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十話 元王子様
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そうして悩んでいる間に、あれよあれよと私のために用意したらしい部屋に連れていかれていた。
「こちらは個人用の私室でして、隣に兵かの私室と繋がっている寝室がございます。お休みの際にはそちらを利用していただくことになります」
「……陛下も、そちらでお休みに?」
「ええ、まあ……そうなりますね」
どうやら妃を迎える準備は万端だったようだ。
銀の髪ではなく灰色の髪で残念だったことだろう。
「部屋の出入りの際にはひと声おかけください。いえ、部屋の出入りだけでなく、何か入り用であればいつでも声をかけていただいて構いません。その際には……あちらにあるベルを鳴らしてください」
手で示された先を見ると、小さな机の上に牛とかを呼べそうなベルが置いてあった。牛飼いが出てくる絵本に、こんな感じのベルが描かれていたことを覚えている。
「本来なら専属の侍女をお付けしたいのですが……現在人手不足な状態でして、ご不便をおかけいたします」
「いえ、それは大丈夫ですけど……あの、ヴィルヘルムさんって……天使の血をひいている人ですよね?」
おや、とヴィルヘルムさんの藍色の瞳が瞬く。
その瞳には、星を思わせる金色がいくつも散りばめられている。外で見た時には光の加減かと思っていたのだけど、こうして室内で見ているとよくわかる。
騎士さんや、城で働く人たちにこんな目の持ち主はいなかった。そして、天使と妖精の血をひく人は、瞳に特徴が現れる。
私の持つ妖精眼は、移り変わる空の色のように角度によって色彩を変える。正面からでは朝焼け色だけど、斜めから見ると紫色に見えたりと、ごまかしようのない特徴がある。
「そうですね。一応、故アドフィル王の血をひいております」
なんてことのないように言うヴィルヘルムさん。
つまり、彼は元は王子だということだ。
「ヴィルヘルム様って呼んだほうがいいですか?」
「いえ、今の私はただの一介の宰相ですので……先ほどまでの呼び方で構いませんよ」
わかりましたと頷くと、ヴィルヘルムさんは一礼して部屋を出た。
扉が完全に閉まり切るのを確認して、盛大に息を吐く。
夕食は部屋に運んでくれるそうなので、今日はもう皇帝と顔を合わすことはない。
「……寝室が一緒なら、また会うことになるのかな」
顔を合わせたらまた言い合いになりそうだ。それで激昂して首を刎ねてくれるのならいいけど、思った以上に忍耐力がありそうだった。
言い合うだけでは気力と体力を消耗するだけになる。
「できるだけ叫ばないで、それでいて不敬な行動ってあるかな」
そこまで考えて、寝室に繋がる扉が視界に入った。
今夜はいわゆる初夜だ。それなのに妻になった女性が、ベッドの上で豪快に寝ていたらどう思うだろうか。
妃に迎えるつもりはないとはいっても、さすがに自分も寝るベッドを占領して寝ていたらイラっとくるだろう。
「そうと決まれば、体力を使って眠れるようにしないと」
持ってきた荷物を開けて、中身を取り出す。
どこに飾るのが一番壊れにくいか、どこなら日光に当たりにくいかを並べてみたりして確認し、何度も何度も調整を重ねた。
そしてきたる就寝時間。
結果から言うと、失敗した。ふっかふかのベッドが合わなくて、寝室に置かれていた長椅子の上で丸くなったからだ。
「こちらは個人用の私室でして、隣に兵かの私室と繋がっている寝室がございます。お休みの際にはそちらを利用していただくことになります」
「……陛下も、そちらでお休みに?」
「ええ、まあ……そうなりますね」
どうやら妃を迎える準備は万端だったようだ。
銀の髪ではなく灰色の髪で残念だったことだろう。
「部屋の出入りの際にはひと声おかけください。いえ、部屋の出入りだけでなく、何か入り用であればいつでも声をかけていただいて構いません。その際には……あちらにあるベルを鳴らしてください」
手で示された先を見ると、小さな机の上に牛とかを呼べそうなベルが置いてあった。牛飼いが出てくる絵本に、こんな感じのベルが描かれていたことを覚えている。
「本来なら専属の侍女をお付けしたいのですが……現在人手不足な状態でして、ご不便をおかけいたします」
「いえ、それは大丈夫ですけど……あの、ヴィルヘルムさんって……天使の血をひいている人ですよね?」
おや、とヴィルヘルムさんの藍色の瞳が瞬く。
その瞳には、星を思わせる金色がいくつも散りばめられている。外で見た時には光の加減かと思っていたのだけど、こうして室内で見ているとよくわかる。
騎士さんや、城で働く人たちにこんな目の持ち主はいなかった。そして、天使と妖精の血をひく人は、瞳に特徴が現れる。
私の持つ妖精眼は、移り変わる空の色のように角度によって色彩を変える。正面からでは朝焼け色だけど、斜めから見ると紫色に見えたりと、ごまかしようのない特徴がある。
「そうですね。一応、故アドフィル王の血をひいております」
なんてことのないように言うヴィルヘルムさん。
つまり、彼は元は王子だということだ。
「ヴィルヘルム様って呼んだほうがいいですか?」
「いえ、今の私はただの一介の宰相ですので……先ほどまでの呼び方で構いませんよ」
わかりましたと頷くと、ヴィルヘルムさんは一礼して部屋を出た。
扉が完全に閉まり切るのを確認して、盛大に息を吐く。
夕食は部屋に運んでくれるそうなので、今日はもう皇帝と顔を合わすことはない。
「……寝室が一緒なら、また会うことになるのかな」
顔を合わせたらまた言い合いになりそうだ。それで激昂して首を刎ねてくれるのならいいけど、思った以上に忍耐力がありそうだった。
言い合うだけでは気力と体力を消耗するだけになる。
「できるだけ叫ばないで、それでいて不敬な行動ってあるかな」
そこまで考えて、寝室に繋がる扉が視界に入った。
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妃に迎えるつもりはないとはいっても、さすがに自分も寝るベッドを占領して寝ていたらイラっとくるだろう。
「そうと決まれば、体力を使って眠れるようにしないと」
持ってきた荷物を開けて、中身を取り出す。
どこに飾るのが一番壊れにくいか、どこなら日光に当たりにくいかを並べてみたりして確認し、何度も何度も調整を重ねた。
そしてきたる就寝時間。
結果から言うと、失敗した。ふっかふかのベッドが合わなくて、寝室に置かれていた長椅子の上で丸くなったからだ。
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