【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第五章:みんなと歩く日常

第64話・その夜、シグとの時間

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ルナフィエラの寝室に灯る柔らかなランプの明かり。
夜も更け、寝支度を終えたルナフィエラは、少し緊張した面持ちで部屋の片隅にあるソファへ視線を向けた。

そこには、シグが無言で腰を下ろしていた。
いつもと変わらぬ落ち着いた雰囲気。けれど――

「……ルナ、こっちに来い」

その低く穏やかな声に、ルナフィエラは小さく頷き、
そろりそろりと歩み寄っていく。

「ひ、膝の上って……やっぱり、ここなの……?」

「そうだ。俺は動かないからな」

シグはあくまで自然体で、
腕を広げて彼女を受け入れる準備を整えていた。

ルナフィエラは小さく息を吸い込み、そっとその膝の上に腰を下ろす。

(……シグの膝……大きい。あったかい……)

抱えられるような姿勢になりながらも、
緊張のせいでルナフィエラの手がわずかに震えていた。

そんな彼女の前で、シグは無言のまま、自らの手首を上げ――
鋭く、短く、自分の爪でスッと切り裂いた。

赤い血が静かににじみ出る。

「ほら。――ルナが満足するまで、飲め」

その一言に、ルナフィエラの胸がきゅっと締めつけられた。
無言で首を振ろうとしかけるも、シグの瞳がそれを許さない。

「……遠慮するな。俺は、ちゃんとわかってる。
“血をもらう”ってことが、今のルナにとって、どれだけ大事か」

「……シグ……」

「ヴィクトルのとは違うだろうが……俺の血も、力になるはずだ」

差し出された手首からは、
ヴィクトルのそれとはまた異なる――どこか野性味を帯びた濃厚な魔力が漂っていた。

ルナフィエラは静かに、その手首に唇を寄せる。

(……いただきます)

ちゅ、と音を立てて血に口をつける。
舌に触れた瞬間、ルナの目がわずかに見開かれた。

(……あったかい。強い……けど、優しい……)

ヴィクトルの血が“静かに広がる炎”だとしたら、
シグの血は“燃え上がる焔”のよう。
ぐっと体の奥に押し寄せてきて、一気に満たしてくれる。

「……うまいか?」

「……ん、うん……すごく……」

「なら、いい」

シグはそれ以上何も言わず、ただそっとルナフィエラの背を支えた。

ルナフィエラは彼の胸に寄りかかりながら、
お腹いっぱいになるまで、ゆっくりと吸血を続け――

やがて、口を離すと、
そのままトロンとした目でシグの胸元に顔を埋める。

「……シグ……あったかい……」

「おう。……しばらく、そのままでいいぞ」

膝の上、優しく抱えられながら、
ルナフィエラはゆっくりとまどろみに沈んでいった。


シグの膝の上で、ルナフィエラはゆるゆるとまどろみながらも、
眠るにはまだ惜しいような甘い感覚の中にいた。

(……シグの血、美味しかった……)

胸元に寄りかかったまま、じんわり満ちる温もりと安心感。
魔力だけじゃない、何か大きなものに包まれている気がして――

「……シグ」

「ん?」

「もうちょっとだけ……こうしてていい……?」

「……そう言われて、断る理由があるか?」

低く落ち着いた声が、すぐ近くで響く。
その声に、ルナフィエラの頬がふわっと熱を帯びた。

「……なんか、こうしてると……全部どうでもよくなる」

「……」

「怖いこととか……不安とか……全部、どっかに行っちゃう感じ」

「――そりゃ、嬉しいこと言ってくれるな」

シグは片腕をルナフィエラの背にまわし、もう片方の手でそっと彼女の髪を梳いた。
力強くも優しいその指先に、ルナフィエラの肩の力が抜けていく。

(……気持ちいい)

「……シグの血、すごく“生きてる”って感じがしたの。力強くて、あったかくて……なんか、“守ってくれてる”って」

「それが俺の仕事だからな」

「……“お兄ちゃん”みたい」

「……」

不意に、シグの動きが止まった。

「……悪かったな」

少し拗ねたように呟かれて、ルナフィエラはきょとんと顔を上げる。

「えっ、なんで?」

「……“お兄ちゃん”って言われると、色々と複雑になる」

と、小声で呟いたその横顔に、思わず吹き出しそうになる。

「……あ、ご、ごめん」

「……まあ、許す」

ルナフィエラはくすっと笑いながら、そっとシグの胸に頭を預け直す。
今度は、ぴったりと自分から寄り添って。

「じゃあ、“大切な人”ってことで……」

「――それは、ちゃんと覚えとく」


その夜、
ルナフィエラは眠るまで、ずっとシグの膝の上にいた。

そしてシグも、膝が痺れるのも気にせず、
ただ静かに、優しく、ルナフィエラを支え続けていた。
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