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第五章:みんなと歩く日常
第76話・静けさの中に、ある安らぎ
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「……ルナ、顔真っ赤だけど、大丈夫?」
フィンの無邪気な声が横の席から飛んでくる。
その瞬間、ルナフィエラの動きがぴたりと止まった。
「えっ……あ……べ、べつに……っ!」
思わずパンを持つ手が空中で揺れ、急いでそれを口元に運ぶ。
けれど食べても、火照った頬は冷めず、むしろ熱が伝わるようにじわじわと赤みを増していく。
「おや?さっきはあんなに堂々としてたのに。どうしてそんなに焦ってるのかな?」
近くに座るユリウスが、さらりとした口調で言った。
からかっているというより、ただ事実を述べたような声音だったが、それがまたルナフィエラの羞恥心に火をつけた。
「っ……な、なにそれ……!」
(もうやだ……!)
パチパチと弾けるような視線の集中。
心臓がうるさく跳ねて、どこを見てもユリウスと目が合いそうで、目のやり場がない。
(……だめ、もう限界……)
突き刺さる視線、にやにやした空気、恥ずかしさで膨れ上がる鼓動。
ルナフィエラは立ち上がるように椅子を引くと、ユリウスに背を向けるように、隣に座るシグの膝の上にすとんと乗ってしまった。
「……ルナ?」
不意の行動に、さすがのシグも少し驚いたように目を見開いたが、それだけだった。
ルナフィエラは黙ったまま、ぎゅっとシグの腕に顔を埋める。
(……落ち着く。あったかい……)
静かで、何も言わずに受け止めてくれる場所。
シグの体温がじんわり伝わってきて、ルナの荒れていた心がすうっと鎮まっていく。
「……ユリウス、やりすぎだ」
ヴィクトルが低く呟くと、ユリウスは肩をすくめる。
「ふふ、彼女の“自覚”を促しただけさ」
「……見守るって話、忘れたわけじゃないだろうな」
「忘れてないよ。ただ、手を伸ばせば届く距離にいたら、抱きしめたくなる。それもまた自然なことだろう?」
ヴィクトルは何も返さなかったが、その視線はルナフィエラに向けたまま、静かに深まっていく。
一方、ルナフィエラはといえば、シグの上でようやく心拍が落ち着いてきたのか、小さく息を吐いていた。
「……落ち着いたか?」
シグがぽつりと小さく声を落とす。
ルナは頷き、目元を彼の服の布地にこすりつけた。
「……うん」
その声はかすかに震えていたけれど、不安の色はなかった。
ただただ、安心している声だった。
(……やっぱり、シグのところは安心する)
騒がしい気持ちや、甘くて痛い記憶。
それを全部、ひとときだけでも忘れさせてくれるようなぬくもりが、シグにはあった。
「……もう少しだけ、こうしてていい?」
「……ああ。好きにしていい」
短く返されたその言葉に、ルナフィエラは小さく笑った。
――あったかい。嬉しい。
でもその「嬉しい」の奥に、何かが揺れ始めていることに、ルナフィエラ自身まだ気づいていなかった。
シグの膝の上でしばらく静かに過ごしたルナフィエラは、落ち着きを取り戻した後、そっと身を起こした。
名残惜しそうにシグの手を握りつつも、微笑んで小さく「ありがとう」と囁く。
シグは特に言葉を返さず、いつものように静かに頷いた。
静かな午後の時間。
古城の奥、重厚な扉を開けた先にある書庫には、古今の書物がずらりと並んでいた。
その片隅――木製の小さなテーブルとソファが置かれた一角で、ルナフィエラはユリウスと並んで座っていた。
手にしているのは、昨日街で購入したばかりの本。
けれど、ページを開いたとたん、ルナの眉がわずかに寄る。
「この文字、ちょっと難しい……」
「古語の書き方だね。中身は神話の再話だから、ところどころ難解かもしれない」
そう言いながら、ユリウスはルナフィエラの手元にそっと視線を落とす。
ページの片隅を指で押さえながら、彼女が読みやすいよう、穏やかな声で少しずつ言葉の意味を解きほぐしていく。
ルナフィエラは、うんうんと何度もうなずきながら、彼の言葉を真剣に聞いていた。
けれど、言葉の意味がわかるたび、嬉しそうに顔を輝かせるその姿は、まるで子どものように無邪気だった。
フィンの無邪気な声が横の席から飛んでくる。
その瞬間、ルナフィエラの動きがぴたりと止まった。
「えっ……あ……べ、べつに……っ!」
思わずパンを持つ手が空中で揺れ、急いでそれを口元に運ぶ。
けれど食べても、火照った頬は冷めず、むしろ熱が伝わるようにじわじわと赤みを増していく。
「おや?さっきはあんなに堂々としてたのに。どうしてそんなに焦ってるのかな?」
近くに座るユリウスが、さらりとした口調で言った。
からかっているというより、ただ事実を述べたような声音だったが、それがまたルナフィエラの羞恥心に火をつけた。
「っ……な、なにそれ……!」
(もうやだ……!)
