ行く前にやることがあったからだ。
「それじゃ、行ってくるぜ」
「いってらっしゃい。言うまでもないことだけど気を付けてね」
「おう」
「やばくなったら、引けよ」
「わかってるって、それじゃ後は頼んだぜ」
ダンクスはそういって魔族の文官でダンクスの秘書を任せてあるテリアルートとともにくだんの場所へと向かったのだった。
ちなみに移動方法は転移門を使っている。これは国外だと使えないが国内限定であれば問題ないためにあちこちに設置してある。その結果として、テレスフィリア国民はいつでも好きな時にアベイルなどへやってきてはその日に帰ることもできるようになっている。
そうして、さらに5日が経過したわけだが、ダンクスは全く帰ってこない。一応連絡はあるから無事なのは確か、まぁ、ダンクスに限ってはその心配は無駄となるわけだが。
ところで、ダンクスがなぜ帰ってこないのかというと、その理由はダンクスからの定時連絡の内容によると詳細はわからないが、かなり苦戦しているとのことであった。
「今帰ったぜ」
ダンクスのことを考えていると、そのダンクスが戻ってきたが、やかりかなり疲れた表情をしている。
「おう、おかえり、んで、どうだった?」
「ああ、定時でも言ったが、かなり厄介だったぜ。おかげで無駄に疲れちまった」
ダンクスは肉体的に疲れるということがないほどに鍛え上げているために、この疲れは間違いなく精神的なものだろう。こればかりは誰だって鍛えようがないからな。
「一体何があったの? 連絡ではあまり詳しく書いてなかったけど」
俺の隣にいたシュンナがダンクスに何があったの尋ねている。俺も気になっているのでここは黙っている。
「ああ、ほんと厄介だったぜ。なにせいきなり喧嘩売られたからな」
ダンクスによるとまず接触の時点でひと悶着、これはさすがに予想通りだったのでそこまで驚きはしなかった。なにせ、ダンクスはともかくテリアルートはどう見ても魔族だから、そう思っていたんだがちょっと違った。
「あいつら俺まで魔族とか言い出しやがって」
そう、なぜかダンクスまでも魔族といわれて剣を向けられたという。
「ああ、ダンクスは顔が怖いからねぇ」
「いや、それでも見ればわかるだろうに」
「まったくだぜ」
そう言って笑いあう俺たちの間では、ダンクスの強面について鉄板ネタだ。
とま、それはいいとしてダンクスはその後何とか自分が人族である事実とともに、使者としてやってきていることなどを説明し、何とか軍の責任者に会うことが出来た。
「目的はやっぱりあたしたち?」
「ああ、西側諸国の連合軍を編成し、テレスフィリアに攻め込む予定だと普通に言ってきやがった」
テレスフィリアは魔王国を名乗り、そのトップである俺は魔王を名乗っている。そして、魔王とは人類の敵であり、神の名のもとに討伐するべき存在である。ということが当然のように信じられているためにちっとも悪いと思っていないからこその宣言だろう。だからといってその相手に堂々とされても反応に困る。
「まぁ、さすがに俺もこのままじゃまずいと思ってよ。一応俺たちが人族で敵対するつもりはないこととか、教皇にその安全性もスニルの身元も保証されているって話したんだが」
「信じなかった?」
「そんなとこだ」
そもそもダンクスの言葉を信じるなら、最初から軍を動かしていない、というのも俺が教皇の元へ向かった際、あの場所には東側だけではなく西側の枢機卿などもおり、当然西側の為政者へも伝えられているはずだからだ。にもかかわらずこうして軍を派遣してきたということは、まともに聞き入れなかった証拠だろう。
「また、厄介だな。それで、交渉はしたんだろ」
「もちろんだ。何とか軍を引いてくれないかって頼んでみたんだが、その条件てのがふざけてやがってな」
「なに、条件って?」
相手方の軍を引かせる条件、それは到底受け入れられるものではなかった。
それは以下の3つである。
1つ、魔王の首
2つ、魔族の殲滅
3つ、勇者と聖女の返還
以上である。まず1つ目だが、これはどう考えてもダメだろ、何せ魔王とは俺のことであり、俺の首を差し出すことだからだ。いくら何でもそんな理由で自分の命を投げ出すほど馬鹿ではない、何よりまだ俺にはやらなければならないことが大量にあるから、そんなことできるわけがない。次に2つ目だが、これもあり得ない。何が悲しくて我が国の国民たる魔族を殲滅しなければならないのか、ふざけるにもほどがある。そうして3つ目だけど、これに関しては、麗香たちのことであり、俺の意見だけで決めるわけにはいかないが、ここでダンクスから相手の言い分を聞いたところ。なんと、勇者と聖女は人類(人族)に所有権があり、魔王が不当に奪ったものであるから、返せやわれぇ。ということらしい。すごい言い分だよな。というか麗香たちがまるで物みたいな言い方だ。また、その不当にってのも、洗脳したとか言い出しているらしい。あいにくと俺にはそんな趣味はない。麗香たちを洗脳したところでどうしろというのか。まぁ、それで人族との戦争などで使用したとかなら、いくらでも攻めてもらっても構わないが、俺としてはそんなくだらないことに彼らを使うつもりはないし、何より彼らには今後戦いそのものをさせる気もない。まぁ、せっかく異世界だし冒険者的な意味合いで魔物討伐ぐらいならさせてもいいかもしれないが、それもこれもやはり本人次第だろう。ああ、行っておくが、もし本人たちが人族との戦いに散開したいといっても俺はそれを許可するつもりはないことだけは強く明記しておこう。
