純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第三章:堕ちた月、騎士たちの誓約

第26話・死闘の戦場

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ヴィクトルがルナフィエラを救うため、研究所の奥へと消えていった。
その瞬間、シグ、ユリウス、フィンはさらに激しい戦闘へと突入していく。

研究所の入り口周辺は、すでに血と魔力の嵐が渦巻いていた。

魔族、ヴァンパイア、人間の兵士——
彼らは皆、ルナフィエラの血を摂取し 本来の限界を超えた力を得ていた。

「くそ……タチが悪いな」

シグは 斧を振りかぶりながら敵を叩き伏せる。

「強化されてるだけじゃない。妙に動きが読みにくい」

ユリウスが、冷静な表情で魔法を展開しつつ分析する。

「おそらく、ルナの血の影響で魔力の流れが変質しているんだろう」

「つまり?」

シグが短く問う。

「一度倒しても、すぐに回復する」

「……最悪だな」

シグは舌打ちしながら、突進してくる魔族の戦士を迎え撃つ。

——ガキィン!!!!

巨大な斧と魔族の刃が 激しくぶつかり合い、火花が散る。

だが、その魔族の剣は 通常のものとは明らかに違った。

「……強い」

シグが わずかに唸る。

相手の膂力は、通常の魔族をはるかに凌駕していた。
ルナフィエラの血を取り込んだ影響で、ただの戦士が“化け物”へと変貌していたのだ。

「それだけじゃない。攻撃速度も、回復速度も尋常じゃない。」

フィンが、シグの背後に控えながら息を荒げる敵たちを見つめる。

彼らの肉体は、瞬時に再生し、傷を負ってもすぐに回復してしまう。

「……くそが、どいつもこいつもタフすぎる」

シグは 苦々しく呟く。

その時、敵の一体が突如として爆発的な速度で飛びかかってきた。

「……っ!」

「フィン、避けろ!」

シグが咄嗟に動く。

フィンは魔法で防御結界を張る が、敵の拳がそのまま突き破ってきた。

「ぐっ……!」

「——遅い」

魔族の刃が フィンの喉元に迫る瞬間、

——ズバァァァンッ!!!!

巨大な雷撃が炸裂し、敵の体を弾き飛ばした。

「フィン、お前の防御魔法も万能じゃないぞ」

ユリウスが余裕を見せつつも、内心警戒しながら敵を睨みつける。

「いや、わかってる……けど、これは……」

フィンが顔を歪めながら、敵を見つめた。

さっき、ユリウスの雷撃で跡形もなく焼き焦がされたはずの魔族が……ゆっくりと再生を始めていたのだ。

「……おいおい、冗談だろ」
シグが 奥歯を噛み締める。

再生の速度が、さっきよりもさらに速くなっている。

「……やっぱりルナの血の影響か」
ユリウスが、冷静に分析する。

「強化された個体ほど、再生能力も飛躍的に向上している……戦えば戦うほど、こっちが不利になる。」

「つまり、片っ端から瞬殺するしかねぇってことか」

シグが 斧を担ぎ直し、闘志を燃やす。

「フィン、援護頼む」

「了解。でも無茶はしないで」

フィンが 回復魔法を展開しながらシグに寄り添う。

その時——

「おい、敵が増えてるぞ」

ユリウスが 苛立ったように言った。

研究所の奥から、さらに 魔族やヴァンパイア、強化された人間の兵士たちが続々と現れる。

「……ルナの血を摂取して強化された奴らをこんなに量産してたってわけか」

ユリウスが目を細める。

「このままじゃ持たないな」

「……なら、手っ取り早く突破するぞ」
シグが 低く唸るように言う。

「俺が前を切り開く、お前らはその隙に一気に抜けろ!」

「……お前、また無茶をするつもりか?」

フィンが 不安そうに眉を寄せる。

「俺が無茶しなきゃ突破できねぇだろ」

シグは 血に濡れた斧を担ぎ上げ、戦場へと突き進んでいく。

「——行くぞ!!!!」

その瞬間、シグの巨斧が大地を叩き割り、雷のような衝撃波が敵陣を襲った。

——ドゴォォォォン!!!!

