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9.結婚相手に求める条件2

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 決められた将来、約束されていた婚約者を失った私が選べる手段はあまり多くない。
 行かず後家となって妹夫婦の世話になるか、両親が見繕った相手と結婚するか。あるいは、自分で相手を見つけるか。

 前者二つは私的にはない。両親の見繕う相手は、アニエスの意思が含まれているだろう。アニエスが選んだ相手なら、と両親は思考停止して決定してしまう。
 長年積み重ねられてきた信頼はそう簡単には崩されない。たとえ、姉の婚約者を奪ったのだとしても、両親はしかたないと考えるだろう。

「ノエルの研究に口を出しませんし、家に帰らず研究室にこもっていても文句も言いません。なんなら私も塔に寝泊まりするかもしれませんし」

 私がノエルを選んだ理由には、塔から離れがたいというのもある。ジルに師事してからの三年、私は生活の半分以上をここで過ごしてきた。第二の家と言えば過言だが、それなりに思い入れはある。
 それに見知らぬ貴族の妻となって夫を支えるよりも、自身の力で立っていたい。

「なるほど。確かにわずらわしい点がないのは、魅力といえば魅力ですね」
「それでは――」
「早合点をしてはいけませんよ。次に、あなたが結婚したい理由を述べてください」
「もちろん、わずらわしいことの解消です。このままいけば、両親はいくつも縁談を持ってくることでしょう。妹の介入も考えられる状況で、両親の持ってくる縁談を呑むことはできません。私が求める夫像は、私が魔術師として働くことに反対しない相手です」
「その相手に魔術師の弟子である僕を選んだということはわかりました。ですが、それだけであればいくらでも候補はいるでしょう。魔術師の弟子は僕以外にもいます。貴族がいやなら商家の息子もいますし……孤児である僕を選ぶ必要はなんですか」
「魔術師の子供であれば、反対する者は少ないでしょう」

 どこにでも難癖をつけてくる人はいる。家格の合った相手でなければ難癖をつけられるのなら、その中でも文句の出にくい相手を選ぶのはおかしな話ではないはずだ。

「それに……私はノエルのことを好ましく思っていますよ。フロラン様の弟子を長年続ける根気に、ジルの被害を見ても顔色ひとつ変えない胆力。必要とあらば方法も問わない冷静さ。どれを取っても申し分ないかと思います」
「なるほど……わかりました」

 話している間にサンドイッチを食べ終えて、食後のお茶を嗜みながら小さく息を吐くノエル。
 それからゆっくりとカップを机に置いて、水色の瞳をこちらに向けた。

「あなたの提案を受け入れます。ですがひとつ、条件があります」
「はい。なんでも言ってください」
「フロランは僕に愛のある結婚を求めています。心情はどうあれ、愛ある恋人を演じていただきたい」

 淡々としたノエルの声に、それはちょっと難しいんじゃ、と思いながらも頷いて返した。
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