私が聖女でした。〜侍女扱いされた本物の聖女がハッピーエンドを迎える話〜

井上 佳

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第8話

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 最悪だ。

 本当に、最悪。

「リリアーナ様の治癒では治らなかった」
「でも、貧民街を回っていた銀髪の娘が、本当に治してくれた」

 そんな噂が、宮廷中に広まっている。

 ありえない。
 私こそが聖女なのに。
 なぜ、あんな平民の侍女が称賛されるの?

「リリアーナ様」

 侍女が青ざめた顔で部屋に入ってきた。

「エドガー研究員が、聖力について詳しく調査しているそうです」

 心臓が、早鐘を打った。

「何ですって?」

 エドガー・クロイツ。
 あの皮肉屋の研究者。高位貴族の子息だと言うのに、大変な変わり者。
 彼が私の魔道具について調べているという情報は、以前から入っていた。

 でもまさか——本当に証拠を掴んでいるの?

「それと……ルーカス騎士団長が、セレスティアを庇う発言を……」
「黙りなさい!」

 思わず叫んでしまった。

 侍女が怯えて、部屋を出ていく。

 落ち着いて。
 落ち着くのよ、リリアーナ。

 鏡の前に座る。
 完璧に整えた髪、美しいドレス、宝石の輝き。

 でも——

 鏡に映る私の目は、怯えていた。

 私の立場が、揺らぎ始めている。

 アレクシス様の信頼を失うわけにはいかない。
 このままでは、あの娘に全てを奪われてしまう。

 私の地位。

 私の名声。

 私のアレクシス様。

 全部。


「絶対に、許さない」

 胸元のペンダント——古代の魔道具——を握りしめる。

 これは私の力。
 私の武器。

 セレスティアさえいなくなれば、私は安泰。
 誰も私を疑わない。
 何としてでも——

 あの娘を、貶める必要がある。

 窓の外から、民衆の声が聞こえる。

「銀髪の娘、優しい方だった」
「本当に癒してくれた」

 憎い。

 妬ましい。

 許せない。

 私は完璧な聖女のはずなのに。
 なぜ、なぜあんな娘が——

「待ってなさい」

 鏡の中の私は、もう聖女の顔をしていなかった。
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