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番外編・ふたりで迎える日まで ⑥
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数日後——。
崇雅は、兄・崇徳に促された通り、送られてきた資料一式に目を通していた。
秘書が作成した比較資料は、信じられないほど整っている。
チャイルドシートやベビーカー、ベビーベッド、バウンサー、抱っこ紐……。
価格や機能性、デザイン、安全評価にいたるまで徹底的にリサーチされ、一覧化されている。
型番付きのリンク、レビューの抜粋、導入事例まで揃っており、まるで官公庁の導入検討資料のようだった。
(……本当に、兄さんがここまで……?)
澪のためにも、生まれてくる子のためにも――。
そして「自分たち家族を支える」という明確な意思が、資料の隅々から感じられた。
その夜、資料の束を抱えてリビングへ戻ると、ソファでタブレットを眺めていた澪が顔を上げた。
「……それ、なにかの資料ですか?」
「ああ。兄さんから」
「崇徳さん?」
「ベビーグッズの比較資料。チャイルドシートやベビーカー、空気清浄機まで。
これ全部……兄さんの秘書が調べてくれた」
そう言って、資料を手渡すと、澪は目を丸くしてページをめくった。
「え?……すごすぎます……。ここまで……?」
「正直、俺も驚いた。…兄さんも言葉は多くないが、ちゃんと考えてくれている。……全部、俺たちと、生まれてくる子のために」
澪は静かにファイルを閉じると、両手で抱きしめるように胸元へと引き寄せた。
「ありがとうございます、って……ちゃんと伝えたいです」
「ああ。2人で、ちゃんと伝えよう」
ふたりの前に広がる未来は、まだまだ未知だ。
けれど、確かに――背中を押してくれる存在がいる。
支え、繋がり、託される想いがある。
それは、澪と崇雅にとって
家族という形の、はじまりそのものだった。
——————
ある休日の午後。
穏やかな陽射しの中、澪と崇雅は街のベビー用品店へ足を運んでいた。
澪のお腹は、妊娠後期に入り、はっきりと目立つようになっていた。
歩くペースは自然とゆっくりになり、段差や階段では崇雅が必ず手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「はい。……でも、こうやって歩いてると、自分でも実感します。……もうすぐなんだなって」
澪はお腹にそっと手を添え、微笑んだ。
店内には、カラフルで柔らかなベビー用品が所狭しと並んでいた。
小さな肌着、淡い色のロンパース、動物の柄がついたスタイやおくるみ。
ふたりは一つひとつを手に取りながら、ゆっくりと選んでいく。
「……これ、どうですか?」
澪が差し出したのは、小さな花柄のロンパース。
どこか澪に似た、優しい雰囲気の一着だった。
「似合いそうだな。……ああ、でもこれとセットになってる帽子も可愛い」
「ほんとですね。じゃあ、これにします」
選ぶものすべてが、まだ見ぬ我が子のため。
それだけで、どれも宝物のように思える。
「哺乳瓶はこのメーカーがいいって聞きました。でも初産だと何種類か試すことになるかもって」
「じゃあ、いくつか違うタイプを揃えておこう」
「はい……あっ、このブラシも一緒に買っておいた方がいいかも。洗うやつです」
「わかった、これも買っておこう。
準備、抜かりないな」
澪が少し照れたように笑い、崇雅も穏やかな表情を返す。
「……最初はどうなるかと思ってましたけど、こうして準備してると、楽しみが増してきますね」
「そうだな。……ひとつずつ、ちゃんと“迎える準備”ができてる気がする」
ふたりで選ぶたびに、未来が少しずつ形になっていく。
それは不安を和らげ、期待へと変えていくようだった。
「もう少しだけ見てもいいですか?」
「もちろん。今日はゆっくり選ぼう。……疲れたらすぐ言ってくれ」
「ふふ、大丈夫です。崇雅さんがいてくれるから」
寄り添いながら歩くふたりの間には、穏やかなぬくもりと、
これから迎える新しい命への静かな祝福があった。
崇雅は、兄・崇徳に促された通り、送られてきた資料一式に目を通していた。
秘書が作成した比較資料は、信じられないほど整っている。
チャイルドシートやベビーカー、ベビーベッド、バウンサー、抱っこ紐……。
価格や機能性、デザイン、安全評価にいたるまで徹底的にリサーチされ、一覧化されている。
型番付きのリンク、レビューの抜粋、導入事例まで揃っており、まるで官公庁の導入検討資料のようだった。
(……本当に、兄さんがここまで……?)
