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第75話・やり遂げるために
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朝の通勤車内。
いつも通り、崇雅の隣に座っているはずなのに、澪の指先はずっと落ち着かずに膝の上で揺れていた。
(今日から、責任者として動き出す……)
先週金曜に正式に通達されたC社の次フェーズ。
社内会議を経て、澪がプロジェクト全体の進行責任を担うことが決まった。
お盆前の木曜日にキックオフミーティングが設定され、準備期間は10日間ほど。
澪にとっては、間違いなく“はじめての試練”だった。
「……考えすぎるな」
隣から静かな声が落ちる。
崇雅は前を向いたまま、ハンドルを握る手を少しだけ緩めた。
「澪が選ばれたのは、ちゃんと理由がある。あとは、やるだけだ」
「……はい」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
けれど同時に、背負う責任の重みを噛みしめていた。
出社してすぐ、澪はプロジェクトルームに顔を出した。
今回の次フェーズにあたり、新たに編成された7名のプロジェクトメンバーがすでに集まり始めていた。
部内の中堅社員を中心に、他部署からの応援も含まれている。
当然、自分より年上・社歴も長いメンバーもいる。
その中で、澪は責任者として立ち上がらなければならない。
「おはようございます。今日からこのプロジェクトを取りまとめる結城です。
まずは、キックオフミーティングまで、短い準備期間にはなりますが、全力で進行していきますので、どうぞよろしくお願いします」
澪の第一声に、数人の目がこちらを真っすぐに見つめていた。
その視線を、逃げずに受け止める。
朝のうちに、澪は必要な業務の洗い出しと各メンバーへの割り振りをまとめた。
午後には、早速進捗の確認と資料構成のベース作りに取りかかる必要がある。
崇雅からは“完全に上司としての距離感”で業務報告とプロジェクト進行の共有を求められ、
澪もそれに応えるよう、メールを整え、日報を作り、進行表を更新していく。
時間は、どんどん過ぎていった。
夜。
気づけば、フロアに残っているのはほんの数人だけだった。
時計の針は、日付が変わる少し手前を指している。
(……初日からこんなに……でも、まだやらなきゃいけないことがある)
澪は疲れた目をこすりながら、ノートパソコンの画面に再び視線を戻す。
その胸の内にあるのは、不安と、ほんの少しの誇りだった。
(ちゃんとやりきらなきゃ)
その姿を、遠くから――崇雅が、ただ静かに見ていた。
翌日の朝、出社してすぐ澪は確認作業と修正依頼に追われた。
前日に出した進行案に、営業側と広報側のフィードバックが立て続けに返ってきたのだ。
細かい数値のすり合わせ。資料レイアウトの調整。
そして、肝心のキックオフ用プレゼンの構成見直し。
(……間に合う、よね……?)
時計を見れば、まだ午前十時。
けれど、目の奥がずっと重い。
右手はまだサポーターが装着されており、万全とは言いがたい。
タイピングスピードも通常時より劣る。
それでも、手を止めるわけにはいかなかった。
午後、再び関係部署との会議が入り、会議室とデスクを往復する中で、
澪の体力も集中力も徐々に削られていく。
エレベーターで会議室に向かう途中。
偶然一緒になった崇雅が、ちらと澪に目をやった。
「少し、顔色が悪いな」
「……まだ大丈夫です」
言葉に力を込めたけれど、口元に浮かんだ笑みは少し引きつっていた。
崇雅は何も言わず、そのまま階を降りていったが――
別れ際、短くひとことだけ。
「限界を越える前に、必ず声をかけろ」
「…はい」
その声が、背中にじんと染みた。
そして、時は過ぎー。
キックオフミーティング前日。
プロジェクトルームでは最終確認と資料の刷り出し、社外提出用PDFの作成と、作業が山積していた。
澪は昼食も取らずに作業を続け、資料を何度も見直し、チームメンバーへの確認を飛ばす。
集中していないと、何かを落としてしまいそうだった。
(明日が終われば……まずは明日、何とか……)
その思いだけで、立っていた。
夜22時過ぎ。
ようやく全ての資料が揃い、最終版として社内共有に回した。
プリンターの印刷音が止まった瞬間、澪はようやく自分が息を止めていたことに気づく。
デスクのそばに、ペットボトルのミネラルウォーターと――
コンビニの栄養ドリンクと、栄養補助食品が置いてあった。
(……崇雅さん?)
