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第15話・制約の隙間に咲いた笑み
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夕食を終え、食器を片づけたあと、琴葉は自室のベッドに腰を下ろし、スマホを手にしていた。
明日の外出――そう思うだけで、指先は自然と動き出す。
SNSを開けば、涼しげなカフェのかき氷、天井まで本が並ぶ書店、季節の新作が並んだアパレルショップ、大型雑貨店の鮮やかなインテリアコーナー……。
どれもこれも「行ってみたい」で溢れていて、スクリーンショットフォルダはあっという間にいっぱいになった。
(どうしよう……一つに絞れない)
これまでは「行きたい」と思っても、どうせ無理だと諦めてきた場所ばかり。
けれど明日は――条件付きとはいえ、本当に行ける。
夢中で画面をスクロールしていると、知らないうちに口元には、小さな笑みが浮かんでいた。
リビングからその様子をちらりと覗いた奏一は、静かにグラスを置く。
ソファに腰掛けたまま、スマホの光に照らされた横顔を見つめた。
長い睫毛が落とす影と、ほんのり緩んだ頬。
これまで何度も見てきた険しい表情とはまるで違う、無防備なその顔に、奏一の口元にもわずかな笑みが浮かんだ。
彼は何も言わず、再び視線を手元の本に戻す。
けれどページをめくる指先は、ほんの少しだけ、いつもよりゆっくりだった。
翌朝。
ダイニングテーブルには湯気の立つスープと焼き立てのパンが整然と並んでいた。
すべてを用意し終えた奏一は、すでに席に着き新聞を手にしている。
やがて紙面から視線を上げ、静かな声が落ちた。
「琴葉さん、今日の行き先は決まりましたか?」
パンをちぎろうとしていた手が止まり、琴葉は小さく首を横に振る。
「……まだ。結局、決めきれなかった」
ため息混じりの声に、奏一は淡々とした声で告げる。
「今回一度きりの外出というわけではありません」
「……え?」
思わず顔を上げる。
「琴葉さんの体調が安定していれば、今後も定期的に出かけましょう」
驚きで瞬きが増える。
今回の外出は“特別な一度きり”だと思っていたから。
「……本当に?」
「本当ですよ」
間髪入れず返ってきた短い言葉。
不思議と嘘の気配はない。
「もちろん、体調次第ですが」
その一言だけで、胸の奥がふっと軽くなった気がした。
「……うん、わかった。じゃあ、今日は3限までだから……終わるまでに決めるね」
「わかりました」
短い返事に、感情はほとんど乗っていないのに、どこか優しさが滲んでいた。
朝食を終え、支度を整え玄関へ。
外はすでに夏の熱気が漂っている。
並んで家を出ると、涼しい車内が二人を包み込み、そのまま大学へと向かった。
午後。
講義を終えて校門を出ると、いつもの黒い車がきっちりと停まっている。
助手席のドアを開けると同時に、涼しい冷気が頬を撫でた。
「お疲れさまです」
奏一のいつも通りの挨拶に、琴葉は返事もそこそこにシートベルトを締め、鞄からスマホを取り出す。
「決めた。……ここに行きたい」
差し出された画面には、白を基調とした可愛らしい雰囲気の店内と、ふわふわのパンケーキ、ハートや動物の形をしたラテアートの写真。
どれも色鮮やかで、見ているだけで甘い香りが漂ってくるようだった。
「わかりました」
奏一は、即答すると、自分のスマホでお店の場所や営業時間を調べ始める。
その間、琴葉は窓の外を見つめながら、頬をほんのり上気させていた。
――こんなふうに、琴葉がわかりやすく嬉しそうな顔をするのを、奏一は今まで見たことがなかった。
車は街中を抜け、少し郊外の通りへ。
走ること30分ほどで、目的のカフェに到着した。
