なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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39.魔術師フロラン

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 借りている部屋にノエルを招き入れる。
 小ぢんまりとした部屋の中にはベッドと机と椅子と、棚が置かれているだけ。寝泊まりする用の部屋はどこもこんなものなので、ノエルも内装ぐらいは知っているはず。

「たいしたおもてなしはできないけど……」
「いえ、気にしないでください」

 ノエルが一つしかない椅子に座ったので、私はベッドに腰を下ろす。話し相手を頼みはしたけど、何を話せばいいのか少し悩む。
 私はノエルについて、ほとんど知らない。赤子の頃にフロランに拾われて、魔術師の弟子になって、魔術師になった。それと好きなものを少しだけ。

「……ノエルはフロラン様の後を継ぐのよね?」
「フロランが引退したらの話ですが……何事もなければそうなると思います」

 フロランは長年この塔で魔術師として働いている。
 魔術師の弟子ほどではないけど、魔術師も入れ替わることがある。新しい魔術師が現れると、たまにだけど人が多いからとか、研究したいことがないからとかの理由で引退する人が出てくるからだ。
 紋章を王家に返すので、魔術師として働くことはできなくなる。だから当然、研究費用も出なくなるのだけど、それでもいいからと塔を去る。

 そうして引退した後は、自由に過ごしているのだとか。魔術師としての特権は失われているので、人を呪ったりすれば捕まるから、法の裁きを受けない範囲で、という制約はつくけど。

「フロラン様は、引退を視野にいれてるの?」
「今はまだですね。……ですが、彼も永遠に働き続けることはできないでしょうし、何年か何十年か経てば引退すると思いますよ」
「まあ、それはそうですけど……そもそも、フロラン様は……おいくつなの?」

 ジルが弟子になったということは、それよりも年上だということだ。見た目からは三十代後半から四十代前半に見えるけど、定かではない。ジルの見た目が二十代半ばぐらいなので、本当に見た目通りの年齢差しかないのなら、十代か二十代でジルの師匠をやっていたことになる。
 さすがに五歳でとんでもないことをしでかすとは思えないけど、魔術師と認められるぐらいなのだから、幼い頃からジルは規格外だったはず。

「千は生きていないと思いますよ」
「さすがに千を超えているとは思っていないわよ」

 魔術師は体内にある膨大な魔力で、外見の成長を遅くすることができると言われている。でもそれが本当かどうかは誰も知らない。
 確かめようがないし、試しようがないからだ。人体実験のようなことに付き合う魔術師はおらず、遅らせていますと公言する魔術師もいなかった。

 それに、外見の年齢を遅らせるだけなら体内は生きてきただけの年数が刻まれているはずなので、寿命を超えることはない。

「千は冗談ですが……魔術師フロランとして登録されたのは五十年前ですよ」
「じゃあ少なくとも五十歳は超えているのね」

 ジルとノエルはともかく、魔術師と認められるのは大体が二十半ばを超えてから。もう少し早い人もいるけど、十代で魔術氏になった人はほとんどいない。ジルとノエルはともかく。

 だから、六十から七十といったところだろうか。まあそれなら、ジルの師匠をしていてもおかしな年齢ではない。
 そしてノエルが彼の引退を考えて後を継ぐことを視野に入れているのもそれならわかる。人間の寿命は長くても百ちょっと。魔術師として現役で働けるのは、それよりも短い。

「――気は紛れましたか?」
「え、ええ。そうね」

 なるほどと納得していると、不意に問われて戸惑いながらも頷く。

「それでは僕はこれで失礼します。ゆっくり休んでください」
「わかったわ。付き合ってくれてありがとう」

 いえ、と言って立ち去ろうとするノエル。どことなく、いつもよりもよそよしい気がして何故だろうと首を傾げる。
 扉の前まで見送って、ちらりとノエルの様子をうかがうけど、相変わらずすぎてまったくわからない。

 もしかして忙しかったのに引き止めてしまったのだろうか。ノエルの優しさに甘えすぎていたことを自覚して、反省する。
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