144 / 177
第八章:湯けむりに包まれて
第142話・ふわふわの夜、穏やかな朝
しおりを挟む
ルナフィエラが、ふわりと腕の中のぬいぐるみを抱き直した。
「……でも、この子も大事なの。ふわふわしてて、安心するから」
「……」
4人の間に、絶妙な沈黙が流れる。
しかし、フィンが先に爆発した。
「だからその“安心”の席を奪ってるのが問題なんだってば!」
「……確かに」
シグが腕を組み、真面目な顔で頷く。
「本来その場所は、俺たちの誰かが交代で入るべきだ」
「え、場所って……」
ルナフィエラが首をかしげると、ユリウスが淡々と補足する。
「つまり、“抱かれて眠る位置”だね」
「そ、そんな言い方しないで……!」
彼女の頬が一瞬で真っ赤に染まる。
「……だが事実だろう」
シグがぼそりと呟き、ヴィクトルが静かに頷く。
「ルナ様が心安らかに眠るための“添い寝”です。それを妨げているとなれば――」
「ヴィクトルまで!?」
「……というか、そもそもあのぬいぐるみを買ったのは、僕たちだ」
「そうだよ!」フィンが両手を広げる。
「ルナが喜んでくれると思って買ったのに……なんで僕らが寝場所を奪われる側になってるの!?」
ルナフィエラはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、困ったように微笑んだ。
「みんながくれたから嬉しいの。……この子を見ると、みんなのこと思い出せるんだよ?」
その一言に、全員が沈黙した。
「……それを言われると、何も言えないな」(シグ)
「……まったく、ずるい」(ユリウス)
「ええ、本当に……可愛すぎます」(ヴィクトル)
3人が穏やかに頷く中で――フィンだけは黙っていなかった。
「……でも、僕は譲らない!」
「……は?」(シグ)
「だって! 今日逃したら、次にルナと寝れるのは4日後なんだよ!? そんなの無理! 無理無理無理!!」
「……必死すぎる」(ユリウス)
「情けないにもほどがあるな」(シグ)
「しかし、言い分としては一理ありますね」(ヴィクトル)
「ぬいぐるみさんは、ずっと一緒にいられるでしょ? でも僕たちは順番なんだよ! だから今夜だけは絶対、僕の番!」
ルナフィエラは目を瞬かせ、ぬいぐるみを抱きしめたまま小さく呟いた。
「……でも………」
「僕の方が安心する! ふわふわだってある!」
「どこが!?」
ユリウスの冷静なツッコミに、シグが吹き出す。
「ふわふわ……? 筋肉の塊じゃないか」(シグ)
「いや、心はふわふわなんだよ!!」
必死に主張するフィンに、ルナフィエラは思わず笑ってしまう。
「ふふっ……もう。そんなに言うなら、少しだけ、ね」
「ほんと!? ほんとに!?」
フィンの瞳が一気に輝く。
「でも、この子も一緒」
「えぇぇぇぇ!?!?」
廊下にフィンの絶望が響き渡った。
その背後で、ユリウスが静かに呟く。
「……結局、一番負けてるのはあれだな」
「同意だ」(シグ)
「哀れですね……」(ヴィクトル)
ルナフィエラはそんな3人の声を聞きながら、くすくす笑ってぬいぐるみの頭を撫でた。
今夜もまた、穏やかで、幸せな夜が更けていく。
翌朝――。
障子越しにやわらかな朝日が差し込む。
鳥の声と湯けむりの音。
静かな朝の空気の中、寝室の布団がもぞりと動いた。
「……フィン」
低く名前を呼んだのはシグだ。
ヴィクトルとユリウスもそっと覗き込む。
その先にあったのは――
ぬいぐるみをぎゅっと抱いたまま、すやすや眠るルナフィエラ。
そして、そのぬいぐるみごと彼女を包み込むように腕を回しているフィン。
「……ぬいぐるみを抱いたルナを、抱いてる……のか?」(シグ)
「実に器用だね」(ユリウス)
「……むしろ、平和的解決といえるのでは?」(ヴィクトル)
「……いや、負けてない。僕は勝った……」
寝言のように呟いたフィンの口元は、勝者のように満足げだった。
ルナフィエラの頬がぬいぐるみの毛並みに埋もれて、ほんのり赤い。
その安らかな寝顔に、3人の表情が自然と緩む。
「……まったく。結局こうなるんだな」
「うむ。だが……悪くない光景だ」
「ええ。しかし、お二人とも静かに。ルナ様が起きてしまいます」
小声で笑いながら襖を閉じ、3人はそっと立ち去る。
湯けむりの朝に、穏やかな寝息だけが静かに響いていた。
「……でも、この子も大事なの。ふわふわしてて、安心するから」
「……」
4人の間に、絶妙な沈黙が流れる。
しかし、フィンが先に爆発した。
「だからその“安心”の席を奪ってるのが問題なんだってば!」
「……確かに」
シグが腕を組み、真面目な顔で頷く。
「本来その場所は、俺たちの誰かが交代で入るべきだ」
「え、場所って……」
ルナフィエラが首をかしげると、ユリウスが淡々と補足する。
「つまり、“抱かれて眠る位置”だね」
「そ、そんな言い方しないで……!」
彼女の頬が一瞬で真っ赤に染まる。
「……だが事実だろう」
シグがぼそりと呟き、ヴィクトルが静かに頷く。
「ルナ様が心安らかに眠るための“添い寝”です。それを妨げているとなれば――」
「ヴィクトルまで!?」
「……というか、そもそもあのぬいぐるみを買ったのは、僕たちだ」
「そうだよ!」フィンが両手を広げる。
「ルナが喜んでくれると思って買ったのに……なんで僕らが寝場所を奪われる側になってるの!?」
ルナフィエラはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、困ったように微笑んだ。
「みんながくれたから嬉しいの。……この子を見ると、みんなのこと思い出せるんだよ?」
その一言に、全員が沈黙した。
「……それを言われると、何も言えないな」(シグ)
「……まったく、ずるい」(ユリウス)
「ええ、本当に……可愛すぎます」(ヴィクトル)
3人が穏やかに頷く中で――フィンだけは黙っていなかった。
「……でも、僕は譲らない!」
「……は?」(シグ)
「だって! 今日逃したら、次にルナと寝れるのは4日後なんだよ!? そんなの無理! 無理無理無理!!」
「……必死すぎる」(ユリウス)
「情けないにもほどがあるな」(シグ)
「しかし、言い分としては一理ありますね」(ヴィクトル)
「ぬいぐるみさんは、ずっと一緒にいられるでしょ? でも僕たちは順番なんだよ! だから今夜だけは絶対、僕の番!」
ルナフィエラは目を瞬かせ、ぬいぐるみを抱きしめたまま小さく呟いた。
「……でも………」
「僕の方が安心する! ふわふわだってある!」
「どこが!?」
ユリウスの冷静なツッコミに、シグが吹き出す。
「ふわふわ……? 筋肉の塊じゃないか」(シグ)
「いや、心はふわふわなんだよ!!」
必死に主張するフィンに、ルナフィエラは思わず笑ってしまう。
「ふふっ……もう。そんなに言うなら、少しだけ、ね」
「ほんと!? ほんとに!?」
フィンの瞳が一気に輝く。
「でも、この子も一緒」
「えぇぇぇぇ!?!?」
廊下にフィンの絶望が響き渡った。
その背後で、ユリウスが静かに呟く。
「……結局、一番負けてるのはあれだな」
「同意だ」(シグ)
「哀れですね……」(ヴィクトル)
ルナフィエラはそんな3人の声を聞きながら、くすくす笑ってぬいぐるみの頭を撫でた。
今夜もまた、穏やかで、幸せな夜が更けていく。
翌朝――。
障子越しにやわらかな朝日が差し込む。
鳥の声と湯けむりの音。
静かな朝の空気の中、寝室の布団がもぞりと動いた。
「……フィン」
低く名前を呼んだのはシグだ。
ヴィクトルとユリウスもそっと覗き込む。
その先にあったのは――
ぬいぐるみをぎゅっと抱いたまま、すやすや眠るルナフィエラ。
そして、そのぬいぐるみごと彼女を包み込むように腕を回しているフィン。
「……ぬいぐるみを抱いたルナを、抱いてる……のか?」(シグ)
「実に器用だね」(ユリウス)
「……むしろ、平和的解決といえるのでは?」(ヴィクトル)
「……いや、負けてない。僕は勝った……」
寝言のように呟いたフィンの口元は、勝者のように満足げだった。
ルナフィエラの頬がぬいぐるみの毛並みに埋もれて、ほんのり赤い。
その安らかな寝顔に、3人の表情が自然と緩む。
「……まったく。結局こうなるんだな」
「うむ。だが……悪くない光景だ」
「ええ。しかし、お二人とも静かに。ルナ様が起きてしまいます」
小声で笑いながら襖を閉じ、3人はそっと立ち去る。
湯けむりの朝に、穏やかな寝息だけが静かに響いていた。
1
あなたにおすすめの小説
【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果
下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。
一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。
純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。
小説家になろう様でも投稿しています。
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)
神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛
女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。
月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。
ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。
そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。
さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。
味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。
誰が敵で誰が味方なのか。
そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。
カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる