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第103話・おつかれさまの、その先へ
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2月下旬――
半年にわたるC社プロジェクトが、ついに完了した。
最終報告会も無事に終わり、社内でも正式に「成功」と評価される中――
澪は長く詰まっていた息をようやく吐き出すように、静かに肩を落とした。
長かった。けれど、振り返ればあっという間だった。
それほどまでに濃く、駆け抜けるような時間だった。
プロジェクトメンバーの健闘を称え、ささやかな打ち上げを終えた夜。
帰宅した澪を出迎えたのは、崇雅の変わらぬ笑顔だった。
「……おかえり。お疲れさま」
「……ありがとうございます。崇雅さんの支えがなかったら、絶対に途中で潰れてました」
「いや。澪がちゃんとやり切った。それだけだ」
そう言って、そっと頭に手を置く彼の仕草に、澪は微笑みを返した。
プレッシャーも重圧も、自分にとっては過去一番だったかもしれない。
でも、それを乗り越えられたのは――
ただ、崇雅がずっと変わらず隣にいてくれたからだった。
数日後、土曜日の朝。
ゆっくり起きて、朝食を食べて、少しだけ家事をして――
ふと、体がだるいことに気づく。
「……風邪、かな」
熱を測ると、微熱。
関節がじんわりと重く、頭も少しぼんやりする。
ひどくはない。
けれど、動き続けるには少しきつい。
気づけば、澪はソファに体を預けていた。
(気が抜けたのかも……)
張り詰めていた糸が、ふっとほどけたような感覚だった。
無意識のうちに気を張っていたからこそ、ここまで持ちこたえられたのだ。
本当は、とっくに限界だったのかもしれない。
崇雅はそんな澪の様子にすぐ気づいた。
朝から予定していた外出を取りやめ、キッチンで簡単なスープを作る。
「……もう、寝室で休め。今日は何もしなくていい」
「ううん、大丈夫です。崇雅さんがそばにいてくれるなら……ここがいいです」
澪はソファに横になりながら、小さく微笑んだ。
崇雅は少し迷ったあと、そっとソファに腰を下ろし、澪の頭を膝の上へと受け止めた。
ゆっくりと撫でる指先が、優しく髪をすく。
「本当に、よく頑張ったな」
「……うん。……崇雅さんがいたから、頑張れました」
まぶたを閉じると、じんわりと胸の奥にぬくもりが広がっていく。
崇雅の手の温かさ。
膝に感じる安心感――
それが、何よりも優しい薬だった。
やがて、穏やかな寝息が聞こえてくる。
崇雅は動かぬように気を配りながら、そっと毛布を肩までかけてやった。
澪の額に手を当て、熱が上がっていないかを確かめる。
「……無理しすぎるな」
その小さな声は、澪の眠りに届くことはない。
けれどその想いは、彼女の胸の奥深くで、確かにやさしく根を張っていた。
——————
3月上旬。
プロジェクトが終わってから数日後――。
この日、崇雅に連れられてやってきたのは、以前とはまた違う、格式あるホテルのレストランだった。
個室に案内されると、そこにはシックな装花と温かな灯りが整えられた静かな空間が広がっていた。
窓の外には夜景が広がり、特別なひとときをさりげなく彩っている。
澪がこの日、身にまとっていたのは――
12月のディナーデートのため、二人で選び、共に過ごした、あのドレスだった。
「……本当は、新しいのを用意するつもりだったんだ」
「でも澪が“これがいい”って言って、譲らなかったからな」
「だって、すごく気に入ってるんです」
「崇雅さんと選んだ、大切なドレスだから……一度だけなんて、もったいないです」
小さく微笑む澪に、崇雅も肩をすくめて笑った。
「……そうか。今日も、似合ってる」
その一言で、澪の頬がふわりと染まる。
テーブルに、温かい前菜がちょうど運ばれてきたところ。
料理は崇雅が事前に予約していたコース。
澪の好みを細かく伝えて選んだものだった。
「……お疲れさま、澪。C社のプロジェクト、ほんとに頑張ったな」
そう言って、崇雅がグラスを持ち上げる。
中身はノンアルコールのシャンパン。
車の運転があるため、最初からソフトドリンクで統一していた。
「ありがとうございます。崇雅さんのサポートがなかったら、絶対に乗り越えられませんでした…」
澪も笑いながらグラスを合わせた。
緊張していた肩の力が、少しずつ抜けていく。
「……でも、まさか今日、こんな素敵なところに連れてこられるとは思ってなくて」
「澪の仕事が落ち着いたらって、ずっと考えていた。
……それに、今日はもうひとつ、意味があるだろ?」
「――え?」
「ちょうど1年。俺たちが付き合ってから、今日で1年になる」
崇雅は穏やかにそう言って、微笑む。
澪は一瞬ぽかんとして、それから驚いたように眉を上げた。
「……覚えてたんですね」
「当たり前だ。……澪と、ちゃんと気持ちを伝え合った大切な日だからな」
「…はい。でも…付き合うまでも、いろいろありましたね」
「…ああ。でも俺は、最初から決めてたけどな。……ずっと、澪だって」
