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第51話・やわらかな帰省、ぬくもりの再会
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夕食を終えたあと、リビングのテーブルには温かいお茶と小さなお菓子が並べられていた。
母と妹と、3人で囲むテーブルは、昔から何も変わっていない。
「ほんと、お姉ちゃんが帰ってくるなんてレアなんだから」
「レアって……そんな言い方しないでよ」
「でも事実じゃん。あたしが東京行っても、ほとんど会えないしさ~」
「こっちも忙しいんだよ」
笑い合う姉妹のやりとりを、母が目を細めて見守っている。
その何気ない光景に、澪の胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……思い切って、帰ってきてよかった)
母も妹も、少しずつ変わった部分もあるけれど、
こうして集まれば、自然と元の距離に戻れる。
愛菜は結婚を控えていて、
それなのにまったく気負った様子もなく、
今後の新居を探す話をあっけらかんと語っていた。
「結婚式はいいかなーって思っててさ。お金かかるし、3人で暮らす部屋をちゃんと整えたいの」
「そうなんだ。そっちの方が、今っぽいかもね」
「うん。あたしも彼も、それで納得してるし。
……てかさ、お姉ちゃんは?」
「え?」
「彼氏。いる?もう27歳でしょ?」
あまりにも突然な質問に、澪はお茶を飲もうとした手を止めた。
「え、ちょ……なにその話の振り方……!」
「だって気になるじゃん。もうそれなりの年なんだし~」
「……まぁ、いるけど。最近、付き合い始めたばかりだから」
「へぇ~! やっぱりいたんだ! どんな人? 優しい?かっこいい?」
「ちょ、そんな根掘り葉掘り聞かないで」
頬を赤らめて慌てる澪に、愛菜はにやにやと笑ってから「今度写真見せてねー」と茶化した。
そのやりとりを見ながら、母がぽつりと言った。
「……澪も、幸せになるといいわね」
「……うん」
静かに返しながら、
澪はあらためて、自分が大切にしたいと思うものを胸の内で確認していた。
たった一泊の帰省。
だけど、この温もりが心に深く染み込んでいく。
翌朝の空は、雲ひとつない青だった。
少し早めの朝食を終え、荷物をまとめた澪は、
駅まで母と妹に見送られながら歩いていた。
「ほんとにもう帰るの? もう一泊すればいいのに~」
「ごめんね。今日この後は予定があって」
「そっか……じゃあまた連絡してね」
「うん。愛菜も、体に気をつけてね。無理しないで」
「はーい。お姉ちゃんもねー!」
改札前で手を振り、振り返ると母が静かに微笑んでいた。
「……また、帰ってきなさいね。いつでも待ってるから」
「……うん。ありがとう、お母さん」
やわらかな気持ちを胸に、新幹線へと乗り込む。
車内は静かで、澪は窓の外をぼんやりと見つめながら、昨夜の会話を思い返していた。
(……幸せそうだったな)
母も、妹も。
少しだけ、羨ましく思ったのは、たぶん本音。
東京駅に着いて改札を抜けたそのとき、
少し離れた柱のそばに立つ見慣れた背中が目に入った。
「……崇雅さん?」
崇雅は振り向き、短く頷く。
「おかえり」
「え、あ、はい……来てくれてありがとうございます」
「迎えに行くと言っただろう」
さらりと言うその声に、澪の胸がじんわりと熱を帯びる。
「……嬉しいです。ありがとうございます」
言葉にしたら、崇雅の目元がほんのわずかに緩んだ気がした。
崇雅は澪の荷物を受け取り、ふたりはそのまま車へと向かう。
日曜の昼下がりの道路は思っていたよりも空いていて、車内には心地よい沈黙が流れていた。
(こういう時間、好きだな)
澪がふと視線を送ると、運転席の横顔は静かで、どこか落ち着いていた。
崇雅のマンションに到着すると、
玄関のドアを開ける音が、どこか「戻ってきた」と思わせる響きを持っていた。
「荷物はそこに。……あとはゆっくり休め」
「はい。ありがとうございます、崇雅さん」
ふたりの距離は、確かに縮まっている。
それを感じながら、澪はスーツケースの取っ手をそっと下ろした。
荷物を置いたあと、澪はリビングのソファに腰を下ろし、小さく息を吐いた。
キッチンでは崇雅が静かにコーヒーを淹れていて、澪の前に湯気の立つカップがそっと置かれる。
「……実家では、ゆっくりできたか?」
「はい。思っていたより、ずっとのんびりできました」
カップを両手で包み込みながら、澪は微笑む。
「妹が……妊娠したみたいで、結婚することになったんです。
昨日、彼のご家族が挨拶にいらして……私も、流れで同席することになってしまって」
「……そうか。驚いただろう」
「はい。でも、高校の頃から付き合っていた人なので、納得ではありました。
妹も自然体で、すごく幸せそうで……見ていて、こっちまで温かい気持ちになりました」
そう話す澪の表情は、どこか柔らかく穏やかだった。
「でも、結婚式はしないそうです。ふたりで住む部屋を探して、新生活を始めるって。
……あの子らしいなって」
「澪も、嬉しかったんだな」
「はい。……ちゃんと、“おめでとう”って、思えました」
コーヒーを一口含みながら、ふと目を伏せる。
「……久しぶりに、母とも妹ともいろいろ話せて、家族の時間を満喫した気がします」
「それなら、行った意味があったな」
「はい。……崇雅さんが迎えに来てくださったのも、本当に嬉しかったです。
ありがとうございました」
