病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな

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第61話・不安の帰り道に、あなたがいる

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ショッピングバッグを手にした3人は、少し歩き疲れた足を休めるようにカフェへ入った。
ガラス張りの店内はすでにクリスマス仕様で、赤や金のオーナメントが柔らかな光を受けて揺れている。

「ふぅ~、やっと座れた」

真奈がカフェラテを前に、嬉しそうに息を吐く。

「でも楽しかった! やっぱりコスメ売り場ってテンション上がるね」

「わかる。しかも今回はクリスマス限定ばっかりだったし」

綾花は紙袋を覗き込み、買ったばかりのネイルカラーを取り出して微笑む。

「これ、気づいてもらえるといいな……。指先って意外と見られてるし」

「絶対気づくって。綾花ちゃんの彼氏、細かいとこ見てそうだもん」

真奈が軽く笑いながらストローをくわえる。

琴葉も自分の袋を膝の上に置き、リップとチーク、そして3人でお揃いになったボディクリームを眺めた。

「……なんだか、嬉しいな。同じものを買ったってだけなのに」

小さく呟くと、真奈がにっこり笑う。

「そういうの大事だよ! 友達とお揃いってテンション上がるじゃん」

「うん。今度また一緒に見に行こう」

綾花もさらりと付け加え、琴葉の胸の奥がじんわり温かくなった。

(友達と選んで、同じものを持って、こうして笑い合う……)

カップを両手で包み込み、立ちのぼる甘い香りを吸い込む。
その時間が、ゆっくりと心に染みていった。

***

カフェを出て歩いていると、ふと視界に鮮やかな色合いのショップが飛び込んできた。
大きなウィンドウには、レースやサテンの下着が並び、ライトに照らされてきらめいている。

「ねえ……最後にちょっと見てもいい?」

足を止めた綾花が、少し照れたように振り返る。

「もちろん!」

真奈は即答し、琴葉も小さく頷いた。

店内は柔らかな香りに包まれ、壁一面に並ぶ下着はどれも華やかで可愛らしい。
3人は思わず目を輝かせながら見入った。

「どうしようかな……」

綾花はレースのセットを手に取り、頬を染める。

「クリスマス、レストランのあと彼の家に泊まる予定なの。きっと……そういう流れになるよね」

「そりゃそうでしょ!」

真奈はからりと笑い、当たり前だと言わんばかりに返す。

「やっぱり、そうかぁ……」

綾花は真剣な表情でいくつか手に取っては戻し、最後にひとつを選ぶと、意を決したようにレジへ向かった。

そのやりとりを聞きながら、琴葉の胸の奥が静かにざわつき始める。

(……私とそうちゃんは、もう一緒に暮らしていて……夜も同じベッドで眠っているのに)

ふと浮かぶ事実。
それなのに、思い当たるのは――キスまで。

(……あれ? もしかして……女として見られてない?)

心臓が早鐘を打ち、視線が宙を彷徨う。
言葉にならない不安が、胸の内側を行き来した。

「琴葉ちゃん?」

真奈が心配そうに覗き込む。

「……っ、大丈夫」

はっとして、琴葉は慌てて微笑みを作った。

軽快な音楽が流れる店内で、自分だけが少しだけ取り残されたような感覚を抱えたまま、彼女は2人に歩調を合わせた。


ショッピングモールを出て、駅へ向かう途中。
琴葉のスマホが小さく震える。

画面を開いた瞬間、思わず声が漏れた。

「えっ……」

驚いた表情に、真奈が首を傾げる。

「琴葉ちゃん、どうしたの?」

「……あの、彼氏が……駅まで迎えに来てくれてるみたいで」

「「ええっ!?」」

綾花と真奈が同時に驚きの声を上げる。

高鳴る鼓動を抑えながら、3人で駅前の広場へ向かう。
人の行き交う中で、ひときわ目を引く長身の男性の姿があった。

(……そうちゃん……!)

見つけた瞬間、胸がきゅっと締めつけられる。

先に気づいた奏一が歩み寄り、自然な所作で琴葉の手から紙袋を受け取った。

「重かったでしょう。持ちますよ」

淡々とした声。
それだけなのに、琴葉の心臓はまた大きく跳ねる。
顔がかっと熱くなるのを自覚しつつも、2人の友人を振り返った。

「あ、あの……こちら、彼氏の遠野奏一さん。そうちゃん……えっと、こっちは綾花ちゃんと、真奈ちゃん」

「初めまして、遠野です。いつも琴葉さんと仲良くしてくださって、ありがとうございます」

丁寧に一礼する奏一に、2人は一瞬言葉を失ったように目を丸くする。

「わ、こちらこそ……」「あ、あの、今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。またよろしければ、ぜひ琴葉さんと一緒にお出かけください」

奏一は柔らかく微笑み、礼を述べる。

友達の前だというのに、当たり前のように荷物を持ってくれるその姿に――
琴葉は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
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