病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな

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第57話・憧れの輪の中で

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大学に入ってから、琴葉は初めて“友達とお昼を一緒に食べる”という時間を持つようになった。
ほんの少し前までの自分には、考えられなかったことだ。

病気のこともあって休みがちだったし、体調の不安を隠しながら笑うのが怖くて、無意識のうちに人との距離を取ってしまっていた。

けれど、グループワークをきっかけに知り合った綾花と真奈は、そんなことを気にする様子もなく、自然に声をかけてくれる。
気づけば、昼休みを一緒に過ごすのが当たり前になっていた。

この日も窓際のテーブルに3人で座り、食堂のざわめきに包まれながら他愛もない話をする。
ただそれだけなのに、胸の奥がくすぐったくて、少し誇らしかった。

「もうすぐクリスマスだね! 2人は予定ある?」

真奈がぱっと声を弾ませる。
頬を少し赤らめて、お弁当をつつく仕草もどこか浮き立って見えた。

「うん。彼がレストランを予約してくれてて。ちょっと緊張するけど、楽しみ」

綾花が照れたように微笑む。

「わ、いいな~! なんか大人っぽい」

真奈は素直に目を輝かせ、すぐに琴葉へと視線を向ける。

「琴葉ちゃんは? どんな感じ?」

「少し前にイルミネーションを見にいったけどクリスマス当日は……まだわからないの。彼、仕事が忙しいみたいで」

少し言いにくそうに答えると、綾花がうなずいてくれた。

「そっか……彼氏が社会人だとそういうこともあるよね……予定合わせるの大変そう」

「確かに…。そう思うと学生同士って気楽だね」

真奈は笑って肩をすくめる。
一息ついて、今度は琴葉が真奈に向き直る。

「真奈ちゃんは? どうするの?」

「うちはね、高校のときから同じコース!」

真奈は指を一本ずつ折りながら数える。

「映画観て、ご飯食べて、最後にケーキ。毎年ほぼ同じだけど、なんかそれが落ち着くんだよね」

「いいね。続いてるの、素敵だと思う」

綾花が微笑み、琴葉もうんうんと頷く。

他愛もないやり取りが、湯気みたいにふわりとテーブルの上に漂っていく。

「当日のデート服どうしよ~。わたし、まだ決めてないんだよね」

真奈がストローをくわえたまま、困ったように笑った。

「私も。彼にちょっとでも可愛いって思ってほしいから、色々見てるんだけど……迷いすぎて」

綾花も小さくため息をつく。

(……彼に可愛いって思ってほしい、か)

琴葉は、胸の奥でその言葉をそっと繰り返した。

奏一とのこれまでのお出かけは、行けること自体が嬉しくて。
制限されてきた時間の反動で、「行きたい場所に行ける」「一緒にいられる」それだけで、心がいっぱいになっていた。

だから――
“どう見られるか”なんて、考えたことがなかったかもしれない。

「でもさ、服とかメイクで悩むのって、それはそれで楽しいよね」

綾花が笑う。

「わかる! 試着とか行くと、テンション上がるんだよね~」

真奈も大げさに頷き、2人で笑い合った。
そのやり取りを聞いているだけで、琴葉の胸が少しくすぐったくなる。

――普通の女の子なら、みんなこんなふうに彼のために可愛くなりたいって思うんだ。

そう気づいた瞬間、どこか眩しいものを見たように感じた。

「あっ! じゃあさ、今度の週末、一緒に見に行こうよ!」

真奈がぱっと手を叩いた。

「デート服とかコスメとか、3人で見に行ったら絶対楽しいって!」

「それいいね!」

綾花もうなずく。

「せっかくだし琴葉ちゃんも一緒に行こ!彼氏に会うときの服とか可愛いリップとかあると、絶対気分上がるよ」

「えっ、わたしも……?」

不意に振られて、胸がどきりと跳ねる。

友達と一緒に遊びに行く。
そんな当たり前のことが、自分にはまだ少し特別で――その事実だけで、胸の奥がじんわり温かくなる。

(……行きたい)

思わず口にしかけて、でもすぐに言葉を止めた。

これまで外出するときは、必ず奏一がそばにいてくれた。
体調が急に崩れることもある。
ひとりで人混みに行くことへの不安は、正直まだ消えない。

それに、2人に話しているのは“持病がある”ということだけ。
心臓病であること、いつ発作が起きてもおかしくないことまでは、とても言えなかった。

「……すごく行きたいけど……」

琴葉は小さく笑って、2人を見た。

「ちょっと相談してみて……それから返事でもいい?」

「もちろん!」

真奈がすぐに頷く。

「無理はさせたくないし、行けそうならで全然いいよ!」

綾花も、やさしく微笑んだ。

「うんうん。せっかく仲良くなったし、琴葉ちゃんと一緒にお出かけできたら嬉しい。でも無理はしないでね」

こんなふうに誘ってもらえる日が来るなんて、思ってもみなかった。

「……うん、ありがとう」

琴葉は胸に残るその温もりを大切に抱きしめた。
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