「礼を言うことじゃない。迎えに行くと決めたのは、俺だ」
その変わらぬ言葉に、澪はほんの少しだけ肩の力を抜いたように笑った。
母と妹と、3人で囲むテーブルは、昔から何も変わっていない。
「ほんと、お姉ちゃんが帰ってくるなんてレアなんだから」
「レアって……そんな言い方しないでよ」
「でも事実じゃん。あたしが東京行っても、ほとんど会えないしさ~」
「こっちも忙しいんだよ」
笑い合う姉妹のやりとりを、母が目を細めて見守っている。
その何気ない光景に、澪の胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……思い切って、帰ってきてよかった)
母も妹も、少しずつ変わった部分もあるけれど、
こうして集まれば、自然と元の距離に戻れる。
愛菜は結婚を控えていて、
それなのにまったく気負った様子もなく、
今後の新居を探す話をあっけらかんと語っていた。
「結婚式はいいかなーって思っててさ。お金かかるし、3人で暮らす部屋をちゃんと整えたいの」
「そうなんだ。そっちの方が、今っぽいかもね」
「うん。あたしも彼も、それで納得してるし。
……てかさ、お姉ちゃんは?」
「え?」
「彼氏。いる?もう27歳でしょ?」
あまりにも突然な質問に、澪はお茶を飲もうとした手を止めた。
「え、ちょ……なにその話の振り方……!」
「だって気になるじゃん。もうそれなりの年なんだし~」
「……まぁ、いるけど。最近、付き合い始めたばかりだから」
「へぇ~! やっぱりいたんだ! どんな人? 優しい?かっこいい?」
「ちょ、そんな根掘り葉掘り聞かないで」
頬を赤らめて慌てる澪に、愛菜はにやにやと笑ってから「今度写真見せてねー」と茶化した。
そのやりとりを見ながら、母がぽつりと言った。
「……澪も、幸せになるといいわね」
「……うん」
静かに返しながら、
澪はあらためて、自分が大切にしたいと思うものを胸の内で確認していた。
たった一泊の帰省。
だけど、この温もりが心に深く染み込んでいく。
翌朝の空は、雲ひとつない青だった。
少し早めの朝食を終え、荷物をまとめた澪は、
駅まで母と妹に見送られながら歩いていた。
「ほんとにもう帰るの? もう一泊すればいいのに~」
「ごめんね。今日この後は予定があって」
「そっか……じゃあまた連絡してね」
「うん。愛菜も、体に気をつけてね。無理しないで」
「はーい。お姉ちゃんもねー!」
改札前で手を振り、振り返ると母が静かに微笑んでいた。
「……また、帰ってきなさいね。いつでも待ってるから」
「……うん。ありがとう、お母さん」
やわらかな気持ちを胸に、新幹線へと乗り込む。
車内は静かで、澪は窓の外をぼんやりと見つめながら、昨夜の会話を思い返していた。
(……幸せそうだったな)
母も、妹も。
少しだけ、羨ましく思ったのは、たぶん本音。
東京駅に着いて改札を抜けたそのとき、
少し離れた柱のそばに立つ見慣れた背中が目に入った。
「……崇雅さん?」
崇雅は振り向き、短く頷く。
「おかえり」
「え、あ、はい……来てくれてありがとうございます」
「迎えに行くと言っただろう」
さらりと言うその声に、澪の胸がじんわりと熱を帯びる。
「……嬉しいです。ありがとうございます」
言葉にしたら、崇雅の目元がほんのわずかに緩んだ気がした。
崇雅は澪の荷物を受け取り、ふたりはそのまま車へと向かう。
日曜の昼下がりの道路は思っていたよりも空いていて、車内には心地よい沈黙が流れていた。
(こういう時間、好きだな)
澪がふと視線を送ると、運転席の横顔は静かで、どこか落ち着いていた。
崇雅のマンションに到着すると、
玄関のドアを開ける音が、どこか「戻ってきた」と思わせる響きを持っていた。
「荷物はそこに。……あとはゆっくり休め」
「はい。ありがとうございます、崇雅さん」
ふたりの距離は、確かに縮まっている。
それを感じながら、澪はスーツケースの取っ手をそっと下ろした。
荷物を置いたあと、澪はリビングのソファに腰を下ろし、小さく息を吐いた。
キッチンでは崇雅が静かにコーヒーを淹れていて、澪の前に湯気の立つカップがそっと置かれる。
「……実家では、ゆっくりできたか?」
「はい。思っていたより、ずっとのんびりできました」
カップを両手で包み込みながら、澪は微笑む。
「妹が……妊娠したみたいで、結婚することになったんです。
昨日、彼のご家族が挨拶にいらして……私も、流れで同席することになってしまって」
「……そうか。驚いただろう」
「はい。でも、高校の頃から付き合っていた人なので、納得ではありました。
妹も自然体で、すごく幸せそうで……見ていて、こっちまで温かい気持ちになりました」
そう話す澪の表情は、どこか柔らかく穏やかだった。
「でも、結婚式はしないそうです。ふたりで住む部屋を探して、新生活を始めるって。
……あの子らしいなって」
「澪も、嬉しかったんだな」
「はい。……ちゃんと、“おめでとう”って、思えました」
コーヒーを一口含みながら、ふと目を伏せる。
「……久しぶりに、母とも妹ともいろいろ話せて、家族の時間を満喫した気がします」
「それなら、行った意味があったな」
「はい。……崇雅さんが迎えに来てくださったのも、本当に嬉しかったです。
ありがとうございました」
「礼を言うことじゃない。迎えに行くと決めたのは、俺だ」
その変わらぬ言葉に、澪はほんの少しだけ肩の力を抜いたように笑った。
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