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第五章:みんなと歩く日常
第77話・もう、逃げなくていい
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「……この言葉、なんとなく、だけど意味がわかるようになってきたかも」
ページを覗き込みながら呟くルナフィエラに、ユリウスが柔らかく笑う。
「よくここまで読み進めたね。あとは語順に慣れれば、ひとりでも読めるようになるよ」
小さく頷いたルナフィエラの頬がふわりと綻ぶ。
その表情を、すぐ後ろからそっと見つめていた男がいた。
「……ルナ様」
ヴィクトルの声に、ルナフィエラは少し驚いて振り返った。
いつの間にか、彼が背後に立っていた。木製の櫛を手に、静かな瞳でこちらを見つめている。
「……髪、梳かせていただいても?」
「うん、お願い」
微笑んで頷くルナフィエラの言葉に、ヴィクトルはわずかに表情を緩めると、ゆっくりと彼女の銀髪に手を伸ばした。
櫛が静かに通り、絹のような髪が指先を滑る。
そのまま、何度も、何度も。
丁寧に、乱れた部分を見逃さぬように。
ユリウスと本を読むルナフィエラの邪魔をすることなく、ヴィクトルはその手を止めなかった。
けれど、ふとした瞬間、ルナフィエラは不思議に思った。
視線をそっと後ろに向けると、髪を整えるふりをしながらも、ヴィクトルは静かに、じっとルナフィエラを見つめていた。
(……なんで、そんな顔で見てるの…?)
いつものように冷静な面差しではなく、今の彼の瞳は――とてもやさしくて、どこか切なく、けれど何より、あたたかい。
「……ヴィクトル?」
思わず名を呼ぶと、ヴィクトルはほんの一瞬だけ目を細めた。
「失礼しました。ただ……こうしていると、安心するのです」
それ以上は言わず、また櫛を動かす。
けれどルナフィエラはもう本に集中できず、頬を赤らめたまま、ちらちらと視線を泳がせていた。
少しして、ルナフィエラはそっと体の向きを変え、ヴィクトルを見上げた。
「……ねえ。隣に座って?」
ヴィクトルは一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに微笑を浮かべて頷いた。
本を置いたユリウスもその様子に口元を緩め、ルナフィエラを真ん中にしてソファの両側に二人が座る。
三人で並んで座るのは、なんだか久しぶりのような気がして、ルナフィエラはぽつりと呟いた。
「……懐かしい。少しだけ、こうして3人で過ごしてたね。
まだ私、よく体調を崩してて……隠れてやり過ごそうとしたこともあったし……」
「そうだったね」とユリウスが優しく返す。
「小さな物音にも気づかれないように、書庫の隅に隠れて……でも、すぐに見つけてしまったよ。ヴィクトルがね」
「……お姿が見えないと、落ち着かなかったのです」
隣で静かに言葉を添えたヴィクトルに、ルナフィエラはふふっと小さく笑った。
「すぐ見つかっちゃったもんね……でも、あのときは逃げたいわけじゃなかったの。
ただ、誰かに心配されるのが、申し訳なくて……」
そう言って、少しだけ目を伏せる。
過去の自分の弱さや、不安だった日々が、心にやさしく蘇る。
「……でも今は、逃げなくてもいいって、そう思えるの。
だって……ここにいても、みんなが受け止めてくれるって、わかってるから」
ぽつりとこぼしたその声に、両隣の空気が、ふわりとやわらかくなった。
ユリウスがそっと、彼女の肩に手を添える。
ヴィクトルは、何も言わず、その髪を一房だけ指先で整えた。
言葉はなくても、二人のぬくもりはしっかりと彼女のそばにあって。
ルナフィエラはふと、少し照れたように笑った。
「……なんだか、私、甘やかされすぎてない?」
「ようやく、甘えてくれるようになったからね」
「……ええ。ユリウスの言う通りです」
二人の言葉に、ルナは思わず肩をすくめる。
「……そうかな…じゃあ、これからはもっと、わがまま言ってもいい?」
「……もちろんです、ルナ様」
「いいよ。僕たちのルナだもの」
その返事があまりにも自然で、優しくて。
ルナフィエラの胸の奥が、またひとつ、あたたかくなった。
「……このまま、しばらくこうしててもいい?」
その願いに、二人は同時に頷いた。
静かな書庫に、再び穏やかな沈黙が訪れる。
