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第三章:堕ちた月、騎士たちの誓約
第27話・解放と傷跡
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ヴィクトルはルナフィエラをしっかりと抱え、全速力で先頭を走った。
ルナの体温は驚くほど冷たく、その細い体は軽すぎた。
——生きている。
しかし、その命がどれほど危ういか、痛いほどに分かる。
ユリウス、フィンと続き、最後尾にはシグ。
魔物や魔族たちとの戦闘は終わったが、まだ安心はできない。
古城まではまだ距離があった。
(……このまま、無事に戻るぞ……!)
ヴィクトルは強く決意し、足を止めることなく走り続けた。
——しばらくして、追手の気配が消えた。
ようやく少しの余裕ができ、4人は深い森の木々の陰で一度足を止めた。
「……ひとまず、追っては来ていないな」
シグが背後を確認しながら低く言う。
「……フィン。ルナ様の魔力封印具を、外せるか?」
ヴィクトルが ルナフィエラを抱えたまま、尋ねる。
封印具は今もルナの首にしっかりとはめられていた。
肌に食い込むように焼き付けられ、そこから 焦げたような痕が広がっている。
「……できるよ。でも……」
フィンは険しい表情を浮かべ、そっとルナフィエラの首元を見た。
「すぐに外してくれ」
ヴィクトルの声は低く、苛立ちを帯びていた。
フィンは短く頷き、封印解除の呪文を唱え始める。
「——エクス・ディシールム」
静かな響きが森に広がる。
すると、封印具が かすかに軋むような音を立て、ルナの首元から外れた。
ガチャ——ン……
金属が地面に落ち、鈍い音を立てた。
——しかし、その下に残されたものは、痛ましい火傷の跡だった。
ルナの首には炎に焼かれたような痕が刻まれ、肌は赤黒く腫れ上がっていた。
「……っ!」
ヴィクトルが 僅かに息を呑む。
「酷い……」
フィンも 苦しげに顔を歪める。
「こんなものを……!」
ユリウスは封印具を睨みつけ、舌打ちをした。
「……許せねぇな」
シグは 無言のまま拳を握り締めた。
ヴィクトルはそっとルナフィエラの頬に触れ、微かな温もりを確かめるように撫でた。
「……すぐに治せるか?」
フィンは迷わず頷いた。
「うん……でも、傷が深いから、一度では完全に消せないかも」
「構わない。少しでも和らげてやってくれ」
フィンはすぐに治癒魔法を行使した。
優しい緑の光がルナの首を包み込み、焼けつくような痕が徐々に薄れていく。
だが、それでも完全に消えることはなかった。
「……くそ……」
フィンは 悔しげに拳を握った。
「ルナが目を覚ましたら、痛みが残るかも……」
「……それでも、少しでも楽になったなら……」
ヴィクトルは、ルナフィエラをそっと抱きしめる。
「……古城に急ぐぞ」
ユリウスが冷静に言う。
「……ルナを、休ませてやらねぇとな」
シグも静かに呟いた。
ヴィクトルはしっかりとルナフィエラを抱え直し、再び歩き出した。
ルナフィエラの傷が完全に癒えるまで——彼らの戦いは、まだ終わらない。
——————
しばらく走り続けた後、ようやく古城の門が見えてきた。
「……っ、着いた……」
全員、疲労困憊だった。
戦闘の傷、魔力の消耗、そして何より——ルナフィエラの瀕死の状態。
だが、何よりも優先すべきはルナフィエラだった。
ヴィクトルは真っ先にルナフィエラを抱えたまま城へ駆け込んだ。
その後ろをユリウス、フィン、シグが続く。
「……ベッドに、寝かせてやれ」
ユリウスの言葉に、ヴィクトルは 慎重にルナフィエラをベッドへ横たえた。
柔らかな布団の上に横たえられたルナフィエラは、白く冷たい。
まるで命の灯が、今にも消えそうなほど——儚かった。
「フィン、頼む」
ヴィクトルの声は僅かに震えていた。
フィンは すぐに治癒魔法を発動した。
優しい緑の光がルナの身体を包み込む。
