自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな

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第7章:揺らぐ均衡、咲き始める絆

第115話・抱擁の温もり、迫る刃

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翌日ー。
天幕を透かして、朝の光が淡く差し込んでいた。
夜の冷気はまだ残っていたが、焚き火の残り火と微精霊たちの光が周囲を温めている。

セレスティアは自力で上体を起こし、外套を羽織る。
昨日までのだるさは和らぎ、ゆっくりなら歩けそうな気がしていた。

サイファルトと共に天幕から出ると、焚き火の上で温められた携行食が差し出された。
セレスティアはまだ少し頼りない手でそれを受け取る。

「……ありがとう」

サイファルトの視線がじっと彼女を追う。
小さな手が食事を口に運ぶたび、ようやく胸の底に少し安堵が広がった。


食べ終えたところで、ゼフリスが一歩前に出る。
落ち着いた声音が、張り詰めた空気を和らげるように響いた。

「サイファルト様。――今後の方針について、確認を」

サイファルトは腕の中のセレスティアを抱き直し、低く答える。

「ティアの回復を最優先する。それ以外は後回しだ」

ゼフリスは短く頷き、冷静に続ける。

「では、シルヴェールへ急ぎ戻るのが賢明でしょう。このまま廃村周辺での滞在を続ければ、再び魔獣が集まる恐れもあります。……加えて、瘴気の残滓も完全には消えていません」

「……ああ」

短く肯定するサイファルトの声には、迷いはなかった。

セレスティアはそのやり取りを聞きながら、胸の奥に小さな安心を抱いた。
自分のために全員が動いている――それが少しだけ申し訳なくもあり、けれど同時に嬉しくて、彼の胸に身を寄せる。

サイファルトは彼女の仕草を確かめるように片腕で強く抱き寄せ、ただ一言、静かに告げた。

「戻るぞ」

ぱちりと焚き火が音を立て、冷たい朝の空気を押し返すように炎が揺れた。

(……シルヴェールに戻るなら、ちゃんと歩かないと……)

そう思い立ち上がろうとした瞬間、背後からふわりと大きな腕にすくい上げられた。
気づけば、彼女はすっぽりとサイファルトの胸の中に収まっている。

「……ファル? わたし、もう歩けるよ?」

「おまえの足で歩けば今日中にシルヴェールには着けん。……大人しくしていろ」

「……っ」

不満を漏らそうとしたセレスティアだったが、彼の腕に支えられた温かさに、口を閉ざす。
確かに歩くよりずっと楽で、胸の奥が不思議と落ち着いていく。

「……しょうがないなぁ」

小さく呟き、彼の胸元に頬を寄せる。

サイファルトは片眉をわずかに上げただけで、何も言わず歩き出した。
彼の足取りは力強く、雪を踏みしめる音が静かに続いていく。

セレスティアはその腕の中で、心地よい揺れに身を任せながら、ほんの少しだけ眠気を覚えていた。



日が傾き、赤い光がシルヴェールの街並みに影を落とす。
長い道のりを越えてようやく辿り着いた安堵が、一行の胸に広がった。

だが、市場へと続く道に差し掛かった、その瞬間――。
鋭い気配が走った。

人の気配。
しかし、そこにあるのは歓迎でも平穏でもなく、剥き出しの敵意だった。

ジャキリ、と武器の音が一斉に鳴る。
路地の陰や家屋の影から、複数の人間が現れ、円を描くように彼らを取り囲んだ。
剣や槍の切っ先は、明確な敵意を孕み、こちらへと向けられる。

「……っ」

セレスティアの肩が小さく震えた。
次の瞬間、サイファルトは外套のフードを深く被せ、その小さな顔を覆い隠す。

「――目を閉じていろ」

低く鋭い声。
彼は迷いなく彼女を胸に抱き寄せ、まるでこの世のすべてから隠すように包み込む。
その腕の強さに、セレスティアは声も出せず、ただ彼の胸に顔を埋めるしかなかった。

囲む人間たちの瞳には、恐怖も躊躇もなく、ただ濃い殺意だけが宿っている。

ゼフリスが前へ出て武器を構える。
ライナーとエドも背を合わせるように位置を取り、即座に臨戦態勢を整えた。

冷え切った空気の中、街門を背にした一行と、武器を構えた集団が対峙する。
市場の喧騒が遠ざかり、張りつめた空気だけが場を支配していた。
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