【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第十章:星霜の果て、巡り逢う

第176話・あたたかな手が重なる場所で

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ユリウスが想いを吐き出し、部屋の空気は深く揺れていた。
誰もすぐには言葉を返さない。
ただ眠るルナの存在が、その痛みも安堵もそっと包み込んでくれているようだった。

ユリウスはそっと手を伸ばし、ルナの頬にかかる髪を指先で払う。
その仕草は、これまで誰にも見せなかったほど繊細で──
深く長い時間を抱えてきた者だけが持つ、静かな愛情が宿っていた。

「……おやすみ、ルナ。もう……ひとりにはしない」

囁くように呟き、ユリウスはゆっくりと身を傾け、ルナの額へ──
触れるか触れないかの、羽のように軽い口づけを落とした。

その一瞬、彼の表情には“長い悔い”がほどけていくような安堵が滲む。
フィンは息を飲み、ヴィクトルは胸に手を当て、シグは静かに目を伏せる。

ルナの寝顔はまるで──
ユリウスの温もりを受け取ったかのように、ほんの少し柔らかく緩んで見えた。

ユリウスは小さく息を吐き、シグへ視線を向ける。

「……そろそろ、ベッドに寝かせたほうがいい」

シグはわずかに頷き、腕に抱いたルナの身体を、よりしっかりと抱き寄せた。

「……ああ。
このまま朝まで膝で寝かせておきたいが……
それはそれで怒られるしな」

ぼそっとこぼすシグに、フィンがクスッと笑い、ヴィクトルもわずかに肩を揺らす。

立ち上がるシグの腕の中で、ルナは小さく身体を丸めるように動いただけで、目を覚ます気配はない。

「……安心して眠れ。起きたら、みんないる。ルナはもう、一人じゃねぇ」

その声音には、前世と変わらない“守りたい”が溶けていた。

ほかの3人は自然とシグの後ろに続き──
眠るルナを囲むようにして、部屋の奥へと向かう。

その先には、今日だけルナのために整えられた、清潔で柔らかなベッドが待っている。


シグが抱いていたルナを、ヴィクトルがそっと腕を添えてベッドの中央へ寝かせた。

柔らかな布団に沈み込むルナの体は、長い一日を終えたばかりとは思えないほど安らかな寝顔を見せている。

「……ルナ様」

ヴィクトルは小さく名を呼び、
髪を絡めぬよう一筋そっと指で払う。
そのまま布団を胸元まで丁寧に整え、まるで宝物を扱うような仕草で隣に横になる。

反対側ではフィンが、嬉しさを隠しきれない笑顔で布団の中へもぐりこんでいく。

「……ルナ、絶対離れないからね」

小声だけれど、迷いのない声音。

返事はない。
でもルナの寝息は、“安心している”という気配がしっかりと感じ取れた。

2人は自然と、ルナの両手をとった。

ヴィクトルは指先を絡めるように、鼓動の温度まで確かめるように。
フィンは手のひら全体を包むように、あたたかさを確かめるようにぎゅっと。

「……離しませんから」

「……ずっと一緒に寝るんだもん」

そんな言葉を落としながら、ルナの温もりを両側から大切に抱え込む。

布団の中心には、転生を越えてようやく再会した“彼らの中心”であるルナ。
その左右には、長い孤独をようやく終えた2人の穏やかな幸福が満ちていた。


一方、ユリウスとシグはベッドから少し離れたソファーを整えながら、小さく息を吐いていた。

「……まあ、今日は仕方ないな」

シグは腕を組んだままぼそっと言う。

「明日は僕たちの番だ。
今は……あの2人にとっても、大切な夜だろう」

ユリウスの声は落ち着いているが、その視線は優しく、どこか微笑ましく2人とルナを見つめていた。

ソファに横になりながらも、2人とも眠る気配はない。
ただ、時折ルナの寝息が聞こえるたびに、胸の奥が温かく満たされていく。

「……よかったな。
ルナが、ちゃんと戻ってきてくれて」

シグの低い声に、ユリウスはわずかに笑う。

「……ああ。心から……そう思う」

5人で迎える、転生後初めての夜。

静かで、あたたかくて、
失われた時間の続きを柔らかく取り戻していくような──

そんな夜が、ゆっくりと更けていった。
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