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8.結婚相手に求める条件1
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ノエルと一瞬目を合わせてからゆっくりと音のしたほうを見ると、フロランの頭が書類の山に埋まっていた。
そしてまた、もう一度ノエルと視線を交わし、二人して慌ててそちらに駆け寄る。
「フロラン様!?」
「いったい何が……」
過労で倒れてもしたのか。こういう時は体を起こしたほうがいいのか、それとも人を呼んだほうがいいのか。おろおろと悩んでいると、ゆっくりとフロランの顔が上がった。
「……ひとつ、伺うが……君は、ノエルのことを好きなのか?」
胡乱な目で問われ、少しだけ首を傾ける。
好きか嫌いかで言えば、嫌いではない。嫌いな相手を結婚相手として選びはしない。
「結婚相手としては申し分ないと思っております」
「……そうか。それでは、そういった話は書類の整理が終わってからするように。今は書類を片付けるのを優先させろ」
確かに、今するような話ではなかった。申し訳ございませんと謝って、大人しく与えられた書類の山を片付けに戻る。
ジルは緊急時にしか依頼が回ってこないのに、書類が多い。それは日常生活でもジルに迷惑をかけられた人がいるからだろう。ただ、ジルに難癖をつけたいだけの人もいるので、正当な要求かどうかを見極めないといけない。
ジルのために用意された書類なだけあって、ジルでなければわからないことも多い。どうして呪ったのかとか、どうして家の前を水浸しにしたのか。いや本当に、どうして水浸しにした。
ううむ、と唸っているとトントンと机の端が叩かれた。書類に落としていた視線を上げると、ノエルが机の横に立っていた。
「食事の時間です。書類は置いてください」
「あ、はい。わかりました」
没頭していたのか、時計を見ると思っていたよりも時間が経っていた。仕分け終わった書類を棚にしまい、未処理の書類は箱の中に置き、席を立つ。
塔には食堂といった高尚なものはない。塔に所属する魔術師のほとんどは個人主義で、食堂を作ったところで誰もそこで食べないからだ。無駄なことに回す費用はなく、食事は各々好きな時に好きな場所で食べていい。
だけどさすが真面目な魔術師フロランとでも言うべきか、お腹が空いたら食べるジルと違い、お昼になれば昼ご飯を食べるらしい。
「それで、先ほどの話ですが」
「先ほどの?」
執務机から離れ、部屋の隅にある綺麗なテーブルに持ってきた食事を置く。我が家で働く料理人が手間暇かけて作ってくれたお弁当だ。
ノエルは私の対面に腰かけ、サンドイッチの入った箱を広げた。
「結婚を前提にしたお付き合いとやらの話です。……本気ですか?」
水色の瞳はサンドイッチに向いていて、私を見てはいない。私はお弁当箱と一緒に入っていたフォークを手に取り、どれから食べ始めるか考えながら、頷いて返す。
「冗談であのようなことは言いません」
「なるほど。それでは結婚を前提にあなたと付き合ったとして、それで得られるメリットは答えられますか?」
「可愛いお嫁さんができますよ」
「可愛いだけの嫁であればどうとでも作れます」
「人体を作ることは禁じられていますけど」
「ええ、そこがネックですが……バレなければなんてことはありません」
しれっと言うノエルは、フロランの弟子でフロランに育てられたにもかかわらず、そこまで真面目じゃない。必要となれば法を破ることも厭わないのだろう。
そういうところを、私は好ましく思う。
そしてまた、もう一度ノエルと視線を交わし、二人して慌ててそちらに駆け寄る。
「フロラン様!?」
「いったい何が……」
過労で倒れてもしたのか。こういう時は体を起こしたほうがいいのか、それとも人を呼んだほうがいいのか。おろおろと悩んでいると、ゆっくりとフロランの顔が上がった。
「……ひとつ、伺うが……君は、ノエルのことを好きなのか?」
胡乱な目で問われ、少しだけ首を傾ける。
好きか嫌いかで言えば、嫌いではない。嫌いな相手を結婚相手として選びはしない。
「結婚相手としては申し分ないと思っております」
「……そうか。それでは、そういった話は書類の整理が終わってからするように。今は書類を片付けるのを優先させろ」
確かに、今するような話ではなかった。申し訳ございませんと謝って、大人しく与えられた書類の山を片付けに戻る。
ジルは緊急時にしか依頼が回ってこないのに、書類が多い。それは日常生活でもジルに迷惑をかけられた人がいるからだろう。ただ、ジルに難癖をつけたいだけの人もいるので、正当な要求かどうかを見極めないといけない。
ジルのために用意された書類なだけあって、ジルでなければわからないことも多い。どうして呪ったのかとか、どうして家の前を水浸しにしたのか。いや本当に、どうして水浸しにした。
ううむ、と唸っているとトントンと机の端が叩かれた。書類に落としていた視線を上げると、ノエルが机の横に立っていた。
「食事の時間です。書類は置いてください」
「あ、はい。わかりました」
没頭していたのか、時計を見ると思っていたよりも時間が経っていた。仕分け終わった書類を棚にしまい、未処理の書類は箱の中に置き、席を立つ。
塔には食堂といった高尚なものはない。塔に所属する魔術師のほとんどは個人主義で、食堂を作ったところで誰もそこで食べないからだ。無駄なことに回す費用はなく、食事は各々好きな時に好きな場所で食べていい。
だけどさすが真面目な魔術師フロランとでも言うべきか、お腹が空いたら食べるジルと違い、お昼になれば昼ご飯を食べるらしい。
「それで、先ほどの話ですが」
「先ほどの?」
執務机から離れ、部屋の隅にある綺麗なテーブルに持ってきた食事を置く。我が家で働く料理人が手間暇かけて作ってくれたお弁当だ。
ノエルは私の対面に腰かけ、サンドイッチの入った箱を広げた。
「結婚を前提にしたお付き合いとやらの話です。……本気ですか?」
水色の瞳はサンドイッチに向いていて、私を見てはいない。私はお弁当箱と一緒に入っていたフォークを手に取り、どれから食べ始めるか考えながら、頷いて返す。
「冗談であのようなことは言いません」
「なるほど。それでは結婚を前提にあなたと付き合ったとして、それで得られるメリットは答えられますか?」
「可愛いお嫁さんができますよ」
「可愛いだけの嫁であればどうとでも作れます」
「人体を作ることは禁じられていますけど」
「ええ、そこがネックですが……バレなければなんてことはありません」
しれっと言うノエルは、フロランの弟子でフロランに育てられたにもかかわらず、そこまで真面目じゃない。必要となれば法を破ることも厭わないのだろう。
そういうところを、私は好ましく思う。
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