小石だと思っていた妻が、実は宝石だった。〜ある伯爵夫の自滅

みこと。

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5.当主交代

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「ご安心ください、兄上。僕が留学中に立ち上げた商団を通じて、マーレ子爵家への支援は完了しています。僕が伯爵家に戻れば、陛下との密約も守られたことになるでしょう。速やかに引退くだされば、兄上にはこの先も、穏やかな生活を保障します」

 アーノルドの当主就任に先駆け、父親はロッキム家が持つ複数の爵位をひとつ分け、弟に男爵位を与えていた。
 分家というカタチで独立させていたが、今後はその弟を本家当主として呼び戻すわけだ。

「もっとも、子爵家の信頼を失った以上、義姉あね上との婚姻が続くことはありませんが」

 はっとしたように、アーノルドが顔をあげる。

「そうだ。そのアバズレは浮気をしていた。慰謝料を──」
「浮気ではありません。ともに行動していた相手の男とは、僕のことです」
「何?」
「様々な手続きのため、義姉あね上に同伴いただいていたのを、口さがない連中が勘違いしたのでしょう。僕の顔は、王都でまだ知られてませんから」
「お前……っ、いつから王都に来ていたんだ」
「数週間ほど前、でしょうか。父上とともに、王宮に滞在しておりました。にしても、何度ご連絡してもお帰りにならなかったのに、噂が耳に入るほうが早かったとは」

 "兄上、本当に今まで何をされていたのです"。


 ため息交じりのカールの声。
 厳しいまなざしのスザンナ。
 そして気の毒そうな執事の表情かお

 孤立したアーノルドは、事態の展開に追いつけず、無様に放心したのだった。




 ◇




 ロッキム伯爵家の当主が、兄から弟に代わったと、発表された。
 兄は病気により引退、とされているが、様々な憶測が社交界を巡る。

 妻スザンナがアーノルドと離婚した後、彼の弟と結ばれたからだ。

 アーノルド・ロッキムには遊びが派手なことで知られていたため、病気とは子孫に関する下の問題がアーノルドに起こったのでは、という推測。
 また、アーノルドが公の場に一度も妻を伴わなかったことから、スザンナとの不仲説や虐待説。結果、揉め事に発展したのではという推測。
 弟が兄嫁に横恋慕して、下剋上を成功させたという推測。

 真相を的中させた噂があったかどうかは、誰にもわからない。

 確かなのは、ロッキム伯爵家の新当主カールが、大商団を率いるり手であり、マーレ子爵家の新事業を発展させて、市場が大いに賑わったこと。
 その新事業の根幹──、食品の長期保存と携帯を可能にした"缶詰"を開発したのが、スザンナだったという事実。

 人々には、その結果だけで十分だった。

 ロッキム伯爵家は昇爵し、カールとスザンナは仲睦まじい夫婦として王国史に名を残すことになる。
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