自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな

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第1章・運命の番

第10話・羽の傷とお兄さんの手

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翌日、妖精の森・お花畑

太陽の光がやわらかく降り注ぐお花畑。
セレスティアは、ぱたぱたと羽を動かしながら、楽しそうに花の蜜を味見していた。

「ん~、このお花の蜜、おいしいなぁ♪」

次々と花から花へと移動しながら、軽やかに宙を舞う。
すると、一輪の花に目を奪われた。

「わぁ、すっごく甘い匂い……!」

それは 普通の花よりも大きく、花びらが透明感のある光を帯びている。
蜜がたっぷり含まれていそうで、セレスティアの興味を引いた。

「ちょっとだけ味見……ん?」

近づこうとした瞬間、花の茎に細かい棘があるのが目に入った。
けれど、花びらの部分なら安全そうだったので、セレスティアはそっと近づく。

しかし、ふわりと羽ばたいた拍子に、 別の花の小さな棘が羽の先端にかすった。

「ひゃっ!」

チクリとした痛みが走る。

「……あれ?」

セレスティアはぱたぱたと羽を動かしてみた。
問題なく飛べる。

(ちょっと痛いかも? でも、大丈夫かな)

気にしないことにして、また花の間を飛び回り始めた—— そのすぐ後。

「……セレスティア」

低く、静かな声が響いた。

「ひゃあっ!?」

セレスティアは びくっと肩を震わせ、反射的に距離を取る。
そこには—— サイファルトがいた。

(こ、怖い人!? またいつの間に!?)

「……」

サイファルトは、以前のようにすぐには近づかず、一定の距離を保って立っていた。
その視線がまっすぐにセレスティアを捉えている。

「な、なに?」

セレスティアは警戒しながら羽をぱたぱたさせる。
すると——  ピリッとした痛みが走った。

「……っ」

小さく息をのむ。
それを見たサイファルトの眉が、ほんのわずかに動いた。

「……お前の羽、傷ついている」

「え?」

セレスティアは、ちらりと自分の羽を見た。
確かに先端が少し裂けている。

「ほんとだ……。さっき、お花の棘にちょっと引っかけちゃったからかな?」

「痛むのか?」

「ちょっとだけ。でも飛べるし、大丈夫だよ!」

セレスティアはそう言ってぱたぱたと羽ばたく。
しかし—— 再びピリッとした痛みが走る。

「……っ」

それを見たサイファルトは静かに言った。

「……治せる」

「え?」

「その羽、治せる」

「……」

セレスティアはぱちくりと目を瞬かせる。

「お兄さん、羽の治療とかできるの?」

「当然だ」

即答だった。

「お前の羽は妖精のものだが、魔力による治癒は可能だ」

「……えっと、痛くない?」

「痛みはない」

「……すぐ終わる?」

「すぐに終わる」

「……」

(……なんか、優しい気がする?)

サイファルトの口調は静かで落ち着いていた。
昨日みたいな怖い感じはしない。

(……じゃあ、いっか)

セレスティアは ちょっとだけ考えてから、小さく頷いた。

「……じゃあ、おねがい……?」

サイファルトの金色の瞳が、ほんのわずかに揺れた。

「……じっとしていろ」

「う、うん」

彼はゆっくりと手を伸ばす。
—— だが、すぐには触れなかった。

ふわりと 温かな魔力が広がる。
まるで光の膜がかかるように、セレスティアの羽を包み込んでいく。

「……っ」

じんわりと、痛みが消えていく。
魔力の光が淡く羽を包み込み、裂けた部分を修復する。

(……あたたかい)

ほんの数秒後—— サイファルトは静かに手を引いた。

「もう大丈夫だ」

「……え?」

セレスティアは羽を見て、きょとんとする。

「……なおった?」

「当然だ」

ぱたぱたと羽を動かす。
痛みは、もうまったくない。

「すごーい! お兄さん、ほんとに治せた!」

「……」

「お兄さんって……魔法、使えるんだ?」

「当たり前だ」

「……そうなんだ」

サイファルトは、何事もなかったかのように佇んでいる。
でも、セレスティアは なんだか不思議な気持ちになった。

(……なんか、優しかった)

思わず、ちらりとサイファルトを盗み見る。
相変わらず、無表情なまま。

だけど——

「……お前は、もっと自分を大事にしろ」

その言葉だけは、なぜかとても真剣で、優しく聞こえた。

「……お兄さんって、わたしのこと……すごく見てるよね?」

ぽつりと呟いた言葉。

サイファルトは、一瞬だけ目を伏せ—— そして、静かに言う。

「……当たり前だ」

「え、えぇ……?」

「お前は、俺のものだからな」

「……???」

また、よくわからないことを言われた。
でも—— “怖い” とは思わなかった。

なんとなく、くすぐったいような、不思議な気持ちになる。

「……お兄さんって、変な人」

セレスティアは、ぱたぱたと羽を動かし、ふわりと飛ぶ。

「わぁ……! ほんとに痛くない!」

「当然だ」

「お兄さん、ありがと!」

にこっと笑う。

サイファルトは、それを じっと見つめていた。

—— その表情が、ほんの少しだけ 柔らかくなったことに、セレスティアは気づかなかった。
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