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第123話・その手を離さないと誓う
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ゴールデンウィークが明けた週末の朝――
カーテン越しにやわらかな光が差し込む寝室。
崇雅はそっと扉を閉めると、静かにリビングへと向かった。
まだ澪は眠っている。
崇雅は物音を立てないようにスマートフォンを手に取り、あらかじめ登録されている番号をタップした。
数秒の無音——その後、コール音を経て、落ち着いた声が返ってくる。
『……崇雅?お前から電話とは珍しいな』
兄・崇徳の声はいつも通り穏やかだった。
「兄さん、朝早く悪い。少しだけ、時間をもらえるか」
崇徳は一瞬だけ黙ったが、その声色には警戒の色はなかった。
『構わない。ちょうど資料整理してたところだ。何かあったか?』
その声に、崇雅はまっすぐに告げた。
「澪と結婚する。正式に、籍を入れるつもりだ」
数秒の間。だが、驚いたような反応はなかった。
『——やっと、決めたんだな』
「……驚かないのか?」
『驚く理由があるか?』
崇徳の声には、わずかな笑みがにじんでいた。
『最初にふたりを見たときから、そうなると思ってた。
……むしろ、“ようやく”だよ』
崇雅は静かに息を吐いた。
「結城家への挨拶は終わった。次はあのふたり——父さんと母さんに、報告するつもりだ」
「……つまり、俺に“場”を用意してほしい、というわけだな?」
「ああ。すまない」
「謝ることじゃない。むしろ、俺を頼ってくれたのは嬉しいが……
ただ、父親の性格は、お前もわかってるだろう。場を設けたところで、歓迎はされないぞ?」
「ああ、わかっている。それでもいい。最低限、筋は通すつもりだ。ただ、澪を侮辱するような真似は絶対にさせない」
電話越しに、崇徳が小さく息を吐くのが聞こえた。
「お前は変わらないな。昔から一度決めたらまっすぐ突き進む。
それに……今のお前なら、たとえ誰が相手でも引かないだろうな」
「当然だ。澪を手放す気はない」
「わかった。父さんたちに話を通しておく。また近いうちに連絡する」
「ああ、わかった。よろしく頼む」
通話を終えた崇雅は、ふと寝室の方へ視線を向ける。
カーテンの隙間からこぼれる光の中に眠る彼女の存在は、何よりも大切で、守るべきものだった。
どんな障害が待ち受けようとも——彼女を守る覚悟だけは、決して揺るがない。
——————
5月中旬ー。
日曜の午後。
初夏の陽が高く昇るなか、崇雅と澪を乗せた車は静かに東條邸の門をくぐった。
格式ある門構えと美しい庭が広がるその邸宅は、まさに名家の風格を備えていた。
外観を目にしただけで、澪の胸にじわりと緊張が広がる。
(……いよいよ、本当に来てしまった)
運転席のドアが開き、崇雅が先に車を降りると、すぐに助手席側へ回ってきた。
「澪」
そっと呼びかける声に我に返り、彼女もドアを開けて外へ出る。
その瞬間、崇雅の腕がすっと伸びてきて、澪の腰にそっと手が添えられた。
「……っ」
驚きで視線を向けると、彼は静かに、しかし確かに自分の隣に引き寄せるように歩き出した。
その手のぬくもりは、ただのエスコートではなかった。
澪の緊張をほぐし、守ろうとする強い意志が、そこにあった。
「何があっても、俺がいる。だから、顔を上げろ」
その低く優しい声に、澪は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
邸宅の扉が開き、執事らしき男性に出迎えられる。
そのまま案内されたのは、広々とした応接間だった。
磨き上げられたテーブルと、一輪の白い花が飾られた花瓶。
そして——その場にはすでに三人の人物が揃っていた。
東條家の当主であり、崇雅の父。
その隣に控えるように座る母。
そして、次期社長としての風格を帯びた兄・崇徳。
一瞬で空気が変わるのを、澪ははっきりと感じた。
けれど、崇雅の手はまだ、彼女の腰にそっと添えられたままだった。
そのぬくもりが、どれほど心強いか。
澪は小さく深呼吸し、背筋を伸ばした。
(大丈夫。崇雅さんがいる。……私は、逃げない)
