小石だと思っていた妻が、実は宝石だった。〜ある伯爵夫の自滅

みこと。

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7.小石でも宝石でも

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 カールは義弟という立場を使い、何度もスザンナに会いに行った。

 ロッキム家からの仕打ちに対し、許しを乞うため。
 何より、傷ついたスザンナの心を慰めるため。
 誠心誠意、スザンナと接した。

 兄嫁に懸想していると気づかれると、スザンナに軽蔑されるかもしれない。
 身構えもしたが、スザンナは彼に優しかった。

 そして二人の時間を重ねるうちに、若さと快活さを取り戻した彼女は、見る見るうちに美しくなる。

 再会した時は、顔色の悪さとやつれた様子に目がいき、気づいてなかった。
 彼女の肌は抜けるように白く、雀斑ソバカスもない。

 不思議がるカールに、スザンナは笑って言った。「あれは外歩き用の化粧です」と。

 納得がいった。
 偽りないスザンナは、隠さなければ危険なほどの美貌の持ち主だった。

 "子爵令嬢は美人だ"という噂通りで、もしこの姿を兄が見ていたら、きっと片時も放さなかっただろう。
 スザンナには悲しい不運だったが、彼女の素晴らしさは外見だけではない。
 自分にとっては、外歩き用のスザンナも愛おしい。

 それにしても兄は一体どうしたのか。
 何度連絡を送っても、一向に屋敷で出会わない。スザンナの居る離れはともかく、本邸にも滅多に帰らない。

 やがて。
 父親が、兄アーノルドを見限った。

 王都に足を運んだ父の手足として、いろいろな手続きを進めるため、スザンナと行動を共にしていたら、あちこちで目撃されるようになった。カールが護衛も兼ねたので、外歩き用の化粧ではなく、貴婦人として装っている。そんな彼女はとても美しく、人の目をひいた。
 手続きの際、身元が判るものだから、"あの美人は誰だ"と傍で聞き耳を立てていた人々に、スザンナのことが知れ渡る。

「ロッキム伯爵夫人が、見知らぬ男と連れ立っている」
 即座に話題となった。
 スザンナの貴族姿は、一度見たら忘れられないほど際立っているため、噂になるのも早い。

 彼女の名誉に関わることだ。義弟なのだから、明らかにすれば醜聞にはならない。
(だが、別の憶測を呼ばないか?)
 悩んでいると、スザンナが笑った。

「ふふっ。アーノルド様が課した離婚の条件は、浮気です。彼が誤解すれば、きっと私たちの契約結婚は切れますわ」
「……貴女あなたは、それで良いのですか?」
「だってこの結婚は、続ける意味がありませんもの」

 "ごねられる前に、魔法契約を断ち切りたいの"。

 はっきりと言い切るスザンナは、すっかり以前通りの、いや、以前以上の輝きを放っている。

「巻き込んでしまって、カール様には申し訳ないのですが……」

「そんなことはない! 僕はずっと──! …………恥知らずだと思われそうですが、ずっと貴女あなたに懸想していました。隣国で初めて会った時から、貴女あなたに恋をしていたのです。そしてその思いは今でも変わっていません。貴女あなたを傷つけた男の弟として、とてもこんなことを言えた義理ではないのですが……」

 勢いで口走ってしまった心情に、カール自身戸惑い、目の前のスザンナも大きく目を見開いている。
 ぽつりと、スザンナが打ち明けた。

「私も……。はじめ、ロッキム家からの縁談とお聞きした時、とても心躍らせたのです。カール様だと……思ったから……」

「!!」

「お相手が兄君だと知らされた時は、内心がっかりしました。けれど心を込めてしっかりとお仕えしようと、気持ちを切り替え、そのつもりで嫁いだのです。だってカール様のお兄様だから。理想のカタチではなかったけれど、貴方と家族になれるから。でも……私に魅力が足りなくて……」

「まさか! 貴女は魅力に溢れている! 自分を卑下する言い方はやめると約束してくださったではありませんか」

 気がつくと、カールはスザンナの手に触れ、愛を告げていた。
 自分との未来を、考えて欲しいと。



 兄は間抜けだった。
 せっかく手に入れた至宝を、それと気づかずに粗末にした。

 こんなにも価値ある彼女。
 決して飼い殺して良い女性ではなかったのに。



 カールはいま、もっとも近いところで、愛するスザンナの眩しさに微笑む。
 燦然とした煌めきに、目を細めながら。
 彼女が幸せなら、自分はこんなにも満たされるのだと、心底驚きながら。

 宝石とか、小石とかではなく。スザンナはそのままで尊くて。
 そんな彼女を大切にしたいと、心から誓うカールだった。
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