38 / 47
38.魔物の行方2
しおりを挟む
あまりにも唐突な報告に、一瞬だけど頭の中が真っ白になる。
「そ、それは……大丈夫、なの?」
ミュラトール領を管理しているお父様と会ったのはほんの一日前。魔物が逃げこんだ、という報告を受けているようには見えなかった。
だから今日か、昨日の夜に魔物が逃げこんだのだろう。こちらに報告が来たということは、お父様のところにも報告はいっているはず。
「分裂型の魔物のようなので……時間がかかりすぎなければ、恐らくは」
不安要素は残るけど、今日明日で甚大な被害が出るような話ではないようなので、ほっと胸を撫で下ろす。
「まあ、すでに数を増やしているようなので、魔術師に依頼してくれればの話ですが。昨日のこともありますし、即決即断は難しいでしょうね」
だけど続いた言葉に、胸の前で手を握る。
お父様やお母様、アニエスに思うところがないわけではない。だけどそれは家族の問題で、領地で暮らす人たちには関係ない。
できることなら早く依頼を出してほしいけど、それを決めるのはお父様だ。
「一応、今回は他領から逃げてきたものなので、依頼料はそちらとの折半になる、というのは伝えてあります。それと……先日お邪魔したあなたの家から馬車が出たのも確認したので、遅くても一週間ほどで依頼がくるとは思いますよ」
一週間。分裂型の魔物は、一体だけでも数を増やしていく。少しだけならそこまで脅威ではないけど、増えれば増えるほど、討伐が難しくなる。何しろ、一体でも取り逃せば無限に増える。
ただ、増える速度は個体ごとに変わるので、今回逃げこんだ魔物がどのぐらいの速度で増えるのかはわからない。
それでも、遅くても一週間ということは――それぐらい経てばどうにもならない事態になる、ということだ。
「ここからが本題なんですが……依頼がきた時や事態が急変した時には知らせたほうがいいですか?」
「それは……ええ、そうね。教えてくれると助かるわ」
何か起きた時に――たとえ何もできなくても、教えてもらえたほうがいい。
領地や領民は大丈夫か。やきもきしながら過ごさずに済む。連絡がないのなら大丈夫なんだと、そう思えるから。
「わかりました。それでは本日は失礼します。ゆっくり休んでください」
小さく頭を下げてから通り過ぎようとするノエルの腕を、思わず掴む。
「どうかしましたか?」
「……すぐには、落ち着けそうにないの。だから少しでいいから、話し相手になってもらえると、助かるのだけど……もちろん、フロラン様の手伝いとかあるなら、そちらを優先してもらって大丈夫だから」
私にできることは何もない。それはわかっているけど、どうしても不安が拭えない。一晩眠れば、連絡が来るまではと切り替えられると思う。でも聞いたばかりの今は、何かできることはないかとか考えてしまう。
だから少しでも気を逸らせれば。そう思ってのお願いに、ノエルは快く頷いてくれた。
「そ、それは……大丈夫、なの?」
ミュラトール領を管理しているお父様と会ったのはほんの一日前。魔物が逃げこんだ、という報告を受けているようには見えなかった。
だから今日か、昨日の夜に魔物が逃げこんだのだろう。こちらに報告が来たということは、お父様のところにも報告はいっているはず。
「分裂型の魔物のようなので……時間がかかりすぎなければ、恐らくは」
不安要素は残るけど、今日明日で甚大な被害が出るような話ではないようなので、ほっと胸を撫で下ろす。
「まあ、すでに数を増やしているようなので、魔術師に依頼してくれればの話ですが。昨日のこともありますし、即決即断は難しいでしょうね」
だけど続いた言葉に、胸の前で手を握る。
お父様やお母様、アニエスに思うところがないわけではない。だけどそれは家族の問題で、領地で暮らす人たちには関係ない。
できることなら早く依頼を出してほしいけど、それを決めるのはお父様だ。
「一応、今回は他領から逃げてきたものなので、依頼料はそちらとの折半になる、というのは伝えてあります。それと……先日お邪魔したあなたの家から馬車が出たのも確認したので、遅くても一週間ほどで依頼がくるとは思いますよ」
一週間。分裂型の魔物は、一体だけでも数を増やしていく。少しだけならそこまで脅威ではないけど、増えれば増えるほど、討伐が難しくなる。何しろ、一体でも取り逃せば無限に増える。
ただ、増える速度は個体ごとに変わるので、今回逃げこんだ魔物がどのぐらいの速度で増えるのかはわからない。
それでも、遅くても一週間ということは――それぐらい経てばどうにもならない事態になる、ということだ。
「ここからが本題なんですが……依頼がきた時や事態が急変した時には知らせたほうがいいですか?」
「それは……ええ、そうね。教えてくれると助かるわ」
何か起きた時に――たとえ何もできなくても、教えてもらえたほうがいい。
領地や領民は大丈夫か。やきもきしながら過ごさずに済む。連絡がないのなら大丈夫なんだと、そう思えるから。
「わかりました。それでは本日は失礼します。ゆっくり休んでください」
小さく頭を下げてから通り過ぎようとするノエルの腕を、思わず掴む。
「どうかしましたか?」
「……すぐには、落ち着けそうにないの。だから少しでいいから、話し相手になってもらえると、助かるのだけど……もちろん、フロラン様の手伝いとかあるなら、そちらを優先してもらって大丈夫だから」
私にできることは何もない。それはわかっているけど、どうしても不安が拭えない。一晩眠れば、連絡が来るまではと切り替えられると思う。でも聞いたばかりの今は、何かできることはないかとか考えてしまう。
だから少しでも気を逸らせれば。そう思ってのお願いに、ノエルは快く頷いてくれた。
54
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)
みかん畑
恋愛
侯爵令嬢リリナ・カフテルには、道具のようにリリナを利用しながら身体ばかり求めてくる婚約者がいた。
貞操を守りつつ常々別れたいと思っていたリリナだが、両親の反対もあり、婚約破棄のチャンスもなく卒業記念パーティの日を迎える。
しかし、運命の日、パーティの場で突然リリナへの不満をぶちまけた婚約者の王子は、あろうことか一方的な婚約破棄を告げてきた。
王子の予想に反してあっさりと婚約破棄を了承したリリナは、自分を庇ってくれた辺境伯と共に、新天地で領地の運営に関わっていく。
そうして辺境の開発が進み、リリナの名声が高まって幸福な暮らしが続いていた矢先、今度は別れたはずの王子がリリナを求めて実力行使に訴えてきた。
けれど、それは彼にとって破滅の序曲に過ぎず――
※8/11完結しました。
読んでくださった方に感謝。
ありがとうございます。
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました
masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。
エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。
エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。
それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。
エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。
妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。
そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。
父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。
釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。
その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。
学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、
アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる