【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第十章:星霜の果て、巡り逢う

第174話・膝の上でほどけていく、優しさの行き先

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ぽそりと漏れたルナの一言で凍りついた空気。

次の瞬間──
3人が同時にズイッと迫ってきた。

ヴィクトルは優しい笑顔なのに、瞳だけが笑っていない。

「ルナ様、それは……冗談ですよね?」

フィンは勢いよく近づき、両手で肩を掴みそうな勢いで前のめり。

「や、だめだよ!! 今日は離れたくないよ!!」

シグは腕を組んだまま、影を落とすように低く言う。

「……ルナ、それは冗談でもナシだ」

(こ、怖い……!)

3人の圧に押され、ルナは慌てて両手を振った。

「ち、違うの! みんなと寝たくないって意味じゃなくて……
あの……喧嘩するなら……その……私、一人でも寝れるよって……!」

必死の弁明。

でも──
誰ひとり聞いていない。

「喧嘩じゃありません。譲れないだけです。
ルナ様が一人で寝るなど……ありえません」

ヴィクトルの即答。

「ルナと一緒に寝られないなんて、絶対むり!」

フィンは今にも泣きそうな声。

「……“お前を離す気はねぇ”って言ってんだよ」

シグの結論が強い。

(ど、どうしよう……全然伝わってない……!)

ルナはついに、唯一の希望へ視線を向ける。

「ユリウス……たすけて……」

ユリウスは深い溜息と共にお茶を置き、ゆっくり立ち上がった。

「はいはい。……もう見てられないな」

その一言で3人はピタッと動きを止め、ユリウスへ視線を向ける。

その双眸は静かで、主張よりも“ルナ”を最優先に置く強さが宿っていた。
ユリウスはルナの前に膝を折り、真正面から見つめる。

「ルナ。まず……君の意思を聞かせてくれ」

ルナは一瞬驚く。
でも、ユリウスはいつだって、ルナの“気持ち”を一番に扱ってくれる。

少し息を吸って、正直に言った。

「喧嘩しないで……みんなが仲良くしてくれるなら……
……一緒に寝たい、よ」

その瞬間、3人の顔が同時にぱっと明るくなる。
だがユリウスは手を上げ、制した。

「なら、そのうえで話そう」

空気が一気に落ち着き、全員が自然と聞き入る。
ユリウスには、立場や序列ではない“まとめる力”があった。

「今日は客室で寝る。ベッドには3人まで。
その上で、ルナが望むなら──」

一度だけ全員を見渡し、

「今日はヴィクトルとフィン。
明日はシグと……僕でいいだろう?」

シグは腕を組んだまま、しばらく黙り……
鼻で息を吐き、渋々といった顔で頷いた。

「……しゃあねぇ。順番なら文句はねぇ」

フィンはぱぁっと笑う。

「やった! 今日ルナと寝れる!」

ヴィクトルは胸に手を当て、深く頷いた。

「ユリウスの提案に異存はありません」

しかしユリウスは続ける。

「その代わり──」

3人が同時に身構える。

「このあとルナが眠るまでの時間は……ルナはシグの膝の上にいるといい。
今日、一番“損”をしているのは彼だからね」

「……っ!」

シグが僅かに目を見開き、照れくさそうに頬をかく。

「お、おいユリウス……そういうことさらっと言うなよ……」

ヴィクトルとフィンは、完全に反論の余地がなかった。
公平すぎる判断に、ぐうの音も出ない。

ルナはそんなやり取りを見つめながら、そっとユリウスに尋ねた。

「……ユリウスは、それでいいの?」

思いがけず気遣われ、ユリウスは一瞬まばたきをする。
すぐに柔らかく笑い、穏やかな声で答えた。

「……前世で最後まで、君のそばにいたのは僕だからね。
今日くらいは、譲るよ」

その声音は、どこまでも優しく、どこか痛い。
それでも、ルナは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

(……ユリウスは、やっぱり……優しいな……)

自分を大切にしつつ、周りの気持ちも汲んで一歩引く──
彼らしい、揺るがない愛の形。
その空気に包まれながら、ルナは自然と微笑んでいた。

ユリウスの示したとおり、ルナはシグへ歩み寄る。

「……シグ、いい?」

言い終えるより早く、シグの腕がゆっくり伸びた。

「当たり前だろ。……来い」

その声は低くて落ち着いていて、聞いた瞬間、胸の奥がふわりとほどけていく。

ルナが身を寄せると、シグはごく自然に抱き上げ、膝の上へ座らせた。

座った瞬間──

(……あ……シグの匂い……)

懐かしい温もり。
前世からずっと変わらない落ち着く香り。
体温が伝わるたび、心の奥で安心が静かに満ちていく。

守られている──
なにも言わなくても、ただここにいるだけでいいと身体の芯が思い出していった。

「……やっぱ軽ぇな。ちゃんと食べさせねぇと、すぐ飛んでいきそうだ」

低く呟きながら、けれどその声音は驚くほど柔らかい。
ルナはくすっと笑う。

「これからは……みんながいっぱい食べさせてくれるから、大丈夫だよ」

その返事に、シグは満足そうに口の端を上げた。
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