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第56話・言えなかった願いが、光になる夜
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食事を終え、席を立つころには胸がいっぱいになっていた。
初めてのレストラン。
すべてが夢の中みたいで、まだ現実感がない。
「すごく美味しかった……ありがとう、そうちゃん」
少し照れながらそう告げると、自然と笑みがこぼれた。
「こんな素敵な場所でご飯なんて、初めてで……ほんとに楽しかった」
――デートって、こんなに幸せなんだ。
だから、このまま帰るのだと、何の疑いも持っていなかった。
けれど、店を出たあと。
駐車場とは反対の方向へ、奏一に手を引かれる。
「……あれ? こっち、駐車場じゃないよ?」
不思議そうに首を傾げて見上げると、奏一はただ静かに微笑んだ。
その表情に逆らえなくて、繋いだ手をきゅっと握り返す。
少し歩いた先――
視界の奥に、色とりどりの光が浮かび上がった。
「……っ!」
息を呑み、思わず立ち止まる。
そこには、冬の夜空を彩る光の海が広がっていた。
並木道の枝という枝に、無数のライトが降り積もるように瞬き、アーチ状の光のゲートが続いている。
「……」
言葉が出てこない。
まるで空から星が舞い降りてきたみたいで、胸がぎゅうっと締めつけられた。
――どうして。
あの日、ドーナツ屋の帰りに見かけたチラシ。
きれいだな、行ってみたいな、そう思った。
でもすぐに、いつものように心の中で蓋をした。
無理だ、きっと行けない――そう決めつけて、何も言わなかった。
だから、今こうしてこの光の中にいることが、信じられなかった。
「……そうちゃん…どうして……?」
かすれた声でつぶやくと、隣から静かな声が返る。
「行きたそうにしていましたから」
繋いだ手が、きゅっと握り返される。
「……あの時、見ていたの?」
「ええ。嬉しそうに目を輝かせて――それからすぐ、諦めた顔をしていました」
淡々とした口調なのに、その言葉が胸を強く打った。
ちゃんと、見ていてくれた。
わたしが一度も口に出さなかった想いまで。
光のアーチをくぐった瞬間、琴葉は思わず声を上げた。
「すごい……! きれい……!」
両目を大きく開き、左右を見渡す。
木々の枝先までびっしりと輝く光。
胸が弾むまま、鞄からスマートフォンを取り出した。
「これも撮りたい……あっ、あっちも!」
子供みたいに声を弾ませながら、夢中でシャッターを切っていく。
ふと隣を見上げて、にっこり笑った。
「そうちゃん、一緒に撮ろ?」
差し出した画面に映る自分と彼。
光に包まれた背景が夢みたいで、胸がきゅんとした。
カメラに収まるように頬を寄せると、鼓動が跳ねる。
それでも離れたくなくて、そのままシャッターを押した。
――初めてのイルミネーション。
大好きな人と一緒に見たことを、ずっと覚えていたい。
撮った写真を見ながら、胸の奥からこぼれるように笑った。
「……宝物にする」
繋いだ手は、一度も離れなかった。
冷たい夜気の中で、彼の温もりが心まであたためてくれる。
そんな琴葉を見つめる奏一の目も、柔らかく細められていた。
普段の穏やかな表情の奥に、言葉にできないほどの喜びが満ちている。
――こんなに楽しそうな琴葉を見られるのなら、それだけで十分だ、と。
***
玄関をくぐると、エアコンのやわらかな音が迎えてくれる。
外の冷え切った空気から解放され、体の奥までじんわりと温まった。
「ふぅ……」
ソファに腰を下ろし、抱えていた鞄をそっと置いた。
まだ胸は高鳴ったままで、夢の中を歩いていた余韻が抜けない。
スマートフォンを開くと、さっき撮った写真が画面いっぱいに広がった。
輝くアーチ、色とりどりの光、はしゃいで笑う自分。
そして隣には、少し照れたように目を細める奏一。
「……夢みたいだったな」
ぽつりとこぼれる。
「イルミネーションを見られるなんて……本当にありがとう、そうちゃん」
隣に座る奏一が、静かに頷いた。
「喜んでもらえたなら、用意した甲斐がありました」
その声に、胸がじんと熱くなる。
「うん。……そうちゃんのおかげ」
素直にそう言うと、目が少し潤んだ。
次の瞬間、髪にそっと手が伸びて、目にかかった前髪を払われる。
その指先の温もりに、心臓が跳ねた。
頬を包まれ――額に、軽い口づけ。
いつもの仕草。
けれど、そのあと。
唇がそっと重ねられた。
驚きに瞬いたけれど、彼の温もりが胸の奥まで広がっていく。
触れるだけでは終わらない、ほんの少し長い口づけ。
苦しいほど鼓動が速くなるのに、怖くはなかった。
むしろ、このままでいたいと願ってしまう。
気づけば、彼の服の裾をぎゅっと掴んでいた。
唇が離れたとき、息がかすかに震えていた。
けれど、目の前の瞳はあたたかさに満ちている。
「……琴葉さん、愛しています」
低く穏やかな声が、胸の奥まで染み込む。
「……わたしも」
火照った頬のまま、小さく返した。
その言葉を聞いて、奏一は静かに微笑む。
肩を抱き寄せられ、胸に頬を預けると、体の力がすっと抜けていく。
エアコンの音が響くリビングで、ふたりはただ寄り添っていた。