そして、問題の孝輔と那奈を渡すという条件だが、これも受けるつもりはない。なにせ、もし人族に渡せば間違いなく戦場に送り込まれることが明白だからだ。そんなこと元日本人であり、彼らの両親から託されている俺が許すわけがない。
「どれも受けるわけにはいかないな」
「当然ね。断ったんでしょ」
「まぁな。スニルの首も魔族の殲滅もあり得ないし、レイカたちだって渡さないんだろ」
「ああ、あの3人は平和の中で自由を謳歌してもらいたいからな」
「それは同感だな」
「そうね。もともとの世界は平和だったんでしょ」
「ああ、たまに凶悪な犯罪が起きるが、基本幼い子供が1人で買い物に出かけられるぐらいには平和だからな」
「それ、何度聞いても信じられないわよね。小さな村ならまだしも大きな街でそんなことできないもの」
「そうだよな。そんなことしたら、何かやばいことになるのは間違いないよな」
日本にいた頃テレビで見たあの子供がお使いする番組、あれって聞いた話だと海外の人からしたらかなりの衝撃番組らしいからな。この世界でもその海外と同じように治安がいいわけではないので、衝撃的な話となる。実際俺もカリブリンで誘拐されたことあるし。
「だな。それでどうなったんだ?」
今一番の問題はダンクスがこの無理難題をどう解決したのかというものだ。
「もちろん断ったぜ」
それから始まったのはお互いに譲らない言葉の応酬。ダンクスはこういったことに慣れていないこともありかなり難航したとのことだった。そのためにテリアルートを連れて行ったのだが、魔族ということだけで話にもならず結局ダンクスが交渉を行ったとのことであった。
「俺じゃなかったらうまくいったのかもしれねぇけどよ。結局まとまらなかった」
ダンクスによると、向こうは一貫して条件を変えようとしなかったし、ダンクスももちろん譲歩もできない。そんなわけで、数日に及んだ交渉も決裂したという。
「となると、戦争は回避できそうにないな」
「そうなる。悪いな。俺がもっとうまく交渉できてればよかったんだが」
「ま、しゃぁねぇって、おそらくだが誰がやっても一緒だっただろうし」
ダンクスの話から推測するに、おそらく誰が交渉をしたところで結局決裂しこの戦争を回避することはできなかっただろう。
「そうね。相手もかなりかたくなだったんでしょ。どんなに交渉がうまい人でも無理よ」
シュンナの言う通り、たとえ交渉人といわれる人でも決裂していたことだろう。
「そうだな。それで、相手の規模とかいつ頃来るとかはわかるか」
「そうだな。具体的にはわからないが、まだまだ集まりそうだ。奴らが言うには西側諸国のほとんどが参加してるらしい。それも集まっているのはまだごく一部って話だしな」
「まじか」
ダンクスによると相手はまだまだ増えるとのこと、一体どんだけ増えるのかすでに50万、いやあれからさらに増えて70万ほどになったとのこと。
「もうすでにお腹いっぱいなほどなのに、これ以上増えるって大丈夫かな」
さすがのシュンナもこれ以上増えると聞き心配そうにしている。
「確かに、こっちの全戦力をもってしてもさすがにきついよな。まぁ、一応同盟を結んでいるからコルマベイントとかも参加してくれることを考えても、心もとないよな」
「だな。まぁそこらへんはすでに話は通しているから、近々連絡は来るとは思うけどよ。それでもちょっと無理だよな」
ダンクスも弱気になる数だ。
「こうなると、最終手段を投入する必要がありそうだな」
「最終手段?」
「大魔法、ぶっ放す」
相手のとの戦力差を考えると俺が大魔法でも使わないと埋まらないと思える。尤も俺としてはできればそんな力を使いたくない。そんなもの使えば文字通りの魔王だ。いくら魔王だからといってそんな魔王になるつもりはない。
「なるほど、それしかないか」
「できればその前に何とかできればいいけどね」
「それが最善だな」
「確かにな」
「さて、それじゃさっそく議会でも開いて話し合うとするか、ああ、2人も参加してくれよ」
「おう、任せろ」
「わかったわ」
というわけでさっそくこの戦争の話し合いをするために議会を開くことにした。
「……以上となる。本日はこれについての話し合いとしたい」
議会でこれから起きるであろう戦争について話をすると、議員たちが大いにざわついた。それはそうだろう、これまで平和に暮らしていた者たちにとって、いきなり戦争といわれればパニックにもなるというもの。
