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6.カールの想い
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【一年前】
「近々、兄上がご結婚? スザンナ・マーレ子爵令嬢と?!」
帰国したカール・ロッキムを待っていたのは、彼の心を打ち砕く報せだった。
兄の結婚相手の名が、カールの意中の令嬢だったからだ。
カールがスザンナと出会ったのは、留学先の隣国。
開発中の商品のため、隣国に素材探しに来ていた彼女と偶然出会い、その品ある仕草や知的な話題に惹かれた。
元気いっぱいの笑顔。健康的な肌に添えられた雀斑も愛らしく、とても魅力的な女の子。
商団を設立したばかりのカールは、金属類も商品として扱っていた。
スザンナは開発した"缶詰"の、食材ごとにあう様々な金属を探すため。そして安く安定して確保するため奔走していたから、カールと何度も顔を合わせ……、その度にカールの思いは募っていった。
聞けば、子爵家の娘だという。
現在は男爵である自分が、子爵令嬢を迎えることは難しい。だが、不可能ではない。
彼女に見合う財力や人脈を作り、スザンナが展望する事業も後押しすることが出来たら。
彼女の見る未来を共に見、傍で支えることが出来たら。
どんなにか素晴らしい、豊かな人生になることだろう。
スザンナに求婚出来るよう、彼女に相応しい男になろう。そして結婚を申し込もう。
懸命な努力の結果、商団も軌道に乗り、いざ、と意気込んだ途端、夢が崩れ去る絶望を味わった。
それでも彼女が、兄の元で幸せになるのであれば。
兄と義姉の門出を祝おう。
花嫁姿のスザンナを見て平常を保てる自信がないが、参列して「おめでとう」と伝えなくては。
──けれど、覚悟していた結婚式は行われなかった。
不審に思っていると、その後もスザンナが公の場に出る様子がない。
病気、という噂を聞いて、心配になった。隣国で会ったスザンナは、健康そのものだったのに。
結婚式もままならない程の病気ならば、相当辛いはず。治療を手伝いたい。もし珍しい薬が必要でも、商団を通じたら手に入るかもしれない。
スザンナの病気について、伯爵家の使用人を通じて探ったところ。
どうやら彼女は病気ではなく、兄に冷遇されているということが分かった。
それだけでも容認出来ないのに、兄はスザンナを顧みることなく、離れに押し込み遊び歩いているらしい。
自分が切望した、何よりも代えがたい宝を手に入れておきながら。
気持ちを押し殺し、何か、彼女の力になれることはないかと思い切って、スザンナに会いに行けば。
かつての溌剌さは翳り、スザンナは自分を"価値のない人間だ"と思い込みはじめていた。
実家との約束も叶えて貰えず、資金が足らず、心血注いだ商品が市場に広がることもない。
がっくりと肩を落とすスザンナを前に、呆然とした。
スザンナの作った商品は素晴らしく、世に出れば間違いなく世界を変える。
スザンナ自身の価値と、商品の価値を再認識して貰いたくて、支援を申し出た。
商団としても価値ある投資だと確信して。
スザンナがカールの申し出に感涙する。
同時に、疑問が過る。
アーノルドとカールの父は、約束を違えることを嫌う。
しかし兄の行いに、父が何も言っていないということは……?
スザンナに確認を促すと、父の、前伯爵との話と食い違いが出て来た。
支援は完了していると、父は聞いていたという。
ではマーレ子爵家に、送金が届いていない?
