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第六章:流れる鼓動、重なる願い
第97話・世界にひとつの愛のかたち
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ルナフィエラの柔らかな髪に、微かな香りが混じる。
抱き寄せた身体は小さくて、儚くて──それでも確かに、温かかった。
(……この温もりを、どうして……遠ざけようとしていたのだろう)
己の愚かさを噛み締めながら、ヴィクトルはゆっくりと腕を緩めた。
驚いたように顔を上げたルナフィエラと、視線が重なる。
その目に、怯えと戸惑いが微かに残っていた。
ヴィクトルは静かに息を吐き、そして──低く、真っ直ぐに語り出した。
「……ルナ様。
貴女を傷つけてしまったのは、私の弱さのせいです」
彼女の瞳が、揺れる。
「主従という立場にすがって、想いを隠し、見ないふりをして……
その結果、ルナ様を不安にさせてしまった。
それが、どれほど愚かなことだったか──ようやく、気づきました」
ルナフィエラが、小さく首を横に振ろうとするのを、ヴィクトルはそっと制した。
真剣なまなざしのまま、続ける。
「……私は、ルナ様を“主人”として以上に、“貴女自身”として、大切に思っています」
ルナフィエラの瞳が大きく見開かれる。
しかし、それは困惑でも拒絶でもなく──ただ、驚きと静かな涙の滲む目だった。
「貴女が笑っていられるなら、それだけでいいと思っていた。
誰の隣に立っていても……私は見守ることができれば、それでいいと……」
言葉が詰まる。
だが、ここで終わらせては意味がない。
「──けれど、それは本心ではありませんでした。
私は……貴女の隣にいたい。誰かの影としてではなく、ひとりの男として」
ルナフィエラの肩が、小さく震えた。
「……愛しています。ルナ様。
主ではなく、“貴女自身”に……
貴女を見つけたあの日から…
私は、ルナ様を愛おしく想っていました」
月明かりの下で、静かに告げられた真実。
それは、誰よりも真摯で、誰よりも深い想いだった。
「私の言葉が遅すぎたこと、すべてを曖昧にしてしまったこと……許されないかもしれません。
けれど、それでも……今はもう、偽ることはしません」
ふるふると震えたルナフィエラの唇から、小さな声がこぼれる。
「……私のこと…嫌いになったと思ってた……何か……してしまったのかなって……」
「違います。私は……誰よりもルナ様を、愛おしく想っている」
優しい声に、ようやくルナフィエラの頬を、涙が伝う。
それをそっと拭ったヴィクトルの指先も、僅かに震えていた。
「……もう、離れたりしません。
たとえ選ばれなくとも……ずっと、貴女のそばにいます」
それは、願いと誓いと、覚悟を込めた告白だった。
ルナフィエラは──
その胸の奥に、ずっとあった氷のような不安が、ようやく溶けていくのを感じていた。
ただ「そばにいる」と、彼が言ってくれたこと。
それだけで、こんなにも救われるのだと──今、改めて思い出していた。
「……嫌われたんじゃ、なかったんだ……」
ぽつりと、ルナフィエラがつぶやく。
それは涙混じりの安堵だった。
「私は……ルナ様のことを、嫌いになることはできません」
ヴィクトルの声は、穏やかで、けれど揺るぎなかった。
その断言に、ルナフィエラは胸がいっぱいになる。
でも──それと同時に、別の葛藤が心に浮かんできた。
「……でもね、ヴィクトル……」
小さく、震える声で。
「でも……誰かひとりを選ぶなんて、今の私にはできなくて…」
視線を落とすルナフィエラの横顔に、ヴィクトルは柔らかく微笑んだ。
そして、静かに言葉を重ねる。
「ええ。それでいいのです、ルナ様」
「……え?」
驚いて顔を向けるルナフィエラに、ヴィクトルは穏やかに言った。
「無理に答えを出す必要はありません。
このまま……私たち5人で一緒に過ごしませんか?」
ルナフィエラの目が、また驚きに揺れる。
「“誰かひとりを選ばなければいけない“という決まりは、どこにもありません。
ルナ様が悩み、苦しむ姿を見るのが、私たちにとっては何よりも辛いのです」
「私も……ユリウスも、シグも、フィンも、皆それを受け入れています。
ルナ様が……私たち全員と共に過ごしてくれるなら、それが何よりの幸せです」
ルナフィエラの目が大きく見開かれた。
「……でも、それって……本当に、いいの……?」
戸惑いと、過去の記憶が交錯する。
「……お父様とお母様も、おじ様たちも……
想い合ってるのは、いつも“1人ずつ”だった……
そういう関係って、1人だけに向けるものだと思ってたけど……」
俯いたままのルナフィエラの言葉を、ヴィクトルは否定しなかった。
ただ、静かに事実を重ねる。
「それもひとつの形です。
ヴァンパイアの社会では、確かに一夫一婦が一般的でした。
けれど……他の種族では、一夫多妻や一妻多夫という在り方も存在します」
「……世界には、いろいろな愛の形がある。
そして、ここ──古城には、私たち5人しかいません」
ヴィクトルの瞳はまっすぐにルナフィエラを見つめていた。
「だからもし、ルナ様が……私たち4人を受け入れてくださるのなら──
それもまた、正しい“愛の形”だと、私は信じています」
ルナフィエラの目に、また新たな涙が浮かぶ。
それは悲しみではない。