言葉と視線がまっすぐに絡み合う。
それだけでも十分すぎるほど胸がいっぱいになる。
半年にわたるC社プロジェクトが、ついに完了した。
最終報告会も無事に終わり、社内でも正式に「成功」と評価される中――
澪は長く詰まっていた息をようやく吐き出すように、静かに肩を落とした。
長かった。けれど、振り返ればあっという間だった。
それほどまでに濃く、駆け抜けるような時間だった。
プロジェクトメンバーの健闘を称え、ささやかな打ち上げを終えた夜。
帰宅した澪を出迎えたのは、崇雅の変わらぬ笑顔だった。
「……おかえり。お疲れさま」
「……ありがとうございます。崇雅さんの支えがなかったら、絶対に途中で潰れてました」
「いや。澪がちゃんとやり切った。それだけだ」
そう言って、そっと頭に手を置く彼の仕草に、澪は微笑みを返した。
プレッシャーも重圧も、自分にとっては過去一番だったかもしれない。
でも、それを乗り越えられたのは――
ただ、崇雅がずっと変わらず隣にいてくれたからだった。
数日後、土曜日の朝。
ゆっくり起きて、朝食を食べて、少しだけ家事をして――
ふと、体がだるいことに気づく。
「……風邪、かな」
熱を測ると、微熱。
関節がじんわりと重く、頭も少しぼんやりする。
ひどくはない。
けれど、動き続けるには少しきつい。
気づけば、澪はソファに体を預けていた。
(気が抜けたのかも……)
張り詰めていた糸が、ふっとほどけたような感覚だった。
無意識のうちに気を張っていたからこそ、ここまで持ちこたえられたのだ。
本当は、とっくに限界だったのかもしれない。
崇雅はそんな澪の様子にすぐ気づいた。
朝から予定していた外出を取りやめ、キッチンで簡単なスープを作る。
「……もう、寝室で休め。今日は何もしなくていい」
「ううん、大丈夫です。崇雅さんがそばにいてくれるなら……ここがいいです」
澪はソファに横になりながら、小さく微笑んだ。
崇雅は少し迷ったあと、そっとソファに腰を下ろし、澪の頭を膝の上へと受け止めた。
ゆっくりと撫でる指先が、優しく髪をすく。
「本当に、よく頑張ったな」
「……うん。……崇雅さんがいたから、頑張れました」
まぶたを閉じると、じんわりと胸の奥にぬくもりが広がっていく。
崇雅の手の温かさ。
膝に感じる安心感――
それが、何よりも優しい薬だった。
やがて、穏やかな寝息が聞こえてくる。
崇雅は動かぬように気を配りながら、そっと毛布を肩までかけてやった。
澪の額に手を当て、熱が上がっていないかを確かめる。
「……無理しすぎるな」
その小さな声は、澪の眠りに届くことはない。
けれどその想いは、彼女の胸の奥深くで、確かにやさしく根を張っていた。
——————
3月上旬。
プロジェクトが終わってから数日後――。
この日、崇雅に連れられてやってきたのは、以前とはまた違う、格式あるホテルのレストランだった。
個室に案内されると、そこにはシックな装花と温かな灯りが整えられた静かな空間が広がっていた。
窓の外には夜景が広がり、特別なひとときをさりげなく彩っている。
澪がこの日、身にまとっていたのは――
12月のディナーデートのため、二人で選び、共に過ごした、あのドレスだった。
「……本当は、新しいのを用意するつもりだったんだ」
「でも澪が“これがいい”って言って、譲らなかったからな」
「だって、すごく気に入ってるんです」
「崇雅さんと選んだ、大切なドレスだから……一度だけなんて、もったいないです」
小さく微笑む澪に、崇雅も肩をすくめて笑った。
「……そうか。今日も、似合ってる」
その一言で、澪の頬がふわりと染まる。
テーブルに、温かい前菜がちょうど運ばれてきたところ。
料理は崇雅が事前に予約していたコース。
澪の好みを細かく伝えて選んだものだった。
「……お疲れさま、澪。C社のプロジェクト、ほんとに頑張ったな」
そう言って、崇雅がグラスを持ち上げる。
中身はノンアルコールのシャンパン。
車の運転があるため、最初からソフトドリンクで統一していた。
「ありがとうございます。崇雅さんのサポートがなかったら、絶対に乗り越えられませんでした…」
澪も笑いながらグラスを合わせた。
緊張していた肩の力が、少しずつ抜けていく。
「……でも、まさか今日、こんな素敵なところに連れてこられるとは思ってなくて」
「澪の仕事が落ち着いたらって、ずっと考えていた。
……それに、今日はもうひとつ、意味があるだろ?」
「――え?」
「ちょうど1年。俺たちが付き合ってから、今日で1年になる」
崇雅は穏やかにそう言って、微笑む。
澪は一瞬ぽかんとして、それから驚いたように眉を上げた。
「……覚えてたんですね」
「当たり前だ。……澪と、ちゃんと気持ちを伝え合った大切な日だからな」
「…はい。でも…付き合うまでも、いろいろありましたね」
「…ああ。でも俺は、最初から決めてたけどな。……ずっと、澪だって」
言葉と視線がまっすぐに絡み合う。
それだけでも十分すぎるほど胸がいっぱいになる。
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