魔族たちが 吹き飛び、戦場が一時的に混乱する。

「今だ!」

ユリウスがフィンの腕を掴み、一気に突破を図る。

フィンも防御魔法を展開しながら、敵の間をすり抜ける。

そのまま三人は、ヴィクトルとルナフィエラと合流するため奥へと向かって駆け出した——!


ヴィクトルがルナを抱えて、薄暗い研究所の通路を駆け抜ける。
その途中、ついにシグ、ユリウス、フィンと合流した。

——しかし、3人の足が止まった。

「……ルナ……」

フィンが青ざめた表情で呟く。

「ひどい……」

ユリウスも珍しく言葉を詰まらせた。

ルナフィエラは、まるで人の限界を試すかのように血を搾り取られ、生命の灯が消えかけていた。
肌は蒼白を通り越し、青ざめ、唇は乾いてひび割れている。
意識はあるのかすら分からないほど微かに動くだけだった。

それでも、まだ生きている。
だが このままでは、本当に手遅れになる。

「……敵が、来る」

シグが低く呟いた。

戦場は、まだ終わっていなかった。

倒したはずの魔族や兵士たちが、 再生しながらじわじわと包囲を始めていた。
最悪の事態だ。

「くそ……こうも執拗に復活するとは」
ユリウスが苦々しげに舌を打つ。

「もう限界だ……このまま戦ってもジリ貧だ」

ヴィクトルが 唇を噛み締める。

「撤退するにしても、敵が多すぎる」

シグが低く呟く。

「それに……ルナの状態も……」

フィンが ルナを見つめ、拳を握りしめた。


このままではダメだ。
戦っても終わりがない。
敵の強化再生能力は、ルナフィエラの血の影響が強すぎる。
このままでは戦いが長引くほど、こちらの消耗だけが激しくなる。

「……どうする?」

ユリウスが焦りを見せ始める。

その時——

「……まだ手はある」

フィンが、おもむろに自分のピアスに触れた。

——カチン。

小さな音が響く。
フィンの耳飾りが 微かに輝き出した。

「フィン?」

ヴィクトルが 訝しげにフィンを見た。

「……もう躊躇してる暇はない」

フィンが静かに目を閉じ、短い呪文を紡ぐ。

「セイクリッド・レイン」

——聖剣の雨

彼がピアスに溜めていた一回分の魔力が解放された瞬間——

光の奔流が、研究所の天井を突き抜けた。

「——っ!!?」

敵の兵士や魔族たちが、一斉に顔を上げる。

——天井が、裂けるように輝いていた。

そこには、数百の神聖な剣が、光の弧を描きながら降り注いでいた。

「……やっべぇな」

シグが 思わず息を呑む。

「フィン、お前……!」

ユリウスも 驚愕の表情でフィンを見つめた。

——ズドォォォォォォン!!!!

神聖な光の剣が 次々と地面へと突き刺さり、浄化の光を広げていく。

敵の魔族やヴァンパイアたちは 悲鳴を上げながら消滅していく。
再生能力を持っていた敵ですら、 その光の中では回復することができない。

ルナフィエラの血で強化されていたはずの敵が、フィンの聖なる力の前では無力だった。

「……やっぱり、強いな」

ヴィクトルが 息を呑む。

「……驚いた」

ユリウスも、僅かに目を見開く。

フィンは 息を切らしながらも、淡々と言った。

「……今のうちに撤退する。もうこれ以上、ルナを危険に晒せない。」

4人は倒れた敵を横目に、研究所からの脱出を開始した。

ヴィクトルはルナをしっかりと抱え直し、逃げる準備を整えた。

「よし、行くぞ!」

シグが 最前線に立ち、先導する。

「ルナのためにも、絶対に生きて帰るぞ」

ユリウスが 魔法を展開しながら頷く。

「……ああ」

フィンも、力強く頷いた。

——こうして、ルナフィエラ奪還の戦いは終焉へと向かっていった。
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