イルミネーションの残像がまだ瞼にちらつく。
――これ以上なく、幸せな夜だった。
初めてのレストラン。
すべてが夢の中みたいで、まだ現実感がない。
「すごく美味しかった……ありがとう、そうちゃん」
少し照れながらそう告げると、自然と笑みがこぼれた。
「こんな素敵な場所でご飯なんて、初めてで……ほんとに楽しかった」
――デートって、こんなに幸せなんだ。
だから、このまま帰るのだと、何の疑いも持っていなかった。
けれど、店を出たあと。
駐車場とは反対の方向へ、奏一に手を引かれる。
「……あれ? こっち、駐車場じゃないよ?」
不思議そうに首を傾げて見上げると、奏一はただ静かに微笑んだ。
その表情に逆らえなくて、繋いだ手をきゅっと握り返す。
少し歩いた先――
視界の奥に、色とりどりの光が浮かび上がった。
「……っ!」
息を呑み、思わず立ち止まる。
そこには、冬の夜空を彩る光の海が広がっていた。
並木道の枝という枝に、無数のライトが降り積もるように瞬き、アーチ状の光のゲートが続いている。
「……」
言葉が出てこない。
まるで空から星が舞い降りてきたみたいで、胸がぎゅうっと締めつけられた。
――どうして。
あの日、ドーナツ屋の帰りに見かけたチラシ。
きれいだな、行ってみたいな、そう思った。
でもすぐに、いつものように心の中で蓋をした。
無理だ、きっと行けない――そう決めつけて、何も言わなかった。
だから、今こうしてこの光の中にいることが、信じられなかった。
「……そうちゃん…どうして……?」
かすれた声でつぶやくと、隣から静かな声が返る。
「行きたそうにしていましたから」
繋いだ手が、きゅっと握り返される。
「……あの時、見ていたの?」
「ええ。嬉しそうに目を輝かせて――それからすぐ、諦めた顔をしていました」
淡々とした口調なのに、その言葉が胸を強く打った。
ちゃんと、見ていてくれた。
わたしが一度も口に出さなかった想いまで。
光のアーチをくぐった瞬間、琴葉は思わず声を上げた。
「すごい……! きれい……!」
両目を大きく開き、左右を見渡す。
木々の枝先までびっしりと輝く光。
胸が弾むまま、鞄からスマートフォンを取り出した。
「これも撮りたい……あっ、あっちも!」
子供みたいに声を弾ませながら、夢中でシャッターを切っていく。
ふと隣を見上げて、にっこり笑った。
「そうちゃん、一緒に撮ろ?」
差し出した画面に映る自分と彼。
光に包まれた背景が夢みたいで、胸がきゅんとした。
カメラに収まるように頬を寄せると、鼓動が跳ねる。
それでも離れたくなくて、そのままシャッターを押した。
――初めてのイルミネーション。
大好きな人と一緒に見たことを、ずっと覚えていたい。
撮った写真を見ながら、胸の奥からこぼれるように笑った。
「……宝物にする」
繋いだ手は、一度も離れなかった。
冷たい夜気の中で、彼の温もりが心まであたためてくれる。
そんな琴葉を見つめる奏一の目も、柔らかく細められていた。
普段の穏やかな表情の奥に、言葉にできないほどの喜びが満ちている。
――こんなに楽しそうな琴葉を見られるのなら、それだけで十分だ、と。
***
玄関をくぐると、エアコンのやわらかな音が迎えてくれる。
外の冷え切った空気から解放され、体の奥までじんわりと温まった。
「ふぅ……」
ソファに腰を下ろし、抱えていた鞄をそっと置いた。
まだ胸は高鳴ったままで、夢の中を歩いていた余韻が抜けない。
スマートフォンを開くと、さっき撮った写真が画面いっぱいに広がった。
輝くアーチ、色とりどりの光、はしゃいで笑う自分。
そして隣には、少し照れたように目を細める奏一。
「……夢みたいだったな」
ぽつりとこぼれる。
「イルミネーションを見られるなんて……本当にありがとう、そうちゃん」
隣に座る奏一が、静かに頷いた。
「喜んでもらえたなら、用意した甲斐がありました」
その声に、胸がじんと熱くなる。
「うん。……そうちゃんのおかげ」
素直にそう言うと、目が少し潤んだ。
次の瞬間、髪にそっと手が伸びて、目にかかった前髪を払われる。
その指先の温もりに、心臓が跳ねた。
頬を包まれ――額に、軽い口づけ。
いつもの仕草。
けれど、そのあと。
唇がそっと重ねられた。
驚きに瞬いたけれど、彼の温もりが胸の奥まで広がっていく。
触れるだけでは終わらない、ほんの少し長い口づけ。
苦しいほど鼓動が速くなるのに、怖くはなかった。
むしろ、このままでいたいと願ってしまう。
気づけば、彼の服の裾をぎゅっと掴んでいた。
唇が離れたとき、息がかすかに震えていた。
けれど、目の前の瞳はあたたかさに満ちている。
「……琴葉さん、愛しています」
低く穏やかな声が、胸の奥まで染み込む。
「……わたしも」
火照った頬のまま、小さく返した。
その言葉を聞いて、奏一は静かに微笑む。
肩を抱き寄せられ、胸に頬を預けると、体の力がすっと抜けていく。
エアコンの音が響くリビングで、ふたりはただ寄り添っていた。
イルミネーションの残像がまだ瞼にちらつく。
――これ以上なく、幸せな夜だった。
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