ガラス越しに見える店内は、学生やカップルでほどよく賑わっている。
午後の時間帯にしては運がよく、待ち時間はほとんどなく席へ案内された。
明日の外出――そう思うだけで、指先は自然と動き出す。
SNSを開けば、涼しげなカフェのかき氷、天井まで本が並ぶ書店、季節の新作が並んだアパレルショップ、大型雑貨店の鮮やかなインテリアコーナー……。
どれもこれも「行ってみたい」で溢れていて、スクリーンショットフォルダはあっという間にいっぱいになった。
(どうしよう……一つに絞れない)
これまでは「行きたい」と思っても、どうせ無理だと諦めてきた場所ばかり。
けれど明日は――条件付きとはいえ、本当に行ける。
夢中で画面をスクロールしていると、知らないうちに口元には、小さな笑みが浮かんでいた。
リビングからその様子をちらりと覗いた奏一は、静かにグラスを置く。
ソファに腰掛けたまま、スマホの光に照らされた横顔を見つめた。
長い睫毛が落とす影と、ほんのり緩んだ頬。
これまで何度も見てきた険しい表情とはまるで違う、無防備なその顔に、奏一の口元にもわずかな笑みが浮かんだ。
彼は何も言わず、再び視線を手元の本に戻す。
けれどページをめくる指先は、ほんの少しだけ、いつもよりゆっくりだった。
翌朝。
ダイニングテーブルには湯気の立つスープと焼き立てのパンが整然と並んでいた。
すべてを用意し終えた奏一は、すでに席に着き新聞を手にしている。
やがて紙面から視線を上げ、静かな声が落ちた。
「琴葉さん、今日の行き先は決まりましたか?」
パンをちぎろうとしていた手が止まり、琴葉は小さく首を横に振る。
「……まだ。結局、決めきれなかった」
ため息混じりの声に、奏一は淡々とした声で告げる。
「今回一度きりの外出というわけではありません」
「……え?」
思わず顔を上げる。
「琴葉さんの体調が安定していれば、今後も定期的に出かけましょう」
驚きで瞬きが増える。
今回の外出は“特別な一度きり”だと思っていたから。
「……本当に?」
「本当ですよ」
間髪入れず返ってきた短い言葉。
不思議と嘘の気配はない。
「もちろん、体調次第ですが」
その一言だけで、胸の奥がふっと軽くなった気がした。
「……うん、わかった。じゃあ、今日は3限までだから……終わるまでに決めるね」
「わかりました」
短い返事に、感情はほとんど乗っていないのに、どこか優しさが滲んでいた。
朝食を終え、支度を整え玄関へ。
外はすでに夏の熱気が漂っている。
並んで家を出ると、涼しい車内が二人を包み込み、そのまま大学へと向かった。
午後。
講義を終えて校門を出ると、いつもの黒い車がきっちりと停まっている。
助手席のドアを開けると同時に、涼しい冷気が頬を撫でた。
「お疲れさまです」
奏一のいつも通りの挨拶に、琴葉は返事もそこそこにシートベルトを締め、鞄からスマホを取り出す。
「決めた。……ここに行きたい」
差し出された画面には、白を基調とした可愛らしい雰囲気の店内と、ふわふわのパンケーキ、ハートや動物の形をしたラテアートの写真。
どれも色鮮やかで、見ているだけで甘い香りが漂ってくるようだった。
「わかりました」
奏一は、即答すると、自分のスマホでお店の場所や営業時間を調べ始める。
その間、琴葉は窓の外を見つめながら、頬をほんのり上気させていた。
――こんなふうに、琴葉がわかりやすく嬉しそうな顔をするのを、奏一は今まで見たことがなかった。
車は街中を抜け、少し郊外の通りへ。
走ること30分ほどで、目的のカフェに到着した。
ガラス越しに見える店内は、学生やカップルでほどよく賑わっている。
午後の時間帯にしては運がよく、待ち時間はほとんどなく席へ案内された。
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