その決意とともに、ふたりはゆっくりと応接間へと足を踏み入れた——。
カーテン越しにやわらかな光が差し込む寝室。
崇雅はそっと扉を閉めると、静かにリビングへと向かった。
まだ澪は眠っている。
崇雅は物音を立てないようにスマートフォンを手に取り、あらかじめ登録されている番号をタップした。
数秒の無音——その後、コール音を経て、落ち着いた声が返ってくる。
『……崇雅?お前から電話とは珍しいな』
兄・崇徳の声はいつも通り穏やかだった。
「兄さん、朝早く悪い。少しだけ、時間をもらえるか」
崇徳は一瞬だけ黙ったが、その声色には警戒の色はなかった。
『構わない。ちょうど資料整理してたところだ。何かあったか?』
その声に、崇雅はまっすぐに告げた。
「澪と結婚する。正式に、籍を入れるつもりだ」
数秒の間。だが、驚いたような反応はなかった。
『——やっと、決めたんだな』
「……驚かないのか?」
『驚く理由があるか?』
崇徳の声には、わずかな笑みがにじんでいた。
『最初にふたりを見たときから、そうなると思ってた。
……むしろ、“ようやく”だよ』
崇雅は静かに息を吐いた。
「結城家への挨拶は終わった。次はあのふたり——父さんと母さんに、報告するつもりだ」
「……つまり、俺に“場”を用意してほしい、というわけだな?」
「ああ。すまない」
「謝ることじゃない。むしろ、俺を頼ってくれたのは嬉しいが……
ただ、父親の性格は、お前もわかってるだろう。場を設けたところで、歓迎はされないぞ?」
「ああ、わかっている。それでもいい。最低限、筋は通すつもりだ。ただ、澪を侮辱するような真似は絶対にさせない」
電話越しに、崇徳が小さく息を吐くのが聞こえた。
「お前は変わらないな。昔から一度決めたらまっすぐ突き進む。
それに……今のお前なら、たとえ誰が相手でも引かないだろうな」
「当然だ。澪を手放す気はない」
「わかった。父さんたちに話を通しておく。また近いうちに連絡する」
「ああ、わかった。よろしく頼む」
通話を終えた崇雅は、ふと寝室の方へ視線を向ける。
カーテンの隙間からこぼれる光の中に眠る彼女の存在は、何よりも大切で、守るべきものだった。
どんな障害が待ち受けようとも——彼女を守る覚悟だけは、決して揺るがない。
——————
5月中旬ー。
日曜の午後。
初夏の陽が高く昇るなか、崇雅と澪を乗せた車は静かに東條邸の門をくぐった。
格式ある門構えと美しい庭が広がるその邸宅は、まさに名家の風格を備えていた。
外観を目にしただけで、澪の胸にじわりと緊張が広がる。
(……いよいよ、本当に来てしまった)
運転席のドアが開き、崇雅が先に車を降りると、すぐに助手席側へ回ってきた。
「澪」
そっと呼びかける声に我に返り、彼女もドアを開けて外へ出る。
その瞬間、崇雅の腕がすっと伸びてきて、澪の腰にそっと手が添えられた。
「……っ」
驚きで視線を向けると、彼は静かに、しかし確かに自分の隣に引き寄せるように歩き出した。
その手のぬくもりは、ただのエスコートではなかった。
澪の緊張をほぐし、守ろうとする強い意志が、そこにあった。
「何があっても、俺がいる。だから、顔を上げろ」
その低く優しい声に、澪は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
邸宅の扉が開き、執事らしき男性に出迎えられる。
そのまま案内されたのは、広々とした応接間だった。
磨き上げられたテーブルと、一輪の白い花が飾られた花瓶。
そして——その場にはすでに三人の人物が揃っていた。
東條家の当主であり、崇雅の父。
その隣に控えるように座る母。
そして、次期社長としての風格を帯びた兄・崇徳。
一瞬で空気が変わるのを、澪ははっきりと感じた。
けれど、崇雅の手はまだ、彼女の腰にそっと添えられたままだった。
そのぬくもりが、どれほど心強いか。
澪は小さく深呼吸し、背筋を伸ばした。
(大丈夫。崇雅さんがいる。……私は、逃げない)
その決意とともに、ふたりはゆっくりと応接間へと足を踏み入れた——。
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