聞かずともわかる。
澪はほんの少しだけ目を閉じて、深呼吸をした。
あとは改めて資料のチェックをするのみ。
これで明日、乗り切れる。
いや、乗り切らなくちゃいけない。
明日――澪にとって、責任者としての最初の大きな“本番”がやってくる。
いつも通り、崇雅の隣に座っているはずなのに、澪の指先はずっと落ち着かずに膝の上で揺れていた。
(今日から、責任者として動き出す……)
先週金曜に正式に通達されたC社の次フェーズ。
社内会議を経て、澪がプロジェクト全体の進行責任を担うことが決まった。
お盆前の木曜日にキックオフミーティングが設定され、準備期間は10日間ほど。
澪にとっては、間違いなく“はじめての試練”だった。
「……考えすぎるな」
隣から静かな声が落ちる。
崇雅は前を向いたまま、ハンドルを握る手を少しだけ緩めた。
「澪が選ばれたのは、ちゃんと理由がある。あとは、やるだけだ」
「……はい」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
けれど同時に、背負う責任の重みを噛みしめていた。
出社してすぐ、澪はプロジェクトルームに顔を出した。
今回の次フェーズにあたり、新たに編成された7名のプロジェクトメンバーがすでに集まり始めていた。
部内の中堅社員を中心に、他部署からの応援も含まれている。
当然、自分より年上・社歴も長いメンバーもいる。
その中で、澪は責任者として立ち上がらなければならない。
「おはようございます。今日からこのプロジェクトを取りまとめる結城です。
まずは、キックオフミーティングまで、短い準備期間にはなりますが、全力で進行していきますので、どうぞよろしくお願いします」
澪の第一声に、数人の目がこちらを真っすぐに見つめていた。
その視線を、逃げずに受け止める。
朝のうちに、澪は必要な業務の洗い出しと各メンバーへの割り振りをまとめた。
午後には、早速進捗の確認と資料構成のベース作りに取りかかる必要がある。
崇雅からは“完全に上司としての距離感”で業務報告とプロジェクト進行の共有を求められ、
澪もそれに応えるよう、メールを整え、日報を作り、進行表を更新していく。
時間は、どんどん過ぎていった。
夜。
気づけば、フロアに残っているのはほんの数人だけだった。
時計の針は、日付が変わる少し手前を指している。
(……初日からこんなに……でも、まだやらなきゃいけないことがある)
澪は疲れた目をこすりながら、ノートパソコンの画面に再び視線を戻す。
その胸の内にあるのは、不安と、ほんの少しの誇りだった。
(ちゃんとやりきらなきゃ)
その姿を、遠くから――崇雅が、ただ静かに見ていた。
翌日の朝、出社してすぐ澪は確認作業と修正依頼に追われた。
前日に出した進行案に、営業側と広報側のフィードバックが立て続けに返ってきたのだ。
細かい数値のすり合わせ。資料レイアウトの調整。
そして、肝心のキックオフ用プレゼンの構成見直し。
(……間に合う、よね……?)
時計を見れば、まだ午前十時。
けれど、目の奥がずっと重い。
右手はまだサポーターが装着されており、万全とは言いがたい。
タイピングスピードも通常時より劣る。
それでも、手を止めるわけにはいかなかった。
午後、再び関係部署との会議が入り、会議室とデスクを往復する中で、
澪の体力も集中力も徐々に削られていく。
エレベーターで会議室に向かう途中。
偶然一緒になった崇雅が、ちらと澪に目をやった。
「少し、顔色が悪いな」
「……まだ大丈夫です」
言葉に力を込めたけれど、口元に浮かんだ笑みは少し引きつっていた。
崇雅は何も言わず、そのまま階を降りていったが――
別れ際、短くひとことだけ。
「限界を越える前に、必ず声をかけろ」
「…はい」
その声が、背中にじんと染みた。
そして、時は過ぎー。
キックオフミーティング前日。
プロジェクトルームでは最終確認と資料の刷り出し、社外提出用PDFの作成と、作業が山積していた。
澪は昼食も取らずに作業を続け、資料を何度も見直し、チームメンバーへの確認を飛ばす。
集中していないと、何かを落としてしまいそうだった。
(明日が終われば……まずは明日、何とか……)
その思いだけで、立っていた。
夜22時過ぎ。
ようやく全ての資料が揃い、最終版として社内共有に回した。
プリンターの印刷音が止まった瞬間、澪はようやく自分が息を止めていたことに気づく。
デスクのそばに、ペットボトルのミネラルウォーターと――
コンビニの栄養ドリンクと、栄養補助食品が置いてあった。
(……崇雅さん?)
聞かずともわかる。
澪はほんの少しだけ目を閉じて、深呼吸をした。
あとは改めて資料のチェックをするのみ。
これで明日、乗り切れる。
いや、乗り切らなくちゃいけない。
明日――澪にとって、責任者としての最初の大きな“本番”がやってくる。
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