パチパチと弾けるような視線の集中。
心臓がうるさく跳ねて、どこを見てもユリウスと目が合いそうで、目のやり場がない。
(……だめ、もう限界……)
突き刺さる視線、にやにやした空気、恥ずかしさで膨れ上がる鼓動。
ルナフィエラは立ち上がるように椅子を引くと、ユリウスに背を向けるように、隣に座るシグの膝の上にすとんと乗ってしまった。
「……ルナ?」
不意の行動に、さすがのシグも少し驚いたように目を見開いたが、それだけだった。
ルナフィエラは黙ったまま、ぎゅっとシグの腕に顔を埋める。
(……落ち着く。あったかい……)
静かで、何も言わずに受け止めてくれる場所。
シグの体温がじんわり伝わってきて、ルナの荒れていた心がすうっと鎮まっていく。
「……ユリウス、やりすぎだ」
ヴィクトルが低く呟くと、ユリウスは肩をすくめる。
「ふふ、彼女の“自覚”を促しただけさ」
「……見守るって話、忘れたわけじゃないだろうな」
「忘れてないよ。ただ、手を伸ばせば届く距離にいたら、抱きしめたくなる。それもまた自然なことだろう?」
ヴィクトルは何も返さなかったが、その視線はルナフィエラに向けたまま、静かに深まっていく。
一方、ルナフィエラはといえば、シグの上でようやく心拍が落ち着いてきたのか、小さく息を吐いていた。
「……落ち着いたか?」
シグがぽつりと小さく声を落とす。
ルナは頷き、目元を彼の服の布地にこすりつけた。
「……うん」
その声はかすかに震えていたけれど、不安の色はなかった。
ただただ、安心している声だった。
(……やっぱり、シグのところは安心する)
騒がしい気持ちや、甘くて痛い記憶。
それを全部、ひとときだけでも忘れさせてくれるようなぬくもりが、シグにはあった。
「……もう少しだけ、こうしてていい?」
「……ああ。好きにしていい」
短く返されたその言葉に、ルナフィエラは小さく笑った。
――あったかい。嬉しい。
でもその「嬉しい」の奥に、何かが揺れ始めていることに、ルナフィエラ自身まだ気づいていなかった。
シグの膝の上でしばらく静かに過ごしたルナフィエラは、落ち着きを取り戻した後、そっと身を起こした。
名残惜しそうにシグの手を握りつつも、微笑んで小さく「ありがとう」と囁く。
シグは特に言葉を返さず、いつものように静かに頷いた。
静かな午後の時間。
古城の奥、重厚な扉を開けた先にある書庫には、古今の書物がずらりと並んでいた。
その片隅――木製の小さなテーブルとソファが置かれた一角で、ルナフィエラはユリウスと並んで座っていた。
手にしているのは、昨日街で購入したばかりの本。
けれど、ページを開いたとたん、ルナの眉がわずかに寄る。
「この文字、ちょっと難しい……」
「古語の書き方だね。中身は神話の再話だから、ところどころ難解かもしれない」
そう言いながら、ユリウスはルナフィエラの手元にそっと視線を落とす。
ページの片隅を指で押さえながら、彼女が読みやすいよう、穏やかな声で少しずつ言葉の意味を解きほぐしていく。
ルナフィエラは、うんうんと何度もうなずきながら、彼の言葉を真剣に聞いていた。
けれど、言葉の意味がわかるたび、嬉しそうに顔を輝かせるその姿は、まるで子どものように無邪気だった。
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