誰にも押しつけられず、自分で“選ぶ自由”を与えられたことへの、感情のあふれだった。
「……うん…ありがとう、ヴィクトル」
その声には、少しだけ、光が宿っていた。
抱き寄せた身体は小さくて、儚くて──それでも確かに、温かかった。
(……この温もりを、どうして……遠ざけようとしていたのだろう)
己の愚かさを噛み締めながら、ヴィクトルはゆっくりと腕を緩めた。
驚いたように顔を上げたルナフィエラと、視線が重なる。
その目に、怯えと戸惑いが微かに残っていた。
ヴィクトルは静かに息を吐き、そして──低く、真っ直ぐに語り出した。
「……ルナ様。
貴女を傷つけてしまったのは、私の弱さのせいです」
彼女の瞳が、揺れる。
「主従という立場にすがって、想いを隠し、見ないふりをして……
その結果、ルナ様を不安にさせてしまった。
それが、どれほど愚かなことだったか──ようやく、気づきました」
ルナフィエラが、小さく首を横に振ろうとするのを、ヴィクトルはそっと制した。
真剣なまなざしのまま、続ける。
「……私は、ルナ様を“主人”として以上に、“貴女自身”として、大切に思っています」
ルナフィエラの瞳が大きく見開かれる。
しかし、それは困惑でも拒絶でもなく──ただ、驚きと静かな涙の滲む目だった。
「貴女が笑っていられるなら、それだけでいいと思っていた。
誰の隣に立っていても……私は見守ることができれば、それでいいと……」
言葉が詰まる。
だが、ここで終わらせては意味がない。
「──けれど、それは本心ではありませんでした。
私は……貴女の隣にいたい。誰かの影としてではなく、ひとりの男として」
ルナフィエラの肩が、小さく震えた。
「……愛しています。ルナ様。
主ではなく、“貴女自身”に……
貴女を見つけたあの日から…
私は、ルナ様を愛おしく想っていました」
月明かりの下で、静かに告げられた真実。
それは、誰よりも真摯で、誰よりも深い想いだった。
「私の言葉が遅すぎたこと、すべてを曖昧にしてしまったこと……許されないかもしれません。
けれど、それでも……今はもう、偽ることはしません」
ふるふると震えたルナフィエラの唇から、小さな声がこぼれる。
「……私のこと…嫌いになったと思ってた……何か……してしまったのかなって……」
「違います。私は……誰よりもルナ様を、愛おしく想っている」
優しい声に、ようやくルナフィエラの頬を、涙が伝う。
それをそっと拭ったヴィクトルの指先も、僅かに震えていた。
「……もう、離れたりしません。
たとえ選ばれなくとも……ずっと、貴女のそばにいます」
それは、願いと誓いと、覚悟を込めた告白だった。
ルナフィエラは──
その胸の奥に、ずっとあった氷のような不安が、ようやく溶けていくのを感じていた。
ただ「そばにいる」と、彼が言ってくれたこと。
それだけで、こんなにも救われるのだと──今、改めて思い出していた。
「……嫌われたんじゃ、なかったんだ……」
ぽつりと、ルナフィエラがつぶやく。
それは涙混じりの安堵だった。
「私は……ルナ様のことを、嫌いになることはできません」
ヴィクトルの声は、穏やかで、けれど揺るぎなかった。
その断言に、ルナフィエラは胸がいっぱいになる。
でも──それと同時に、別の葛藤が心に浮かんできた。
「……でもね、ヴィクトル……」
小さく、震える声で。
「でも……誰かひとりを選ぶなんて、今の私にはできなくて…」
視線を落とすルナフィエラの横顔に、ヴィクトルは柔らかく微笑んだ。
そして、静かに言葉を重ねる。
「ええ。それでいいのです、ルナ様」
「……え?」
驚いて顔を向けるルナフィエラに、ヴィクトルは穏やかに言った。
「無理に答えを出す必要はありません。
このまま……私たち5人で一緒に過ごしませんか?」
ルナフィエラの目が、また驚きに揺れる。
「“誰かひとりを選ばなければいけない“という決まりは、どこにもありません。
ルナ様が悩み、苦しむ姿を見るのが、私たちにとっては何よりも辛いのです」
「私も……ユリウスも、シグも、フィンも、皆それを受け入れています。
ルナ様が……私たち全員と共に過ごしてくれるなら、それが何よりの幸せです」
ルナフィエラの目が大きく見開かれた。
「……でも、それって……本当に、いいの……?」
戸惑いと、過去の記憶が交錯する。
「……お父様とお母様も、おじ様たちも……
想い合ってるのは、いつも“1人ずつ”だった……
そういう関係って、1人だけに向けるものだと思ってたけど……」
俯いたままのルナフィエラの言葉を、ヴィクトルは否定しなかった。
ただ、静かに事実を重ねる。
「それもひとつの形です。
ヴァンパイアの社会では、確かに一夫一婦が一般的でした。
けれど……他の種族では、一夫多妻や一妻多夫という在り方も存在します」
「……世界には、いろいろな愛の形がある。
そして、ここ──古城には、私たち5人しかいません」
ヴィクトルの瞳はまっすぐにルナフィエラを見つめていた。
「だからもし、ルナ様が……私たち4人を受け入れてくださるのなら──
それもまた、正しい“愛の形”だと、私は信じています」
ルナフィエラの目に、また新たな涙が浮かぶ。
それは悲しみではない。
誰にも押しつけられず、自分で“選ぶ自由”を与えられたことへの、感情のあふれだった。
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