澪のためにも、生まれてくる子のためにも――。
そして「自分たち家族を支える」という明確な意思が、資料の隅々から感じられた。
その夜、資料の束を抱えてリビングへ戻ると、ソファでタブレットを眺めていた澪が顔を上げた。
「……それ、なにかの資料ですか?」
「ああ。兄さんから」
「崇徳さん?」
「ベビーグッズの比較資料。チャイルドシートやベビーカー、空気清浄機まで。
これ全部……兄さんの秘書が調べてくれた」
そう言って、資料を手渡すと、澪は目を丸くしてページをめくった。
「え?……すごすぎます……。ここまで……?」
「正直、俺も驚いた。…兄さんも言葉は多くないが、ちゃんと考えてくれている。……全部、俺たちと、生まれてくる子のために」
澪は静かにファイルを閉じると、両手で抱きしめるように胸元へと引き寄せた。
「ありがとうございます、って……ちゃんと伝えたいです」
「ああ。2人で、ちゃんと伝えよう」
ふたりの前に広がる未来は、まだまだ未知だ。
けれど、確かに――背中を押してくれる存在がいる。
支え、繋がり、託される想いがある。
それは、澪と崇雅にとって
家族という形の、はじまりそのものだった。
——————
ある休日の午後。
穏やかな陽射しの中、澪と崇雅は街のベビー用品店へ足を運んでいた。
澪のお腹は、妊娠後期に入り、はっきりと目立つようになっていた。
歩くペースは自然とゆっくりになり、段差や階段では崇雅が必ず手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「はい。……でも、こうやって歩いてると、自分でも実感します。……もうすぐなんだなって」
澪はお腹にそっと手を添え、微笑んだ。
店内には、カラフルで柔らかなベビー用品が所狭しと並んでいた。
小さな肌着、淡い色のロンパース、動物の柄がついたスタイやおくるみ。
ふたりは一つひとつを手に取りながら、ゆっくりと選んでいく。
「……これ、どうですか?」
澪が差し出したのは、小さな花柄のロンパース。
どこか澪に似た、優しい雰囲気の一着だった。
「似合いそうだな。……ああ、でもこれとセットになってる帽子も可愛い」
「ほんとですね。じゃあ、これにします」
選ぶものすべてが、まだ見ぬ我が子のため。
それだけで、どれも宝物のように思える。
「哺乳瓶はこのメーカーがいいって聞きました。でも初産だと何種類か試すことになるかもって」
「じゃあ、いくつか違うタイプを揃えておこう」
「はい……あっ、このブラシも一緒に買っておいた方がいいかも。洗うやつです」
「わかった、これも買っておこう。
準備、抜かりないな」
澪が少し照れたように笑い、崇雅も穏やかな表情を返す。
「……最初はどうなるかと思ってましたけど、こうして準備してると、楽しみが増してきますね」
「そうだな。……ひとつずつ、ちゃんと“迎える準備”ができてる気がする」
ふたりで選ぶたびに、未来が少しずつ形になっていく。
それは不安を和らげ、期待へと変えていくようだった。
「もう少しだけ見てもいいですか?」
「もちろん。今日はゆっくり選ぼう。……疲れたらすぐ言ってくれ」
「ふふ、大丈夫です。崇雅さんがいてくれるから」
寄り添いながら歩くふたりの間には、穏やかなぬくもりと、
これから迎える新しい命への静かな祝福があった。
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