「とはいえ、さすがに我が国の現戦力では真っ向から勝負するのは難しい、しかし、幸いにしてコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナの3国と同盟を結んでおり、彼らが助けとなるだろう。また、我が国には結界があり、そう簡単には攻め込んでは来られない」
「おお、それがありましたな」
「ええ、確かにあの結界があれば我らは安全ですな」
「うむ、しかし敵の数を考えるとその結界どこまで耐えることが出来るのか、陛下、もちろん私も陛下のお力は信じておりますが、結界の耐久性をお教えいただけますか?」
「ああ、それについてだが、あの結界はそこまで強いものではない。多少の攻撃ならば問題ないが、それしたものが複数、それこそ敵の規模から考えると破られる可能性が高い。もちろんそうなる前に新たに結界を張ろうとは思っている」
現在国境沿いに張られている結界は、あくまでハンター対策に張ったもので敵対者を防ぐものでしかなく、攻撃を防ぐ類のものではない。もちろん俺が張ったものだからそう簡単にはいかないが、人族の攻撃でも幾度となくやられればあっけなく壊れてしまうだろう。そのため新たに侵入だけではなく攻撃にも耐えられる結界を張りなおす必要がある。
「いっそのこと、レッサードラゴンの魔石を使って、国を覆うものを作るか」
俺が魔王となるきっかけとなったレッサードラゴンの魔石は、現在魔王城の一角にて保管展示されている。それを使えば国を覆う結界の魔道具を作ることはたやすい。
「陛下、あの魔石をお使いになるのですか?」
俺のつぶやきを聞いた議員の1人が、少し必死な表情で聞いてきた。議員たちにとってもあの魔石は俺が魔王としての証であり重要なものであるということだろう。
「そうだ。国を覆う結界となるとあれぐらいの魔石ではなくては無理だろうドライム」
近くにいたドワーフ議員であるドライムに確認を取る。
「ああ、そうだな。確かにそのぐらいないと無理だろな」
「しかし、あれは」
重要なものであるがゆえにそれを使ってしまうのはどうかという議員、聞くと同じ思いの議員は多いようだ。
「それなら、魔石が見えるように使えばいいんじゃねぇか」
「どういうことだ?」
ドライムがそんなことを言い出したけど、見えるように使うってどういうことだろう聞いてみた。ほかの議員たちもそんなドライムの言葉に集中して聞いている。
「なに簡単なことだ、国を覆う結界を張るって話だから、アベイルってわけにはいかねぇが、国の中心地に建物でも立てて魔石展示室を設ける。んで透明な板で覆ってやれば、いつでも魔石は見られるようになるだろ」
ドライムの説明を聞いて理解したが、なるほど確かにその方法なら魔石を展示しつつ結界の魔道具を使用できるってわけか。
「なるほど、確かにそれなら問題ありませんな」
「うむ、良き案ですな」
ドライムの案は満場一致で可決されたのだった。魔石の使用の反対派のもの達にとって、懸念は俺の象徴となる魔石を見ることが出来なくなることに懸念があっただけであったようだ。ちなみにドライムが言った中心地というのは、アベイルからそれほど離れていないため、見に行きたいものは気軽に見ることが出来るのも満場一致となった理由であろう。
「それじゃ、結界はそれでいいとして、ドライムあとで魔法式を渡すから頼むぞ」
「ああ、任せてくれ」
これでとりあえず結界の話は決着した。
「それでは次の議題ですが、ダンクス殿敵の数はいかほどとなる見込むでしょうか?」
議長のジマリートがダンクスに敵の数について説明を求める。
「そうだな。今現在70万はいる。そこからさらに増える予定らしいから、おそらく100万は超える見込みだ」
100万という途方もない数字に議員たちはもはや理解が及んでいない様子だ。
「へ、陛下、そ、そのかずは、その、大丈夫なのでしょうか?」
「わ、我々はどうすれば……」
そして青ざめた面々が悲痛な表情でそう尋ねてくる。気持ちはわかる、10万ですら俺たちの兵数よりも多いというのにそのさらに10倍、ありえなさ過ぎて実感すらわかない。
「そのための結界だ。一応結界はそれを見越したものにするつもりだ。あとはそうだな。俺が出るしかないだろう」
議員たちを安心させるために、結界があるから問題ないこと、俺が出るということをしっかりと説明する。これで安心してくれればいいんだが……難しいだろうなぁ。
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夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
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