けれどその沈黙は、心地よい安らぎに満ちていた。
昔と同じようで、けれど少しだけ違う――そんな3人だけの、特別な時間だった。
ページを覗き込みながら呟くルナフィエラに、ユリウスが柔らかく笑う。
「よくここまで読み進めたね。あとは語順に慣れれば、ひとりでも読めるようになるよ」
小さく頷いたルナフィエラの頬がふわりと綻ぶ。
その表情を、すぐ後ろからそっと見つめていた男がいた。
「……ルナ様」
ヴィクトルの声に、ルナフィエラは少し驚いて振り返った。
いつの間にか、彼が背後に立っていた。木製の櫛を手に、静かな瞳でこちらを見つめている。
「……髪、梳かせていただいても?」
「うん、お願い」
微笑んで頷くルナフィエラの言葉に、ヴィクトルはわずかに表情を緩めると、ゆっくりと彼女の銀髪に手を伸ばした。
櫛が静かに通り、絹のような髪が指先を滑る。
そのまま、何度も、何度も。
丁寧に、乱れた部分を見逃さぬように。
ユリウスと本を読むルナフィエラの邪魔をすることなく、ヴィクトルはその手を止めなかった。
けれど、ふとした瞬間、ルナフィエラは不思議に思った。
視線をそっと後ろに向けると、髪を整えるふりをしながらも、ヴィクトルは静かに、じっとルナフィエラを見つめていた。
(……なんで、そんな顔で見てるの…?)
いつものように冷静な面差しではなく、今の彼の瞳は――とてもやさしくて、どこか切なく、けれど何より、あたたかい。
「……ヴィクトル?」
思わず名を呼ぶと、ヴィクトルはほんの一瞬だけ目を細めた。
「失礼しました。ただ……こうしていると、安心するのです」
それ以上は言わず、また櫛を動かす。
けれどルナフィエラはもう本に集中できず、頬を赤らめたまま、ちらちらと視線を泳がせていた。
少しして、ルナフィエラはそっと体の向きを変え、ヴィクトルを見上げた。
「……ねえ。隣に座って?」
ヴィクトルは一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに微笑を浮かべて頷いた。
本を置いたユリウスもその様子に口元を緩め、ルナフィエラを真ん中にしてソファの両側に二人が座る。
三人で並んで座るのは、なんだか久しぶりのような気がして、ルナフィエラはぽつりと呟いた。
「……懐かしい。少しだけ、こうして3人で過ごしてたね。
まだ私、よく体調を崩してて……隠れてやり過ごそうとしたこともあったし……」
「そうだったね」とユリウスが優しく返す。
「小さな物音にも気づかれないように、書庫の隅に隠れて……でも、すぐに見つけてしまったよ。ヴィクトルがね」
「……お姿が見えないと、落ち着かなかったのです」
隣で静かに言葉を添えたヴィクトルに、ルナフィエラはふふっと小さく笑った。
「すぐ見つかっちゃったもんね……でも、あのときは逃げたいわけじゃなかったの。
ただ、誰かに心配されるのが、申し訳なくて……」
そう言って、少しだけ目を伏せる。
過去の自分の弱さや、不安だった日々が、心にやさしく蘇る。
「……でも今は、逃げなくてもいいって、そう思えるの。
だって……ここにいても、みんなが受け止めてくれるって、わかってるから」
ぽつりとこぼしたその声に、両隣の空気が、ふわりとやわらかくなった。
ユリウスがそっと、彼女の肩に手を添える。
ヴィクトルは、何も言わず、その髪を一房だけ指先で整えた。
言葉はなくても、二人のぬくもりはしっかりと彼女のそばにあって。
ルナフィエラはふと、少し照れたように笑った。
「……なんだか、私、甘やかされすぎてない?」
「ようやく、甘えてくれるようになったからね」
「……ええ。ユリウスの言う通りです」
二人の言葉に、ルナは思わず肩をすくめる。
「……そうかな…じゃあ、これからはもっと、わがまま言ってもいい?」
「……もちろんです、ルナ様」
「いいよ。僕たちのルナだもの」
その返事があまりにも自然で、優しくて。
ルナフィエラの胸の奥が、またひとつ、あたたかくなった。
「……このまま、しばらくこうしててもいい?」
その願いに、二人は同時に頷いた。
静かな書庫に、再び穏やかな沈黙が訪れる。
けれどその沈黙は、心地よい安らぎに満ちていた。
昔と同じようで、けれど少しだけ違う――そんな3人だけの、特別な時間だった。
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