しかし——
魔力が吸い込まれるだけで、何の回復の兆しも見られなかった。
「……くっ!」
フィンの額に汗が滲む。
「駄目だ……! 何度魔法をかけても、回復しない……!」
「……何?」
ヴィクトルは驚き、ルナフィエラの手をそっと握った。
冷たい。
今にも 命が消えてしまいそうなほど、血の気がない。
ユリウスが静かにルナの手に触れ、目を閉じる。
——流れるはずの血が、ほとんど巡っていなかった。
「……ルナの血が、ほとんど残っていない」
ユリウスは低く呟いた。
「加えて、何らかの薬を使われている。強制的に血を作らされ、それが全身に負荷をかけている。おそらく……心臓にもかなりの負担がかかっているはずだ」
「……そんな」
フィンは 唇を噛み締めた。
「だったら、どうすれば……」
ヴィクトルが 苦しげに問いかける。
ユリウスは思案する。
「血が不足しているなら、補充すればいい……」
「……吸血か?」
ヴィクトルの言葉に、ユリウスは小さく頷く。
「そうだ。ヴァンパイアならば、吸血によって血を補い、生命力を回復させることができる」
「だが、ルナ様は意識がない」
「……そうだな」
ユリウスは 沈痛な表情を浮かべる。
「無理に吸血させるのは難しい。ならば……生命維持を優先し、魔力供給を行うか」
「魔力供給……?」
「本来、吸血鬼は血によって生命を繋ぎ止めるが、魔力の流れを整えることで、一時的に命を維持することは可能だ」
「……だが、それには効率のいい方法が必要になる」
ユリウスの紫の瞳が僅かに揺れた。
「……一番効率がいいのは、粘膜接触による魔力供給だ」
その場の空気が 一瞬、張り詰めた。
「……しかし」
「ルナ様の許可なしに、勝手に行うわけにはいかない」
ヴィクトルの声には、確固たる騎士としての誇りと、ルナへの敬意が込められていた。
「……手詰まりか」
ユリウスは深いため息をついた。
シグも腕を組みながら、じっとルナの顔を見つめていた。
「……どうすれば、ルナ様を救える?」
ヴィクトルの悩むような声が、静かな部屋に響いた。
——ルナを救うための、答えはまだ出ない。
ルナの体温は驚くほど冷たく、その細い体は軽すぎた。
——生きている。
しかし、その命がどれほど危ういか、痛いほどに分かる。
ユリウス、フィンと続き、最後尾にはシグ。
魔物や魔族たちとの戦闘は終わったが、まだ安心はできない。
古城まではまだ距離があった。
(……このまま、無事に戻るぞ……!)
ヴィクトルは強く決意し、足を止めることなく走り続けた。
——しばらくして、追手の気配が消えた。
ようやく少しの余裕ができ、4人は深い森の木々の陰で一度足を止めた。
「……ひとまず、追っては来ていないな」
シグが背後を確認しながら低く言う。
「……フィン。ルナ様の魔力封印具を、外せるか?」
ヴィクトルが ルナフィエラを抱えたまま、尋ねる。
封印具は今もルナの首にしっかりとはめられていた。
肌に食い込むように焼き付けられ、そこから 焦げたような痕が広がっている。
「……できるよ。でも……」
フィンは険しい表情を浮かべ、そっとルナフィエラの首元を見た。
「すぐに外してくれ」
ヴィクトルの声は低く、苛立ちを帯びていた。
フィンは短く頷き、封印解除の呪文を唱え始める。
「——エクス・ディシールム」
静かな響きが森に広がる。
すると、封印具が かすかに軋むような音を立て、ルナの首元から外れた。
ガチャ——ン……
金属が地面に落ち、鈍い音を立てた。
——しかし、その下に残されたものは、痛ましい火傷の跡だった。
ルナの首には炎に焼かれたような痕が刻まれ、肌は赤黒く腫れ上がっていた。
「……っ!」
ヴィクトルが 僅かに息を呑む。
「酷い……」
フィンも 苦しげに顔を歪める。
「こんなものを……!」
ユリウスは封印具を睨みつけ、舌打ちをした。
「……許せねぇな」
シグは 無言のまま拳を握り締めた。
ヴィクトルはそっとルナフィエラの頬に触れ、微かな温もりを確かめるように撫でた。
