なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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37.魔物の行方1

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 そうして本日の業務時間――もとい、ジルのもとで研鑽を積む時間は終わり、机の上に広げていた魔道具を棚にしまう。

「それではジル。本日は失礼いたします」
「今日もお疲れ様。私の可愛い弟子が勤勉で嬉しいよ。また明日も来るのだろう?」
「ええ、まあ……そうなりますね」

 塔にはいくつも空き部屋がある。魔術師には一人一つ研究室が与えられているけど、それでは足りず実験を行いたい時や、寝泊まりする時のために。
 空き部屋は誰のものという決まりはなく、申請さえすれば魔術師だろうとその弟子だろうと、塔に所属する人なら誰でも使える。

 だから私も、ここ数日はその空き部屋を利用させてもらっていた。 そして申請期間はまだまだあるので、しばらくは塔で寝泊まりすることはジルも承知のはず。弟子の申請には、師匠のサインが必要だから。

 なのになんでそんなことを聞くのだろうと首を傾げると、ジルも同じように首を傾げた。

「おや、私の弟弟子の休みは明日だったと思ったのだけど、違ったかい? ああ、昨日休みを取ったから、日程を変更したのかもしれないね。まあ、もしも休みだったら君も休むといいよ。私はとても懐の広い師匠だからね。恋人との逢瀬を楽しみたいといった可愛らしい我侭を咎めたりはしないよ」
「それは、まあ、お気遣いありがとうございます。その懐の広さを日常的に発揮してただけたらと、思わずにはいられませんが」
 
 弟子だけではなく、そこらへんを歩いている人とかにも。そう心の中で付け加えておく。
 どうせ言っても右から左に聞き流すことはわかっている。

「そうだね。気が向いたら考えておくよ。それじゃあお疲れ様。何かあったらおいで」

 そう言って、ジルはひらりと手を振ると、柔らかな長椅子に体を沈めた。私もお疲れ様と返して、ジルの遊戯室兼私室である研究室を出ようと扉に手をかけて、後ろを振り返る。

「そういえば、アンリ殿下は今日はどうされたのですか?」
「捜索に手間取っているようだよ。私には連絡が来ているから安心するといい」

 なるほど、と納得して、今度こそ部屋を出る。
 それにしても、昨日からずっと追っているということは、ずいぶんと逃走に長けた魔物のようだ。最初の調査では兵でも事足りると言っていたのに、長年弟子を務めているアンリ殿下が手間取っているのなら、兵の手にも余ったのではないだろうか。

 でも、アンリ殿下が調査ミスを犯した、とは思えない。魔術師の弟子としても、王太子としても、杜撰な調査をするはずがない。

「討伐と捜索の違いなのかしら」

 だけど逃げることを視野に入れず、判断するだろうか。ううん、と答えの出てこない問いに首を捻っていると、通路の先――私が借りている部屋の近くにノエルが立っているのが見えた。

「どうかしたの?」
「ああ、ちょうどいいところに。只今アンリ殿下から連絡があったのですが……彼の追っていた魔物がミュラトール領に逃げ込んだそうです」
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