銀行を辿り、様々な調査の結果、引き出された支援金は、兄が日々の放蕩に散財していたことが判明した。
「兄上を呼び出して叱責を──」
スザンナの待遇改善も含めて。
カールの訴えに、父親は首を振った。
そこで父の口から、家督を譲る相手を間違えたという後悔と、王の密命の存在を知った。
ロッキム伯爵家は、大きく名を売り、実をとる機会だったのだという。スザンナの発明品を密かに認めていた、国王の采配により。
そういえばかつてスザンナから、"王都の社交界で商品を売り込もうとした"と、聞いたことがある。
彼女は華々しい王都でのデビュタントで、事業の展望を熱く語ったらしい。
場違いな話題のおかげで、結婚相手が見つからなかったと苦笑していたが。
もし、彼女の事業に興味を持った国王が、周囲を牽制したのだとしたら。
そしてその役割を、ロッキム家に回して来たのだとしたら。
カールは父親を見つめて、口を開いた。
事業支援は自分の商団が請け負っている。
スザンナとは以前から面識があり、恋焦がれていた。
彼女以外の妻は、迎えたくないと思う程に。
父親は、次男の熱い胸の内に「スザンナ嬢が了承するならば。それで我が家の過失が許されるのなら」と頷いた。
「近々、兄上がご結婚? スザンナ・マーレ子爵令嬢と?!」
帰国したカール・ロッキムを待っていたのは、彼の心を打ち砕く報せだった。
兄の結婚相手の名が、カールの意中の令嬢だったからだ。
カールがスザンナと出会ったのは、留学先の隣国。
開発中の商品のため、隣国に素材探しに来ていた彼女と偶然出会い、その品ある仕草や知的な話題に惹かれた。
元気いっぱいの笑顔。健康的な肌に添えられた雀斑も愛らしく、とても魅力的な女の子。
商団を設立したばかりのカールは、金属類も商品として扱っていた。
スザンナは開発した"缶詰"の、食材ごとにあう様々な金属を探すため。そして安く安定して確保するため奔走していたから、カールと何度も顔を合わせ……、その度にカールの思いは募っていった。
聞けば、子爵家の娘だという。
現在は男爵である自分が、子爵令嬢を迎えることは難しい。だが、不可能ではない。
彼女に見合う財力や人脈を作り、スザンナが展望する事業も後押しすることが出来たら。
彼女の見る未来を共に見、傍で支えることが出来たら。
どんなにか素晴らしい、豊かな人生になることだろう。
スザンナに求婚出来るよう、彼女に相応しい男になろう。そして結婚を申し込もう。
懸命な努力の結果、商団も軌道に乗り、いざ、と意気込んだ途端、夢が崩れ去る絶望を味わった。
それでも彼女が、兄の元で幸せになるのであれば。
兄と義姉の門出を祝おう。
花嫁姿のスザンナを見て平常を保てる自信がないが、参列して「おめでとう」と伝えなくては。
──けれど、覚悟していた結婚式は行われなかった。
不審に思っていると、その後もスザンナが公の場に出る様子がない。
病気、という噂を聞いて、心配になった。隣国で会ったスザンナは、健康そのものだったのに。
結婚式もままならない程の病気ならば、相当辛いはず。治療を手伝いたい。もし珍しい薬が必要でも、商団を通じたら手に入るかもしれない。
スザンナの病気について、伯爵家の使用人を通じて探ったところ。
どうやら彼女は病気ではなく、兄に冷遇されているということが分かった。
それだけでも容認出来ないのに、兄はスザンナを顧みることなく、離れに押し込み遊び歩いているらしい。
自分が切望した、何よりも代えがたい宝を手に入れておきながら。
気持ちを押し殺し、何か、彼女の力になれることはないかと思い切って、スザンナに会いに行けば。
かつての溌剌さは翳り、スザンナは自分を"価値のない人間だ"と思い込みはじめていた。
実家との約束も叶えて貰えず、資金が足らず、心血注いだ商品が市場に広がることもない。
がっくりと肩を落とすスザンナを前に、呆然とした。
スザンナの作った商品は素晴らしく、世に出れば間違いなく世界を変える。
スザンナ自身の価値と、商品の価値を再認識して貰いたくて、支援を申し出た。
商団としても価値ある投資だと確信して。
スザンナがカールの申し出に感涙する。
同時に、疑問が過る。
アーノルドとカールの父は、約束を違えることを嫌う。
しかし兄の行いに、父が何も言っていないということは……?
スザンナに確認を促すと、父の、前伯爵との話と食い違いが出て来た。
支援は完了していると、父は聞いていたという。
ではマーレ子爵家に、送金が届いていない?
銀行を辿り、様々な調査の結果、引き出された支援金は、兄が日々の放蕩に散財していたことが判明した。
「兄上を呼び出して叱責を──」
スザンナの待遇改善も含めて。
カールの訴えに、父親は首を振った。
そこで父の口から、家督を譲る相手を間違えたという後悔と、王の密命の存在を知った。
ロッキム伯爵家は、大きく名を売り、実をとる機会だったのだという。スザンナの発明品を密かに認めていた、国王の采配により。
そういえばかつてスザンナから、"王都の社交界で商品を売り込もうとした"と、聞いたことがある。
彼女は華々しい王都でのデビュタントで、事業の展望を熱く語ったらしい。
場違いな話題のおかげで、結婚相手が見つからなかったと苦笑していたが。
もし、彼女の事業に興味を持った国王が、周囲を牽制したのだとしたら。
そしてその役割を、ロッキム家に回して来たのだとしたら。
カールは父親を見つめて、口を開いた。
事業支援は自分の商団が請け負っている。
スザンナとは以前から面識があり、恋焦がれていた。
彼女以外の妻は、迎えたくないと思う程に。
父親は、次男の熱い胸の内に「スザンナ嬢が了承するならば。それで我が家の過失が許されるのなら」と頷いた。
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