「……すぐに治せるか?」
フィンは迷わず頷いた。
「うん……でも、傷が深いから、一度では完全に消せないかも」
「構わない。少しでも和らげてやってくれ」
フィンはすぐに治癒魔法を行使した。
優しい緑の光がルナの首を包み込み、焼けつくような痕が徐々に薄れていく。
だが、それでも完全に消えることはなかった。
「……くそ……」
フィンは 悔しげに拳を握った。
「ルナが目を覚ましたら、痛みが残るかも……」
「……それでも、少しでも楽になったなら……」
ヴィクトルは、ルナフィエラをそっと抱きしめる。
「……古城に急ぐぞ」
ユリウスが冷静に言う。
「……ルナを、休ませてやらねぇとな」
シグも静かに呟いた。
ヴィクトルはしっかりとルナフィエラを抱え直し、再び歩き出した。
ルナフィエラの傷が完全に癒えるまで——彼らの戦いは、まだ終わらない。
——————
しばらく走り続けた後、ようやく古城の門が見えてきた。
「……っ、着いた……」
全員、疲労困憊だった。
戦闘の傷、魔力の消耗、そして何より——ルナフィエラの瀕死の状態。
だが、何よりも優先すべきはルナフィエラだった。
ヴィクトルは真っ先にルナフィエラを抱えたまま城へ駆け込んだ。
その後ろをユリウス、フィン、シグが続く。
「……ベッドに、寝かせてやれ」
ユリウスの言葉に、ヴィクトルは 慎重にルナフィエラをベッドへ横たえた。
柔らかな布団の上に横たえられたルナフィエラは、白く冷たい。
まるで命の灯が、今にも消えそうなほど——儚かった。
「フィン、頼む」
ヴィクトルの声は僅かに震えていた。
フィンは すぐに治癒魔法を発動した。
優しい緑の光がルナの身体を包み込む。
しかし——
魔力が吸い込まれるだけで、何の回復の兆しも見られなかった。
「……くっ!」
フィンの額に汗が滲む。
「駄目だ……! 何度魔法をかけても、回復しない……!」
「……何?」
ヴィクトルは驚き、ルナフィエラの手をそっと握った。
冷たい。
今にも 命が消えてしまいそうなほど、血の気がない。
ユリウスが静かにルナの手に触れ、目を閉じる。
——流れるはずの血が、ほとんど巡っていなかった。
「……ルナの血が、ほとんど残っていない」
ユリウスは低く呟いた。
「加えて、何らかの薬を使われている。強制的に血を作らされ、それが全身に負荷をかけている。おそらく……心臓にもかなりの負担がかかっているはずだ」
「……そんな」
フィンは 唇を噛み締めた。
「だったら、どうすれば……」
ヴィクトルが 苦しげに問いかける。
ユリウスは思案する。
「血が不足しているなら、補充すればいい……」
「……吸血か?」
ヴィクトルの言葉に、ユリウスは小さく頷く。
「そうだ。ヴァンパイアならば、吸血によって血を補い、生命力を回復させることができる」
「だが、ルナ様は意識がない」
「……そうだな」
ユリウスは 沈痛な表情を浮かべる。
「無理に吸血させるのは難しい。ならば……生命維持を優先し、魔力供給を行うか」
「魔力供給……?」
「本来、吸血鬼は血によって生命を繋ぎ止めるが、魔力の流れを整えることで、一時的に命を維持することは可能だ」
「……だが、それには効率のいい方法が必要になる」
ユリウスの紫の瞳が僅かに揺れた。
「……一番効率がいいのは、粘膜接触による魔力供給だ」
その場の空気が 一瞬、張り詰めた。
「……しかし」
「ルナ様の許可なしに、勝手に行うわけにはいかない」
ヴィクトルの声には、確固たる騎士としての誇りと、ルナへの敬意が込められていた。
「……手詰まりか」
ユリウスは深いため息をついた。
シグも腕を組みながら、じっとルナの顔を見つめていた。
「……どうすれば、ルナ様を救える?」
ヴィクトルの悩むような声が、静かな部屋に響いた。
——ルナを救うための、答えはまだ出ない。
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